(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

51 / 76
51話 カレル離宮

 

 

 

「ぐはっ!」

 

 皇族の住まいであるカレル離宮の廊下で《アガートラム》に殴られた近衛兵達が宙を舞う。

 

「そこっ!」

 

 持ち込まれた機械人形をシャーリィが“テスタ=ロッサ”のチェーンソーで引き裂いた。

 

「流石だね」

 

 援護のために抜いていた導力銃の役目がなかったことを少し残念と感じながらクリスは二人を労う。

 だが、二人はいつものように明るい言葉を返すことはしなかった。

 

「ミリアム? シャーリィ?」

 

「うん、シャーリィの方は問題ないけどさ……」

 

 念のためと言わんばかりに両断した機械人形を更に細かく解体したシャーリィは振り返り、《アガートラム》が殴り倒した近衛兵に油断なく向き直る。

 

「――皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない――」

 

「皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない

 

「―――――皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない――――――」

 

 複数の兵士たちが口々に同じ言葉を繰り返しながら立ち上がる。

 その顔に表情はなく、目を虚ろにして明らかに正気ではない様子だった。

 

「皇帝陛下の――」

 

「がーちゃん!」

 

 会敵からずっと同じ言葉を繰り返しながら斬りかかってくる近衛兵の剣をミリアムは《アガートラム》に防がせる。

 

「わわっ!」

 

 先程まで一方的に殴り倒していた《アガートラム》だが、今度の一撃は先程までのそれとは異なり、《アガートラム》がたたらを踏むように後退る。

 

「ミリアムッ!」

 

 《アガートラム》を押し退けてミリアムに迫る近衛兵にクリスは導力銃を撃つ。

 クリスの導力銃は剣の補助を目的としており、撃った弾丸は対象を麻痺させるための電撃の弾丸。

 しかし近衛兵はその弾丸をその身に受けても何の痛痒も感じないと言わんばかりに剣を振り上げる。

 

「フラガラッハ」

 

 アルティナの二つ目の戦術殻が振り下ろされた剣を受け止める。

 

「あーちゃん!? それにふーちゃん!?」

 

「私とフラガラッハを変な名前で呼ばないで下さい」

 

 ミリアムの声にアルティナは無表情な返事をしながら《フラガラッハ》に近衛兵を殴らせる。

 

「皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない。皇帝陛下の下にはいかせない」

 

 壁に叩きつけられた近衛兵はやはり何事もなかったように立ち上がり、同じ言葉を繰り返す。

 

「セリーヌ、これは?」

 

「おそらく上位三属性が働いている影響でしょうね」

 

 明らかに正気を失い、どれだけ痛めつけても不死の化物のように立ち上がって来る近衛兵達にセリーヌは顔をしかめる。

 

「したり顔で説明してないで何とかしてよ。あれって“魔女”の領分でしょ?」

 

 牽制の射撃に怯みもしない近衛兵達にシャーリィは辟易しながらセリーヌに働けと文句を言う。

 

「そんなこと言われたって私にできることはないわよ」

 

「はぁ……普段偉そうなことばっかり言ってるくせに使えない」

 

「何ですって!?」

 

「これならミスティに来てもらっていた方が正解だったかな?」

 

 不貞腐れたような、シャーリィは棘のある彼女らしくない嫌味を吐く。

 

「別に良いけどさ、猟兵でも命よりも“流儀”が大事だって言う奴もいるからさ……

 でもセリーヌがどうにかできないって言うなら、ここから先はもうシャーリィも手加減抜きで皆殺しを始めちゃうよ?」

 

「っ……」

 

 クリスの方針で、近衛兵を始めとした貴族連合の兵も帝国の民だから極力殺さないようにしたいというのがクリス陣営の方針である。

 シャーリィとしては依頼主のクリスの方針に従うことに不満はない。

 だが、殺さなければ止まらない呪われた兵士まで気遣っていられる程シャーリィは甘くなく、クリスもシャーリィに宣言に異を唱えることはしなかった。

 

「私は……」

 

 セリーヌの逡巡は一瞬、すぐにため息を吐いて一同の前に進み出る。

 

「仕方がないわね」

 

 セリーヌを中心に魔法陣が広がる。

 導力魔法とは違う“魔女の魔法”の行使に一同は目を見張り、その中でもシャーリィは敵に向けていた眼差しよりも鋭い視線でセリーヌの背中を睨む。

 

「ロゼから受け継いだ術……できれば使いたくなかったんだけど……」

 

 セリーヌの身体は魔術の光に包まれ、次の瞬間――

 

「その必要はありません」

 

 声は廊下の向こうから。

 彼女の主であるエマが魔導杖をかざすと三人の武器に深紅の焔が宿る。

 

「くらいなさいっ!」

 

「こっちです!」

 

 アリサとトワが並んで矢と魔導銃を撃つ。

 背後からの攻撃に彼らが振り返る間にサラとフィー、そしてミュラーが距離を詰めてそれぞれ焔を纏った剣を一閃する。

 

「ぐはっ!?」

 

「うぐっ!」

 

「ぎゃあっ!」

 

 彼女たちの攻撃を受けた近衛兵は崩れ落ち、纏っていた瘴気が晴れ、それ以上立ち上がることはなかった。

 

「サラ教官!? それに――」

 

 サラを始めとしたⅦ組のメンバーにミュラーの登場にクリスは驚いたところでリュートの音色が廊下に響いた。

 

「やあ、クリスにアルフィン。こんなところで奇遇だね」

 

 皇族の紅の礼服のオリヴァルトではなく、白い旅装束を纏ったオリビエがそこにいた。

 

「兄上っ!?」

 

「お兄様っ!?」

 

 驚愕する双子にオリビエはうんうんとしたり顔で頷く。

 

「奇遇だねって、どうしてここに!? 正規軍はどうしたんですか!?」

 

「はははっ! 正規軍とは何のことかな? ボクはクリス・レンハイムの兄であるオリビエ・レンハイム……

 正規軍の旗頭となっているオリヴァルト殿下とは別人さ」

 

「いや、そんな言い訳は……」

 

「ところでクリス。影武者とは良い文化だと思わないかい?」

 

 意味深な笑みを浮かべるオリビエとバツが悪そうにしているⅦ組の女性陣にクリスは察する。

 ルーファスが《C》として行動するために、クロスベルのルーファスという替玉を使っている事と同じ。

 今の正規軍の本陣に座っているのはⅦ組の男性陣の誰かがオリヴァルトに変装しているのだと。

 

「分かりました。そっちは良いです……

 それよりどうやってカレル離宮に潜入したんですか?」

 

「古来より離宮や皇宮には秘密の地下通路というものがあるのが定番でね……

 エマ君に精霊回廊を使って帝都近郊まで転移してもらってその地下道を使ってここまで来たんだよ」

 

「そんな地下道がここに?」

 

「ヴァンダール家の一部の人間にしか知られていない地下通路です」

 

 オリビエを補足するようにミュラーが説明を付け加える。

 

「本当なら俺だけで潜入するつもりだったのですが」

 

「何を言うか親友。君一人でこんなおいしい――もとい親友である君を一人で敵地のど真ん中に行かせるわけないじゃないか」

 

 ミュラーは良い笑顔で肩を叩くオリビエを睨み――言葉にしかけた説教を呑み込む。

 

「ミュラーさんが一人で潜入するって言うのも珍しいですね?」

 

「聞いてくれたまえクリス。実は――」

 

「確かめたいことがあったんです」

 

「確かめたい事?」

 

「父、マテウスはいったい何をしているのか……

 本来なら俺達が使った地下通路を使って皇帝陛下を貴族連合の魔の手から遠ざけるべきはずなのに、父上は内戦が佳境と迎えるこの戦況で変わらずに動く気配がないのはどういうことなのか……

 父上がもしも貴族連合の主張を鵜呑みにしているというのなら、最悪自分が……」

 

 音信不通な父の心積もりが分からずミュラーは苦悩する。

 

「そう言う事ですか……」

 

 ミュラーの皇族の護衛役であるヴァンダール家の責任感にクリスは納得する。

 確かに言われてみれば守護役筆頭のマテウス・ヴァンダールがこの期に及んで動こうとしないのは気になることだった。

 

「……いやまさか……」

 

 今は転がっている近衛兵達を見下ろしてクリスはその可能性を考えてしまう。

 

「さて、クリス。つもる話は互いにあるだろうが、ここは一先ず休戦としないかい?」

 

「休戦ですか?」

 

 オリビエの提案にクリスは聞き返す。

 

「本当ならボク達は君達より先に皇帝陛下をお救いするつもりだったのだけど、奇しくもボク達三人はここにいる……

 ならば兄弟仲良く、皇帝陛下を助けるのが一番美しいと思わないかい?」

 

「お兄様……」

 

「僕は……」

 

 オリビエの提案にクリスはオリビエと一緒に来ている《Ⅶ組》のラウラを除いた女性陣にサラとトワに視線を送って言葉を濁す。

 彼女たちを見て思わず考えてしまうのは“呪い”の影響。

 上位三属性の異常な空間となっている離宮で果たして彼らがいつまで正気でいられるのか、クリスには判断ができない。

 

「…………一緒に行くことは構いません。でも僕は兄上達と共闘をするつもりはありません」

 

 頑なな態度でオリビエの横をすり抜けて歩みを再開するクリスにオリビエは困った顔をして後に続く。

 

「ちょっとクリス」

 

 サラが呼び止めるが無視して進むクリスにオリビエは肩を竦める。

 

「申し訳ないサラ教官、どうやら弟は遅めの反抗期のようだ」

 

「ここでこれ以上問答をしている余裕はないだけです……

 僕達を進めさせるため、外で戦ってくれている人達がいる。彼らに報いるためにも僕達は一刻も早く皇帝陛下の下に辿り着かなければいけないだけです」

 

 このタイミングで《Ⅶ組》のみんなとまで言葉を交わしてしまえば口論に発展する予感がある。

 

「ま、そうだね。敵地で悠長におしゃべりはありえない」

 

 それに真っ先に頷いたのはフィーだった。

 前を歩くクリスに考えていた文句を呑み込み、歩き出す。

 そんなフィーにならって一言言いたいと思っていたⅦ組は顔を見合わせてからそれに続く。

 

「やはり父上がいるのは一番奥の間でしょうか?」

 

「おそらく、そうだろうね」

 

 クリスの呟きにオリビエは頷く。

 三階に上がり、長い回廊を歩きながらクリスは隣を歩く兄に質問を投げかける。

 

「兄上はクロウ・アームブラストを許すつもりなんですか?」

 

「…………」

 

 返って来たのは沈黙。クリスは構わず続ける。

 

「仮にクロウ先輩の主張が全て本当で、オズボーン宰相が悪だったとしても……

 オズボーン宰相の罪は彼を宰相に任命した皇帝の、僕達皇族の罪でもある……

 だけど、僕は復讐を免罪符にして更なる悪事を重ねたクロウを許すことはできません」

 

「クリス……」

 

「兄上が……トワ会長達の意志を汲みたいというのならそれは構いません……

 でもトワ会長達のようにクロウを許したいという人がいるように、クロウを絶対に許さないという人間がいるということを忘れないでください」

 

「…………ああ、その通りだ」

 

 オリビエにとってクロウは直接の面識は少なかったが、前任のⅦ組としていろいろ協力してもらった恩がある。

 故に擁護したいという気持ちがあるが、クリスが指摘した通りそれはオリビエの個人的な理由でしかない。

 

「本当に成長したな」

 

 隣を力強い足取りで歩く弟にオリビエは感慨深く涙ぐみ――突然、クリスは足を止めた。

 

「え…………?」

 

「ん……? どうしたんだいクリス?」

 

 回廊を半分程歩いたところで足を止めたクリスにオリビエは首を傾げる。

 近衛兵の増援が来たわけではない。

 むしろ三階に上がってからは静かなくらいだと感じていたオリビエが前方に視線を向けてそれを見た。

 

「子供?」

 

 そこには無造作に倒れていたのは一人の少年だった。

 黒い髪に、トールズ士官学院Ⅶ組の制服を着た少年。

 うつ伏せに倒れた少年の顔は見れないがその姿にオリビエは言い様のない衝動が込み上げてくるのを感じた。

 

「あ……ああっ!」

 

「■■■さんっ!」

 

 エリゼが狼狽えるのとアルフィンが戦列を忘れて飛び出したのは同時だった。

 周囲の警戒を忘れて少年に駆け寄ったアルフィンは投げ出された少年の手を取って叫ぶ。

 

「■■■さんっ! ああ■■■さんっ! な、なんでこんなに体が冷たく……」

 

 必死に呼び掛けるアルフィンの姿にオリビエは既視感を覚えて叫ぶ。

 

「ダメだ! アルフィンそれから離れるんだ!」

 

「え……?」

 

 兄の叫びにアルフィンが振り返ると、伏せていた少年が造り物の顔を上げる。

 誰も、何かを感じて反応できなかったがオリビエはかつての経験から抜き撃ちでアルフィンに襲い掛かろうとした少年の人形の額を撃ち抜いた。

 

「あ……」

 

 アルティナがすかさずアルフィンを抱きかかえて空中に退避する。

 そしてオリビエの射撃に遅れて、我に返った一同は一斉に銃を、魔法を、矢を放ち、人形は瞬く間にボロボロになって爆発する。

 

「…………今のは…………ボクは……誰を撃った?」

 

 呆然と呟いたオリビエに誰も応えを返す者はいなかった。

 言葉にできない“衝動”を感じているのはオリビエだけではない。

 何かとても大事なことを忘れているのではないかと立ち尽くす彼らに声が掛かる。

 

「うーん……最新の自走導力地雷とか言うとったけど、一人も巻き込めんかったか」

 

「ここまで来た者達だ。あの程度の罠では通用しないという事だろう」

 

 人形が起こした爆発の黒い煙が晴れると、そこには二人の猟兵がいた。

 

「ゼノ……それにレオ……」

 

「ここで“西風”の二人か」

 

 言い様のない不快感を胸に感じながらフィーとシャーリィは二人を睨む。

 

「まーまーそんな怖い顔せんといてや。ほんの挨拶代わりやないか」

 

 悪びれた様子もなくゼノは笑うが、一同の異様な沈黙にバツを悪くして頭をかく。

 

「ゼノ……今のは何?」

 

 フィーの質問に良く聞いてくれたとゼノは嬉しそうに話し始める。

 

「あれはうちらのSウェポンを注文しとる工房が作った最新の自走導力地雷ちゅうもんでな……なかなかおもろいやろ?」

 

「ふざけるなっ! あれのどこが面白いんだ!?」

 

 悪趣味極まりない自走導力地雷にクリスはようやく声を上げて怒鳴り散らす。

 

「別に人間を爆弾にしたわけやないんやからそんなに怒らへんでもええやろ?」

 

 飄々とした態度にクリスは我慢の箍を外して剣を抜き――

 

「待ってクリス」

 

「フィー! 邪魔をするなっ!」

 

 肩を掴むフィーの手を乱暴にクリスは振り払う。

 

「邪魔なんてしないよ」

 

「え……?」

 

 意外なフィーの言葉にクリスは振り返るが、フィーはその横をすり抜けて前に出る。

 

「どうしてクリスがわたしたちに怒っていたのか、少しだけ分かったかも」

 

 地雷の外見をさせられていた少年は《Ⅶ組》の制服を着ていた。

 フィーには彼に見覚えのない初めて見る顔だった。

 しかし、その見覚えのないはずの少年を爆破され、フィーが感じたのは怒りだった。

 そしてアルフィンやクリスの反応を見る限り、“彼”が《Ⅶ組》にいたはずだったのだろう。

 

「ゼノとレノの相手はわたしがする。だからクリス達は先に行って」

 

 双銃剣と導力ブーツを起動させフィーは構える。

 

「おいおいフィー、オレら二人を一人で相手しようなんて随分と生意気言うようになったやないか?」

 

「敵との力の差は冷静に分析しろと教えたはずだ。お前では俺達には勝てん」

 

「いちいちうるさいなぁ」

 

 ゼノとレオニダスのフィーを諫める言葉はシャーリィが吹かせた“テスタ=ロッサ”のエンジン音に掻き消される。

 

「別にあんた達がどんな武器を使おうかなんて、そっちの勝手だから別に良いんだけどさぁ」

 

 シャーリィもまたフィーやクリスと同じように理由の分からない怒りに苛立っていた。

 これまで奔放に生きて来たシャーリィにとって初めて感じる憤り。

 あの少年は決して雑に爆破されて良い相手ではないと、知らない自分が胸の奥で激怒しているのをシャーリィは自覚する。

 

「クリスは悪いけど護衛はここまでにさせてもらうよ……

 シャーリィはこの二人を何が何でも潰したくなったから」

 

「シャーリィ……いえ、僕からもお願いします。ガツンと思いっきりぶっ飛ばしてください」

 

 ここまで仕事に徹してくれていたシャーリィの我儘をクリスは認める。

 むしろシャーリィがそう言ってくれていなかったら、第一目標を忘れてクリスが戦おうとしていただろう。

 

「ん……まあシャーリィなら良いか」

 

 シャーリィが提案するタッグにフィーは頷く。

 

「はっ……ガキどもが調子に乗り過ぎやろ」

 

「我ら西風の守り、簡単に通れるとは思うなよ」

 

 ゼノとレオニダスはそれぞれブレードライフルとマシンガントレットを構える。

 それと対峙するフィーとシャーリィはそれぞれの銃口を二人に突きつけて――

 

「あ……」

 

 後ろから見ていたクリスはシャーリィが“テスタ=ロッサ”を片手に、もう片方の手を後ろに隠して《ARCUS》を駆動させていることに気付く。

 

「――ヒートウェイブ」

 

 シャーリィの小さな呟きを持ってゼノとレオニダスを中心に導力魔法の炎が発生する。

 

「なっ!? 人喰い虎が初手で導力魔法やと!?」

 

「っ――だがこの程度で我らの不意をついたと思うなよ」

 

 意外なシャーリィの行動に驚きはしたものの二人は歴戦の猟兵であり、炎の中心から素早く後退して距離を取る。

 

「もちろんそんなことを思ってないよ。欲しかったのはこの距離だからっ!」

 

 シャーリィはチェーンソーの刃帯の一方が外れ、剣の鞭となって炎の向こうの二人に振り下ろされる。

 

「おいおい! まさか!?」

 

「法剣……テンプルソードだと!?」

 

 導力魔法以上に似合わない教会の法剣を思わせる刃にゼノとレオニダスは驚愕する。

 

「いつの間にそんなものを?」

 

「チェーンソーの刃って法剣に似てるって言ったらティータが作ってくれたんだよね」

 

 クリスの疑問にシャーリィは笑いながら“テスタ=ロッサ”を振り回す。

 火炎を纏った剣鞭が嵐となってゼノとレオニダスに襲い掛かり、吹き荒れる暴風が回廊の一角を二人ごと吹き飛ばす。

 

「や……やったの?」

 

「うーん……派手に吹っ飛ばしただけかな?」

 

 引き戻した刃帯をチェーンソーに戻してシャーリィは新しい兵装の調子に満足そうに頷く。

 

「むぅ……一人でやらないでよ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 唇を尖らせるフィーにシャーリィは軽い謝罪をしてクリス達を振り返る。

 

「じゃあシャーリィ達はあの二人に止めを刺して来るから」

 

「後は任せた」

 

 ひらひらと手を振るシャーリィと言葉少なく告げたフィーは二人を追うように破壊された回廊から外へと飛び降りた。

 

「…………大丈夫ですかエリゼさん?」

 

 シャーリィ達を見送り、静かになった回廊でクリスは振り返ってへたり込んだエリゼを気遣う。

 

「セドリック殿下……今の人は……? 私は……私は……」

 

「無理に思い出そうとしなくて良いんです。あれは人形……

 貴女の中にいたはずの人と同じ顔をしていても、ただの人形なんですから」

 

 他の人を見るが、エリゼ程の動揺をしている者はいない。

 

「エリゼさん、貴女はここで引き返した方が――」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

 呼吸を整えてエリゼは立ち上がる。

 

「今の私はシュバルツァー男爵家の長女であり、姫様の友であり、護衛役です……無様をさらして申し訳ありませんでした」

 

 アルフィンを守るために動けなかったことを毅然と謝罪するエリゼにクリスは複雑な感情を抱かずにはいられなかった。

 エリゼと話したい事、“彼”の名を叫んだアルフィンに問い詰めたい事は山ほどできたがそれをしていられる余裕はない。

 

「…………行きましょう兄上。目的地はもうすぐそこです」

 

 葛藤を振り払い、クリスはオリビエを促して進む。

 

「あの猟兵に関しては二人に任せておけば良いでしょう。それよりも覚悟をしてください」

 

「覚悟……?」

 

 首を傾げるオリビエにクリスは告げる。

 

「ミュラーさんの懸念が正しいのなら、この先にいるのはおそらく……」

 

 クリス達は回廊から進み、最奥の間への扉の前に立つ。

 ここに至ればクリスでも分かる。

 

「これは……」

 

「どうやら上位三属性が働いている原因はこの扉の先にあるようですね」

 

 セリーヌとエマはその濃密な気配に慄く。

 クリスは一度振り返り一同の顔を確認する。

 クリスの陣営としてミリアムにアルティナ、アルフィンとエリゼ。そしてセリーヌ。

 オリビエの陣営としてミュラーとサラ、そしてアリサとエマとトワ。

 扉の向こうに“猛獣”がいるような気配を感じながらも、誰もそれに臆する様子はない。

 

「それでは開きます」

 

 クリスの言葉に一同は武器を構え――オリビエは警戒を彼らに任せてクリスの隣に立った。

 

「兄上?」

 

「さっき言っただろ? 一時休戦だと……共にこの内戦をくぐり抜けて来た姿を父上に見せようじゃないか」

 

「……兄上……」

 

 おどけた調子で微笑みかけて来るオリビエにクリスは苦笑をして、扉の左側の取手を掴む。

 

「わ、私も……」

 

 オリビエに遅れてアルフィンも前に出てクリスの手に己の手を重ねる。

 

「ふふ、初めての兄妹の協同作業というわけか」

 

 オリビエは右の扉の取手を掴む。

 三人は一度顔を見合わせ、息を合わせて扉を開いた。

 

「ようこそ御出で下さりました、皇子皇女殿下」

 

 最奥の広間、風光明媚な景色を一望できる壁一面の窓を背にクリス達を出迎えたのはパンタグリュエルで会った男だった。

 

「アルベリヒ・ルーグマン」

 

「おじさま……どうしてここに?」

 

 彼の名を呟くクリスの言葉にアリサの驚きが重なる。

 知り合いなのか、カイエン公の相談役とアリサが面識があったことに驚くが、それを口にするより先に広間に声が上がった。

 

「いかん! セドリック、オリヴァルトもアルフィンを連れて逃げるのだ!」

 

 その声はアルベリヒの背後、窓際に立っていたプリシラ皇妃に付き添われたクリス達の父、ユーゲント皇帝のものだった。

 

「父上っ!」

 

 二人の無事な姿にクリスは安堵すると共に声を上げる。

 だが、その二人を隠すように一人の男が彼らの間に立った。

 

「なっ!?」

 

 それは異様な風貌の男だった。

 一つ目の鉄兜を頭に被り、そこから生えた《戦術殻》の触手に上半身を鎧のように寄生された男は近衛兵達のようにうわ言を繰り替えして大剣を構える。

 

「皇帝陛下には指一本触れさせない……皇帝陛下には指一本触れさせない」

 

「なっ……」

 

 その姿にミュラーは言葉を失う。

 鉄仮面のから聞こえて来る声。

 《戦術殻》の鎧の下にある服装と何よりも彼が構えている“ヴァンダールの宝剣”が彼の正体を気付かせる。

 

「父上……何ですか?」

 

「皇帝陛下には指一本触れさせない……皇帝陛下には指一本触れさせない」

 

 その呼び掛けに彼は応えない。ただ同じ言葉を繰り返す。

 

「貴様っ! 父上に何をした!?」

 

 上半身を戦術殻に呑まれたマテウスの姿は先程の人型自走導力地雷とは別の悍ましさを感じさせ、ミュラーはその場にいるアルベリヒを睨む。

 

「ふふ、彼に動かれては《貴族連合》の邪魔になるので少々洗脳させてもらったのだよ」

 

「洗脳だと!?」

 

 今にも襲い掛かって来そうなミュラーの気迫にアルベリヒは余裕に満ちた態度でマテウスに話しかける。

 

「マテウス卿、どうやら彼らは皇帝陛下の命を狙う逆賊のようです……

 皇帝陛下を守るため、その“ヴァンダールの剣”を思う存分に振るってください」

 

「皇帝陛下……命……逆賊…………守る……守る……ヴァンダール……」

 

「ち、父上……」

 

「オ…………オオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 マテウスの叫びと共に呪いの風が広間に吹き荒れる。

 

「皇帝陛下に仇なす者は全て――キル――」

 

 マテウス・ゾア・バロールは雷神を纏う剛剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 






内戦でも黄昏でも仕事をしてなかった(役に立っていなかった)マテウス卿。
かなり重要な役職持ちなのに原作ではいったい何をしていたんでしょうね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。