(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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黎Ⅱのロングムービーについて

共和国特殊部隊――壊滅


………………うん、いつものことですね。







53話 再会

 

 

 

 

 クリス・レンハイムは大きく息を吐いて首を振った。

 

「何を言い出すかと思えば、クロウ先輩を《超帝国人》にする? 馬鹿を言わないで欲しいですね」

 

 やれやれと肩を竦めてクリスは告げる。

 

「同じ起動者だからって、あの人が《鋼の聖女》や“あの人”と同じ領域を名乗るなんて烏滸がましい!

 だいたいクロウはジュライ人じゃないか!」

 

「えっと……そう言う問題なのかな?」

 

 クリスの発言にどう反応して良いのかとトワは苦笑いを浮かべて困る。

 

「そう言う問題ですトワ会長」

 

 臆面もなくクリスは言い切った。

 しかし、それに対してアルベリヒは嘲笑を浮かべて答える。

 

「くく……残念ながらもはや人が定義した民族の枠組みなど関係ないのですよ」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「クロウ・アームブラストも帝国人だという事ですよ。少なくとも血の一滴程度の帝国の血を引いているでしょう……

 そしてそれは彼に限ったことではない。この千年の時を経て“エレボニア”の血はゼムリア大陸全土に拡散していることを確認することができた」

 

『…………やはりそういうことなのね』

 

 アルベリヒの意味不明な言葉を理解できたのはグリアノス越しのミスティだけだった。

 

「姉さん、それはどういうこと?」

 

『私は貴女の美人なお姉さんではなくて、ミスティよ』

 

「そういうのは今は必要ないでしょ!?」

 

 こんな状況だと言うのに誤魔化そうとする義姉にエマは思わず声を上げてします。

 

「で、どういうことなのよ?」

 

 眦を上げるエマに代わってセリーヌが続きを促す。

 

『今の貴女達に説明したところで意味のない事よ』

 

「姉さん――」

 

「エマ、その話はそれこそ後回しにしてくれないかな」

 

 頭の上のグリアノスに詰め寄って来るエマを宥めながらクリスはアルベリヒに向き直る。

 

「貴方は何者ですか?」

 

「ふむ? 先程名乗ったはずっだが?」

 

「ええ、カイエン公の相談役のアルベリヒ・ルーグマン……

 ですが貴方の口振りはあまりにも裏側の事情に精通し過ぎている」

 

 ヴィクターと闘っているマテウスに取り付いた戦術殻をクリスは一瞥する。

 戦術殻はミリアムやアルティナも使っている。

 学院でも教材として使用され、クリスも魔剣の運搬役という形で使っていたし、今は《機神》を格納するのにも使われている。

 だが、アルベリヒの戦術殻はそれらと比べると明らかに異質なものだった。

 

「それに《超帝国人》……つまり貴方は“あの人”の事を覚えている。という事なんでしょう?」

 

「ほう……」

 

 クリスの指摘にアルベリヒは意外そうに目を細める。

 

「もっともミスティさんの反応から見ればその正体も検討は着きます……

 つまり貴方は《焔の眷属》とは対である《大地の眷属》といった所でしょう?」

 

「ははっ!」

 

 続く言葉にアルベリヒは笑う。

 

「まさか、数合わせでしかなかった君がそこに気付くとは」

 

 感心するように呟き、アルベリヒはクリスを褒める。

 

「どうだねクリス君。いやセドリック・ライゼ・アルノール。今から“彼の者”の祝福を受ける気はないかな?」

 

「彼の者の祝福?」

 

 突然のアルベリヒからの提案にクリスは訝しむ。

 

「そう、本来の預言ならば君はこちら側にいるべきなのだ……

 歪まされた預言を正すためにも君には是非ともこちら側に来てもらいたい」

 

「そんな訳の分からない説明で僕が靡くとでも思っているんですか?」

 

「もちろんタダとは言わない“祝福”を受け入れれば君も“超帝国人”へと至ることができるだろう」

 

『クリス君』

 

 熱を帯びたアルベリヒの勧誘に頭の上のグリアノスからミスティの刺さるような声がクリスに向けられる。

 

「僕が“超帝国人”に至れる……?」

 

「そう。君は渇望していたはずだ。誰よりも強く雄々しくあることを、君ならば《蒼の起動者》以上の“超帝国人”になれるだろう」

 

『クリス君、耳を貸してはダメよ』

 

「僕が……“超帝国人”……はははっ」

 

 ミスティの呼び掛けを無視してクリスは笑う。

 

「むっ」

 

 その笑いは歓喜のものではなく、嘲笑だと察してアルベリヒは顔をしかめた。

 

「何がおかしいのかな?」

 

「失礼……貴方があまりにも初歩的な勘違いをしているのでつい笑ってしまったよ」

 

「ほう……私のどこが勘違いをしていると?」

 

「ならば問おう! “超帝国人”とは何だ!?」

 

「フッ……何を言い出すかと思えば……“超帝国人”、それは他者を圧倒する“力”以外にどんな答えがあると?」

 

 自信満々に答えるアルベリヒにクリスははっきりと告げる。

 

「“超帝国人”――それは“愛の戦士”!」

 

 言葉に熱を込めてクリスは続ける。

 

「あの人は強かったから“超帝国人”と呼ばれたんじゃない……

 弱くて悔しくて怖くて……それでも誰かのために歯を食いしばって立ち上がって突き進んだ」

 

 この内戦を駆け抜けて、クリスは少しだけ“彼”のことが分かった気がした。

 

「《鬼の力》や《神気合一》、《至宝の力》……そんなもの、あの人の“力”のおまけでしかない」

 

「“力”など所詮は人殺しのためのものに過ぎない……

 どんな美辞麗句で装飾したところで人は“闘争”を求め、他者を滅ぼす“力”こそを至上とする。そこに“愛”などという幻想など入り込む余地などない」

 

 クリスの言い分にアルベリヒは負けじと言い返す。

 だが、一言言い返すとアルベリヒは肩を竦めて、クリスへの興味を切り捨てる。

 

「まあ、良い……“愛”などという幻想など“力”の前には無力だと“彼ら”に証明してもらおう」

 

 アルベリヒが指を鳴らす。

 それを合図に鍔迫り合いをしていたマテウスが苦しみ出した。

 

「ぐっ……おおおおお……」

 

 離宮に満ちていた瘴気がマテウスへと集まり、黒い霧に埋もれていく。

 霧の中から戦術殻がマテウスから離れるが、彼の苦悶に満ちた声が鳴りやむことはない。

 

「これは……まさか……」

 

 これによく似た気配をクリスは知っている。

 

「“魔人化”……いや……“鬼人化”」

 

 黒い霧が晴れるとそこには一回り大きな体躯へと変貌したマテウスだった二本角の“鬼”が現れる。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 大気を震わせる咆哮を上げる“鬼”。

 

「マテウス……」

 

 鎬を削ってきたライバルの変貌にヴィクターは思わず目を伏せ、次の瞬間剣に洸翼を宿す。

 

「アルゼイド子爵っ!?」

 

「止めないで下さい殿下……マテウスは私が斬ります」

 

 悲壮な決意を固めるヴィクターにクリスは首を振る。

 

「いいえ。こうなったら僕も手段を選ぶつもりはありません……」

 

「シャロンッ! 何をするの!? やめなさいっ!」

 

 マテウスの向こうではアリサがシャロンに雁字搦めに拘束されていく。

 

「さて、ここでの私の役割が終わった。せいぜい君が言う“愛”の力を持ってマテウス卿とクロウ・アームブラストを倒せるのか見物させてもらうとしよう」

 

 アルベリヒはゾア・バロールに抱えられて窓際の高台へと移動し、シャロンはアリサを担いで生身で跳んでそれに続く。

 文字通り高みの見物と言った体でアルベリヒはクリス達を見下ろす。

 

「くっ……」

 

 このままではアリサが攫われる。

 更には《鬼人》となったマテウスの戦闘力を考えてクリスはミュラーとサラに言葉を掛ける。

 

「二人とも、マテウス卿の相手は僕がします……隙を見て父上と母上、それにアリサの奪還を任せます」

 

「任せるって……どうするつもり?」

 

 聞き返すサラの言葉にクリスは行動を持って答える。

 

「来いっ! 《緋の騎神》テスタ――」

 

「その必要はないわよ!」

 

 クリスの召喚を遮るように声が響き、それは現れる。

 

「うりゃあああああああああっ!」

 

 白い虎のような巨大な魔獣に跨り、紅耀石の棒を携え一人の少女が広間に乱入する。

 魔獣の上から少女は“鬼人”に一撃を当て、仰け反らせると彼が纏っていた瘴気は棒が纏っている焔によってわずかに散らされる。

 

「あの棒はまさか……ローゼリアの聖別を受けた武具か!?」

 

 自身を滅する可能性のある武具にアルベリヒは思わず身を乗り出す。

 直後、耳元で鳴り響いた鋼の剣戟の音に身を竦ませて振り返る。

 

「なっ!?」

 

 目の前には刃。

 いつの間にか現れた黒髪の少年の双剣をシャロンが紙一重の所で短剣で受け止めていた。

 

「ふっ――」

 

 少年はシャロンに奇襲を防がれたことを気にも留めずに双剣を閃かせアリサを縛っていた鋼糸を断ち切ると、シャロンから奪う様に高台から飛び降りる。

 

「ヨヨヨヨ、ヨシュアさんっ!?」

 

 横抱きに――俗にいうお姫様抱っこで救出されたアリサは眼前の美少年に狼狽する。

 

「黙って、舌を噛むよ」

 

 忠告は短いものだったが、実際の着地にアリサに伝わる衝撃はほとんどない。

 

「はあっ!」

 

 少女は魔獣を踏み台にして、渾身の一撃を“鬼人”に振り下ろす。

 盾にした大剣に対して少女を力任せに棒を振り抜き、“鬼人”を窓の外へと叩き出す。

 

「ふぅ……」

 

 残心の息を吐き、太陽を思わせる笑顔で少女は振り返った。

 

「お待たせ、オリビエ!」

 

「エステル君……それにヨシュア君……はは、まさか君達がこのタイミングで来てくれるとは思ってもみなかったよ」

 

 二人の登場にオリビエは思わず苦笑する。

 

「ふふん……二年前とは逆になったわね」

 

「二年前……ああ、懐かしいな。そんなこともあったね」

 

 エステルの言葉にオリビエは、二年前のエルベ離宮でシェラザードと共に颯爽とエステル達の援軍に駆け付けた時のことを思い出す。

 

「助かったわ。エステル、ヨシュア」

 

 伏兵が間に合ったことにほっと安堵の息を吐いたのはサラだった。

 

「間に合ったのはサラさんがあの子を残しておいてくれたからです」

 

 アリサを下ろしてヨシュアはエステルが跨っていた白い魔獣を振り返る。

 

「あの魔獣は……」

 

 クリスが首を傾げていると、白い魔獣はエマに近付いて行く。

 

「ありがとうキリシャ。もう戻って良いわよ」

 

「にゃあっ!」

 

 エマが労う様に頭を撫でると白い魔獣はその体の大きさに似つかわしくない声で鳴く。

 そして光に包まれると小さなネコへと変身する。

 

「ちょ――ちょっとエマ!? 今のキリシャだったの!?」

 

 そのことにセリーヌが一番の驚きを示す。

 

「にゃあ」

 

 かわいらしい声でセリーヌにキリシャは答えると、エマの肩に乗る。

 

「えっと……私の魔力で補助して……その……でもセリーヌだって悪いんですよ。私を置いてクリスさんの方に行ってしまったんですから」

 

「だからって聖獣化はまだわたしにだって出来ないのに……」

 

 ぐぬぬっとセリーヌは唸る。

 

「それよりエステルさん、御二人はエリンの里に閉じ込められていたはずじゃなかったんですか?」

 

 クリスは話題を変えるようにエステルに何故ここにいるのか尋ねる。

 

「うん、そうなんだけどローゼリアさんが頑張って送り出してくれたの」

 

「それで森から出たところで丁度サラさんと連絡が取れてね。皇帝陛下を救出するためのバックアップを頼まれたんだよ」

 

「何だいサラ君。それならそうと言ってくれれば良かったのに」

 

 ヨシュアが付け加えた説明にオリビエは振り返る。

 

「二人と通信が繋がった場所が間に合うか分からない所だったから、殿下達には話さなかったんですよ。殿下達は皇帝陛下の下へ」

 

 談笑に移りそうな空気を締めるようにサラはクリス達を促し、サラは未だに高台に残っているアルベリヒを睨む。

 

「随分と“裏”の事情にお詳しそうだけど、もしかしてアンタが私の教え子をたぶらかしたのかしら?」

 

「たぶらかしたとは人聞きが悪いな……

 私もカイエン公も彼に無理強いなどはしていない。彼がこれまで行って来たテロ活動は紛れもなくクロウ・アームブラストが望んで行ったことだ」

 

「嘘っ!」

 

 アルベリヒの言葉にトワが声を上げる。

 

「クロウ君はちょっと不真面目だけどそんなことをする人じゃない!」

 

「それは君が彼の本質を知らないだけだ……

 クロウ・アームブラストは復讐を理由に貴族の先兵として暗躍し帝国の民を苦しめ、何の関係のないノルドやクロスベルを戦火に晒すことも厭わないような男だ……

 君達はそんな外道に何を期待しているのかな?」

 

「それは……“呪い”のせいで……」

 

「全ては“呪い”が悪いか……便利な言葉だが、君達は帝国の“呪い”の何を知っていると?」

 

「それは……」

 

 口ごもるトワにアルベリヒは嘲笑を浮かべて追い打ちをかける。

 

「クロウ・アームブラストがテロリストに堕ちたの紛れもない彼の意志によるもの……

 そして今、帝国市民を生贄として新たな“力”を願ったことも彼自身の意志……

 さらに言えば、今ジュライで起きていることにさえ目を逸らし続けている……

 結局のところクロウ・アームブラストは根っからの“外道”でしかないのだよ」

 

「好き勝手言ってくれるじゃない」

 

 アルベリヒの一方的な物言いにサラは教え子を貶されたと眦を上げる。

 しかし、クロウへの悪口よりもトワには聞き逃せない言葉があった。

 

「帝都の市民を生贄にするって……それってどういう意味……?」

 

 帝都ヘイムダルにはトワの実家がある。

 トワの両親は既に他界しているが、引き取って育ててくれた叔父夫婦に弟分。

 アルベリヒの言葉に彼らの安否に不安がトワの胸に湧き上がる。

 

「それは君達の目で直接確かめると良い……もっとも彼から逃げ切れればの話になるだろうがね」

 

 

 

 

 

 

「父上……母上……」

 

 クリスはオリビエとアルフィンを後ろに父であり皇帝であるユーゲントとその妻にして皇妃であるプリシラと対面する。

 

「御無事なようで何よりです。二人とも」

 

「ああ、其方達も良くぞ。ここまで辿り着いた」

 

 子供たちの無事な姿はもちろん、三人が手を取り合って至ったことにユーゲントは感慨深いものを感じずにはいられない。

 

「積もる話はありますが、今は避難を……

 マテウス卿があれで倒せたとは思えませんし、どうやらすぐに帝都へ向かわなければいけないようですから」

 

「ちょっとセドリック、ようやくお父様とお母様に会えたというのにその物言いはないでしょ」

 

「いや、良いのだアルフィン」

 

 家族の再会だというのに淡々と事務的な素気ない態度を取る息子に、むしろその成長した姿にユーゲントは喜ぶ。

 

「我らがこの場に留まるのは多くの者に迷惑をかけるだけだ。そうなのだろう?」

 

「はい、沢山の仲間が僕達がここに辿り着けるように道を拓いてくれました……

 彼らはここの敵が押し寄せないように今も戦ってくれているんです」

 

「そうか……」

 

 真っ直ぐに自分を見つめ返す息子にユーゲントはもう何度目になるか分からない感動を噛み締める。

 

「父上達はこのまま《カレイジャス》に乗ってもらいますが、良いですね兄上?」

 

「ああ、それで構わないよ。できればボク達も一緒に乗せてくれると嬉しいのだけどね」

 

「それは良いんですけど……兄上達はどうやって逃げるつもりだったんですか?」

 

「ふふ、その話は長くなるから離宮から脱出してからに――」

 

 オリビエの声を遮って、ガラスが割れる音が広間に鳴り響く。

 それはアルベリヒとシャロンが高台の窓を割って逃げ出した音。

 それは窓の外、風光明媚な景観の滝壺に落されたはずの“鬼人”が窓を突き破って広間に舞い戻った音だった。

 

「なっ!? あの崖を登って来たのか?」

 

 死んでいるとは思っていなかったが、エステルの一撃を受け滝壺に落されてもすぐに戻って来るタフさにクリスは驚く。

 

『コオオオオオオオ』

 

 もはや彼は繰り返していた言葉は言わない。

 それが一層不気味で、瘴気を呼気で漏らす様はさながらホラー小説に出て来る怪物を思わせる。

 

「兄上達は先にカレイジャスへ」

 

「いいえ、セドリック殿下。ここは私に任せて頂きたい」

 

 剣を構えるクリスを遮ってヴィクターが前に進み出る。

 

「皇帝陛下をお助けできた今、ここに残る理由はないでしょう……

 ならばここで殿として残るのは一人で十分なはず、そしてあの馬鹿者を止めるのに残るのは私が適任でしょう」

 

「ですがアルゼイド子爵、貴方の身体では……それにかの宝剣だってラウラに託してしまったのに」

 

 短い戦闘でありながらも、ヴィクターの身体は既にかなりの傷を負っている。

 そもそもヴィクターは安静にしていなければ重傷を負っていた身。

 この場に駆け付けてくれただけでも十分に賞賛されることをしている。

 

「このままでは貴方の命が――」

 

「セドリック殿下、我らがすべきことを間違えてはいけません」

 

 彼の身を案じる言葉は遮られる。

 

「今の私が帝都へ同行したとしても役に立つことはないでしょう……ならばここで全てを費やすことこそ、殿下達の最大の支援となるでしょう」

 

 既に自分の体が限界に近い事を察しているヴィクターは一同に視線を巡らせる。

 セドリックの顔を見て、彼の――娘のクラスメイト達を見て、エステルが背負っている長大な布の包みを見る。

 

「ヴィクターさん、それなら私たちが――」

 

「君達にはするべき役目があるのだろう?」

 

 エステルの申し出をヴィクターは断る。

 彼らをこの場から送り出すことが自分の役割だと決意を固めて、ヴィクターはクリスに頭を垂れる気持ちで告げる。

 

「帝都を……いえ、帝国を頼みます。セドリック皇子」

 

「っ……分かりました」

 

 ヴィクターの決意を感じ取り、クリスは後ろ髪を引かれる気持ちを振り切る。

 

「さあ、父上。それに母上も……」

 

 オリビエに促されてユーゲントとプリシラもまたヴィクターを残すことに躊躇いを感じながらも広間を後にする。

 意外なことに一同が広間から出て行くまで“鬼人”は苦悶の唸りを上げるだけでその場から動こうとはしなかった。

 

「マテウス……」

 

 それがわずかに残っているマテウスの意志なのかをヴィクターに判断することはできない。

 

「情けない姿だな」

 

 二人きりとなったところで、ヴィクターはマテウスに対して気安い、呆れた言葉を投げかける。

 

「貴族連合から陛下を守れず、良いように利用されたか……

 皇族の守護り手《ヴァンダール》が聞いて呆れるというものだ」

 

 親友とも言える宿敵のこんな無様な姿など見たくはなかった。

 

「今のお前は私を凌駕しているだろう……だが――」

 

 ヴィクターは剣に洸を宿して構える。

 

「魂と意志を宿さぬ曇った剣に負けるつもりはない」

 

『ウ――――オオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 押さえつけていたものが解き放たれたかのような咆哮を“鬼人”が上げる。

 そして洸の剣と瘴気の剣が激突する。

 

 

 

 

 

 








NG もしもあの時、彼女の意識があったなら

シャロン
「ああ、手が勝手に……ごめんなさいアリサお嬢様……
 くっ……アルベリヒ、私にこんなことをさせるなんて」

アリサ
「シャロンッ!? そんなことを言っていて何で笑っているのっ!
 ちょ――やめ、そこは……あっ……」




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