(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

40 / 76
40話 誇りの在り処

 

 

 

 

 そこには変わらない醜悪な光景が未だに続いていた。

 

「見れば見る程に美しい。アルバレア家に伝わっていた《金の騎神》と言うに相応しい」

 

「この黄金の輝きに比べれば、《蒼》や《緋》など地味と言わざるを得ないでしょう」

 

「ましてや《灰》……くくくっ半端な色の騎神は半端なものを選ぶと言う事でしょうかね?」

 

「その点、この《金の騎神》はやはり高貴な血筋を分かっているのでしょう」

 

「どこの馬の骨ともしれないならず者に栄えある《騎神》を貸し出したカイエン公など、貴族連合の主宰に相応しくありません」

 

「ヘルムート様こそ、次代のエレボニアの上に立つに相応しい」

 

 アルバレア家の庭園。

 その中央に膝を着く《金の騎神》の前で行われているお披露目の催しはユーシスがレグラムから戻って来てもまだ続いていた。

 

「ふふ……」

 

 《金の騎神》と共に称えられるヘルムートはユーシスが見たことのない満足そうな笑みを浮かべていた。

 

「っ――」

 

 ユーシスはレグラムの報告をすることをやめて、踵を返す。

 持て囃されて嬉しそうにするヘルムートも、《金の騎神》の威光に擦り寄りゴマをするクロイツェンの貴族も正視することができない程にユーシスは醜く感じた。

 

「…………今の四大名門をドライケルス大帝が見たら何を言うか……」

 

 正門から裏門へと周りながらユーシスはかつてオズボーンから投げかけられた言葉を思い出す。

 兄、ルーファスの重傷と彼の出自を知ることになった折にオズボーン宰相と話をする機会が会った時のことを思い出す。

 話した内容はほとんどユーシスの愚痴だった。

 だが、オズボーン宰相は嫌な顔一つせず、ユーシスの言葉一つ一つに相槌を打ち応えてくれた。

 

「ドライケルス大帝か……」

 

 オズボーンからユーシスに掛けた言葉は先程呟いた言葉だけ。

 そこに込められた意味は分からないものの、オズボーンが言わんとした貴族への評価が今のユーシスには理解できた。

 

「あれが貴族だと……? あんな奴等が貴族だと言うのか?」

 

 自尊心を満たす父に、媚びへつらう貴族。

 それだけはない。

 執事のアルノーに確かめれば、一ヶ月前のあのオズボーン狙撃から彼らはもうこの内戦は勝ったと言わんばかりに祝杯を挙げていた。

 《機甲兵》というアドバンテージを生かせば、様々な対応に遅れていた正規軍を制圧し、内戦を一ヶ月も長引かせることなどなかったはず。

 貴族の怠慢のおかげで、クリスが復活する時を稼げたことは幸いかもしれないが、泥沼化した戦火に晒され続けている民のことを思えば決して良かったとは思えない。

 

「くそっ……」

 

 そんな貴族たちの怠慢を咎める事もできず、ユーシスにできたことは与えられたわずかな兵を使ってクロイツェン州の安全を見回ることだけだった。

 現在の領邦軍は猟兵を雇い入れたこともあって、その質は決して良いとは言えない。

 隙あらば小さな村落で略奪を行おうとする者、領邦軍の権力を笠に着て街で横柄な振る舞いを行う者。

 統制が取れていない。

 治安が乱れている。

 にも関わらず、内戦を始めた父やそれを支持している貴族は危機感が薄く、語るのは内戦が終わった後のことばかり。

 今もクロスベルのルーファスから半ば強引に奪って来た《金の騎神》を誇るばかり。

 

「豚共めっ!」

 

 塀の向こうから聞こえてくる貴族たちの歓声にユーシスは思わず毒突く。

 が、そんな陰口しか言えない自分に嫌気が差して肩を落とす。

 

「フィーの言う通りだな」

 

 レグラムでフィーに言われた言葉を思い出して自嘲する。

 結局、今の貴族を蔑んでいながらそれを正すこともできない。

 クロウと面会しようとしても取り合う事さえしてもらえない。

 何もできていない惨めさをユーシスはただ噛み締めることしかできなかった。

 

「お帰りなさいませユーシス様」

 

 裏門に回ったユーシスを執事のアルノーが迎える。

 

「ああ、今戻った」

 

 当たり前のように出迎えてくれたアルノーにユーシスは安堵を感じながら告げる。

 

「レグラムの事で父上に報告したいことがある。すぐに――」

 

「旦那様はレグラムについては全てユーシス様に任せると仰っておりました」

 

「っ――」

 

 アルノーから伝えられた無責任な父の言葉にユーシスは眩暈を感じる。

 

「ユーシス様」

 

「大丈夫だ」

 

 気遣ってくるアルノーにユーシスは絞り出すように応える。

 

「了解した。それで《西風》の二人はもう戻っているか?」

 

「それでしたら――」

 

「おお、ここにおるで」

 

 アルノーがユーシスの背後に視線を向けたところで訛りのある声が掛けられる。

 振り返るとそこには《西風の旅団》のゼノとレオニダスがいた。

 

「ボン様の依頼通り、街で無銭飲食を繰り返していた猟兵はオレらが締めておいたで」

 

「……仕事が早いな」

 

 いつの間に背後を取っていたのか。

 その事への文句をユーシスは呑み込んで、今朝指示したばかりの仕事を済ませてきた二人の働きに感心する。

 

「同業者の横暴は無関係ではないからな」

 

「猟兵が皆、お前達のように話の分かる者達であれば良いのだがな」

 

「行儀の良い猟兵ちゅうのもおかしな話やけどな。それよりフィーは元気にしとったか?」

 

 報告もそこそこに切り上げて尋ねて来た内容にユーシスはため息を吐く。

 

「そんなに気になるなら、仕事は他の者に任せて同行しても良いと言ってはずだが?」

 

「それはほら……今フィーと顔を合わせるのは気まずいと言うか……」

 

「むぅ……」

 

 察してくれと言葉を濁すゼノと唸るだけのレオニダスにユーシスはもう一度ため息を吐く。

 バリアハートに戻り、領邦軍の指揮を執る中に猟兵達の扱いもユーシスの仕事として割り振られた。

 それは良いのだが、この二人は暇を見つけては学院でのフィーのことを聞き出そうと訪ねて来るのは正直鬱陶しいと感じていた。

 最初こそは離別した家族を気遣っている関係に羨ましさを感じていたが、彼らのことを知ればただの女々しさだと言う事が分かりユーシスの中では一流の猟兵という評価からただの親バカに傾きつつあるのが二人への認識だった。

 

「明日、レグラムにもう一度行く」

 

「それは……」

 

「ラウラの返答次第ではレグラムを武力制圧することになるだろう……

 フィーと戦えないと言うのなら、ここに残ることは許そう」

 

「おいおい、ボン様。それはいらん気遣いってもんやろ」

 

「ああ、敵として戦場でまみえるなら相応の覚悟は俺達も、フィーもできている」

 

 猟兵らしくゼノとレオニダスはフィーと戦う事になる可能性を潔く受け入れている。

 しかし、レグラムで話したフィーの言葉からその二人の言葉にユーシスは一つの疑問を感じ、口にする。

 

「お前達はいつまでフィーを猟兵扱いするつもりだ?」

 

「……は?」

 

「それはどういう意味だ?」

 

 ユーシスの質問が意外だったのか二人は目を丸くする。

 

「既にフィーは猟兵以外の道があることに気付いている……

 クロスベルでアルカンシェルの稽古に参加したこともあれば、園芸部でもそれなりにうまくやっているらしい……

 銃に頼らない生き方を見つけつつあるフィーに猟兵の流儀を押し付け、後ろ髪を引かせているのはお前達ではないのか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ユーシスの指摘にゼノとレオニダスは黙り込む。

 

「お前達の仕事ぶりは信頼できる……

 しかし、フィーが絡んだ時お前達は正しい判断をすることができるのか?」

 

 不確定要素はいらないと伝えるユーシスにゼノとレオニダスは熟考するように沈黙をして重い口を開く。

 

「ボン様……いやユーシス様」

 

 どこか斜に構えていた態度をゼノは改める。

 

「そこまでフィーの事を想ってくれていたとは……」

 

 レオニダスは腕を組み、遠くの空を見つめて感慨深く頷いた。

 

「そこまでフィーのことを想ってくれているのなら……いや、しかし……」

 

 何やら苦悩をし始めるレオニダスにユーシスはため息を吐く。

 冷遇する父に疎ましさを感じてはいたが、妹離れができない家族と言うのがこんなにも鬱陶しいものなのだとユーシスは気付く。

 

「付き合いきれん」

 

 ユーシスは二人との会話を切り上げて踵を返す。

 二人を置き去りにして屋敷に入れば、そこには二人の同級生がユーシスを待っていた。

 

「何だ、二人とも来ていたのか?」

 

「あ……ああ……」

 

「一度、ちゃんと顔を合わせて礼が言いたかったからな」

 

 歯切れ悪く頷くパトリックと律儀なことを言い出すアランにユーシスは素気のない態度で応じる。

 

「礼など必要ないと伝えてあったはずだ……

 あの作戦、父はお前がブリジット嬢の処刑を確認した後でケルディックを粛正するつもりだった」

 

「だけどお前が進言して俺にあの猟兵の二人を付けて、処刑させないように進言してくれたんだろ?

 お前の――ユーシス様のおかげでブリジットを助けることができたから、本当に感謝している」

 

「ふん、死なせて利用するよりも恩に着せて利用した方が良いと考えただけだ」

 

 アランの感謝にユーシスはやはり気のない返事をする。

 

「それよりユーシス。ハイアームズ侯が貴族連合を裏切って正規軍に着いたというのは本当なのか?」

 

「……ああ」

 

 パトリックの質問に彼らが訪ねて来た理由をユーシスは察する。

 

「安心するが良い。三男では父上にとって人質としての価値も感じないだろう」

 

「それは……」

 

「ユーシス……言葉を選べよ」

 

 ユーシスの答えにパトリックは顔をしかめ、アランはため息を吐く。

 一緒に救出されたアンゼリカは早々にログナー家が引き取って行ったが、ケルディックでの正規軍の非道を証言するという名目でパトリック達はバリアハートに滞在している。

 

「事実だ。それとも自分を見捨てた家族を恨んで一軍を率いてみるか?

 今なら父上に媚びへつらって裏切り者の首を献上すれば、サザーランド州を与えてくれるかもしれないぞ……

 三男のお前が家督を継ごうとするなら、今は絶好の機会だろうに」

 

「っ……」

 

 息を呑んで黙り込むパトリックにユーシスは目立たないように剣に触れる。

 

「僕に…………あの庭園にいる奴等みたいに振る舞えと言うのか?」

 

「そう言うけど、取り巻き引き連れて偉そうにしていたのは良くやってたじゃねえか」

 

「なっ!?」

 

 アランの歯に衣着せぬ指摘にパトリックは目を剥き声を上げて反論する。

 

「僕があの豚共と同じだと言うのか!? ふざけるな訂正しろっ!」

 

「なっ!? このバカッ!」

 

 同じことを思っていても決して口に出さなかったアランはパトリックの失言に狼狽える。

 

「馬鹿と言ったか! 貴様――あ……」

 

 激昂しながらもアランが自分を見ていないこと、彼の視線の先にユーシスがいることを思い出しパトリックは蒼褪める。

 よりによって、アルバレア家の中でその当主を、ユーシスの父を豚呼ばわりした自分の失態にパトリックは気付く。

 

「ふん……」

 

 しかし、当のユーシスはそっぽを向いて聞かなかった振りをして、二人に別の話題を振る。

 

「あれが貴族連合の未来だ」

 

 ユーシスに促されてパトリックとアランは窓の外の《金》を見て、どちらも顔をしかめる。

 二人の反応にユーシスは平静を繕いながら、同じ感想を感じていることに安堵する。

 

「あの中にブリジットの親がいないのは良い事なんだよな?」

 

「ユーシス。僕達にできることは――」

 

「何もするな」

 

 パトリックの進言を最後まで言わせず、ユーシスは拒絶する。

 

「お前達はそのままブリジット嬢の実家で息を潜めて嵐が過ぎ去るのを待て」

 

「いやしかし……君はどうするんだ? レグラムに侵攻するという話は聞いている……

 レグラムにはⅦ組の仲間が治める領地のはずだ。君がわざわざ指揮を取らなくても……」

 

「勘違いするな。俺は別に父に従わされているわけではない……

 だいたいあれに指揮をさせたらどんな二次被害があるか分かったものではない」

 

 後ろでふんぞり返って無理難題を言うだけならまだしも、功に目が眩んだ独断専行や責任の擦り付けなど無能な味方程邪魔な存在はいない。

 内戦に翻弄される民のことを思えば、彼らに戦争させるくらいなら自分がやった方がマシだとユーシスは言い切る。

 

「しかし、それでは君は……」

 

「それ以上言うな。パトリック……俺はアルバレア公爵家なのだ」

 

 ユーシスの諦観を滲ませた言葉にパトリックはそれ以上の反論ができずに押し黙る。

 アランもまた何かを言いたげにしながらも、ユーシスの覚悟を感じ取って追及を避け、別の話題を振る。

 

「なあ仮に貴族連合がこの内戦を勝ったとしたら、どうなるんだ?」

 

 アランの質問にユーシスは目を伏せ、熟考しながら応える。

 

「獅子戦役と同じだ……

 恐怖と暴力で帝国を支配したオルトロス偽帝がドライケルス大帝に討ち取られたように終わるだろうな」

 

 庭では《金の騎神》とヘルムートを中心に帝国の明るい未来の話題で盛り上がる。

 その陰で若者たちが貴族連合の未来は決して明るいものにはならないと嘆いていることを彼らは知ろうともしなかった。

 

 

 

 

 

 

 バリアハートとレグラムを繋ぐエベル街道を五機の機械人形と四基の戦車が物々しく進軍する。

 戦闘を歩くのは剣と盾を携えた《紅》の機械人形。

 追従する《機甲兵》とは別の思想で作られたと一目で判る《機神》。

 追従する他の《機甲兵》もまた通常とは異なっている。

 ブレードライフルを片手に無数の鉄杭や円盤を装備したドラッケン。

 右腕に巨大なガントレットを装備したヘクトル。

 そしてそれらをレグラムの門の前で待ち受けていたのは《紅》によく似た《青の機神》。

 

「…………止まれ」

 

 ユーシスは部隊に指示を出すと、一人だけ前に出て《青》と対峙するように《紅》を進ませる。

 

「その様子では覚悟は極まっているようだな」

 

 大剣を地面に突き立て仁王立ちで出迎えた《青》に、その佇まいからラウラの選択をユーシスは推測する。

 元より曲がったことが嫌いな根っからの武人である彼女があの降伏勧告に屈するとは思っていなかった。

 

「ああ……だが、答える前にユーシス。そなたには一つ……いや二つ謝っておかなければならないことがある」

 

「謝る必要などない。それがお前が決めた道だと言うのなら胸を張って――」

 

「いや、そうではなくてだな」

 

 ラウラの声は気まずそうな調子を含ませて続く。

 

「私はレグラムのみんなをパルムへと夜逃げさせるつもりだった」

 

「…………そうか」

 

 ラウラの言葉にユーシスは《青》の背後、レグラムの門に視線を向ければそこには一人の老執事が佇んでいた。

 

「私は殿として残り、そなた達の追手を食い止める……

 だがその考えをみんなに伝えたところ、みんな私を残しては行けないと言われてしまった」

 

「そうか……」

 

 老執事だけではなく、門の向こうにはラウラの雄姿を見守るようにレグラムの民が集まっていた。

 数人の親しい執事とメイドの見送りしかなかった自分との違いに思わずユーシスは失笑を漏らす。

 

「それが一つならもう一つの謝罪は何だ?」

 

 ラウラが夜逃げを選んでいたことは意外だったが、ユーシスは尋ねる。

 

「うむ……」

 

 ラウラの声に合わせ、《青》が地面に突き立てた大剣を抜く。

 

「私は今からヘルムート・アルバレアの首を狙って一騎駆けを行う」

 

「それは……」

 

 言外にユーシスの父を討ち取ると宣言したラウラにユーシスは動揺していない自分に驚く。

 

「私がこの戦いに散れば、レグラムは無条件で降伏することを約束する。この勝負、受けてくれるな?」

 

「…………自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

「ああ……」

 

「俺達は先遣隊に過ぎない……

 今日のお前の返答次第ではすぐに部隊をレグラムに送り込む準備は整っている」

 

「ああ……」

 

「本隊は機甲兵だけでも二十機配備されている……

 いくら《ティルフィング》が《騎神》に近い性能を持っているからと言ってもお前のやろうとしていることは自殺行為でしかないのだぞ」

 

「ああ、分かっている。だが今の私は無敵だ」

 

 レグラムのみんなの期待を一身に背負ったからこそ、途方もない敵に対して臆する気持ちはない。

 

「っ……」

 

 堅い覚悟をしたラウラにユーシスは何とか思い直させる言葉を探す。

 

「あかん、これはあかんでユーシス様」

 

「ああ、どうやら彼女は肚を括ってしまったようだ」

 

 導力通信で同じ言葉を聞いていたゼノとレオニダスがこれ以上の説得は無駄だと告げる。

 

「しかし――」

 

「ユーシス。そなたは昨日私に覚悟があるのかと聞いたな?

 だがそなたこそ、貴族連合に、帝国解放戦線の言いなりとなって無辜の民を殺す覚悟はあるのか?」

 

「それをさせないために俺は貴族連合にいると決めたのだっ!」

 

「だがそれが理想論でしかないと言う事はそなたも分かっているはずだっ!」

 

「っ――」

 

「クリスがいれば、などと言うなよ……

 確かに本物のセドリック皇子が立てば貴族連合の正当性は崩れる……

 その時まで貴族連合の横暴を制御できれば、被害は最小限に食い止められばそなたは満足かもしれないが、その道は――」

 

「言うなラウラ。それ以上は……」

 

 核心に触れようとしたラウラの言葉をユーシスは遮る。

 

「…………そうだな。これ以上の言葉は不要だな」

 

 ラウラは――《青》は大剣を構えもう一度宣言する。

 

「私は諸悪の根源であるヘルムート・アルバレアにクロウ・アームブラストも斬る……

 皇族であるクリスの手を煩わせない。それがアルゼイド家の役割であり、本分だっ!」

 

「お前の覚悟は分かった。今ヘルムート・アルバレアを殺させるわけにはいかん」

 

 決死の覚悟を固めたラウラに対してユーシスもまたそんな彼女と戦う覚悟を決める。

 

「ふふ……思えば同じクロイツェン州出身だというのにそなたと剣を交えたことがなかったな」

 

「親同士の折り合いが良いとは言えないのだ、Ⅶ組と言う括りがなければお前とは関わることなどなかっただろうな」

 

 戦いを始める直前とは思えない程、穏やかな言葉を二人は交わす。

 そしてどちらともなく黙り込み、ラウラが合図を上げるように吠える。

 

「征くぞっ! 貴族連合っ! アルゼイドの力っ! とくと見よっ!」

 

 《青》が駆け出す。

 導力車のように足にタイヤで走る機甲兵とは違い、人のように大地を蹴って加速する《青》の勢いにユーシスは――《紅》に剣と盾を構えさせる。

 

「総員っ! 敵は《青の機神》ティルフィングッ!」

 

 《紅》の号令に合わせ、機甲兵と戦車が動き出す。

 複数の銃口や砲塔を向けられるにも関わらず、《青》は怯むことなく、むしろ速度を上げて突撃する。

 

「ハッ、ええ度胸や、お嬢様……フィーの親友ちゅうだけはあるな」

 

「我ら西風の護り、簡単に通れるとは――」

 

 油断なく構える二機と特別仕様な武装からただ者ではないと察したラウラは叫ぶ。

 

「フィーッ!」

 

「ん――任せて」

 

 《青》の背中にしがみついていたフィーは《ARCUS》を外部から《青》に接続して一時的にその制御権を得る。

 次の瞬間、《青》はその姿をブレさせた。

 

「なっ――!?」

 

 土煙を舞い上げて五体となった《青》は走る勢いを緩めず突撃する。

 

「何やと!?」

 

「むっ」

 

 大剣を振り上げて突進して来る《青》にそれぞれの機甲兵たちは身構え、迎撃する。

 だが、その攻撃は《青》を捉えるものの空を切って幻影が掻き消える。

 そして《青》は背中や足から風を吹かせてそんな彼らの頭上を飛び越えて、彼らの防衛線を突破した。

 《青》はそのまま脇目も振らずに駆け出し、その背中に張り付いていたフィーは貴族連合の機甲兵を振り返る。

 

「ふん……」

 

 人を見下すような嘲笑だけを残し、フィーは《青》の肩へと移動して前を向く。

 もう《青》もフィーも振り返らず、ユーシス達はその背を見送るように立ち尽くす。

 

「チイ……やるようになったやないかフィー」

 

「目標、防衛ラインを突破。これより追撃を開始する。本隊への報告は任せていいな?」

 

「ああ、俺もすぐに追い付く」

 

 レオニダスの進言にユーシスは頷き、導力通信を操作する。

 

「ん……?」

 

 その傍らで視界に違和感を覚えてユーシスは顔を上げる。

 その動きに連動した《紅》がレグラムの向こう、朝霧の奥にあるはずのローエングリン城を凝視する。

 

「………………気のせいか?」

 

 何かが動いたような気がしたが、機械の目に映る光景は静かな湖畔の城だけで特に異常は見られない。

 ユーシスはすぐに疑問を振り払い、導力通信をバリアハートに繋げた。

 

「こちらユーシス・アルバレア」

 

 さて、どう父にラウラの宣戦布告を伝えるか、ユーシスは頭痛を感じてため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。