(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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64話 諍い人

 

 

 

「これがお前が言っていた後始末なのか!? クロウ!」

 

 《蒼黒き獣》の爪を右腕で受け止めながらセドリックは叫ぶ。

 

「ガアアアアアアッ!」

 

 答えは咆哮。

 

「無駄よ! 完全に《呪い》に呑み込まれてるわ」

 

 クロウに代わってセリーヌが彼の状態を告げる。

 

「邪魔ヲスルナアアアアアッ!」

 

「っ――――ふざけるなっ!」

 

 激昂に合わせて《緋》は拳を振り抜き《獣》の拳を弾き、そのままその顔面を殴る。

 

「いつまでお前は被害者のつもりでいるつもりだ!」

 

 《パンタグリュエル》で義理や惰性で内戦に参加していたクロウは《魔煌兵》を通して知ったオズボーンの生存が彼の復讐心を再燃させている。

 その活き活きとした様子にセドリックは苛立ちを大きくする。

 

「貴方達のせいで帝都がこんなになっているのに何様のつもりだっ!」

 

「ウガアアアアッ!!」

 

 セドリックの言葉を無視して《獣》は咆えて《緋》を殴り返す。

 

「くっ――」

 

 右腕で受け止めた《緋》はそのあまりの衝撃に脚が床を削り後ろに押し出される。

 

「――凄いパワーだけど、これくらいならまだいける」

 

「グルルルルッ――」

 

 《獣》は唸り、《蒼の翼》を大きく広げるとその翼の先を鋭い剣に変える。

 

「……ますます獣染みて来たな」

 

 両手の爪と四つの刃が増え、《獣》は強くその場を踏みしめ――まだ《蒼》の名残が残っている顔の口の部分が横に割けた。

 

「――えっ?」

 

 次の瞬間、その口から光の砲撃が放たれる。

 

「何だそれっ!?」

 

 完全な不意打ちにセドリックは目を剥いて――

 

「ゼロ・フィールドッ!」

 

 《灰》が杖を翳して展開した絶対障壁が野太い光の砲撃から《緋》を守る。

 

「ありがとうっ! キーア! それにしても《騎神》はあんなことまでできるのか!?」

 

 感謝を叫びながら、セドリックは戦車砲に匹敵する攻撃に戦慄する。

 

「二度は撃たせないっ!」

 

 その場に留まり、次弾を撃つ溜めを行う《獣》に《緋》は両手に剣を錬成して斬りかかる。

 《獣》は正面から振り下ろされた剣を素手で受け止める。

 両手で刃を握り締め《緋》の動きを止めると背中の刃翼が法剣の剣のように伸びてその切先が四方から《緋》に迫る。

 

「ちょ! どうするのよっ!?」

 

 セリーヌの叫びに答えるより早く《緋》は掴まれた二つの剣を手放して自由を得て、法刃を掻い潜る様に《獣》の横をすり抜ける。

 

「そこっ!」

 

 振り返る瞬間に《緋》は新たな剣をその手に生み出して《獣》の背中を薙ぐ。

 前のめりになった《獣》は振り返り様に四つの法刃を薙ぎ払う。

 

「楯っ!」

 

 咄嗟に楯を作り出す。だがまるで紙を引き裂くように法刃は楯を切り裂いて《緋》に迫り、《灰》が展開する絶対障壁に阻まれる。

 

「その程度かっ!」

 

 《灰》の防御に任せて《緋》は《獣》に肉薄して剣を振るう。

 

「その程度なのかっ! クロウ・アームブラストッ!」

 

 獣に堕ちてしまったとは言え、互角に戦えていることにセドリックは憤りを感じて叫ぶ。

 パワーもスピードも防御力、攻撃手段の多さも元の《蒼》と比べものにならないくらいに上がっている。

 なのに手応えは以前に戦った時よりも劣っているように感じてしまう。

 

「本当にそこまで堕ちたのか! 答えろっ!」

 

 決して余裕があるわけではない。

 《獣》が繰り出す攻撃は全てが致命になりかねない威力を秘めている。

 《灰》の防御支援があってこそ、一方的に攻めていられるが実際はそこまで優勢というわけではない。

 

「無駄だよクリス……その人の“心”はもうそこにはないよ」

 

 セドリックの叫びにキーアが答えを返した。

 

「それはどういう意味だい?」

 

 《獣》の攻撃を捌き前を向きながらセドリックは聞き返す。

 

「沢山の人の“想念”に埋もれて、もうその人の“心”はここにあるけど、ここにいない」

 

 《識》の目で見えたままを告げるキーアは“クロウ・アームブラスト”に複雑な思いを馳せる。

 

「この人はキーアと同じ……

 オルディーネの中にいる亡くなった友達の“想念”が多過ぎて、もう自分では何かを決められなくなっている」

 

「“友達”の想念?」

 

「うん……クロスベルの通商会議で襲って来た人達とか……

 その時のガレリア要塞で戦っていた人、あと何処かの鉱山で戦った時に死んだ人達とか、とにかく沢山の人の“想念”がその人を縛ってるの」

 

 キーアは《識》たままを言葉にし、それに合点がいったとセリーヌが頷いた。

 

「なるほど、そう言う事だったのね」

 

「っ――したり顔で頷いていないでちゃんと説明してくれっ!」

 

『そーだそーだ!』

 

 一匹で納得しているセリーヌにセドリックとミリアムは抗議する。

 

「別に大したことじゃないわよ……

 帝国解放戦線がどうして死ぬことを畏れずに、玉砕していたのか……死んでもオルディーネに“想念”を喰わせるように契約をしていたんでしょうね……

 ようするにあんたがケルディックでやったことと同じ事をして、呑み込まれたのよ」

 

「…………そう言う事か」

 

 キーアの言葉を解説されて、この目の前の《獣》の正体をセドリックは理解する。

 死者の想念により突き動かされたオズボーンに復讐をするためだけの魂まで束縛された存在。

 それが帝国解放戦線の《C》の正体であり、今の《獣》の姿はそれの成れの果て。

 

「僕も一歩間違えていればこんな風になっていたのか」

 

 死者の想念に縛られ、突き動かされるだけの人形。

 それが今の《蒼黒き獣》を操る起動者の正体。

 荒れ狂う想念に飲まれかけたことがあるだけに、クロウに同情はしないが複雑なものを感じてしまう。

 いつから突き動かされていたのか。

 それが分かった所で彼の罪が消えるわけではないが、セドリックも道半ばで膝を着くことがあれば内に秘めた想念により自我を縛られることになるのだろう。

 

「――――鎖よ」

 

 《緋》は宙空に鎖を錬成すると《獣》の突撃を受け止める。

 

「ブリランテッ!」

 

 続けて炎の大剣を作り出し、勢いを止めた《獣》に《緋》は斬りかかる。

 

「ガアアアアアアアッ!」

 

 《獣》は両腕を前にもがき――その腕の装甲がスライドして銃口が覗いた。

 

「はあっ!?」

 

 両腕に仕込まれた導力兵器に《緋》は慌てて止まり、ガトリング砲の掃射に大剣を盾にする。

 

「クリスッ!」

 

 大剣に身を隠す《緋》の左右に魔法陣が突如展開する。

 《獣》は《緋》への連射を止め、《緋》を挟む魔法陣と同じものに左右の魔法陣に撃ち込む。

 

「がっ!?」

 

 魔法陣を通して弾丸が《緋》に降り注ぐ。

 怯み、その場から後退る《緋》に《獣》は力任せに鎖を引きちぎり、黒い瘴気を纏う両腕を振り抜く。

 十字の剣閃が放たれ《緋》に迫り――

 

「――させないっ!」

 

 《灰》が緋色のトンファーを両手に構えて剣閃を受け止める。

 

「キーアッ!」

 

「――っだいじょうぶ……大丈夫だけど……」

 

 重い剣圧を《灰》はトンファーを半壊させながら弾き、追撃に襲い掛かる《獣》を抜刀で迎え撃つ。

 

「二の型――《疾風》!」

 

「メルトスライサー!」

 

 《灰》と《緋》が瞬速の剣で駆け抜けて《獣》の両腕が飛ぶ。

 

「やったか!?」

 

 振り返った《緋》が見たのは斬り飛ばした両腕が切断面から生えた結晶に覆われて、復元された《獣》の姿だった。

 

「機体の再生……まさか《蒼》も使えるなんて!」

 

 驚くセドリックに対し、《獣》は怒りの咆哮を上げる。

 

「ヴォオオオオオオヲヲヲンンンン!!!」

 

「なんだ――!?」

 

 先程までとは違う咆哮にセドリックは警戒をして――《緋》は《灰》に突き飛ばされた。

 

「キーアッ?」

 

 次の瞬間、足元から蒼い稲妻が《灰》を捉えてその動きを縛りつける。

 

「――うぐっ……」

 

 そして四つの魔法陣が取り囲むとそこから四つ法刃が《灰》を貫いた。

 

「キーアッ!?」

 

 貫かれた刃が抜かれる際に《灰》の腕はもがれ、脚は削られ、胴が抉られ、首が千切れる。

 《騎神》越しでも致命傷になりかねない激しい損傷にセドリックは目を見開き。

 

「……だい……じょうぶ……」

 

『規定範囲を超える損傷を確認――《金のオーブ》によるオートリペア起動』

 

 キーアの苦しみが混じった返事と《灰》の機械的な言葉が重なり、傷付いた《灰》は先程の《獣》と同じようにゼムリアストーンの結晶に包まれて――完全修復された形で蘇る。

 

「くっ………《グラン=シャリネ》十本分の値段のオーブが」

 

「えっと……本当にロイド達に請求しないよね? ルーファスの冗談だよね?」

 

「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!」

 

 致命の一撃をやり過ごせたことに安堵しながらも別のことを気にするセドリックとキーアにセリーヌが叫ぶ。

 《金のオーブ》。

 《エル=プラドー》の力で元は起動者の保護を目的としたオーブに改良を加え、およそ500万ミラ分のセピスのエネルギーを内包させた使い捨ての回復アイテム。

 《零のオーブ》や《緋のオーブ》の代わりに提供されたものの、その製法から一つしか用意できなかった身代わりアイテム。

 《緋》にではなく《灰》に設置して正解だったと安堵しながらも、《緋》は改めて《獣》に向き直る。

 

「こいつはもう何をしてくるか分かったものじゃない。一撃で“核”まで吹き飛ばす技で一気に蹴りをつけるべきだ」

 

 戦後処理を考えれば死体でもクロウの遺体はあった方が良いと言われていたが、そんなことを気にしている余裕はない。

 時間を掛ければ掛ける程、《獣》はこの戦いの中で進化して、その戦い方を最適化していく。

 

「それは良いけど、当てはあるの? 《緋》も《灰》も一撃の威力がある技はないわよ」

 

「聖痕砲がある」

 

 セリーヌの問いにセドリックは右腕に視線を落として答える。

 

「問題はどうやって溜めて当てるかだけど……」

 

 今の《獣》に一騎で挑むことは無謀。

 更に言えば足を止めれば転移で攻撃を飛ばして来る危険もある。

 

「仕方がない――キーア、使わせてもらうよ」

 

「うん、気をつけてね」

 

 それを使う事を決めたセドリックは剣をその場に手放す。

 その剣が床に跳ねるより早く、黒い球体に包み込まれて《緋》は《獣》の視界から消えた。

 

「グル――ッ!?」

 

 次の瞬間、《獣》は背後から《緋》に殴られた。

 たたらを踏んで振り返った《獣》は右腕で剣閃を飛ばすと同時に右の翼の法剣を薙ぎ払う。

 三つの刃に《緋》は反応せず命中する――寸前、再び黒い球体に包まれて姿を消し――三つの斬撃は空振る。

 

「はあっ!」

 

 頭上に現れた《緋》は両手を合わせて《獣》の頭に叩き落とす。

 脳天の一撃が響いたのか、《獣》は後退りながら頭を振る。

 

『いけーやっちゃえクリス!』

 

 ミリアムの声援に後押しされる形で《緋》は《獣》に殴りかかる。

 《金》に搭載した《零のオーブ》の力が“識”ならば、《緋》に搭載した《零のオーブ》の力は“次元跳躍”。

 ただし、それを使用する場合は“千の武具”が使えなくなるほどに燃費が悪い。

 もっともそれだけの価値はあり、次元跳躍を連続して行う《緋》に《獣》は翻弄される。

 

「くぅ――」

 

 もっともセドリックには《獣》を圧倒しているという余裕はない。

 “千の武具”を使うのとはまるで違う術理に頭が沸騰しそうになる。

 しかしそれでもそれを使い続ける。

 

「ガアアッ!」

 

 《獣》の爪を右腕で受け止める。

 畳み掛けるように法刃を飛ばす《獣》の背後を取り――それを狙って法刃が軌道を変えて《緋》を追い駆ける。

 しかし、出現と同時に《緋》は再び黒い球体に消えて、《獣》の正面に戻る。

 

「歯を食い縛れクロウッ!」

 

 腰溜めに拳を構えてセドリックは叫ぶ。

 右手の《アガートラム》の拳を握り込み、自分のこれまでを走馬灯のように振り返りながらセドリックは渾身の一打を《獣》の顔に捉えて叫ぶ。

 

「破甲拳っ!」

 

 首を折り砕く勢いで叩き込んだ一撃に《獣》は吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

「キーアッ!」

 

 セドリックは叫ぶと同時に《緋》を再び跳躍させて《灰》の隣に立つ。

 

「うん――霊子変換、オーバルスタッフをガンナーモード――《アンスルト》に移行――」

 

 魔導の杖を長大なライフルに変えて《灰》は構える。

 

「フェンリルに接続、オーバルエネルギー充填――」

 

「我が深淵にて閃く緋の刻印よ――」

 

 《灰》の各所から増幅器が駆動して、ライフルに直接エネルギーを供給する。

 そのライフルに《緋》は右腕で触れて、《鬼気》で更に強化しながら《疑似聖痕》の力と“劫炎の弾丸”を装填する。

 

「40……80……出力120%っ!」

 

「天に昇りて、煉獄を焼き払う劫焔の柱と化せ」

 

 《緋》の力で錬成されたライフルは過剰に供給される“力”に亀裂を走らせる。

 それに構わずキーアとセドリックは声を合わせて叫ぶ。 

 

『メギデルスバスターッ!!』

 

 極大の砲撃が発射される。 

 首を修復して立ち上がった《獣》が見たのは光の壁とも言える砲撃。

 喰らえば死ぬ。

 そう予感しながら、逃げ場のない砲撃に《獣》は両手を前に突き出して光を受け止める。

 

「ガアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 両手が焼ける。

 迫り来る死に諍う様に《獣》は死に物狂いに抵抗し――その背に《金色の紋章》が浮かび上がる。

 

「何だ!?」

 

「あれは……」

 

 そして、次の瞬間《緋》と《灰》は撃ち返された“金色の光”に呑み込まれた。

 

 

 

 

 赤いアラートが艦橋を染める中、壮年ながらもたくましい体つきの男は背中に“金色の光”を宿す。

 

「守護騎士第八位《吼天獅子》が命ずる……《聖痕砲》メギデルス――展開っ!」

 

 メルカバの機首を中心に金色の紋章が浮かび上がり、機体の全導力が収束されて《聖痕砲》が発射される。

 

「想念砲――オル・バスターッ!」

 

 対する《紅の神機》は変形して“想念”を乗せた主砲を放つ。

 二つの主砲がぶつかり合い、“聖痕”の力とスカーレットの“想念”が絡み合い、鬩ぎ合い――

 

『ああ……それを待っていた……』

 

 メルカバに悍ましい声が響く。

 

「何だ――むうっ!?」

 

 艦長席に立っていた《吼天獅子》グンター・バルクホルンは次の瞬間、《黒い瘴気》に束縛されていた。

 

『寄こせ……寄こせ……全ては吾のものだ……』

 

「これは……」

 

 自分の中に触れる悍ましい感触。

 そしてそれは本来なら何人にも干渉できない“聖痕”に触れられたことにバルクホルンは戦慄する。

 

「――――ガアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 黒き呪いによって浸食されたバルクホルンに抵抗する術はなく、ただ悲鳴を上げる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

「返せっ! それは! その剣はっ!」

 

 激情した《青》の突撃に《黒の神機》は奪った大剣――《ガランシャール》を一閃する。

 

「がっ!」

 

「クハハハッ! アルゼイド流とやらも大したことねえな!」

 

 良い感じの大剣の調子にヴァルカンが声を上げて笑う。

 

「それじゃあ――これで終いだっ!」

 

 そして大剣を容赦なく、地面に倒れたスミレ色の髪の少女に振り下ろされる。

 だがそれが届く寸前、各所の装甲が剥がれ落ちた《パテル=マテル》が《黒の神機》に体当たりをしてその軌道を無理矢理逸らす。

 

「きゃあっ!」

 

 剣がレンの横を抉り、颶風を撒き散らす。

 

「ちぃっ! しぶといんだよ!」

 

 まだ動く巨人にヴァルカンは苛立ち、大剣で薙ぎ払おうとする。

 だが、《パテル=マテル》の腕は《黒の神機》の身体をフルパワーで抱え、ブースターを点火する。

 

「え――」

 

 電子音で《パテル=マテル》はレンに話しかける。

 

「《パテル=マテル》……な、なにを言ってるの……? ダメよ……ダメに決まってるじゃない!」

 

 《パテル=マテル》はレンの制止を振り切ってブースターを臨界突破させて《黒の神機》を空へと持ち上げていく。

 

「こいつ――まさか自爆する気か!?」

 

 狼狽して《黒の神機》は剣を持たない手で《パテル=マテル》を殴りつけるが、その腕は剥がれず空へと急上昇して――

 

「死ぬなら一人で死んでろ!」

 

 《黒の神機》はガランシャールを《パテル=マテル》を脇下から突き立てた。

 そして――

 

「ウオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 黒い闘気を機体に漲らせた《黒の神機》は《パテル=マテル》の腕を力任せにこじ開ける。

 

「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 獣のような雄叫びを上げ、《黒の神機》もまたブースターを全開にしてその場に旋回し、《パテル=マテル》を投げ飛ばされる。

 そして――

 

 

 

 

「ああ……やはりこうなってしまったか……」

 

 ギリアス・オズボーンは機甲兵の中で落胆していた。

 

『さあ、今こそ吾を呼ぶが良い。ギリアス』

 

 昏く悍ましい声がようやくオズボーンに掛けられる。

 それは全て《黒》の思惑通りに進んだという事に他ならない。

 《蒼》に《緋》と《灰》は倒れ、他の戦場ももはや決した。

 後は劇的に《黒の騎神》を呼び、全てを自分が倒してしまえばこの内戦は終結する。

 

『どうした? 早く吾を呼ぶが良い』

 

 急かす言葉にオズボーンは諦観の嘆きのため息を吐き――心を鋼に固めて叫ぶ。

 

「来るが良い――っ!?」

 

 その瞬間、何かを感じてオズボーンは言葉を止めた。

 

『何を――』

 

「あれは……何だ……?」

 

 空を見上げたオズボーンはそれを見た。

 

 

 

 

 

 

 巨大なアビスワームから解放されながらも墜落した《カレイジャス》の甲板の先に彼らはいた。

 一人はゲオルグ・ワイスマン。

 一人は白銀の長い髪を持つ女剣士。

 一人は怪盗紳士ブルブラン。

 呆然と膝を着いているオリヴァルト達を背に、彼らは一様に船首に佇むぬいぐるみ、みっしぃとその左右に浮かぶ二つの人形に視線を集中させていた。

 

「“空”のサクラメントプログラムを起動――」

 

 何かを振り払うように黒髪の人形リンは叫び、目の前に浮かぶ古い銀時計のような“導力器”と一つの宝石に手をかざす。

 

「“ゲネシス”を掌握――“八耀石”から“八耀”を観測……補足――」

 

 リンの言葉を受け取り、彼女もまた振り払うように叫ぶ。

 

「“焔”と“大地”のサクラメントプログラム起動――■■■の魂と魄を分離っ!」

 

 びくりとみっしぃの体が跳ねるが、反応はそれだけ。

 その事にノイは目を伏せ、続ける。

 

「シャード接続――固定――」

 

 ノイの叫びに応じて黒い霊子がみっしぃを中心に渦巻く。

 

「シャード同調――固定――」

 

 リンの叫びに応じて白い霊子がみっしぃを中心に渦巻く。

 

「鬼気浸食――」

 

「神気解放――」

 

 黒と白の霊子は螺旋を描くように混ざり合い、みっしぃへと集束していく。

 そのあまりの“力”にぬいぐるみの身体は瞬く間に崩壊し、その中のクォーツだけになる。

 クォーツを覆う《黒》と《白》は膨張して人の姿を形作る。

 

「“世界”を纏え――テイク・ジ・エレボニウスッ!」

 

「夢を――“悪夢”を払え――ブート・ザ・ルシファリア」

 

 二人の言葉を合図に《黒》と《白》は混じり合い、一つになって光を溢れさせる。

 そして――目が眩む閃光の中で少年は叫ぶ。

 

「来いっ! 《零の騎神》ゾア・ギルスティンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






NG

とある手記より
「どうか《オクト=ゲネシス》を120*年までに超帝国人から取り戻して欲しい……
 さもなければ全てが――黎の軌跡の全てが終わってしまう」

アニエス
「……超帝国人? 黎の軌跡?」

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