(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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二人の緋皇、完結が目前になったので以前限定公開していた閃の軌跡Ⅲのプロットである―夢であるように―を通常投稿に変更しました。

向こうにも書いてありますが、あれは半年前に書いた導入なので本連載の時には予告なく変更することがありますので御了承ください。





68話 復讐の結末

 

 

 

 

「はあ……はぁ……はぁ……」

 

 狭い《騎神》の操縦席でセドリックは荒くなった呼吸を整える。

 法剣で顔を抉られた影響からなのか、視界が狭い。

 掲げられるように剣で串刺しにされた《蒼》から三つの光が飛び出して、ドライケルス広場だった廃墟に三つの巨大な戦術殻が現れる。

 それらは取り込んでいたヴァルカンとスカーレット、そしてクロワールを排出すると空気に溶けるように消えてしまう。

 そして最後に《蒼の騎神》からクロウが排出される。

 

「…………行かなきゃ……」

 

 それを見てセドリックはいつの間にか流れていた血涙と鼻血を乱暴に拭って《緋》から降りようと――

 

「やめておきなさい」

 

 セリーヌがそれを止める。

 

「あんたはそのまま意識を落しなさい。霊力が枯渇している上に《テスタ=ロッサ》と同調し過ぎてこれ以上動いたら死ぬわよ」

 

「でも……」

 

 セリーヌの忠告にセドリックは虚ろな返事を返す。

 

「まだクロウは……」

 

 《蒼》の損傷を四人で合一していたおかげなのか、クロウを含めた四人は誰も死んでいないと《緋》の目は判別している。

 

「後はあんたの兄や鉄血宰相に任せなさい」

 

「…………そうだね……最後くらい……兄上達に譲って上げないと……」

 

 言葉の途中でセドリックはがくりと頭を落した。

 それに伴って《緋》の操縦席の光が暗くなる。

 《緋》は掲げた《蒼》を脇に降ろして膝を着き、体中の至る所から蒸気を吹き出した。

 

「これより休眠状態に移行する」

 

「ええ、お疲れ様《テスタ=ロッサ》」

 

 当然の《緋》の言葉にセリーヌはセドリックの代わりに労う。

 

『僕ももう限界かも……ふあ……』

 

 あくびをする気配を操縦席に響かせて、《緋》の右腕となっていた《アガートラム》は分離して寝入ってしまったミリアムを抱えて地上に降り立つ。

 

「…………やれやれ……とんでもない戦いだったわね」

 

 激闘と呼ぶに相応しい戦いの渦中にいたセリーヌはホッと胸を撫で下ろしながら、肉球で操作パネルに触れる。

 霊力が枯渇している《緋》ではセドリックの生命維持に支障が出るかもしれない。

 

「誰でも良いから戦術リンクを結ばせて少しでも霊力を回復させないと……」

 

 《金》は遠くに、《灰》は近くにいてこちらに向かってきている。

 しかし操作盤のリストの中には《零の騎神》の存在はなかった。

 

 

 

 

 

「くっ……そ……何で……」

 

 《蒼》越しに貫かれた胸の痛みを感じながらクロウは悪態をもらす。

 フィードバックされた体への負担は四等分されたことで致命傷を免れたが、一命を取り留めただけで息をするのも億劫な虚脱感が体を支配していた。

 

「アームブラストも浮かばれぬな」

 

 地に這いつくばりもがくクロウの頭上から忘れもしない声が投げかけられた。

 息を飲んで体中の力を絞り出すように顔を上げれば、そこには祖父をはめた仇の男、自分が狙撃して殺したはずの帝国宰相ギリアス・オズボーンが数多の兵を背後に立っていた。

 

「お前……どうして生きて……」

 

「さて、影武者がいたのか、それとも見間違いだったのか……それは今、問題ではあるまい?」

 

 クロウの問い掛けをはぐらかしてギリアスはクロウを、ヴァルカンを、スカーレットを、そしてクロワール・ド・カイエンをそして最後にもはや原形を留めていないドライケルス広場を見渡した。

 

「良くもこれほどまで帝都を滅茶苦茶にしてくれたものだ」

 

 何もこの破壊された光景はこの場だけではない。

 主戦場が帝都の外だったとしても、人が魔煌兵と変化したことで倒壊した街。

 その魔煌兵も全てが帝都の外で戦っていたわけではない。

 《魔煌兵》や《神機》によって荒れ果てた街とは対照的に、《煌魔城》から置き換わったバルフレイム宮だけが一部の城壁を除いて無傷というのが異様な光景となっていた。

 これを再建するとなると今から頭が痛くなる。

 だが、それを表に出さず、鉄面皮でギリアスは告げる。

 

「カイエン公、そして帝国解放戦線を名乗っていたテロリスト達よ……

 帝都並びに帝都市民を大災厄を持って脅かした罪で貴公らを拘束する」

 

「オズボーンッ!」

 

 粛々と罪状を告げるギリアスに対してクロウはただ憎しみに染まった目で彼を睨む。

 そんなクロウにギリアスは肩を竦めると、クロワールに向かって話しかける。

 

「こんな子供をこのような復讐鬼に仕立て上げるのはあまり感心しないなカイエン公」

 

「ふん……何のことを言っているか理解できないな」

 

 うつ伏せに蹲っていたクロワールはふてぶてしい態度で起き上がるとその場に座り直す。

 下から見上げる様な態勢であり、全身が虚脱感に支配されていてもそれを見せずにクロワールはオズボーンに正面から向き直る。

 

「彼らは彼らの意志を持って鉄血宰相の理不尽な政策に対抗するべく立ち上がった。私の意志はそこに介在してはいないのだよ」

 

「そうだ……俺達はお前に復讐をするために――」

 

「ジュライを扇動して独立をさせたと?」

 

「…………は?」

 

 オズボーンの言葉にクロウは間の抜けた声を返す。

 

「前ジュライ市長の遺志を継ぎ、帝国の悪しき鉄血宰相の暗殺に成功したジュライ市国の忘れ形見……

 彼に続けっ! 旧き善きかつてのジュライを取り戻せ……

 市民はクロウ・アームブラストの姿に中てられて、ジュライでは暴動が起きている。まさか知らないとでも?」

 

 呆れた声にクロウは耳を疑った。

 

「何で……何でそんなことになってるんだよ!?」

 

 これは自分の復讐であり、ジュライは関係ないはずだった。

 なのに現実はクロウの知らない所で旧ジュライの代表のように反乱の象徴に祭り上げられていることに困惑する。

 

「導力ネットの情報の拡散性と情報の収束性を見誤ったようだな」

 

 ゼムリア大陸全土に普及し始めた導力ネットの存在。

 貴族連合の筆頭騎士であり、《蒼の騎神》を駆る“クロウ・アームブラスト”の存在は帝国内外で注目の的となっているのは当然だった。

 経歴は誤魔化していても、名前を変えていなかった“クロウ”にジュライの誰かが気付くのは当然のことだろう。

 

「もっともそれを煽った人物がそこにいるがな」

 

 ギリアスは素知らぬ顔でいるクロワールに視線を向ける。

 

「さて、何の事だから分からないな」

 

 白々しくクロワールは惚ける。

 ジュライの統治は帝国正規軍の管轄であり、軍も少ないが駐在している。

 内戦の決戦にその軍に背後から仕掛けられることを嫌い、クロワールはジュライの市民に暴動を起こさせて帝国軍基地や企業、大使館を襲撃させた。

 

「八年前、そうやってジュライの鉄路を爆破させたのかね?」

 

「…………え?」

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ……

 あれはジュライに潜む反帝国主義者が企てた事件だろう。どうして私が関与するのかね?」

 

「それは貴公が“貴族”だからだ」

 

 混乱を極めるクロウを他所にギリアスはクロワールの言葉に断言を返す。

 

「人を使い、人を騙し、人を謀る……

 そして手を汚すことなく自らの目的を達成して“利”を独り占めにする。それが“貴族”のやり方であろう」

 

「酷い言われようだ」

 

 クロワールはやれやれと肩を竦めて悪びれた様子もなくクロウが知らない真実を口にした。

 

「私は前アームブラスト市長に――」

 

『もしも陸運貿易から海上貿易に戻す意志があるのなら、関税の引き下げを考えてもいい』

 

「――そう提案しただけで私は彼らに何かをしろなどとは女神に誓ってしていないのだよ」

 

「………………なん……だと……?」

 

 当たり前のように祖父のことを話すクロワールの言葉にクロウは絶句する。

 

「ノーザンブリアの塩害からジュライが復興できなかったのは、貴公が敷いた関税があまりにも法外だったからと聞くが?」

 

「法外とは人聞きの悪い、オルディスにとっては適切な税率だと言わせてもらいましょう」

 

 白を切るクロワールにオズボーンは肩を竦める。

 

「ちがう……ちがう……」

 

 クロウは否定の言葉を繰り返しながらゆっくりと体を大きく揺らしながら立ち上がる。

 

「っ――」

 

 周りの兵士たちが一斉に導力ライフルの銃口をクロウに集中させる。

 だが、それをギリアスは手で制して、クロウを自由にさせる。

 

「ちがう……ジュライを……祖父さんをはめたのはあんただ……」

 

 フラフラと覚束ない足取りでオズボーンに辿り着いたクロウはその胸倉を掴み叫ぶ。

 

「そうだって言えよ! 鉄道を爆破したのも! 都合よくジュライを乗っ取る提案をしたのも! 全部全部お前が企んだことなんだろ!」

 

 クロウの絶叫が広場に木霊する。

 まるで泣きじゃくるような子供の慟哭。

 黒い噂が絶えないオズボーンがどう返すのか、クロウに銃口を向けたままの兵士達もまたギリアスの言葉を待つ。

 

「甘ったれるなテロリストが」

 

 返って来た言葉はクロウが求めた答えではなかった。

 

「貴様のような“嘘つき”に語る真実などない」

 

「っ――ふざけるな! だったら俺は誰を憎めばいい! 誰を恨めばいい! 誰を殺せば――」

 

 その言葉は最後まで言う事はできず、クロウは背中に体当たりをされた。

 

「あ……」

 

 次に感じたのは熱さ。

 クロウは刺されたのだと自覚し、オズボーンの胸倉を掴んだまま振り返る。

 

「父さんを……母さんを返せ……」

 

 クロウの背中にぶつかる様に俯いてクロウを刺した少年は小さな果物ナイフを引き抜き、身体を離す。

 

「あんたがあんなことをしなければこんなことにはならなかったんだ……」

 

「お……まえ……は……」

 

 足から力が抜けてクロウはその場に膝を着く。

 傷としてはそこまで深くはない。

 治癒術で十分に治せる程度の傷ではあるが、そんなことを忘れてクロウは見覚えのある少年の顔に見入っていた。

 

「あんたのこと……尊敬していた……憧れていた……なのにどうして……クロウ兄ちゃん……」

 

「………………お前……スタークなのか?」

 

 血にまみれた果物ナイフを震えた手で握り締めた少年がかつてジュライで近所に住んでいた弟分だとクロウは気付き、遅れて彼の言葉を理解する。

 

「おじさんとおばさんが……何……だって?」

 

 傷を抑えることも忘れてクロウは聞き返す。

 呆然と、何も理解していない様子のクロウにスタークは激昂して捲し立てる。

 

「何言ってるんだよ!? 今のジュライはあんたのせいで滅茶苦茶になってるんだぞ!」

 

「俺の……せい……?」

 

「あんたが帝国の宰相を暗殺したから! ジュライから帝国を追い出せって暴動が起こって! みんな……みんな、俺だけが……」

 

 言外にスタークの両親はジュライで起きた暴動に巻き込まれて死んだと言われてクロウは呆然とする。

 

「何で……何でそんなことになっているんだよ……

 俺はみんながオズボーンが全部悪いって言うから……」

 

「もうそんなやつはジュライにはいないんだよクロウ兄ちゃん」

 

「え……?」

 

「八年前、鉄路を爆破して帝国宰相を暗殺しようとした最後にして最悪のジュライ市長……

 その遺志を継いだ孫、ジュライの誇りを体現した“クロウ・アームブラスト”……

 もう……オズボーン宰相があの時の事件を起こした犯人だって言う人はジュライにはいないんだよ」

 

「………………なんだよ……それ……」

 

 スタークの言葉にクロウの中の何かが亀裂を走らせた。

 ただの鉄路爆破のテロが、クロウの知らない所でオズボーン宰相の暗殺計画にすり替わっている。

 元々アームブラスト市長が犯人であると言う噂が払拭されたわけではない。

 そこにクロウがオズボーンを暗殺したという報が加わったことで、噂に尾ひれが付き、アームブラスト市長の犯行だったという噂を補強する材料になってしまった。

 皮肉なことにクロウの行動がオズボーンの潔白を証明したことになっていた。

 

「……俺は……みんなが……カイエン公や……ギデオンがそれが正しいって言うから信じて……」

 

 クロウはゆっくりと周囲を見回した。

 自分を殺意と哀れさを混在して目で見る兵士達。

 破壊しつくされた帝都の街並み。

 そして殺してやると誓った男、オズボーン。

 

「あ……」

 

 思い出す。

 ノルドで共和国と帝国の戦争を誘発させる計画を立てたことを。

 思い出す。

 夏至祭の時に暗黒竜を蘇らせようとしたことを。

 思い出す。

 ガレリア要塞で数多の軍人を殺したことを。

 思い出す。

 オズボーンを殺すためにクロスベルを、親友を巻き込んで殺そうとしたことを。

 思い出す。

 仲間達を死なせてきたことを。

 そして今、思い知らされる。

 ジュライはクロウを理由にして決起して、その暴動に巻き込まれて弟分の家族は死んだ。

 そして、クロウが生み出した復讐鬼が――弟分が目の前にいた。

 

「ああ……」

 

 亀裂どころか何かが砕け散る音をクロウは聞いたような気がした。

 そして、今まで欠片も感じなかった罪悪感が胸を締め付けて――

 

「うわああああああああああああああああああっ……!」

 

 頭を抱えてクロウは絶叫する。

 

「…………“外れた”ようだな」

 

 そんな彼の様子にオズボーンは小さく呟き、同時に動きがあった。

 

「ギリアス・オズボーンッ!」

 

 絶叫するクロウに兵士たちの意識が集中している隙を突くようにヴァルカンが“黒い闘気”を纏って駆け出した。

 

「ウオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 ナイフを抜き咆哮を上げて怨敵に迫るヴァルカンは――銃弾にナイフを弾き飛ばされた。

 一瞬遅れてクロウから銃口をヴァルカンに向けた兵士たちは躊躇うことなくその引き金を引く。

 無数の弾丸を浴びたヴァルカンは無念のまま、その生涯を終えるのだった。

 

「御無事ですか閣下?」

 

「ああ、クレア大尉御苦労だった」

 

 いつ抜いたのかオズボーンは軍刀を片手に、ヴァルカンを誰より早く撃ったクレアを労う。

 そして――

 

「しまったっ!」

 

 誰かの叫びが響くと、膝を着いていた《機甲兵》の一機が突然立ち上がった。

 

「はははっ! まだだっ! カイエン公であるこの私がこんなところで終わってなるものか!」

 

 《機甲兵》からクロワールの笑い声が高らかに鳴り響く。

 もっとも《機甲兵》はそこで戦おうとはせず、踵を返してその場から逃げ出した。

 

「ふむ……カイエン公には逃げられたか……」

 

「すぐに追手の手配をします」

 

「良い、全ては予定通り。彼には“悪役”としてまだしてもらう役目があるのでな」

 

 逃げていくクロワールができることはもう決まっている。

 レクターが誘導した逃走経路を使って国外逃亡し、クロワールは《機甲兵》を手土産に暴動がより激化しているジュライに向かうことになっている。

 スタークからの要請だけでもジュライの暴動を鎮圧するために軍を動かすには十分な理由だが、戦犯であるクロワールが逃げ込み、匿ったとなれば制圧する大義名分ができる。

 

「いや、それよりも今は……」

 

 未来を考えることよりもオズボーンは空を見上げた。

 

「おおおっ!」

 

「何と神々しい」

 

 オズボーンの視線に釣られて兵士達も《零の騎神》を見上げて、帝国の破滅を救った救世主の姿に意識が向く。

 

「スターク君、もう良いんです」

 

 そんな彼らの中でクレアは血まみれのナイフをきつく握り締めるスタークを労わる様に宥めて、そのナイフを取り上げる。

 

「誰か! クロウ・アームブラストの手当てを」

 

 そしてクレアはその場を仕切る指示を出す。

 

「……クレア大尉。この場は任せた」

 

 そんな彼女にギリアスはそう言って、《機甲兵》に乗り込む。

 

「はい。ですがどちらに?」

 

 聞き返された質問にギリアスは思わず短い沈黙をしてから口を開く。

 

「あの《白亜の騎神》はどうやら帝都の郊外に降り立つようだ」

 

 降りて来る《白亜の騎神》の方角にギリアスは予感めいたものを感じて《機甲兵》を走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………残念」

 

 膝を着く《零の騎神》の前に立っていた白銀の髪の少女は手の平で自然に粉々になって行く石を眺めながらぼやいた。

 一欠片さえ残さないかのうように砂となって塵となって大気へと消えていく石を少女――シズナは見送る。

 そして、おそらく十数年前に火災があって、それから手付かずにされていた家屋に背を向ける。

 

「リーンッ!」

 

 そこにいち早く駆け付けてきたのは《黒い戦術殻》に乗った女の子だった。

 《零の騎神》に縋りつく女の子を横目にシズナは歩き出した。

 

「おや?」

 

 その足は程なくして止まり、シズナは肩を竦めてまるで自分を待っていた男に話しかける。

 

「貴方も随分と暇人だね。《アルマータ》のボスがこんな所まで来るなんてどういうつもり、ジェラール・ダンテス?」

 

「それはお互い様だろ。《斑鳩》の剣聖」

 

「だから私はまだ《剣聖》じゃないんだけどなぁ」

 

 ジェラールとシズナは互いが一息で斬れる間合いの中で不敵に笑い合う。

 

「俺が帝国まで来た理由だったな……

 なに効率の問題だ。これでも“現場主義”なんでな。盗られた物には興味はないが、突如としてうちのアジトに現れた男が何者なのか確かめようと気が向いただけだ」

 

「ふうん。それで私の弟弟子は貴方の眼鏡に適ったのかな?」

 

「ああ……」

 

 シズナの言葉にジェラールは遠くにある《騎神》に視線を送る。

 

「帝国そのものを打ち壊す程の“絶望と恐怖”。それを真っ向から打ち砕いた“希望の光”……ああ、いい見世物だった」

 

 ジェラールは瞼の裏に焼い付いた圧倒的な“光”を思い出して笑みを浮かべる。

 

「確かに帝国に来ただけの価値はあったかな」

 

 ジェラールの言葉にシズナは同意する。

 あわよくば一手交えるつもりだった弟弟子のお願いを果たすために遠い帝国の地までやって来たが、まさかこれ程の“奇蹟”を見せられるとは思っていなかった。

 

「これ、返しておくよ」

 

 そう言ってシズナは旧い銀時計のオーブメントをジェラールに投げ渡す。

 

「ゲネシスか……倉庫で埃を被っているだけでのアンティークだと思っていたが……メルキオル」

 

「うん、どうかした?」

 

 ミント髪の少年――メルキオルがジェラールに呼ばれて彼に擦り寄る。

 

「これはお前に預ける」

 

「へえ……」

 

 メルキオルは受け取った旧いオーブメントを見下ろして楽し気な笑みを浮かべる。

 

「そのオーブメントをそちらの《組織》の技術で解明しろ。もしかすれば面白いことができるかもしれん」

 

「ふふ、そう言う事……良いよ……

 エンペラーを殺されちゃったし、貴族のお兄さんのせいで殺せなかった《3》と《9》で遊びながら調べてみるよ」

 

 ジェラールの言葉にメルキオルは愉し気に笑う。

 

「では、ここで失礼させてもらおう《斑鳩の剣聖》」

 

「じゃあね~」

 

 ジェラールとメルキオルは特に身構えることなくシズナに背中を晒してその場を去って行った。

 

「だから私はまだ《剣聖》じゃないんだけどなぁ……」

 

 そうぼやきながら、シズナは後ろを振り返る。

 

「ちょっと早いけど、帰ったら“試し”を受けてみようかな」

 

 そして改めて踵を返したところでシズナは通りの向こうから走って来る少女を見つけた。

 

「おや……あの子は……もしかして……」

 

 彼女が佩いた帝国では珍しい“太刀”に興味が湧き、髪に結ばれた大きなリボンから伝え聞いたことのある容姿にシズナは気付く。

 

「っ……」

 

 シズナの存在など気付かないかのように走って来る少女にシズナは少しだけちょっかいをかけることを決める。

 

「弟弟子はもうここにはいないよ」

 

 そう言ってすれ違おうとした少女――アネラスの前をシズナは抜いた太刀で塞いだ。

 

「え……?」

 

 反射的に後ろに跳び退いて太刀を抜いたアネラスはそこで初めてシズナを見る。

 

「貴女は……」

 

「ふふ、食えない兄弟子たちと違って、なかなか可愛げのある妹弟子じゃないか……あれ? 私の方が姉で良いんだよね?」

 

「妹弟子!? 姉!?」

 

 突然姉弟子を名乗る不審者にアネラスは目を白黒させる。

 

「それにしてもここで君と会うとは思わなかった。これも弟弟子の導きかな?」

 

「弟弟子……弟君……」

 

 その言葉にアネラスはシズナの向こうにいる《零の騎神》を見る。

 

「そう! 私はリィン・シュバルツァーの頼れる“姉弟子”なのだっ!」

 

「っ…………ふふふ、私を差し置いて弟君の“姉弟子”を名乗る不審者が突然何を言うかな? この“妹弟子”は?」

 

 自分こそが姉弟子だと言わんばかりに煽って来る少女にアネラスは顔を引きつらせる。

 短い言葉から目の前の少女が何者なのか察したアネラスは自分こそが“彼”の姉弟子だと主張するために《迅羽》を抜いた。

 

「やっぱりその“太刀”……なかなかの業物みたいだね」

 

「え……この“太刀”?」

 

 突然興味の対象を変えて来たシズナにアネラスは戸惑いながらも素直に応える。

 

「これはカシウスさんから譲ってもらったもので……」

 

「ほうほう“兄弟子”の“太刀”か……ふむふむ……」

 

 まるで品定めをするかのようにシズナは頷きながら、不意にアネラスから目を逸らした。

 

「ところでいつまでそこで見ているつもりかな?」

 

「え……?」

 

 アネラスは思わずシズナの視線を追えば、そこに声が響いた。

 

「まさか気付かれるとは思いませんでした……」

 

 現れたのは顔を仮面で隠した東方風の衣装を纏った女だった。

 

「似たような気配の知り合いがいるからね……その出で立ちは“銀”かな?」

 

「“銀”!? この人が?」

 

 かつてリベールの異変の時に遊撃士に協力してくれた時とは全く異なる姿をしている“銀”にアネラスは驚く。

 

「朧月流を基礎に黒神一刀流を……既にその原型はないみたいだけど……言わば貴女は私達の従姉妹弟子と言う事だね」

 

「何故それを――」

 

「従姉妹弟子っ!?」

 

 シズナの言葉にアネラスは大きく目を見開く。

 

「いや……ちょっと待て……」

 

 自分に敵意を向けて来るアネラスに“銀”はひたすらに困惑する。

 

「うん、ちょうどいい。誰がリィン・シュバルツァーの一番の姉弟子なのか戦って決めようじゃないか!」

 

「望むところだよっ!」

 

「だから待ってくださいってば!」

 

 シズナの提案に、アネラスは燃え上がり、“銀”は素を覗かせて狼狽える。

 こうして内戦が終結した帝国とは関係ないところで、姉弟子なる者達の三つ巴の戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

「リィン・シュバルツァー」

 

 その小さな手は恐る恐る《零の騎神》に触れる。

 

「リーン……」

 

 その名前を交互に繰り返してアルティナは呼び掛ける。

 

「返事をしてくださいリーン……」

 

 アルティナの呼び掛けに《零の騎神》はぴくりとも動かない。

 

「わ……わたしは思い出したんですよ……《影の国》のことをお姉ちゃんのことを……」

 

 あの時《カレイジャス》で彼の姿を見た瞬間、アルティナの中に消えたはずの初期化される前の記憶が蘇った。

 それがどういう奇蹟によるものなのかはアルティナには理解できない。

 

「わたしは……ちゃんとハーモニカの練習をしていたんです……だから……だから……返事をしてくださいリーン」

 

 何を言えばいいか分からない。

 伝えたいことは沢山あるはずなのに言葉は出て来ない。

 

「リーン……お願いですから……返事を……してください」

 

 アルティナは何度も何度も呼び掛ける。

 そこに両手にオリヴァルト、アルフィン、そしてエリゼを乗せた《琥珀の機神》が到着した。

 

「兄様……」

 

「リィンさん……」

 

 何度もその名前を呼び続けるアルティナにエリゼとアルフィンは言葉を失う。

 

「そんな、どうして……」

 

 繋がっていたはずの戦術リンクがいつの間にか途切れていたことにエリオットは今更になって気付く。

 

「リィン君……ボクは…………くっ……」

 

 オリヴァルトはアルティナの声に、ただ拳を握り締めて自分の無力さを呪った。

 

 

 

 

 







クロウ・アームブラスト(本名)
「出身は完璧に偽装できたつもりだったんだが、アランドールあたりに嗅ぎつけられちまったか?」

 +

八年前のジュライ鉄路爆破事件の犯人と疑われる旧ジュライ市国市長の孫。


 +

導力ネットによる身元の特定


 =


ジュライ決起軍による北方戦役




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