(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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黎ⅡはPVで分かっていましたが、ループ系のバッドエンド量産みたいですね。
ケチをつけるわけではないですが、それって碧でやるべきストーリーシステムのような気がします。

キーアがズルと言っていたやり直しとどう差別するのか、それともみんなが渡った赤信号にしてクロスベルのズルを更に誤魔化すのか気になるところです。




62話 巨人戦

 

 

 

 

「ちぃっ! ちょこまかと!」

 

 帝都の空を二つの巨体が飛び回る。

 一つはかつてクロスベルの空の下でカルバード共和国の飛空艇部隊を単機で全滅させた《神機》。

 《紅のケストレル》という姿に改修された《神機》は《翠の機神》を追い回すようにレーザーを乱射する。

 

「くそっ……」

 

 《翠》はレーザーの合間を縫うように飛びながらガイウスは悪態をもらし、散漫な銃撃をして《翠》を加速させる。

 そして馬上戦の要領でガイウスは右手に握った十字槍をすれ違い様に一閃――だが《紅の神機》の装甲には傷一つ付かない。

 

「無駄だって言ってるのよ!」

 

 どれだけ攻撃を受けても《紅の神機》にはシュピーゲルの一部にだけ搭載されている《リアクティブアーマー》がある。

 導力が尽きない限り、どんな物理衝撃も導力魔法も寄せ付けない鉄壁の守り。

 

「いい加減堕ちなさいっ!」

 

 《紅の神機》は大きく旋回すると、腕に内蔵した導力砲を撃つ。

 直射砲は誘導追尾砲よりも回避は容易いものの、その威力は大気を焼いて風を巻き起こして軽い《翠》の機体は煽られるように態勢を崩す。

 その姿勢を戻し呼吸を整えながらガイウスは考える。

 

「あの装甲をどうにかしない限り、俺に勝ち目はないか」

 

 《紅の神機》と戦うのはこれが二度目となるが、改めて《神機》の性能の差を思い知る。

 特に《リアクティブアーマー》のせいで《翠》の攻撃は銃撃も槍撃も通用しない。

 それに加えて《紅の神機》は《機神》の倍に近い大きさを持っている。

 ガイウスにはどれだけの導力をため込んでいるのか皆目検討も付かない。

 もっともガイウスには分からない事だが、《紅の神機》はクロスベルのそれと同じく帝国と同化しつつある《蒼の騎神》のバックアップを受けているため、理論上は無限のエネルギーを内包しており、導力切れという概念はない。

 

「このまま続けてもいつか捉えられるか」

 

 機体の状況をガイウスは確認する。

 度重なる砲撃を回避しても、完全回避は難しく既に機体の損耗は二割に及んでいる。

 今はまだ飛行を続けていられるが、このまま消耗が続けば《翠》は飛ぶための翼を失い、後は嬲り殺しにされるだけなのは目に見えている。

 

「やはり賭けに出るしかないか」

 

 《リアクティブアーマー》の攻略法はアリサが分析して答えを出している。

 一つは導力が尽きる持久戦。

 もう一つは一度の出力限界を上回る破壊力で《リアクティブアーマー》の強度を突破すること。

 さらに上げるなら装甲のない関節部分やカメラ部分などをピンポイントで狙うことが効果的だが、ガイウスにはそこまでの精密な攻撃手段はない。

 

「《β》ライフルを換装、予備の槍を出してくれ」

 

『はーい』

 

 ガイウスの要求に戦術殻はティータの声で命令を実行する。

 左手に持っていた長距離ライフルは《匣》に格納されて、新たに現れたのは右手に持つ十字槍と同じ物が握られる。

 

「よし――」

 

 両手に槍という不格好を気にせず、ガイウスは《翠》を飛ばしながら呼吸を整える。

 

「何をしようと無駄なのよっ!」

 

 槍を両手に持ち、遠距離武装を捨てた《翠》に《紅の神機》はここぞとばかりに砲撃を連射する。

 翼から追尾のレーザーに、両手の内臓導力砲。

 夥しい光が《翠》に降り注ぐ中、ガイウスは焦らず己の内に力を溜めて解き放つ。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 全力を振り絞る様に闘気を迸らせ、漲る“力”は《機神》の胸をや各部の装甲を展開して増幅器が駆動し、それに合わせて《翠》の背中に黄金の紋章が浮かび上がる。

 次の瞬間、降り注ぐ無数の弾幕が《翠》を包み込み、相互干渉する形で爆発が連鎖して、帝都の空を埋め尽くす。

 

「フフフ……これまで散々邪魔をしてくれた報いよ」

 

 その光景にスカーレットはほくそ笑み、《紅の神機》は上空から堕ちて来た竜巻に囚われた。

 

「っ――つくづくしぶといわね!」

 

 空を埋め尽くす弾幕を抜けて《紅の神機》の頭上を取った《翠》は紋章と金色の光を纏い、右の槍から竜巻を繰り出して《紅の神機》を風の牢獄に捕らえた。

 

「ふんっ! それで動きを止めたつもりかしら? この程度の風、神機の力なら――」

 

「疾き風よ――唸れっ!」

 

 出力を上げて竜巻から逃れようとする《紅の神機》に《翠》は左の槍から新たな竜巻を放つ。

 

「っ――」

 

 二つの竜巻は一つとなり、《紅の神機》の拘束を強める。

 

「風よ――槍よ……俺に力を貸してくれ」

 

 祈る様にガイウスは念じ、二つの十字槍を合わせる。

 片方の槍は元々戦術殻が変形したもの、それが実体の十字槍を覆うように一つとなり《翠》の手には一回り巨大化した十字槍が生まれる。

 金色の紋章が翼のように広がり、《翠》は竜巻の中央に加速する。

 

「吼天カラミティランサーッ!」

 

 全身を黄金の槍にした突撃は竜巻の中を翔け抜ける。

 

「っ――舐めるなっ!」

 

 《紅の神機》から無数の刃が排出され、円を描いて《翠》を阻む結界《グラールスフィア》を展開する。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 黄金の槍と真紅の結界が激突し、眩い閃光が迸る。

 

「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 ガイウスの気迫の一押しに真紅の結界に亀裂が走る。

 

「っ――」

 

 それを見た瞬間、スカーレットは《紅の神機》を動かし――結界が崩壊する。

 結界を突き破った《翠》はそのまま突き進み、半身をずらした《紅の神機》の翼を一つ、突き破ってすれ違う。

 

「くっ――外されたか!」

 

 千載一遇の好機に致命傷を与えらなかったことをガイウスは歯噛みする。

 対するスカーレットは《紅の神機》の中で、傷付けられたことに苛立ち黒い瘴気を纏う。

 

「やってくれたわね雛鳥の分際でっ!」

 

 一つ翼を失ってもまだその飛翔力は健在な《紅の神機》は《翠》を振り返り、そして叫ぶ。

 

「行きなさいっ! インフィニティスパローッ!!」

 

 《紅の神機》を守った刃片が今度は《翠》を追い駆け、取り囲む。

 

「何を――ぐあっ!?」

 

 取り囲むだけで襲ってこない刃片を訝しんだところで背後に銃撃された衝撃を受けて《翠》は仰け反る。

 何が、と振り返ろうとするが、それより前に刃片が《翠》の前で止まる。

 

「っ――」

 

 二つの片刃、その中央に挟まれた銃口にガイウスは息を飲み、銃撃されて《翠》は仰け反る。

 そこに刃片が体当たりをするように《翠》の装甲を引き裂く。

 

「がっ!」

 

 後ろから前から、全方位から来る銃撃と剣撃にガイウスは《翠》の中で激しく揺さぶられる。

 

「くっ……」

 

 幸いなことに、銃剣の一撃はどちらも大きくはない。

 しかし、数は多くどこから来るか分からない。

 

「終わりよっ!」

 

 戸惑いその場に滞空する《翠》に《紅の神機》は死角から両手の導力砲を撃つ。

 

「しま――」

 

「ガイウス君、そのまま動かないでください」

 

 通信から聞こえた声に応える暇はなく、《翠》は爆炎に包まれ――

 

「砕けっ! 時の魔槍っ!」

 

 《匣》に守られた《翠》の周囲に“千の矢”が降り注ぎ、飛び回っていた刃は一つ残らず撃ち落とされる。

 

「――何だっ!?」

 

「どうやら間に合ったようだなガイウス」

 

 通信から聞こえて来たその声は先程とは別のもの。

 だが、ガイウスにはどちらも聞き覚えのある声だった。

 

「その声は……バルクホルン先生!?」

 

 立ち込める爆炎を吹き飛ばすように二つの飛行艇が帝都の空を舞う。

 既存の飛行艇とは造りの違う見慣れない船体には《05》と《08》の数字が描かれている。

 

「天の車《メルカバ》……どういうつもり!? 法国が帝国の戦いに介入すると言うの!?」

 

「どういうつもりも何も、アンタがそれを言うか?」

 

 スカーレットの叫びに独特な訛りがある青年が呆れた声を返す。

 

「オレはもうそれをやめたんやけど、言わせてもらうで元従騎士スカーレット」

 

 陽気な声でありながら、寒気を感じる冷たさを含む声が告げる。

 

「アンタを“外法”と認定する」

 

 

 

 

 

 

「はははっ!」

 

 ドライケルス広場において巨大な《黒の神機》がその巨腕を振り回す。

 

「っ――」

 

 《青》はその巨腕を戦術殻に取り込ませて内包、再現している“ガランシャール”で受け止める。

 

「俺がお前達に負けていたのは《ARCUS》のせいだ! 一人のお前が勝てるはずねえんだよ!」

 

「くっ……」

 

 殴られた衝撃を踏ん張って受け止めた《青》に《黒の神機》は両肩のガトリング砲を掃射する。

 《青》はその場に身を固めて防御の姿勢を取る。

 

「金剛っ!」

 

 ラウラの硬気功が《機甲兵》で言う所の《リアクティブアーマー》として同調している《青》に宿る。

 彼女の気力が続く限り、《機神》は砲弾さえ弾く防御力を得る。

 これを駆使して《青》は《黒の神機》を責め立てていたのだが、今は足を止めて防戦に徹していた。

 

「どうした!? 攻撃して来いよっ!」

 

 嘲笑を含めた挑発にラウラは眦を上げるが、堪える。

 その理由は背後の倒壊した建物にいた。

 

「ううう……こわいよおねえちゃん」

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」

 

 幼い姉妹が《青》の背後で砲撃や震動に身を寄せ合って震えている。

 《黒の神機》はその二人の姉妹を確認すると、あろうことか彼女達を巻き込むようにガトリング砲や導力ミサイルを乱射し始めた。

 弾丸やミサイルをその身で盾となり受け止めながらラウラは叫ぶ。

 

「貴様っ! それでも男か!? 猟兵の“流儀”はどうしたっ!?」

 

「はっ……何を言ってやがる。これが俺の――アマルガムの“流儀”って奴だ」

 

 ラウラの叫びをヴァルカンは笑みを持って答える。

 

「敵は一方的に効率よく安全に蹂躙して殺し尽くす! それが猟兵の戦い方って奴だ!」

 

「馬鹿な……」

 

 そのために女子供を人質にすることも厭わないヴァルカンにラウラは絶句する。

 フィーやシャーリィと交流して“猟兵”の戦い方は邪道であっても彼らなりの拘りという“流儀”があるのだと理解して受け入れることができた。

 だがヴァルカンの言う“流儀”は彼女たちのそれとは根底から異なる価値観のものだった。

 

「ははははっ! お前みたいな奴はどいつも同じだな! これ以上やり易い相手はいないぜ」

 

「っ……」

 

 まるで導力が無尽蔵にあると言わんばかりに《黒の神機》はガトリング砲を撃ち続ける。

 降り注ぐ弾丸を《青》はただひたすらに“ガランシャール”を盾にして耐える事しかできなかった。

 

「くはははははっ!」

 

 馬鹿のような笑い声にラウラは苛立つ。

 生まれてこの方、ここまで軽蔑できる敵に会ったことはないラウラは今すぐヴァルカンの首を斬り落としたい衝動に駆られる。

 だが、歯を食いしばってひたすらに耐える。

 一番良いのは幼い姉妹が自分達の足でこの場から逃げ出すことだが、幼い子供にそれを求めることはできない。

 

「貴様は“戦士”ではない! この卑怯者!」

 

「はっ……負け犬が吠えてやがる」

 

 ラウラの罵りをヴァルカンは鼻で笑う。

 

「くそ……」

 

 弾丸が装甲を穿つたびにラウラの気力が削られていく。

 このまま《黒の神機》の攻撃が続けば、程なくして力尽きてしまうのは目に見えている。

 そうなれば《青》は背後の子供達と共に《黒の神機》に蹂躙され尽くするだろう。

 

 ――ならば、見捨てるべきだろう――

 

「黙れ」

 

 戦況を冷静に分析している自分が誘惑を囁く。

 

 ――このままでは共倒れだ。ならばいっそう仇を取ると誓って戦った方がマシなはずだ――

 

「黙れ! 黙れ!」

 

 ――ならばこの場で無駄死にする気か? お前はクリスに任せろと言ったはずだ――

 

「それでも――」

 

 曲げられない一線があるのだとラウラはどれだけの銃弾を浴びても、膝を折らずに立ち続ける。

 

「ふっ……そろそろ終わりにしてやるぜ」

 

 散々痛めつけて溜飲を下げたヴァルカンは戦闘を切り上げるように《黒の神機》を変形させる。

 上半身を折る様に前のめりにして肩のガトリング砲を回転させて入れ替える。

 《黒の神機》のフェンリルが唸りを上げ、突き付けた砲門に光が宿る。

 

「っ――」

 

 それがどれ程の攻撃なのかはラウラには分からない。

 だが、尋常でない“力”が集束しているのだけは理解できた。

 そして今のラウラの体力の《金剛》では受け止め切れないと言う事も同時に理解する。

 

「命乞いをするなら今の内だぞ」

 

「誰が貴様のような男にそのようなことをするか!」

 

 ラウラは咆えて、体中の力を振り絞り《金剛》で身を固める。

 

「はっ! じゃあ死ねよっ!」

 

 二つの砲門の光が臨界に達するように輝きを放つ。

 それをラウラは真っ直ぐに睨みつけ――狼狽えたような声を上げた。

 

「待て……」

 

「はっ! 今更遅いんだよ!」

 

 前言を撤回するようなラウラの制止を嘲笑って《黒の神機》は二つの大砲の引き金を――

 

「それはあまりにも無謀だ二人とも!」

 

「「鳳凰双烈波っ!」」

 

 ラウラの叫びと同時に二人の女性が《黒の神機》の左右から身体を駆け上って焔を纏った棒と太刀の渾身の一撃を突き出したそれぞれの大砲の横腹に叩き込む。

 

「何っ!?」

 

 思いがけない衝撃に《黒の神機》はたたらを踏み、バスターキャノンの砲撃は《青》から逸れて帝都の街に一条の傷を刻む。

 

「っ~~~~~~っ!」

 

「いったああああっ!」

 

 硬い鉄を全力で殴り、斬りつけた衝撃にエステルとアネラスは手を痺れさせる。

 

「御二人とも……」

 

 サラからもしもの時のために、秘密裏に帝都に遊撃士を潜入させていたことはラウラも聞いている。

 だが市民の避難誘導に徹していると思っていただけに、《機神》の戦いに生身で介入して来たことにラウラはただ驚く。

 

「久しぶりねラウラちゃん」

 

「…………アネラスさん」

 

 痺れる手を振って誤魔化して笑顔を向けて来るアネラスにラウラは言い様のない安心感を覚える。

 

「もう大丈夫だよ。子供達はヨシュアが安全な場所に避難させているから」

 

 続くエステルの言葉にラウラは《青》を振り向かせれば、蹲っていた子供たちはいなかった。

 

「そうか……守り切れたのか……」

 

 安堵すると一気にラウラの身体に疲労が現れて《青》はその場に膝を着く。

 

「ラウラちゃんはそこで休んでいて、こいつの相手は私達がするよ」

 

「アネラスさん、それは無茶だ」

 

 《機神》よりも倍の大きさを持つ《黒の神機》に生身で挑もうとしている二人にラウラは耳を疑う。

 

「大丈夫よ。こういうデカブツの相手は初めてじゃないんだから」

 

「ですが――」

 

 棒を構えるエステルにラウラが言葉を掛けようとして――

 

「あら……《パテル=マテル》をあんなお人形さんと一緒にするなんて、エステルでも許さないわよ」

 

「へ……?」

 

「この声は……」

 

 息巻くエステルとアネラスは突然聞こえて来た幼い声に虚を突かれて周囲を見回した。

 そしてそれは頭上から降って来た。

 

「《パテル=マテル》はそのお人形さんより遥かに格好よくて、アタマがよくて、頼りになるんだから」

 

 新たに現れた《巨人》の掌でスミレ色の髪の女の子がクスクスと笑う。

 

「れれれ……レンッ!」

 

「レンちゃん!? どうしてここに!?」

 

「さあ、何でかしらね」

 

 驚くエステルとアネラスにレンは小悪魔的な笑みを浮かべてはぐらかす。

 

「ちっ……やりやがったな!」

 

 突然の遊撃士の乱入と新たな《赤い巨人》の登場に楽しみを邪魔されたヴァルカンは声を苛立たせる。

 

「ガキ共には逃げられたか……まあ良い」

 

 利用していた子供を逃がされたがヴァルカンに危機感はない。

 元々普通に戦っていても《蒼》から“力”を供給され続けている《黒の神機》が負ける道理はない。

 人質を利用したのはあくまで楽に敵を蹂躙するため、自分が優位であることは変わらない。

 それによく見れば増えたのは女子供ばかり、むしろ蹂躙できる相手が増えたことにヴァルカンはほくそ笑む。

 

「ふん、そんな型遅れの機体でこの《ゴライアス・アイオーン》に勝てると本気で思っているのかよ!」

 

 《神機》とは一回り小さく、武装も貧弱な《パテル=マテル》をヴァルカンは見下し、《黒の神機》に拳を振るわせる。

 

「パテル=マテルッ!」

 

 レンは《パテル=マテル》の掌から地上へ飛び降りて叫ぶ。

 《パテル=マテル》はレンの意思を受け取り、電子音で応えながら《黒の神機》の拳を掻い潜って鉄の拳を《黒の神気》の胸に叩き込む。

 その衝撃に《黒の神機》は大きく後退った。

 

「何だとっ!?」

 

 見た目の鈍重さに似つかわしくない動きにヴァルカンは驚くが、《リアクティブアーマー》の強度の規定値を超えていないことに安堵する。

 

「デストラクタキャノンッ!」

 

 仕返しだと言わんばかりに《黒の神機》は肩の導力砲を撃つ。

 

「エニグマ駆動――」

 

 その砲撃はレンが張った導力魔法の障壁に受け止められる。

 

「ああもう! レン無茶しないでっ!」

 

 《パテル=マテル》を主軸に戦闘を始めたレンを追い駆けてエステルが走る。

 

「ラウラちゃんはそこで休んでいて」

 

 アネラスは一度《青》を振り返る。

 

「…………いえ、これは帝国の戦い。レンやエステルさん達に頼り切るわけにはいきません」

 

 ラウラは立ち上がろうとして、《青》よりも自分の体の膝が笑っていることに気付く。

 

「その様子じゃ無理だよ。だから――」

 

「五分、いえ、三分時間をください。それで回復させます」

 

「ラウラちゃん?」

 

「フェンリル駆動――」

 

 訝しむアネラスに説明するよりもラウラは《青の機神》の機能を作動させる。

 胸や機体の各所が開き、増幅器の役割を持つオーブメントが周囲の導力をかき集める。

 

「――集気――」

 

 人で言う所の“外気功”による回復術。

 周囲の“氣”を取り込み、自分の“力”に変換する。

 《青の機神》は極限まで《ARCUS》の同調率を上げているため、導力の回復は搭乗者の回復にもなる《青》の奥の手。

 

「…………分かった。でも無理はしないでちゃんと回復してきてね」

 

 《青》に力が戻る気配を感じ取ってアネラスは半端な状態で来るなと告げて、戦場に向かって駆け出した。

 

「やはり使うしかないか……」

 

 その背を見送りながらラウラは別の決意を考えて、懐から《銀耀石》を砕いた粉を詰めた試験管を取り出す。

 恥じるべき行動はなかったと思うのだが、何故自分には圧倒的な力がないのかと無力さを悔やむ。

 

「“力”……そう言えば何故私は《金剛》や《外気功》を知っている?」

 

 どちらもアルゼイド流にはない技なのに、当たり前のように覚えていて使っている自分に首を傾げる。

 そして今握っているエマに調合してもらった《薬》を使う奥の手も本来の自分ならあり得ない邪道の技。

 

「何故……私は……これを……」

 

 《薬》を握り締めてラウラは思い出せない何かに戦場であることを忘れて困惑した。

 

 

 

 

 

 

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