(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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70話 エピローグⅡ

 

 

『そうかバルクホルン卿は一命を取り留めたか』

 

 その報告にアイン・セルナートは画面の中で複雑な顔をして安堵する。

 

「まだ予断を許さない状態なんで助かったとは言えないんですけど……」

 

『そうだろうな。“聖痕”を奪う……そんなことができる存在がいるとはな』

 

 “聖痕”は資質がある者になら譲渡することも可能だ。

 だがそれはあくまでも持ち主の意志があってのこと、本来なら他人の干渉でどうこうできるものではないため、アインにとっても聖痕強奪の報は寝耳に水だった。

 

『典礼省に知られれば五月蠅くなりそうだが……それはそうとトマスはどうした?』

 

「あーここにちゃんといますよ」

 

 ケビンは場所を開けてメルカバの艦橋を映すカメラを動かす。

 

「ぐぬぬぬ……あの真面目で誠実で勤勉なガイウス君が……」

 

 守護騎士第二位にして星杯騎士団副長トマス・ライサンダーは頭を抱えて唸っていた。

 

『どうした? 何があった?』

 

「いやあ……」

 

 こうなった原因を思い返してケビンは曖昧に笑う。

 

「“聖痕”を奪われて衰弱したバルクホルン卿を助けてくれたのがあのゲオルグ・ワイスマンだったと報告したじゃないですか」

 

『ああ、業腹だが。それが?』

 

「その事で《Ⅶ組》のガイウス君がワイスマンに感謝と尊敬の念を向けて士官学院教官として感じ入る事があったみたいです」

 

『…………何だそれは……』

 

 呆れ果てながらもアインはトマスの状況を理解する。

 自分達には手の施しようがなかったバルクホルンを目の前で助けた恩人にガイウスが感謝するというのは当然の事だろう。

 それがクラスメイトの自称部下と言うのならガイウスは素直に警戒心を緩めてしまうのも無理はない。

 逆に七耀教会の心証は決して良くはない。

 伏兵としてトマスが戦場に光学迷彩を使って隠れていたこともそうだが、彼が身分を隠して士官学院に潜入していたというのは帝国解放戦線の事がまだ記憶に新しい彼の警戒心を強めさせるものだった。

 結果、ガイウスの中ではワイスマンの株は高騰して、トマスの株は暴落している。

 いくら聖職者であっても、その立場に無条件の信頼が得られるわけではないとケビンはノーザンブリアの一件で学習している。

 

「まあ、一番効いたんわ。御兄弟ですかって聞かれたからやと思いますが」

 

『…………そうか』

 

 それは嫌だなとアインは共感する。

 

「これが今世俗で流行り始めているという寝取られたというものなのでしょうか……女神よ、私はどうすれば良いのですかっ!?」

 

「お、落ち着いてくださいライサンダー卿……ガイウスさんも決して悪気があったわけではないですから……

 ただトマス教官という人物に対しての好感度が元々低かっただけですから」

 

「ぐふっ……」

 

 己の従騎士に慰められてトマスは止めを刺された。

 

『……それで話を戻すがバルクホルン卿の事だが』

 

「ええ、今はワイスマンの疑似聖痕のおかげで生命力の流出を抑えていますが、それも一ヶ月程度が限界だそうです……

 延命のためにはスカーレットの中にある“聖痕”を取り戻さなければいけないんですが、それだけでもあかんみたいです」

 

 バルクホルンがもう高齢だということもあり、今の衰弱した体に“聖痕”を取り戻したとしても今度はその力の大きさに壊されると言うのがワイスマンの診断だった。

 

「とりあえず前提としてスカーレットの身柄が欲しいってオリヴァルト皇子に交渉をしたんですが、オズボーン宰相が……」

 

 ――スカーレットは此度の内戦を引き起こした罪人として裁くためアルテリア法国に引き渡すことはできない――

 

「それを抜きにしてもオルディスの事件で一度司法取引をして奉仕活動に従事させて罪を償う機会を与えていたわけなんですけど……

 蓋を開けてみればカイエン公とテロリストが結託していたわけやから、鉄血宰相はアルテリア法国による侵略だって主張しとるわけですよ」

 

 メルカバで帝国の空に不法侵入していたことも仄めかされた上で、スカーレットを引き渡すための条件を提示された。

 

「スカーレットがもたらした被害の賠償金……

 帝国国内での七耀教会の活動の撤退……

 それからクロスベルが帝国の領だと言うアルテリア法国の承認……

 細かいものはまだまだありますけど、だいぶ吹っ掛けられてますよ」

 

 うんざりしながらケビンは報告するとアインもそれを聞いてため息を吐く。

 

『スカーレットのせいで帝国の民から七耀教会への信仰心は地に堕ちているか……

 ただ僧兵庁がスカーレットを確保しようとしている動きがある』

 

「それは何で? もうスカーレットはただの疫病神にしかならんのに?」

 

『“聖痕”を奪うことができた貴重な人材だという事だろう……それを解析して私達、守護騎士へ対抗手段にでもするつもりだろう……典礼省からの突き上げもあると言うのに……』

 

「……お疲れ様です」

 

 スカーレットが起こした事件により七耀教会の様々な部署でそれぞれが動き始めている。

 判断を間違えれば七耀教会そのものが分裂するか、帝国がアルテリア法国に宣戦布告する可能性さえある。

 

「グラハム卿」

 

「ん? 何やリース?」

 

 考え込むケビンをリースが呼んだ。

 

「……その……ヘミスフィア卿からの緊急連絡です」

 

「…………そうか」

 

 通信士の報告にケビンはアインに視線を向ける。

 

『このタイミングの緊急連絡……つまりもう限界という事だろう』

 

「ですな……繋げてくれリース」

 

 ケビンの指示にモニターの画面が分割され――

 

『どういうことか説明しやがれっ! この根暗ネギ野郎っ!!』

 

 メルカバの艦橋を震わせるのではないかと思う程の怒号が響き渡った。

 分割された画面いっぱいに顔を寄せて咆哮を挙げたのは赤い髪の少女だった。

 

「あー……久しぶりやなオルテシア卿」

 

 怒号を耳を塞いでやり過ごしたケビンは画面越しに殺気を飛ばして来る同僚に挨拶を返す。

 

『そんなことはどうでも良いっ! 先生が死んだってどういうことだっ!?』

 

「いや、まだ死んでおらんって」

 

『セリスさん落ち着いてください』

 

 新たな声が聞こえてくると、少女は肩を掴まれて導力カメラから引き剥がされる。

 

『お久しぶりですグラハム卿にライサンダー卿。活躍は聞いていますよ』

 

 赤い少女を宥めたのは線の細い蒼白の髪の青年。

 

『ですが、僕達からの通信を拒否するのはいかがなものでしょうか?

 こうしてヘミスフィア卿を経由して連絡をつけてもらいましたが、どういった心つもりですか?』

 

 口調は穏やかなものの、その眼差しと語気には剣吞な空気が含まれていた。

 

『――というわけで時間稼ぎも限界と判断したから後は任せるよ』

 

 そう画面の外から投げやりな言葉を掛けて来たのは通信機の主だろう。

 

「ああ、悪いとは思っていたんやでバルタザール卿。でも――」

 

「私の指示です」

 

 ケビンの言葉を遮ってトマスは立ち上がる。

 

「バルクホルン卿が重態と聞けば貴方達は暴走すると判断しました」

 

 先程までの情けない姿とは打って変わり、星杯騎士団副長として毅然とした態度でトマスは二人の守護騎士に向かって告げる。

 

『暴走なんて……まあセリスさんですからね』

 

『おい、こらリオン!』

 

 納得する蒼白の青年に赤髪の少女は突っかかる。

 

『ともかく先生の容態は?』

 

 その青年の質問に少女は睨むのをやめてトマスに顔を向ける。

 

「あまり良い状況ではないですね……

 “聖痕”を奪われるなどというのは前代未聞の出来事ですから」

 

 トマスの言葉に赤い少女は眦を挙げる。

 

『スカーレットとかいう馬鹿はどこだっ! アタシが直々に外法としてぶっ殺してやるっ!』

 

 体から炎を立ち昇らせて赤い少女は咆える。

 

「短絡的な行動は慎んでください」

 

 そんな赤い少女をトマスは諫める。

 

「今、スカーレットは帝国政府に拘束されています……

 貴女が暴走して帝国と事を構えれば、帝国と法国の関係は修復不可能な亀裂が生まれるでしょう」

 

『くっ……』

 

 厳しい言葉に少女は炎を治める。

 

『元従騎士スカーレットに手を出せないのは理解できましたが、皆さんは何を相談していたんですか?』

 

『…………バルクホルン卿を救う手段についてだ』

 

 青年の質問に答えたのはアインだった。

 

『先生は助かるのか!?』

 

「その可能性はまだあります……ただそのためにはスカーレットの身柄を帝国から譲ってもらう必要があり、それに――」

 

 トマスはそれを口にすることを思わず躊躇った。

 

「おやおや、守護騎士殿達がこれだけ揃うのは壮観なものだ」

 

 その躊躇いにタイミングを計ったように艦橋に入って来たのは、かつて七耀教会にいた時から文字通り姿を変えたゲオルグ・ワイスマンだった。

 守護騎士たちは揃って顔をしかめるがワイスマンは気にせず報告する。

 

「さて、結果だけ報告しよう……

 条件次第ではあるが、バルクホルン先生の治療方法は確立できた」

 

『……そうか。それでその見返りに《蛇》である貴様は私達に何を望む?』

 

「特に何も」

 

 剣吞なアインの言葉にワイスマンは動揺一つ見せずに言い返し、胡乱な眼差しを向けて来る守護騎士たちに愉悦の笑みを浮かべる。

 

「勘違いしないでもらおう。私がバルクホルン先生を助けるのは、私自身の彼への恩返しの想いが少しと……

 彼がリィン・シュバルツァーの友人であるガイウス君の恩師であることが理由だ」

 

 ワイスマンは振り返り、自分と一緒に艦橋に入ったガイウスに振り返る。

 

「君たちはもちろん、七耀教会にバルクホルン先生を助ける見返り求めないことはリィン・シュバルツァーの名に誓ってしないと約束しよう」

 

『はっ! 《蛇》のくせに……《盟主》でもない自分の後継への誓いが何だって言うんだ?』

 

 赤い少女はワイスマンの宣言を鼻で笑う。

 《結社》において神聖視されている《盟主》に誓う事は教会の人間が女神に誓うようなもの。

 ましてやリィン・シュバルツァーはワイスマンの“疑似聖痕”を受けた《蛇の後継》。

 赤い少女も、蒼白の青年もワイスマンの誓いを信用するつもりは一切なかった。

 

「ふむ……何やら大きな誤解があるようだが、そもそも君達には選択肢などないのだよ」

 

『てめえ……』

 

『オルテシア卿、少し黙れ』 

 

 赤い少女が眦を上げて炎が再燃する。だが、そこにアインが冷ややかな言葉を掛けて彼女の憤りを止めた。

 

『ワイスマン……一つ聞いておきたい……

 このままバルクホルン卿を見捨て、スカーレットから“聖痕”を回収しなければどうなると思う?』

 

「これはあくまで推測でしかないが」

 

 そう前置きをしてワイスマンは己の知見を語る。

 

「スカーレットに“聖痕”を奪わせた存在にとってはそれこそ望むところだろう……

 今のスカーレットが持っている“聖痕”は言わば半分、残りの半分は彼の存在の下に既に渡っていると考えて間違いはないだろう……

 彼女が処刑されたとしても、バルクホルン先生の“聖痕”は失われ新たな“聖痕”としてゼムリア大陸の何処かで再誕することはなく、彼の存在の手中で分かたれた“聖痕”は完成するだろう」

 

『つまりここで“聖痕”を取り戻さなければ、その存在をより強大なものにしてしまうと言う事か……』

 

 決していい加減ではないだろう推論にアインは歯噛みする。

 

「例え半分に分割されていたとしても、今のバルクホルン先生には“聖痕”を支えるだけの生命力はない……

 先生の延命をするならば、“聖痕”の継承者にバルクホルン先生の生命維持をするようにパスを繋ぎ、彼の負担を肩代わりしてくれる“器”が必要となる……

 一番手っ取り早いのはスカーレットをそこに置くことだろう」

 

『ちょっと待てっ! それはスカーレットに先生の“聖痕”を預けたままにしろって事かっ!?』

 

 彼を生かすためとは言え、尊敬する恩師の“聖痕”をスカーレットが継ぐことに赤い少女は難色を示す。

 しかしワイスマンは首を横に振った。

 

「いいや、幸いここには“聖痕”を継承できる資質を持つ少年がいる。私は彼にバルクホルン先生の“聖痕”を継承させることを勧めよう」

 

 ワイスマンはガイウスに視線を送る。

 トマスは七耀教会とは何の関係もないはずのガイウスが既にそれを受け入れている様子に気付いてワイスマンに詰め寄る。

 

「ワイスマン、貴方は……ガイウス君に何を吹き込んだ!?」

 

「トマス教官、これは俺の意志です」

 

 ガイウスは前に出てトマスや画面に映った守護騎士たちを順に見回す。

 

「バルクホルン先生は俺にノルドの外を教えてくれた恩師です。その命を救うために俺にできることがあるのなら何でもすると答えただけです」

 

「しかしですね。ガイウス君、“聖痕”を継ぐと言う事は本来ならば“守護騎士”に任命すると同義……

 教会の人間ならば強制ではあるんですが、それを君に適応しても良いものか……」

 

「全てワイスマン殿から聞いています……

 七耀教会の守護騎士になる覚悟もできています」

 

「なっ!?」

 

「もちろん俺にも打算はあります……

 この内戦で俺は《機神》という力を貸してもらっておきながら、何もできなかった」

 

 ガイウスは帝都の空でスカーレットが乗った《神機》と戦っていた時の事を思い出す。

 それだけではない。

 クロスベルに一人で戦いに行った彼をただ見送ってしまったこと。

 そんな彼を忘れてしまっていたこと。

 内戦が終わり、彼にバルクホルン共々助けられてガイウスが感じたのは己の不甲斐なさだった。

 もしも《機神》がなかったなら、自分は戦う事さえできずにクリスの後ろに突っ立っているだけだったのではないかと思うとさらに惨めな気持ちになる。

 

「クリス達の戦いは終わっていない……

 リィンが命を賭して繋いでくれた未来。それを《黒》に奪わせるわけにはいかない……

 そのために貴方達には俺を強くして欲しい」

 

「ガイウス君……」

 

「それに貴方達にとっても先生を救う以外にもメリットがあるのでしょう?

 スカーレットの件がどうなるにしても、貴方達は帝国での活動しづらくなる。ですが俺ならば守護騎士ではなく《Ⅶ組》として帝国で活動できる」

 

「……これは貴方の入れ知恵ですかゲオルグ・ワイスマン」

 

「フフ、入れ知恵とは人聞きが悪い。私は双方にとってメリットのある提案を彼に教えて上げただけだよ」

 

『正直、君がそう言ってくれるのは私達にとって渡りに船と言うものだ』

 

 憤るトマスに反してアインはガイウスの提案に前向きに検討する。

 むしろガイウスを守護騎士にすることに関してはメリットしかない。

 従騎士になりながら教会の剣術を使ってテロを行い、慕う者が多いバルクホルンを殺害する所か、その“聖痕”を奪った存在を許せる者は少ないだろう。

 その点ガイウスならばバルクホルンと親交があり、彼の人格も極めて良好ならば後継者として申し分はない。

 強いてダメな部分を上げるならば、《蛇》への信頼だがこれは七耀教会への不信が原因でもある。

 

『君の決意は理解した……

 私達としてもスカーレットを帝国から引き渡ししてもらえたとしても、奴にバルクホルンの“聖痕”を預けておきたくはない』

 

 アインは偽らざる本音を口にする。

 次の後継者が見つかるまでの“器”にしておく点でもスカーレットに“聖痕”を預けておく事はあり得ない。

 今は消耗もあって大人しくしているらしいが、オズボーンへの復讐が失敗していたと気付いたスカーレットが“聖痕”を悪用して脱走しないとも限らないのだから。

 

『ケビン、今回の事についてルフィナは何と言ってる?』

 

「ルフィナ姉さんは基本的に帝国と法国の問題に口を出さない方針らしいです……

 あくまでも中立としてナユタちゃん達の世話に専念するって言ってました」

 

『そうか……』

 

 交渉事にルフィナが使えない事にアインは宛が外れたと嘆くが、それを一瞬で切り替える。

 

『とりあえず帝国との交渉はケビン、お前に一任する』

 

「は……?」

 

『全ての条件を飲むとは言えないがとにかく譲歩を引き出せ。ルフィナの後を継ぐならばやれ』

 

「…………はい」

 

 姉の名前を出された命令にケビンは項垂れて承諾する。

 それを横目にアインは改めてガイウスに向き直った。

 

『まだスカーレットの身柄を確保したわけではないので確約できないが、君を守護騎士第八位として内定しよう』

 

「っ……ありがとうございます」

 

 アイン・セルナートの言葉にガイウスは気を引き締めて頭を下げる。

 そんな、守護騎士たちにはない謙虚で真面目な態度にアインは苦笑を浮かべ、固くなった空気を和ませる口調で続ける。

 

『守護騎士は自ら渾名を名乗る習いでね……

 君も今のうちに適当に考えておくと良いだろう……参考までに言えば私は《紅耀石》、そこのトマスは《匣使い》と名乗っている』

 

「《紅耀石》に《匣使い》……」

 

『なんだったらバルクホルン卿の名を継いで《吼天獅子》を名乗っても良いぞ』

 

「そんな先生の渾名を名乗るなんて畏れ多い」

 

 アインの言葉に赤い少女が何かを言いかけるが、ガイウスの言葉を聞いて口を噤む。

 

「渾名か……」

 

 あまり考えたことがなかったが、ガイウスが知っている渾名と言えば《超帝国人》なのだが、それとは別に思い付いた名を口にする。

 

「貴方達にとってスカーレットやこの内戦の裏に蠢く存在の事を“外法”と言うのですよね?」

 

「ええ、厳密には違うがその認識で間違っていません」

 

 ガイウスの質問にトマスは頷く。

 

「ガイウス君……?」

 

 ケビンは嫌な予感を感じてガイウスに声を掛けようとするが、遅かった。

 

「“外法狩り”……と言うのはどうでしょうか?」

 

 ガイウスの口から出て来た渾名に守護騎士たちとゲオルグ・ワイスマンは意味深に口を噤んだ。

 

「えっと……何か?」

 

『…………何故、その渾名を? それもワイスマンからか?』

 

 アインが確認にガイウスは首を傾げて答える。

 

「何故ワイスマン殿が?

 スカーレットや先生の“聖痕”を奪った者達が“外法”と呼ばれ、俺の故郷を穢したように多くの人を苦しめている……

 俺はそんな人たちを守るためにも“害獣”である“外法”を狩る……そんな意味を考えていますが?」

 

『そうか……』

 

 ガイウスの答えにアインは意味深な沈黙で頷く。

 遊牧民であるガイウスと自分達では“狩る”と言う事の意味合いが違うのだなと、文化の違いを感じながらとりあえず今は答えを濁すことにする。

 

『まあ今すぐ決めなければいけないことではないから、いくつか候補を考えておくといい……

 ところで済まないが現教会の関係者で話し合わなければならない案件ができた……何か質問がなければ席を外してもらっても良いだろうか?』

 

「はい……」

 

 ガイウスは頷き、一度思考を整理してふと目に着いた赤い少女を見た。

 

「貴女は……」

 

「あん? アタシに用があんのか?」

 

 およそ教会の人間とは思えない乱暴な口調にガイウスは首を傾げなら質問をする。

 

「貴女はシャーリィ・オルランドの姉君だろうか?」

 

 

 

 

 

 

「くしゅんっ!」

 

 元帝都の歓楽街の一角でシャーリィはくしゃみをした。

 

「珍しい……シャーリィが風邪?」

 

「うーん……誰かがシャーリィの噂をしているのかも?」

 

 フィーの問いにシャーリィは適当に答える。

 

「それにしても派手に壊れたなぁ」

 

 シャーリィはかつてあった《ノイエ・ブラン》の店の残骸を前に物思いに耽る。

 ユミルが崩壊した時にも感じたが、慣れ親しんだ光景が、縁があった日常が壊れた様にシャーリィはらしくないと思いながらも物哀しさを感じてしまう。

 

「ランディ兄もこんな気持ちだったのかな?」

 

 従兄が《赤い星座》を抜け出す切っ掛けとなった戦闘のことをシャーリィは思い出す。

 あの時は何にランディが動揺していたのか理解できなかった。しかし、今なら少しだけ分かった気がする。

 

「フィーはこれからどうするつもり?」

 

 何気なしにシャーリィは尋ねる。

 

「どうするって何が?」

 

「ほら、猟兵王にお前を殺すって啖呵を切ったじゃん……どうやって猟兵王を殺すつもりなのさ?」

 

「ああ……そのこと……」

 

 シャーリィの指摘にフィーは一つ頷き、答える。

 

「実はラウラにアルゼイド流を教えてって頼んだ」

 

「アルゼイド流を? 何であたしら猟兵の戦い方と正反対なのに?」

 

 フィーの答えにシャーリィは目を丸くして首を傾げる。

 

「正反対だからかな……今の猟兵の技を鍛えても団長はその道のずっと先にいる……

 普通にやってたらいつまで経っても団長にもリィンにも追い付けないから……猟兵の“邪道”とは違う“正道”を鍛えてみようと思う」

 

 フィーは自分の手を見下ろして強くなるための方法を語る。

 

「もちろんアルゼイド流だけじゃなくてヴァンダール流とかリベールに行ってアネラスさんに八葉一刀流とかも教えてもらおうかなって考えている……

 いろんな戦い方に触れて、わたしだけの戦い方を見つけて団長を倒す……

 サラには各地を回って修行するなら遊撃士になっておく方が良いとか言われてるけど、とりあえずそれは保留かな」

 

「なるほどね……」

 

 それが正しい方法かは分からないが、少なくても未来を据えた展望ができていることにシャーリィは感心する。

 

「そういうシャーリィの方はどうするつもり? 帝国政府との契約は終わったんだよね?」

 

「そうだな……」

 

 フィーの質問にシャーリィは青い空を見上げて物思いに耽る。

 

「帝国政府には特例で士官学院に通って卒業しても良いって言われてるし、パパには一度《ノイエ・ブラン》を経営してみないかって提案はされてるんだけどなぁ」

 

 どれもこれだと思えないシャーリィはため息を吐く。

 

「リィンを倒すのが一応の目標だったんだけど……結局勝ち逃げされちゃったし」

 

 深々とため息を繰り返してくさるシャーリィにフィーは告げる。

 

「ねえシャーリィ。もしかしてリィンが死んだって本当に信じてるの?」

 

「は? 信じるも何もキーアがそう言っていたじゃない? 委員長だって頷いていたし」

 

 死体とは違うがリィンの魂が砕け散った事象を観測したキーアによってリィンの死亡は確定した。

 

「うん、キーアの診断もエマの判断も間違ってないと思うけど……リィンが死んだことになったのは何も今回に限ったことじゃないんだよ」

 

「…………あ、《リベル=アーク》」

 

 フィーの指摘にシャーリィは数年前のリベールでの《異変》の結末を思い出す。

 

「これはわたしの経験則だけど、死んだと思って油断して鍛錬を怠っていると夢の中に現れて、こき下ろして来るから」

 

「あ……それシャーリィもあったかも。手も足も出なかったから肩だけでも嚙み千切ってやったんだよね」

 

「…………そう」

 

 楽し気に語るシャーリィにフィーは不貞腐れた様にそっぽを向く。

 

「でもそっか……リィンがまだいるって言うのは希望的観測じゃないんだ」

 

 シャーリィは奇蹟なんてものは基本的に信じない。

 だが、彼に関してだけは例外しても良いのかもしれないと考えを改める。

 

「そうだね……リィンが戻って来た時、差をつけられるのはやだし、それに……」

 

「ん? 何?」

 

 シャーリィは首を傾げる《妖精》に意味深な笑みを浮かべる。

 

 ――この子は分かってるのかな? 猟兵王を殺すってことは“最強の猟兵”を超えるってことを――

 

 “正道”も“邪道”も吞み込むフィー・クラウゼルの“道”にはシャーリィも興味が湧いて来る。

 ただ本能のまま戦うシャーリィには“正道”を取り入れることは向いていないと自覚もしている。

 

「シャーリィは……そうだな。フィーがそっちの“道”に行くならスカウトを受けてみるのも良いかもしれないな」

 

「スカウト?」

 

「こっちの話……ねえフィー、この際だから一つだけ言わせてもらおうかな」

 

「ん、何?」

 

「“猟兵王”はシャーリィが殺す。《赤い星座》にとって“猟兵王”の首は“闘神”の首と同じ価値があるから」

 

「…………そう……」

 

 シャーリィの唐突な宣戦布告をフィーは静かに受け止める。

 フィーが“猟兵王”を倒す理由が家族ならば、シャーリィにとっても“猟兵王”を討ち取ることには彼女なりの意味がある。

 

「それに“猟兵王”を倒せば《騎神》に乗れるかもしれないからね。今のクリスとならちょっと戦ってみたいしさ」

 

「ああ、そういう事もできるか……」

 

 《騎神》にまつわる大きな流れの中心にいるだろうリィンとクリス。

 自分達はそんな彼らの周りにいるだけの端役に過ぎない。

 だが、猟兵王を倒し彼の《騎神》を奪えるのならば、彼らの戦いに入り込める事ができる。

 

「ねえシャーリィ」

 

「ん? どうかした?」

 

「ここで手合わせをしない?」

 

 フィーの突然の提案にシャーリィは目を丸くして獰猛な笑みを浮かべる。

 

「どういうつもり? シャーリィに挑もうなんて十年早いよ」

 

「現時点での戦力差をちゃんと把握したいだけ、わたしは団長の首も《騎神》の席も譲るつもりはない」

 

 そう言ってフィーは両手に双銃剣を構える。

 

「あはっ!」

 

 フィーからの気当たりにシャーリィは堪え切れない笑みをもらす。

 

「《西風》とやり合っている時に思ったんだよね。今のフィーなら良い戦いができるんじゃないかって……がっかりさせないでよねっ!」

 

 シャーリィは“テスタ=ロッサ”のエンジンを起動させて咆える。

 

「……ふぅぅぅぅっ……」

 

「ああああああああああああっ!」

 

 二人は呼気を高めて意識を戦闘のそれに切り替える。

 そしてどちらともなく踏み出し双銃剣とチェーンソーが激突する。

 彼女たちの戦いは――瓦礫の帝都の中で始まった戦いはサラが止めに来るまで激しく鎬を削り合うのだった。

 

 

 

 

 







守護騎士緊急会議
ケビン
「うおおおおおおっ!」

アイン
『“聖痕”の継承ができたのなら彼の教育は君に一任しようか、初代』

トマス
「あまり変な事を教えないでくださいよ、初代」

セリス
『良かったじゃねえか、初代』

ワジ
『まあ初代と違って前向きな意味での名前のつもりのようだけどね』

リオン
『ははは、これじゃあまるで第五位の後継ですね。初代』






 黎でセリス関連で気になった事。
 EDの一枚絵でガイウスの頭を撫でようとしていたけど……やはり背伸びをしていたのだろうか?



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