(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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54話 西の戦場

 

 

 

 時間は《煌魔城》の出現の前に遡る。

 

「ふははははっ! 圧倒的ではないか我が軍は!」

 

 帝都西部に位置するリーヴス近郊の上空――《幻想要塞》から眼下の戦場を見下ろしたヴィルヘルム・バラッド侯爵は笑う。

 増産された五体の《ゴライアスβ》を地上に配置して守りを固め、《幻想要塞》に乗せた《機甲兵》に砲撃させるだけで精鋭と呼ばれていたはずの機甲師団は成すすべなく壊滅していく。

 それはノルティア州アイゼンガルド霊峰での戦いを彷彿とさせる一方的な戦場だった。

 

「《魔煌兵》も出すぞ! ここで奴等の反抗の意志を徹底的に粉砕するのだ!」

 

 バラッドの命令に応じて要塞の中にあった百体の《魔煌兵》が戦場に降り立つ。

 

「何と言う事だ……」

 

 あまりに一方的な戦況にミハイルは思わず悪態を吐く。

 手の届かない遥か高みから一方的に砲撃され続け、さらには《空中要塞》から降りて来る夥しい数の《魔煌兵》。

 《機甲兵》だけでも持て余していたのに、新たに増えた《魔煌兵》の軍団は正規軍に絶望を与える。

 

「くそっ……次から次へと……」

 

 正規軍も内戦が始まってから遊んでいたわけではない。

 これまでの兵器の概念を一新する《機甲兵》を多くの犠牲を払って戦い方を学んで来た。

 しかしそれにも限界はあり、またその学習を嘲笑うかのように新型が投入された。

 

「何が貴族だっ!」

 

 思わずミハイルは毒づく。

 貴族のイメージにあった潔い決闘という姿はこの戦場にはない。

 あるのは圧倒的な優位を維持して、遊び感覚で踏み散らかす暴力だけ。

 

「退くなっ! 何としてもここであの《空中要塞》を足止めするのだ! 奴等を中央に行かせてはならん!」

 

 軍人の意地を張り、ミハイルは激励を飛ばす。

 もはや防戦に徹することしかできないが、少しでも全滅までの時間を長引かせるのが己の役割だと割り切る。

 

「いよいよとなればこの身を使って一機でも――」

 

 行進してくる魔煌兵を睨み、悲壮な決意を固める。

 しかし、その決意は突如降り注いだ導力ミサイルの雨によって無駄に終わる。

 

「何だ!?」

 

 《魔煌兵》に降り注ぐ数えきれない導力ミサイルの雨が戦場を爆炎で包み込み、轟音を撒き散らす。

 

「何だ!? 何が起きてる!?」

 

 轟音に掻き消された言葉をもう一度叫び、ミハイルは報告を求める。

 

「て、敵《魔煌兵》の七割が喪失……未確認の飛行体……《空中要塞》に向かって行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

「オーバーブーストの残存導力残り一割……サブフライトシステムに切り替える」

 

 機体の後ろに設置した長大なプロペラントタンクを切り離す。

 オーバルギアの鎧を纏い、抉れた外壁の縁で長大な導力ライフルを構えて地上の的当てをしていた《機甲兵》達を飛び越えて“桃色の騎神”は滑るように《空中要塞》に着地する。

 

「これが貴族連合の兵士か……」

 

 突然乗り込んで来た《桃》に機甲兵達は一機も即応することはなかった。

 機体越しにも感じる彼らの狼狽え振り。

 よく見れば、その機体も上位機種の“シュピーゲル”ではあるものの、同じ姿のものは一つもない。

 家督を示すパーソナルカラーで塗装され、装甲には様々な意匠を施された彫刻や飾りが付けられている。

 それらの光景に《C》は空中要塞に陣取る者達がおおよそ何者なのか察する。

 

「悪いが、君達に上で騒がれるのは鬱陶しいのでね。排除させてもらう」

 

 戦場には似つかわしくない装いの機甲兵に《桃》は両手に装備したガトリング砲を構える。

 

「ひっ――」

 

「待て! 私は次期カイエン公となる――」

 

 彼らの悲鳴じみた命乞いはガトリング砲の咆哮によって掻き消される。

 両手の二連装ガトリング砲の計四つの砲門が火を噴き、まだ振り返る事もできていない《機甲兵》を右から左へと薙ぎ払う。

 降り注ぐ無数の弾丸は“シュピーゲル”のリアクティブアーマーの装甲を叩き、瞬く間に内包導力を削り、その防御力を無効化した上で華美な《機甲兵》を鉄くずへと変えて行く。

 

「それが貴族の姿か?」

 

 辛うじて生き残った“シュピーゲル”も周囲の導力戦車も蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑い、《桃》に向かって来る者はいない。

 

「所詮は遠くから撃つことしかできない臆病者か」

 

 呟きながら《桃》は振り返り、目前に迫った《魔煌兵》の剣をガトリング砲のシールドで受け止める。

 同時に足に増設されたコンテナから導力ミサイルを撃ち込んで撃破する。

 

「…………囲まれたか」

 

 逃げ惑う貴族達とは違い、いくつもの《魔煌兵》が彼らの指示とは別に緊急用の迎撃システムとして《桃》の排除に動き出す。

 それぞれが剣を槍を斧を持ち、袋叩きにせんと襲い掛かって来る《魔煌兵》に《桃》はガトリング砲を掃射してその機先を挫き、各パーツに増設されたコンテナの蓋を開く。

 肩に、腰に、足に増設されたコンテナの中には小型の導力ミサイルが限界まで詰め込まれた導力ミサイルが白い噴煙を吐き出し、一斉に撃ち出される。

 

「何だこれは!? 何なんだ!?」

 

 バラッド侯爵は目の前の光景に悲鳴を上げる。

 後方から導力ライフルで地上の敵を撃つだけの簡単な戦場だったはずだった。

 地上の正規軍を的に競い合っていた貴族達は今、競い合ってその場から逃げ惑う。

 

「ええい! 何をしているさっさとその痴れ者を排除しろ!」

 

 バラッドはアルベリヒから渡された宝珠に命令を叫ぶと、それに応じて壁だと思っていた扉が開いて新たな《魔煌兵》が《桃》に突撃し――ハチの巣にされる。

 

「ひぃっ!?」

 

 壁を穿つ弾丸の衝撃と降り注ぐ《魔煌兵》だった残骸にバラッドはその場に腰を抜かして悲鳴を上げる。

 雑な命令に雑な動きで従う《魔煌兵》など《桃》の敵ではなかった。

 硝煙弾雨が阿鼻叫喚の悲鳴を奏でる。

 

「向かって来る気概もないか……《魔煌兵》もこれでは彼女の防衛本能の方がマシか」

 

 肩透かしにあった気分で《C》はため息を吐く。

 そもそも遠くから銃を撃つだけで気分を良くして功績を誇っている相手に期待などするだけ無駄だった。

 そこにある機甲兵や導力戦車のほとんどを破壊して、《桃》は弾丸を撃ち尽くしたガトリングやミサイルコンテナを外す。

 幾分か軽くなった体を軽く震わせて、右手に剣の柄だけのグリップを持つ。

 

「フェンリル始動――」

 

 胸と腰に増設された装甲が開きブースターが駆動し、直結した剣の柄に霊力が集中する。

 発振体を起点に吹き荒れる導力の奔流が巨大な剣を形作る。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 雄々しい雄叫びを上げて《桃》は《空中庭園》から空へと身を投げ出す。

 そして巨大な導力の刃を《空中要塞》に突き立てて、身体ごと落下する動きに合わせて剣を振り下ろす。

 巨大な刃は《空中要塞》を深く抉り、そのエネルギーが要塞中を駆け巡って各所で爆発が起こり、高度を落して行く《空中要塞》を尻目に《桃》は地上へと降りる。

 

「あれが学生が造った《機神》なのか……《機甲兵》とはここまでできるものなのか……」

 

 わずか数分の間で遠目に見えていた《空中要塞》は炎上する様にミハイルは呆然とした言葉をもらす。

 地上に展開した貴族連合と正規軍が揃って墜落していく《空中要塞》に見入って立ち尽くす。

 唯一、残った《ゴライアスβ》が空から降りて来る《桃》を砲撃で迎え撃つが、一手早く撃ち込まれたスモークグレネードが戦場を煙で満たす。

 

「さて……」

 

 煙が充満する戦場の中に降り立ち、《C》はレーダーを頼りに動く。

 目指すは導力ミサイルと一緒に撃ち込んでおいた武装コンテナ。

 そこには剣や槍などを始め、導力マシンガンが詰め込まれており、《空中要塞》で使い切った武装の補給に臨む。

 

「良し……後は地上にいる正規軍に任せれば良いだろう。私たちは補給が済み次第、東に向かう」

 

『了解したわ。ただ今のところ、どこの戦場にも《金の神騎》は出て来ていないわ』

 

「そうか……」

 

 ミスティの報告を聞きながら《C》は装備コンテナに辿り着き、最後のスモークグレネードを周囲に撒き散らして武装を取り出して行く。

 実剣と槍を背中のバックパックに、双銃剣は太ももに、導力ショットガンは後ろ腰に装着。

 そして導力ライフルを両手に持ち、そこで《C》は眉を顰めた。

 

「…………ない」

 

 まだコンテナに残る武装に《C》は違和感を呟く。

 《C》はコンテナに積んだ武装の全てを記憶している。

 その中にあったはずの武器がない事を訝しみ――

 

「ねえ、もう補給はそれで良いの?」

 

 涼やかな少女の声が煙の中から響く。

 

「っ――」

 

 咄嗟に《C》は《桃》を後退させ、直後――

 

「零の型――《双影》」

 

 一陣の風が吹き、大地に突き立ったコンテナが音もなく斜めにずれ、滑り落ちた。

 

「うん……良い“太刀”だ」

 

 一閃の風により周囲の煙が晴れ、黒ゼムリアストーン製の太刀に見惚れるドラッケンがそこにいた。

 

「貴族連合の剣はどれもナマクラだったけど、この“太刀”は凄く良いなぁ」

 

 ドラッケンから聞こえて来る無邪気な少女の声。

 

「君は……何者だ?」

 

 コンテナの中にあったはずの“太刀”を持ったドラッケンに《C》は悪寒を感じながらも、それを隠して余裕を装って尋ねる。

 

「私は“猟兵”だよ」

 

 《C》の質問にドラッケンの少女は軽い調子で応える。

 

「二つ名もなければ、帝国では無名の雇われ兵士だよ」

 

「……その口振り、“共和国”の猟兵ということかな?」

 

「お? 良い“観”をしているね、お兄さん」

 

 《C》の指摘に少女は愉し気な声を返す。

 

「共和国の猟兵が何故、帝国の内戦にいるのか聞いても良いかな?」

 

 質問をしながら《C》はドラッケンを観察する。

 その機体は至って普通のドラッケンだった。

 違う点を敢えて上げるのならば、支給されるブレードや盾、導力ライフルなどの武装ではなくコンテナから盗み出した黒ゼムリアストーンの太刀を手にしている事。

 ただそれだけなのに《C》は喉元に刃を突き付けられた気になる。

 

「帝国が開発した既存兵器とは大きく異なる《機甲兵》は共和国の猟兵の中でも有名で注目されていてね……

 どんなものかなってちょっと遊びに――じゃなくて見極めに来たんだよ」

 

「君のような女の子が貴族連合に紛れ込むことができたものだね。ましてや《機甲兵》を任される程とは」

 

「そこは……ほら、親切な同僚が快く譲ってくれたんだよ」

 

 少しだけ言い淀んだ言葉に《C》は譲った猟兵の身に降り掛かった不幸に少しだけ同情する。

 

「しかし猟兵か……」

 

 声の質はかなり若い。

 もっともそれで侮ることはしない。

 Ⅶ組ではシャーリィやフィーが一流として軍人を凌駕する力を持っているだけに少女がそれを超える存在であったとしても《C》は驚かない。

 

「後は私自身の事情かな……ちょっと弟弟子にお遣いを頼まれちゃったんだよね」

 

「弟弟子?」

 

 少女から出て来た言葉を《C》は思わず聞き返す。

 だが少女は《C》の呟きを無視し、《桃色の機神》を観察していた目を細める。

 

「うん……いいね貴方……」

 

 途端少女からの威圧が増す。

 

「お遣いの合間のお遊びのつもりだったんだけど、《機甲兵》を使った戦闘……何よりもこの“太刀”の使い心地、試させてもらおうかな」

 

「やれやれ……《西風》以外にもこれ程の使い手が紛れていたとは」

 

 《C》は肩を竦めて巡り合わせの不幸を嘆く。

 目前に父との対決を控えていることを考えれば嘆かずにはいられない。

 

「ところで名前を聞いても良いかな?」

 

「悪いが今はお忍びでね。本名は明かせないので私のことは《C》と呼んでくれたまえ」

 

 少女の質問に《C》は素っ気なく答える。

 

「そういう君は?」

 

「奇遇だね。お忍びなのは私も一緒なんだ……だからここはあえて《S》と名乗っておこうかな」

 

 少女の名乗りに《C》は状況を忘れて笑いそうになる。

 だが、そんな《C》の事など気にせずドラッケンは黒の太刀を上段に構える。

 その姿に《C》は“鋼の聖女”と対峙するつもりで身構え、新たに装備した二つのアサルトライフルを突き出すように前へと向ける。

 

「フフ、いい気当たりだ……でも……」

 

 機械の体越しに感じる闘気に《S》は獰猛な笑みを浮かべつつ顔をしかめる。

 

「まあ良いか……それではいざ、尋常に勝負!」

 

 

 

 

 

 

 






いつものラスボス前の中ボス。
《C》の相手はは共和国の猟兵の《S》さんです。
共和国では帝国で使われている《機甲兵》の情報が回り始めており、各猟兵団は漠然とした情報の《機甲兵》がこれまで活躍していた《騎神》に匹敵するものなのか注目しています。
《S》は弟弟子のお願いもあり、単身で《機甲兵》を見極めるために帝国にやってきて、適当な猟兵団の部隊に潜り込んで《機甲兵》の操縦士を説得(拳)して譲っていただきました。

なお彼女の付き人は共和国で頭を抱えています。

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