(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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黎で帝国のあのクラスとⅦ組の事を持ち上げようとして思う事。
帝国内でⅦ組の功績ってどれほど認知されていて、個人を把握されているのだろうか?
自分的にはⅦ組はリィンとその仲間達くらいの認識しかされてないんじゃないかと考えてしまいます。




72話 エピローグⅣ

 

 

 

「本当に良いのか?」

 

 ナイトハルトはエリオットに向き合い確認する。

 

「はい……もう決めたんです」

 

 どこか憑き物が落ちたように力のない顔でエリオットは笑う。

 その顔にナイトハルトもようやく重い荷物を肩から降ろしたように息を吐く。

 

「父さんには申し訳ないけど……僕の復讐はもうこれで終わりにします」

 

 内戦の中、正規軍を鼓舞し《機神》を駆り、戦の先頭に立って駆け抜けたエリオットはそこにはいなかった。

 

「いや、クレイグ中将も納得してくれるだろう」

 

「…………そうだと良いですね」

 

 空を見上げて改めてエリオットは自分が口にした宣言の事を考える。

 ガレリア要塞襲撃の際、《猟兵王》に父オーラフ・クレイグを殺されて復讐のために力を求めてがむしゃらに戦って来た。

 一番の目標はそれこそ《猟兵王》を殺すことだったが、そもそもオーラフを殺すように“猟兵”に依頼したのは貴族連合と帝国解放戦線だった。

 貴族連合はまだ各地の残党の後始末は残っているが瓦解するのも時間の問題。

 帝国解放戦線も生き残りはいるが《C》だったクロウの末路を見せられて、がむしゃらに復讐に突き進む事への愚かしさにエリオットの中の復讐心は彼らへの溜飲を下げていた。

 

「猟兵王への復讐は、フィーやシャーリィに任せることにします……

 元々僕が“猟兵王”に挑むなんて分不相応だったんですから」

 

「そうか……それを聞いて安心した」

 

 内戦中、ずっと前のめりの殺意に囚われていたエリオットだったが、今は士官学院に入学した頃の顔にわずかでも戻っていることにナイトハルトは安堵する。

 

「フィオナも――フィオナ殿もそれを聞けば安心するだろう」

 

「ナイトハルト教官……今、姉さんのことを呼び捨てにしていませんでしたか?」

 

「気のせいだ」

 

 別の凄みを感じるエリオットの顔にナイトハルトは目を逸らして誤魔化す。

 

「それより君はこれからどうするつもりなんだ?

 君が望むなら第四機甲師団でクレイグ中将の後を継がせても良いとオズボーン宰相が言っていたが……」

 

 いくら内戦で活躍したと言ってもあり得ない人事。

 だが《機甲兵》を超えた《機神》に乗れるエリオットにはそれだけの価値があり、第四機甲師団ならば亡きクレイグ中将の忘れ形見としてエリオットの補佐に下士官たちは全力を尽くせる態勢は整っていた。

 

「……父さんの後を継ぐか……それも良いかもしれないですね……」

 

 復讐は道半ばで折り合いをつけてしまった。

 ならばせめて生前の父の願いであった軍人になることは叶えて上げるべきかとエリオットは考える。

 

「でも…………」

 

 しかしその言葉を漏らしてエリオットは黙り込んでしまう。

 

「何か迷いがあるのか?」

 

「迷いと言うか……やりたいことがあるんです」

 

「それはやはり“音楽”の道に進みたいと言う事か? 君がそうしたいのなら軍に遠慮などしなくても良いんだが」

 

「音楽……とは少し違うんです……ナイトハルト教官はリィンの事を覚えていますか?」

 

「リィン……? 誰だそれは……いや士官学院にそんな名前の生徒がいたような……」

 

「……覚えていないならそれで良いです」

 

 一ヶ月前までは覚えていた“リィン”の事をナイトハルトは忘れ始めている。

 これは何も彼に限った話ではない。

 《煌魔城》の存在が人々の記憶から薄れ始めているように、一度戻った“リィン”の記憶は再び忘却され始めている。

 エマの術が間に合わなければ、自分達もナイトハルトのように因果の傀儡となってしまう事にエリオットは恐怖さえ感じる。

 

「僕は……ちょっと特殊な場所で特別な導力魔法の修行をしてみようと思っているんです」

 

「特別な導力魔法?」

 

「まだ先方の許可を貰えてないから詳しいことは言えないんですけど……

 《煌魔城》の魔煌化をカレイジャスの“唄”で対抗していた術を覚えられれば良いんですけど」

 

「それは……」

 

「魔術に関してはエマが専門だから任せておけば良いのかもしれないけど……」

 

 リィンがその命を使って“世の礎”となり、クロスベルの脅威を、煌魔城の呪いを祓ってくれた。

 一時はどうして今更と感じたが、リィンは故郷のユミルを救えなかった事を知って一瞬でも彼をなじってしまった自分をエリオットは恥じた。

 

「この平和は一時的なもので、近い将来これ以上の《異変》が起きる……

 だからそのためにできることを増やして……今は音楽の事を考えても意味はないんです」

 

 まだ《騎神》にまつわる戦いは始まったばかり。

 復讐に折り合いをつけることができても、もう一人の《起動者》であるクリスの戦いが続いているのなら、悠長に音楽の道を究めてもいられない。

 音楽の道に進むことは戦う事を拒否する事。

 “夢”を叶えても今回の様な理不尽に全てが壊されてしまうなら意味はない。

 ただ守られるだけの一般人でいられる道がエリオットにはあるかもしれない。だが友達が命を懸けて戦っている事に目を逸らすことはできなかった。

 

「僕にできることがあるかはまだ分からないけど……それでも僕は僕なりに誰かを守る――父さんの遺志を継ぐつもりです」

 

「…………そうか」

 

「それに音楽は何も音楽院に通わなくても続けることはできますから」

 

 セントアークで演奏した時の事をエリオットは思い出す。

 多くの感情を昇華させて望んだ人生の中で最高だと自負できる演奏ができた。

 それもあって音楽への執着はかなり薄くなっていた。

 

「でも父さんが生きていたら、中途半端って怒鳴られるかもしれないですけど」

 

「いや……クレイグ中将も君の成長を喜んでいるだろう」

 

 本心からナイトハルトは今のエリオットに答える。

 士官学院で最初にクレイグ中将の息子として見た時は随分と頼りない気弱な子供だと思っていた。

 だが《Ⅶ組》に選ばれて、仲間達と特別実習を乗り越えて軟弱者だったエリオットは一歩ずつ確かな成長をしていった。

 内戦では感情のままに暴走してしまったが、今はそれさえも糧にして逞しくなった。

 

「ところでナイトハルト教官……」

 

「ん? どうしたエリオット?」

 

「結局姉さんとはどうなったんですか?」

 

「それは……」

 

 凄みのあるエリオットの笑顔にナイトハルトは怯む。

 

「確かに僕は正規軍のスカウトを断りますし、魔術の特訓を予定していますが、剣の鍛錬は続けるつもりです」

 

「そ、そうか。それは良い事だ……健全な肉体には健全な精神が宿るとも言うしな」

 

「ええ……ただもしナイトハルト教官が姉さんと交際したいと言うなら……父さんに代わって見極めさせてもらうので覚悟していてくださいね?」

 

 そう言って笑うエリオットにナイトハルトは決まりが悪そうに項垂れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ハーモニカの音色がそこに響く。

 カレイジャスの倉庫の一角。膝を着いた《零の騎神》の肩に座ったアルティナは静かにハーモニカを奏でる。

 曲の名は《星の在り処》。

 帝国で昔に流行った曲で、田舎ではいまも親しまれている定番の曲。

 彼女が長期の出張で帝都から離れた時を除き、決まった時間に流れるハーモニカの音色にオズボーンもオリヴァルトも執務の手を止めてその演奏に耳を傾ける。

 

「君の影……星のように朝に溶けて消えて行く」

 

 アルティナの演奏を聞きながら、エリゼは《零の騎神》の足に背中を預けてハーモニカの曲の歌詞を思い出す。

 まるで今の自分の心情だと思わず自嘲してしまう。

 

「アルティナちゃん……」

 

 物静かで人形みたいな少女。

 以前のアルティナから受け継いだ約束を果たすことを求めてハーモニカを吹く姿を横目にしながらエリゼは《零の騎神》を見上げる。

 

「兄様の嘘つき……」

 

 約束ならエリゼとリィンの間にもあった。

 ルフィナに促されたものではあるが、必ず無事に帰って来て欲しいと通商会議の時から事件に赴く度に言い続けて来た。

 だがリィンは帰らぬ人となってしまった。

 

「…………ちがう……兄様は約束を守ってくれた……」

 

 クロスベルの戦いから帰って来てくれた。

 帰って来て、その命と引き換えに帝都にいる全てを救ってみせた。

 帝都80万人を救った紛れもない“英雄”。

 しかし人々は、そして自分も再び“リィン”の存在を忘却しようとしている。

 だがその事にエリゼは自分でも信じられない程に動揺していなかった。

 

「………………」

 

 しかし《零の騎神》は今日も動く気配はなかった。

 そしてアルティナの演奏が終わり、格納庫に余韻の静寂が満ちて――

 

「アーちゃんっ!」

 

 それを待っていたと言わんばかりにミリアムが声を掛ける。

 以前は空気を読まずに演奏中に声を掛けて“大嫌い”と言われたミリアムは学習したのである。

 

「…………何ですかミリアムさん? 人を変な呼び方をするはやめてくださいと言ったはずです」

 

 ハーモニカから口を離したアルティナはジト目でミリアムを睨む。

 最大限の警戒心を示すアルティナにミリアムは今日は秘策があると言わんばかりににんまりと笑う。

 

「ふふん! 今日のボクには秘密兵器があるんだよ」

 

 上機嫌なミリアムにアルティナの視線の温度はさらに冷めたものになるが、ミリアムは気にせずにそれをアルティナに突きつける。

 

「オジサンにお願いしてボクもハーモニカを買ってもらったんだ! これならアーちゃんと一緒に演奏できるよね?」

 

 アルティナの銀のハーモニカに対してミリアムが取り出したのは金色のハーモニカ。

 オズボーンにおねだりして、クレアの実家の伝手を頼って手に入れた楽器。

 これさえあれば交流ができると信じて疑わないミリアムはアルティナの言葉を待つ。

 

「…………」

 

 期待に胸を膨らませるミリアムに対してアルティナは目は変わらず、すすすと音もなく後退る。

 

「アーちゃん?」

 

 その呼び掛けにアルティナは背中を向けて脱兎の如くその場から逃げ出した。

 

「…………今日も逃げてしまいましたね」

 

 二人だけが残された格納庫でエリゼが小さく呟くとミリアムががくりとその場に膝を着く。

 そんな哀れさを感じるミリアムの姿なのだが、すっかり見慣れてしまった光景にエリゼは肩を竦める。

 

「ミリアムちゃん大丈夫ですか?」

 

「うう……アーちゃんが冷たい……ボクはお姉ちゃんなのに……」

 

 抱き着いて来たミリアムを突き離せずエリゼはため息交じりにその頭を撫でて慰める。

 アルティナの気持ちはエリゼも分かる。

 分かるのだが――

 

「ねえ、エリゼは何かしないの?」

 

 切り替えたミリアムはエリゼの顔を下から覗き込んで尋ねる。

 

「何か……ですか?」

 

 ミリアムの質問の意図が分からずエリゼは聞き返す。

 

「うん、みんなこれからの事を考えてるけどエリゼは何をするのかなって?」

 

 無邪気な問いにエリゼは目を細めながら聞き返す。

 

「そういうミリアムちゃんはどうするつもりですか?」

 

「ボク? リィンが戻ってこれなかったのはオジサンが関わってるみたいだから、それを探ってみようかなって考えてるけど?」

 

 ミリアムが選んだの彼女の立場からしたら現状維持だった。

 決戦の直前にタイミング良く現れたかもしれないが、ミリアムにはオズボーン宰相を悪し様に語る理由はない。

 率先して彼を裏切るつもりはないが、仕事を抜きにして《Ⅶ組》に肩入れしても良いと言うのがミリアムの心情であり、言葉にされなかったがオズボーンもそれを望んでいるように感じていた。

 

「それでエリゼはこれからどうするの?」

 

「私は……」

 

 ミリアムの問いにエリゼは目を伏せて口ごもる。

 

「やっぱりユミルを復興するの?」

 

「一応……そのつもりです」

 

 アリサの調査では崩壊したユミルの更に上の、《零の騎神》が現れたとされる場所から温泉が湧き出ているらしい。

 少し標高は上がるものの、周辺の地盤は何故か安定していることもあり、そこがユミルを再建する候補地となっている。

 ログナー家とも和解が――シュバルツァー家に掛けられた誤解が解かれて復興費用は侯爵が全額負担してくれることとなった。

 エリゼもその復興の手伝いに、いつ再開するか分からないアストレイア女学院に残らず父達の手伝いをするために戻るべきなのだろう。

 それは頭では分かっているのに、エリゼは乗り気になれなかった。

 

「やっぱりリィンのお父さん達が忘れているから戻りたくないの?」

 

 単刀直入にエリゼが抱える悩みをミリアムは指摘する。

 帝都の戦いが終わり、書置き一つ残してアルフィンについて来てしまったエリゼはテオに導力通信で連絡を取り、叱られた。

 それは良いのだが、そこで尋ねた“リィン”の存在をテオもルシアも思い出してはいなかった。

 あくまでも帝都で《零の騎神》の姿を見たか、その恩恵を受けた者だけが一時的に記憶を取り戻しているだけだったことにエリゼはショックを受けた。

 

「クリスさんやキーアちゃんが、ずっと私に何かを言いたげにしていた気持ちが分かりましたけど……」

 

 クリスがずっと何かを言い出そうとしていた事。

 キーアが申し訳なさそうに俯いていた事。

 

「どうしてでしょうね……怒る気も……哀しいとも感じなくなっているんです」

 

 リィンがいないことにエリゼは自分が思った以上に悲嘆していないことに戸惑う。

 以前もリベールの浮遊都市から帰らぬ人となった事があったからなのか。

 それともこの内戦で多くの悲劇を目の当りにして、故郷さえも失ったからなのか。

 心が麻痺してしまってリィンの訃報を素直に悲しむことはできなかった。

 

「それだけじゃなくて……私はこの内戦の間……いえ、今も、姫様に付き従っていただけで何もできていませんでしたから」

 

 残党の処理や復興のために各地に飛び回りながらこれからの事を前向きに考えようとしている《Ⅶ組》に対してエリゼは自分が立ち止まっていることを自覚している。

 

「姫様もミルディーヌも……この内戦で自分達の役割を全うしたのに……」

 

「うーん、それは仕方ないんじゃないの? エリゼは男爵家程度の娘なんだからあの二人と違って責任も権力だって持ってないんだから」

 

「それだけじゃありません……姫様もミルディーヌもリィン兄様の事を覚えていたのに私は……私は……」

 

 アルフィンは起動者のクリスの双子だったから。

 ミルディーヌは彼女の義理の姉であるダーナによって因果の改変からリィンの記憶を保持していた。

 しかしその理屈はまだ明らかにされておらず、自分の想いさえも二人に劣っているとエリゼは思い知らされた。

 何もできず、想いの強さでも負け、心が疲れ切ったエリゼはただ立ち尽くす事しかできなかった。

 《Ⅶ組》は“重心”を失ったかもしれないが、“中心”が残っている。だから前に進める。

 しかしエリゼには“重心”であり“中心”でもあったリィンがいなくなった事に胸に穴が開いたような気がした。

 

「所詮私はしがない男爵家の娘に過ぎないんです」

 

 皇族でもなければ公爵のように人を動かす力もない。

 帝国全土に名を轟かせる大企業の令嬢でもなければ、裏に通じている“魔女”でもない。

 名のある武門の出でもなければ、戦闘のプロである猟兵でもない。

 名将と呼ばれた軍人の子供でもなければ、厳しい自然の中で生きて来た遊牧民でもない。

 何もかもが中途半端、彼への想いすら自分は一番下なのではないかとさえエリゼは考えてしまう。

 

「ふふふ、困っているようだね」

 

 これから何をして良いのか分からないと弱音を漏らすエリゼの背後に胡散臭い声を掛けられた。

 

「あ、ワイスマン」

 

 ミリアムは現れた男の名を呟く。

 

「迷っているのなら私が――」

 

 ワイスマンは眼鏡を怪しく光らせて人の良い笑みを浮かべてエリゼに――

 

「《クラウ=ソラス》」

 

 その背後に黒い戦術殻が突然現れる。

 

「あ……」

 

 ミリアムは見た。

 逃げたはずのアルティナが格納庫の扉の向こうから体を半分覗き込んで《クラウ=ソラス》に向かって小さく呟く。

 

「はこうけん」

 

「ごふっ!?」

 

 背後から《クラウ=ソラス》に殴られてワイスマンは派手に吹き飛ばされる。

 

「ん……」

 

 壁に叩きつけられたワイスマンをアルティナは満足そうに頷き、《クラウ=ソラス》にその首根っこを掴ませると引き摺らせて格納庫から出て行った。

 

「うーん……ワイスマンってあれでも《達人》に準じる術者のはずなんだけど?」

 

 首を傾げるミリアムは黙り込んでしまったエリゼに振り返る。

 

「フフフ、困っているようだなエリゼ嬢」

 

「あ、オジサン」

 

 突然のギリアスの登場にミリアムが驚く。しかし――

 

「《フラガラッハ》」

 

 再びアルティナの声が響くと《灰色の戦術殻》が現れる。

 

「はこうけん」

 

「がはっ!?」

 

 振り抜かれた鋼の拳が目にクマを作ったギリアスを捉える。

 

「オ、オズボーン宰相っ!?」

 

 ワイスマンはともかく帝国宰相を殴り倒したアルティナにエリゼは動揺する。

 

「ん……問題ありません」

 

「問題ないって……」

 

 目の前で気絶しているオズボーン宰相とそれを見下ろすアルティナを交互に見比べてエリゼは困り果てて――

 

「フッ……どうやらボクの出番のようだね」

 

 混迷極める格納庫にまた新たな声が響くと現れたのはオズボーンと同じように目元にクマを作ったオリヴァルトだった。

 

「エリゼ君。不安があるならボクが――」

 

「ん……」

 

 エリゼの手を取ろうとするオリヴァルトの前にアルティナが立ち塞がる。

 それを予期していたのか、オリヴァルトはさあ来いと言わんばかりに手を広げる。

 

「《ARCUS》駆動」

 

「え……?」

 

 ワイスマンとギリアスをそれぞれ抱えた戦術殻を背後に従えてアルティナは戦術オーブメントを翳して光弾を作り出し――撃った。

 

「おおおっ!?」

 

 流石にそれは予想外だったのかオリヴァルトは仰け反って顔面に飛んで来た光弾を避ける。

 その動揺の一瞬でアルティナはオリヴァルトに接近すると、右足を振り上げた。

 それはかつてとある家出少女が未来の超帝国人を一発で沈めた一撃。

 それはかつて凄腕の猟兵を一撃で戦闘不能にした蹴り技。

 

「あふっ!?」

 

 その一撃を受けオリヴァルトは目を見開いて崩れ落ちた。

 

「ア、アルティナさんっ!」

 

 宰相に留まらず皇子まで蹴り倒したアルティナにエリゼは今度こそ悲鳴を上げる。

 

「ん……問題ありません」

 

「問題しかありません。貴女はどうして……こうもっと穏便にできないんですか!?」

 

 内戦中、クロスベルから護衛としてずっと自分達について来てくれていたのだがアルティナの時々妙に過激になる行動にエリゼは未だに慣れない。

 

「どうして貴女は……」

 

 咎める言葉は尻すぼみになってエリゼは俯く。

 アルティナもそうだが、今しばかれた三人も過保護にエリゼに過干渉しようとしてくる。

 地位も力もない男爵家の娘を皇族以上に気遣う周りの態度に、エリゼは己の無力さと想いの弱さを突き付けられているようで、情けなくて泣きたくなった。

 

 

 

 

 









エリオットの進路

アリサ
「エリオット本気なの? エマの里に修行に行くなんて!?」

ラウラ
「エマの里と言えば“魔女の眷属”と呼ばれる者達の隠れ里なのだろ?
 そもそも部外者であるエリオットが行っても受け入れてくれるのだろうか?」

エマ
「あ、そこは大丈夫ですよ。隠れ里と言ってもそこまで閉鎖的ではないですから……
 それにエリオットさんが魔術を覚えてくれると言うのも私としても選択肢の幅が広がってありがたいですね」

フィー
「でもエリオットは良いの? 音楽の道に進みたいって言っていたのに」

エリオット
「うん、その音楽の道に将来進むためにも僕達はリィンとオズボーン宰相が言っていた二年後に備えないといけないと思うから……
 それに《Ⅶ組》の中でエマの補佐をするなら資質的に僕が適任だと思うんだ」

ユーシス
「適任か……魔導杖を使っている点ではその通りなのだが……」

マキアス
「エリオットが魔女に弟子入り……つまり……それは……」

ミリアム
「あははっ! それじゃあエリオットちゃんって呼んだ方が良いのだね」

エリオット
「…………………え?」

ガイウス
「言うなミリアム。大義のために夢を諦め、男を捨てる……リィンが命を礎としてくれたようにエリオットも……
 くっ……俺にはとても真似できないな」

マキアス
「そこまでの覚悟とは」

ユーシス
「エリオット、お前を友として、男として尊敬する」

エリオット
「…………え? ちょっと……何を言ってるの?」

エマ
「えっと……皆さん?
 確かに私たちは“魔女の眷属”と名乗っていますが、別に女系一族というわけじゃありませんよ?
 ちゃんと里には男の人はいますし、エリオットさんを去勢したりしませんよ?」

アリサ
「でもエリオットなら魔女になっても違和感がないような気がしない?」

エマ
「………………」

エリオット
「ちょっとみんな何を言ってるの!?」

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