(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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71話 エピローグⅢ

 

 

 

 ラウラはゆっくりとドアを開いて、その部屋に入る。

 トリスタの第三学生寮。

 二階は男子の、三階は女子と区分されているのだが、ラウラは懐かしの自室ではなく二階の一室に入った。

 

「あ……」

 

 中にある光景にラウラは見覚えがあった。

 備え付けのベッドと勉強机。それからクローゼットと棚。

 最初からあった学生寮の備品。

 それだけしかない部屋にラウラは立ち尽くす。

 

「これが“因果”から消された者の末路だと言うのか……」

 

 そこはリィン・シュバルツァーの部屋だった場所。

 だがラウラの目の前にあるのは、誰も住んでいた形跡のない真新しい部屋。

 東方の掛け軸も、学院の教科書も、ノイ達のためのドールハウスもない。

 よく見ればかつて自分が壊した壁の修繕後くらいは分かるが、旧校舎の彼の実験室の方が遥かにものは残っている。

 

「これは……」

 

 ラウラは部屋の中に進み入り、勉強机の上に置かれた三つの写真立てを見つける。

 一つ目はリベールの人達の写真。

 二つ目はシュバルツァー家の親娘が並んでいる写真。

 三つ目は夏至祭の帝都の実習の時に先輩達も交えて撮った《Ⅶ組》の写真。

 だが、その三つの写真の何処にも“リィン”の姿は写っていなかった。

 

「こんなことがあって良いのか……」

 

 不自然に空いた空間などない。

 まるで最初からそうだったような構図で、ラウラの記憶していたものとは異なる写真になっていた。

 

「私はまだ何も返せていないのに……」

 

 恩も、俗物的に言えばこの部屋や彼の私物を破壊した借金もあったはずの借用書は消えていた。

 それが良かったと安堵できるほどラウラは軽薄ではない。

 

「私は……何もできなかった……」

 

 士官学院に進学して何度も感じたはずの無力感だが、今回のそれはさらに屈辱だった。

 尊敬できる部分が一つもない元猟兵のヴァルカン。

 機体の性能の差があったとしても剣士が剣を取られたことはラウラにとってこの上ない醜態だった。

 そしてそんなヴァルカンを倒したのは《零の騎神》。

 《機神》を借りて、何処かで同じステージに立ったと思っていたラウラは《零の騎神》が起こした奇蹟よりも彼の“技”に目と心を奪われた。

 

「太刀さえ不要の領域……」

 

 《黒の神機》を両断した素手の一撃には特別な力など宿していなかった。

 純粋な技の鋭さ。

 《黒の神機》の絶対障壁と強固な装甲をフレームとまとめて斬っていながら、その断面は見惚れる程に美しかった。

 大剣で叩き切るアルゼイド流にはない技。

 同じことを父で想像しろと言われてもラウラはどれだけアルゼイド流を高めてもあの領域には辿り着けないと、己の限界を思い知らされた。

 

「父上……」

 

 思考が父、ヴィクターを連想してラウラはベッドに腰を落とす。

 感じるのは己の限界とアルゼイド流の限界。

 内戦は終わった。しかしクリスがこれから身を投じ、リィンが渦中にいた《騎神の戦い》はこの先で訪れる。

 その時にアルゼイド流が本当に役に立つのか、ラウラの自信は揺らいでいた。

 

「フィーは前に進んでいるのに……」

 

 猟兵の戦い方だけで満足していたフィーは正道を学ぶことで新たな道を見つけて一歩を踏み出した。

 それに倣って自分も邪道を学ぶべきかとも考えたが、気質的に無理だとラウラは二の足を踏んでしまう。

 ならばヴァンダール流を学ぶべきかと考えてみても、既にオーレリアという姉弟子がいる。

 自分はどれだけ高めても父と姉弟子の下位互換にしかならないという結論にラウラは絶望するしかなかった。

 

「ふふ、悩んでいるようね」

 

 一人、リィンの部屋で落ち込んでいたラウラに笑みを含んだ声が掛けられた。

 

「誰だっ!?」

 

 叫んで顔を上げた先にいたのはエマの義姉の――

 

「貴女はエマの姉君の――」

 

「ミスティよ」

 

「いや……エマの姉君のヴィ――」

 

「ミスティよ」

 

「……はい」

 

 訂正を言い張るミスティにラウラは折れた。

 

「それでミスティ――さんは私に何のようですか? エマなら帝都のカレイジャスにいるはずですが」

 

「ええ、知っているわ。でも今日は貴女に用があって声を掛けさせてもらったの……

 ラウラ・S・アルゼイド。結社に来るつもりはある?」

 

「…………何を言い出すかと思えば、結社《身喰らう蛇》に私が? そんなことあり得ない!」

 

「私もそう思うわ……

 貴女は結社の一員になるには“闇”がない……

 《Ⅶ組》の中で結社に合いそうな子は別にいてその子には声を掛けているのだけど、貴女については同僚のお願いだから声を掛けたに過ぎないわ」

 

「《Ⅶ組》の中……同僚……?」

 

 結社の勧誘に乗りそうなクラスメイトは誰かと考えながらも、ラウラの意識はミスティが語る同僚に傾いていた。

 

「《鋼の聖女》アリアンロード」

 

「っ!?」

 

 その名にラウラは思わず息を飲む。

 もはや公然の秘密になっているとも言える結社の《鋼の聖女》はかつての《槍の聖女》リアンヌ・サンドロット。

 

「何故……あの方が私に声を?」

 

「彼女の言葉をそのまま伝えるわね……

 『ラウラ・S・アルゼイド。強くなりたければ私が貴女を鍛えて上げましょう。ただしアルゼイド流は捨ててもらいます』」

 

「アルゼイド流を捨てる……?」

 

「彼女は貴女にサンドロットの“槍”を教えるつもりよ」

 

「…………え……?」

 

 次の瞬間、ラウラの昂った感情に合わせて獣の耳と尻尾が彼女の体に現れる。

 

「私に《槍の聖女》の技を教えてくれる……?」

 

 耳が上下に動き、尻尾は左右に揺れて彼女の感情の動揺を示す。

 

「いや、私には父上から譲られた《ガランシャール》がある……でもしかし――」

 

 耳と尻尾だけではなくラウラは右往左往してとにかく動揺する。

 そんなラウラの微笑ましい姿にミスティは笑いながら話を続ける。

 

「もっともそれは善意じゃないわ」

 

「え……?」

 

「彼女が手を掛けている新しい境地をものにするために貴女を利用しようとしているのよ」

 

「利用……?」

 

「要するに貴女を《槍の聖女》の複製として鍛えた上で、それを自分の糧にして更なる高みを目指すつもりなのよ」

 

「…………何故私が? 結社には鉄機隊の三人もいるはずなのに……?」

 

「彼女たち三人は“槍”を扱える資質がないみたいね……

 その点、貴女はアルゼイド流としての基礎があり、《剣匠》や《羅刹》のように完成していない……

 今から“槍”に転向させるなら《黄昏》に間に合うかもしれないという事で声を掛けて欲しいと頼まれたのよ」

 

「サンドロットの槍を……私が……」

 

「私の意見としてはやめておいた方が良いわよ……

 貴女が彼女の“槍”を覚えられるかも分からない。覚えられたとしてもその才能が利用される。この話を受ければ貴女の人生は間違いなく滅茶苦茶になる」

 

「し、しかし……」

 

「結社に関われば貴女の“将来”に影が差す……

 《鋼の聖女》の話を受ければ貴女が積み重ねた“過去”は彼女の“礎”にされる……

 こんな伝言をしている私が言っても説得力はないでしょうけど」

 

 肩を竦めたミスティは続ける。

 

「アルゼイドのまま、強くなりたいならこれを持ってオルディスに行きなさい」

 

 そう言ってミスティが差し出したのは蒼い鳥の羽飾りだった。

 

「私の知り合い達に貴女を鍛えられる人達がいるわ……

 《獣の力》の制御に剣の鍛錬、私も時々顔を出すから“外気術”に関しては少し教えられるわよ」

 

「…………何故、エマの姉上である貴女が私にここまでしてくれるのですか?」

 

 至れり尽くせりの施しに流石のラウラも警戒心を高める。

 

「大したことじゃないわ……

 来たる《黄昏》に向けてエマじゃない《Ⅶ組》の誰かと縁故を繋いでおきたいだけよ」

 

 本来ならば取るに足らない子供たちの集まりでしかない《Ⅶ組》だが、予定外が起こるのならば《Ⅶ組》が関わるのではないかという期待がある。

 リィン・シュバルツァーに関わる糸口。

 魂を砕いた彼にもはや期待を寄せるなど意味はないはずなのだが、保険を得ようとしてしまうのはあの“奇蹟”を目の当りにしたからだろう。

 

「とは言っても貴女にはもちろん《黄昏》に関わらない“道”もあるわ」

 

「あ……」

 

「アルゼイドの御当主様があんなことになってしまったのだもの、貴女に《裏》に関わっている余裕はあるのかしら?」

 

「それは……」

 

 その指摘にラウラは俯く。

 

「正義感やオズボーン宰相への反発心なんて軽い気持ちで関わるべきではないのよ……

 それは貴女だけじゃなくて、他の《Ⅶ組》にも言えることなんでしょうけどね」

 

 黙り込んだラウラにミスティは微笑みを浮かべて背を向けた。

 

「これはメンドクサイ妹と友達になってくれた御礼よ。悔いのない道を選びなさい。答えは……そうね三月の終わりくらいに聞きに行くわ」

 

 去って行くミスティを見送り、ラウラは一人天井を仰ぐ。

 

「私の道……」

 

 改めて突き付けられた未来の展望にラウラは悩む。

 《裏》との関わりを断ち、アリサやユーシスの様に、レグラムやアルゼイド流の安然を守る道。

 《裏》と関わり、戦う道。

 後者の道にはサンドロットの“槍”として強くなる道と今のままアルゼイド流として強くなる道の二つがある。

 どの道を選ぶことが正解なのか、今のラウラに答えを出すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

「ユーシスッ! これはどういうことだっ!」

 

 翡翠の公都バリアハート。

 そのアルバレア公爵家の邸宅の中、執務室に案内されたマキアスは抗議の声を上げた。

 

「何だ貴様か……」

 

 ユーシスは一瞬だけ執務机から顔を上げると興味がないと言わんばかりにマキアスから書類に目を落す。

 

「おい! 無視するなっ!」

 

 バンッと机を叩き、乱れた筆跡にユーシスはため息を吐くと手を止めて顔を上げる。

 

「何の話だマキアス・レーグニッツ」

 

 棘のある言葉とクマのある顔に睨まれてマキアスは思わず怯む。

 

「もしかして寝ていないのか?」

 

「仮眠は取っている……そんなことはどうでも良い。それで要件は?」

 

 手を止めたユーシスに合わせて執事やメイドが部屋に入って来ると、軽食とお茶の準備を始める。

 マキアスをダシにして休憩を取らせようとする家臣たちの動きを横目にさっさと話せとユーシスはマキアスを睨む。

 

「っ……《ティルフィング》を公爵家で買い取りたいと打診をしているそうじゃないか。いったいどういうつもりだ?」

 

「何だそんなことか……」

 

 差し出された紅茶を受け取りながらユーシスは肩を竦める。

 

「そんなことって……」

 

「今のクロイツェン州は当主であるヘルムート・アルバレアの突然の死去によって混乱している」

 

 いきり立ちそうになったマキアスの機先を制するようにユーシスは理由を淡々と告げる。

 

「オリヴァルト殿下の呼び掛けによってクロイツェン州の貴族連合もようやく大人しくなってくれたが、奴等は俺を認めたわけではない」

 

 彼らの媚びを売るようになった目を思い出してユーシスは不快そうに顔を歪める。

 

「奴等が今、大人しくているのは復活したオズボーンを警戒してるからだ……

 この内戦の後始末が済めば、温情でアルバレア家が存続されていることも分からない馬鹿な貴族達は次期アルバレアの座を狙って俺を引き摺り下ろそうとするだろう」

 

「それが《機神》の買取とどう繋がるって言うんだ?」

 

「《機神》は《騎神》に並んで《機甲兵》を圧倒するだけの“力”の象徴になる……

 クロイツェン州の生き残った貴族達を牽制するのに《機神》は利用できるという話だ」

 

「そんなリィンの《機神》をそんなことに利用するなんて間違ってる!」

 

「ならばこのまま五機の《機神》が全て帝国正規軍のあの男に接収されるのを指を咥えて見ていろと?

 貴様はそれで良いのかもしれないな。《機神》を中心にした新たな師団を新設されれば貴様はそこの隊長になれるのだから」

 

「ど、どこでその話を……?」

 

「ふん……」

 

 怯むマキアスに答えずユーシスは鼻を鳴らす。

 

「貴様たちと俺のしていることは同じだ。責められる謂れはない」

 

「いや、待て! 僕達だって機神部隊の設立の話を受け入れたわけじゃない!」

 

 慌ててマキアスは否定する。

 《機神》は《騎神》に劣るものの、《機甲兵》を凌駕する性能を持っている。

 個人で所有していて良い“兵器”ではないことことから内戦の後始末が終わり次第、接収して正規軍に取り込もうとしているのが鉄血宰相の考えである。

 それに対してオリヴァルトは《機神》はあえて《Ⅶ組》に預けようと考え、意見をぶつけ合っている。

 

「正規軍には《蒼》だけではない、クロスベルに配備されているとは言え《金》も《灰》も大局的に見ればオズボーンの傘下にある……

 内戦が正規軍の勝利で終わったとは言え、《騎神》の恐怖を過剰に振り撒けば貴族が再び暴走しないとも限らない……

 さらに言えば《機神》がアルバレア家にある限り、クロイツェン州の貴族達は表立って俺に逆らう事はなくなるだろう」

 

「それは……そうかもしれないが……」

 

「――と言うのはあくまでも建前だ」

 

「え……?」

 

「《機神》は俺達只人が唯一《騎神》の……いや超帝国人達の戦いに踏み込める手段だ……

 オズボーン宰相の言う通りにして《機神》を接収されれば、俺達はクリスの戦いの蚊帳の外に追いやられる……

 お前はリィンを見送ったことを繰り返すつもりか、マキアス・レーグニッツ?」

 

「それは……」

 

 ユーシスの指摘にマキアスは言葉を詰まらせる。

 

「お前は元々オズボーン側の人間だからそれで構わないのかもしれないがな」

 

「僕がいつオズボーン宰相の手先になったと言うんだ!?」

 

「自分の立場を忘れたのか?

 お前は鉄血宰相の盟友と呼ばれているレーグニッツ知事の息子――であり、貴族と平民の架け橋となった《超アイドル》だろ?」

 

「っ! それは――」

 

「そんなお前とは違って俺はアルバレア家存続のためにもクロイツェン州の貴族を平定させろとオズボーン宰相から要請を受けている……

 《機甲兵》を隠し持っているかもしれない貴族を相手にするなら《機神》は必ず必要になるだろう」

 

「そうかもしれないが……本当にそれだけか?」

 

 ユーシスの理論武装に怯みながらもマキアスはそれだけではないだろうと踏み込む。

 

「…………何のことだ? 今言った二つの理由以上に《機神》を手元に確保しておく理由など――」

 

「今の君はエリオットと同じ空気を纏っている気がする」

 

 マキアスの指摘にユーシスは黙り込む。

 

「図星か? 復讐の相手は……ルーファス教官か?」

 

「うるさい、お前には関係ない」

 

「ユーシス、君のお父さんの事は残念だったかもしれない。だが彼は貴族連合の重鎮でケルディックの焼討を主導したりレグラムに侵攻しようとしていた……

 カイエン公が起こした異変にも何処まで関わっていたか……

 ルーファス教官がその手で討ち取ったからアルバレア家の取り潰しだけは免れたのだから教官を恨むのは筋違いだろ?」

 

「知ったような口を利くなレーグニッツ」

 

「ユーシス……」

 

 何故ユーシスがこれ程憤るのかマキアスは理解に苦しむ。

 平民に産ませた子供として引き取っていながらも冷遇して蔑ろにした父親。

 他人の家の事情に口を出すべきではないが、ユーシスの出生にマキアスは嫌な事を思い出さずにはいられない。

 そして共に学院生活を送っていた時もユーシスは父親に良い感情を抱いていた様子はなかった。

 

「ああ、そうだ。今更父上の擁護をするなど俺もおかしいと思っている……だが……」

 

 マキアスの疑念の眼差しにユーシスは頷く。

 今日まで領主代行として忙殺されて振り返る事をしなかった己の心の内に目を向けたユーシスはヘルムートへの感情を吐露する。

 

「それでも……あの人は俺の“父上”だったんだ……」

 

 失ってから気付いた父に向けていた期待。

 冷遇する父から目を背けていたユーシスはそれでも彼に求めていたものに気付いた。

 

「ああ、分かっている……

 ルーファス・アルバレアが父上を殺さなければ、一族郎党処刑されていたかもしれない……

 リィンが父上を救わなかったのも、救えなかったのだと言う事も分かっている……だが……」

 

 胸の奥から込み上げて来る“熱”を解消する方法をユーシスは知らない。

 

「俺は結局、あの人に認めて欲しかったんだと今になって気付いたんだ」

 

 溜めた想いを吐き出して、ユーシスは恥じるように顔を手で覆い隠す。

 

「今のは忘れろ」

 

「え……?」

 

「よりにもよって貴様などに話すことになるとは……」

 

 珍しく赤面して屈辱を噛み締めるユーシスにマキアスは不謹慎だと考えながらも笑いたくなる。

 エリオットの様に復讐に盲目になっているのではないかと心配したが、思っていた以上に理性的でマキアスは安堵する。

 

「安心しろ……安易な復讐をしようなどとは思っていない……

 あの男の有様を見れば、復讐の焔に身を任せる気にはなれん」

 

「……そうだな」

 

 復讐を免罪符に好き勝手に破壊と暴力を振り撒いたクロウの事を考えると、その身を復讐に委ねる事にはどうしても躊躇ってしまう。

 

「だが、このままで済ませるつもりはない……

 ルーファス・アルバレアとはいずれ決着は着けなければならない。そのためにも俺には《機神》が必要なのだ」

 

 固い決意を感じるユーシスの言葉にマキアスは肩を竦めてそれ以上の文句は呑み込む。

 理性的に物事を考えている以上、マキアスがこれ以上とやかく言える事ではない。

 そして元よりマキアスには《機神》の処遇を決める権限はない。

 五つの機体をどうするかは結局のところ、オズボーン宰相とオリヴァルト皇子の判断に委ねるしかない。

 

「人の心配をするよりも自分の心配をした方が良いのではないか?」

 

「僕の?」

 

「リィンほどではなくても、お前は歌で貴族と平民の戦いを止めた英雄だ……

 オズボーン宰相の盟友のカール・レーグニッツの息子という事も含めて、お前には利用価値がある……

 機神の部隊を作る理由はお前をそこに縛り付けておきたいと言う思惑があるのだろう」

 

「いや……でも僕なんて……」

 

「そう思いたければそう思っていればいい。忠告はした。そして俺を巻き込むなよ」

 

 ユーシスは学院祭での事を思い出しながらマキアスに釘を刺す。

 

「僕のこれからか……」

 

 ユーシスの指摘にマキアスは考え込む。

 これまで父やオズボーンとオリヴァルトの秘書の一人の様に彼らの小間使いとして各地に派遣されていたのがマキアスの戦後処理の仕事となっていた。

 《機神》の取り扱いに関しての抗議もその一環だったのだが、それも落ち着き始めている。

 マキアスは他の《Ⅶ組》の仲間達と違って内戦で失ったものは少ない。

 家族は健在で、元々の地位も革新派の重鎮であるため戦後処理で処分される心配はない。

 そしてアリサやユーシスの様に家族の不幸があっても支えなければならない会社や領地があるわけでもない。

 せいぜい《魔煌兵》に実家を踏み潰された程度の不幸しかなかったマキアスは《Ⅶ組》の中で圧倒的に恵まれている方だろう。

 

「このまま何もしなければ、改めてアイドルデビューか……もう一度言うが俺を巻き込むなよ」

 

「そっ……それだけは何としても回避しないと」

 

 ユーシスの呟きにマキアスは戦慄する。

 

「トールズ士官学院が再開したら君は戻って来るのか?」

 

「まだ何とも言えないな」

 

 マキアスの問いにユーシスは肩を竦めて答える。

 

「戻る余裕があるかは分からないが、できれば卒業はしたいと考えている……そこら辺はサラ教官が何か考えてくれるそうだ」

 

「アリサ君もラインフォルトを立て直すために学院に戻るのは厳しいと言っていたよ」

 

「そうか……」

 

 クロイツェン州に籠っていて知らなかった《Ⅶ組》の動向にユーシスは耳を傾ける。

 家族が傷付けられたガイウスもノルドに戻り、フィーは修行の旅を計画している。

 エマは“魔女の里”に戻り《Ⅶの輪》の維持と《騎神》についての調査。

 シャーリィとミリアムはそれぞれ帝国政府の依頼と任務を終えて《Ⅶ組》に戻る理由はない。

 

「学院に残るとしたらエリオットとラウラか? いやエリオットは確か正規軍にスカウトされているんだったな?」

 

「ああ、だけどエリオットは悩んでいたよ。後はクリスだけど……いや彼の場合はいつ目覚めるかが問題だけど、それ以上に体が無事なのかどうか」

 

 マキアスは《蒼》との戦いでボロボロになった《緋》の姿を思い出す。

 一目見れば勝った方が逆なんじゃないかと思える程に《緋》は損傷して、起動者であるクリスも未だに目を覚ましていない。

 エマの診断では回復のため深い眠りについているらしいが、リィンのことがあっただけに不安が消えない。

 

「それで? もう一度聞くがお前はどうするつもりだマキアス・レーグニッツ」

 

「僕は……」

 

 このまま士官学院に入学した時と同じ目標のままで良いのかとマキアスは悩む。

 黒い噂があっても、今回の内戦でオズボーン宰相に落ち度らしい落ち度はほとんどない。

 それに加え、オズボーン宰相とオリヴァルト皇子が友好を結んだことからマキアスには反鉄血宰相主義に傾く理由はない。

 

「僕は……」

 

 傾く理由はないのだが、父やオズボーンに倣って同じ道を進むことにしこりを感じてしまう。

 

「…………まだ士官学院が再開するわけではない。すぐに決める必要はあるまい」

 

 マキアスの葛藤にユーシスは特に何かを追究せず、話を切り上げる。

 しかし、マキアスの頭には今後の展望の葛藤がいつまでも残り続けるのだった。

 

 

 

 

 






その頃の鉄機隊筆頭

「ぐぬぬぬぬっ! ぐぬぬぬぬぬぬっ! おのれラウラ・S・アルゼイドッ!」



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