(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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74話 エピローグⅥ

 

 

 

「そうか……出発してしまうのか」

 

 もしかすれば帝都ヘイムダルの皇宮よりも高いオルキスタワーの執務室で政務の手を止めたルーファスは惜しむようにスウィンとナーディアの提案を聞いていた。

 

「ああ、俺達がここであんたを手伝える事も少なくなって来たからな」

 

「なーちゃんはもっとだらだらしてたかったんだけどねー」

 

 真面目なスウィンに対してのんびりしたいと主張するナーディア。

 相変わらずの二人の様子にルーファスは苦笑する。

 

「君達二人は君達が思っている程に有用なのだがね」

 

 ルーファスがクロイツェン州から引っ張って来た自分の親派でも彼らは彼らなりの貴族としての野心を持っている。

 それを含めてうまく使うのが上に立つ者だが、その点では個人の野心の範疇から出ない二人はルーファスにとって扱いやすい手駒とも言えた。

 特にナーディアの情報処理能力は高い。

 その反面必要以上の作業はしたがらないが、それでも三人分の文官の仕事は楽にこなしてくれる。

 

「そりゃあナーディアは使えるだろうけど……」

 

「謙遜することはないよ……

 スウィン君も、先日民間人を戦線に近いアルモニカ村へと誘導した元国防軍のアジトを突き止めてくれたじゃないか」

 

「別にあの程度のこと、俺じゃなくたってできただろ。それに突き止めただけで奴等を捕まえたわけじゃない」

 

「だが、彼らに援助していた共和国側の議員やクロイス家のシンパとの繋がりの証拠を見つけてくれた……

 それは実行犯を捕らえるよりも遥かに有意義な功績だ」

 

 クロスベルを帝国が占領したからと言っても、その内側には共和国側の派閥の者達は数多くいる。

 それに加えて逮捕されたディーター大統領やアリオス・マクレインを支持しているシンパ。

 特に後者は民間人がいくら犠牲になろうが、クロスベルの独立ためには尊い犠牲だと言うくらいに歪んでおり流石《D∴G教団》を生み出したクロイス家のシンパと言える存在だった。

 

「それにしたって最終的な功績はロイド達のもんだろ?」

 

「ふむ……スウィン君はこう言っているがナーディア君はどう思う?」

 

「うん、是非すーちゃんの功績を号外で中央通りにばらまいて、それから中央広場の《鐘》の代わりにすーちゃんの銅像を建てるのが良いと思うよ~」

 

「では、そのように――」

 

「おいおい待て待てっ!」

 

 ナーディアの思い付きに真顔で動き出すルーファスをスウィンは慌てて止める。

 彼らが本気ではないと分かっているが、下手に止めなければ悪ノリで本当にやりかねない。

 

「ともかく! 重宝してくれるのはありがたいが、そろそろエースの墓参りに行っておきたいんだ」

 

「エース……ナーディア君のお兄さんだったかな?」

 

「ああ……エンペラーを倒したから……《組織》の追手を掛けられても今の俺とナーディアなら撃退もできるはず……

 内戦から今日までの給料で資金もたっぷりある……

 それに《零の騎神》の起動実験……ここを出発するのには良い区切りだから」

 

「ふふふ、お仕事を優先して今まで泣く泣く見過ごしてきたスウィーツの数々がなーちゃんを待っているのだ~! というかもう働きたくな~い」

 

 改めて《組織》から解放され自由を得たと実感が湧いて来たのかおかしなことになっているナーディアのテンションをルーファスとスウィンは生温かく見守る。

 

「まあそういう感じで今まで仕事で出向いた場所を巡りながらエースの墓参りに行くつもりだ」

 

「なるほどそれでは引き留めるのは無粋かな」

 

 ルーファスはスウィンとナーディアの離脱を認める。

 二人の能力は確かに有力だが、決して他で代用できないわけではない。

 

「しかし帝国から出ると言うのならちょうどいい」

 

「それはどういう意味だ?」

 

 聞き返したスウィンにルーファスは執務机の上にある資料を準備していたように置いた。

 

「カルバード共和国に赴くことがあれば、この二つの組織について少し調べて欲しい」

 

「…………《アルマータ》と《斑鳩》?」

 

 資料を手に取り、そこに書かれた名前をスウィンは読み上げる。

 

「そこのボスであるジェラール・ダンテスが君達を襲ったメルキオルと共に帝国から共和国へと戻っていることを確認している……

 君達がいた《庭園》と共和国マフィアの《アルマータ》……

 彼らがどれ程の関係にあるのか、君たちにとっても無関係ではないことだろ?」

 

「ああ……」

 

 《庭園》の一つを束ねていた《皇帝》を殺すことに成功したものの、それは《組織》にとっての一部でしかない。

 残った《組織》が共和国のマフィアと関係を持ち、戦力強化されると言うのならルーファスの言う通り無視できることではない。

 

「こっちの《斑鳩》って言うのはたしか共和国の猟兵団だったよね~」

 

「ああ、そちらは私が戦ったドラッケンに乗っていた女剣士の所属だ……

 どうやらリィン君が関わっているようでもあるので、接触できたらその辺りの事情を聞き出して欲しい」

 

「ああ、分か――」

 

「ふふん、すーちゃんとなーちゃんをタダで使おうとするのは良くないんじゃないかな~」

 

「もちろん、情報にはそれなりの値段をつけさせてもらうさ」

 

 快く承諾しようとするスウィンの言葉を喘ぎったナーディアの催促にルーファスは顔色一つ変えずに応える。

 やれやれとスウィンは肩を竦める。

 

「ついでに忠告させてもらえば、これから二年は帝国に寄り付かない方が良いだろう」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「およそ二年後、内戦を超える《騎神》同士の戦いが本格的に始まることになるだろう……

 戦闘の規模はもちろん、どんな戦いになるかも不明だが、あの《零の騎神》に匹敵する存在と戦うことは決まっているだろう」

 

「《零の騎神》に匹敵するって……」

 

「とんでもねえな」

 

 帝国の内戦だけでも《機甲兵》という新技術が入り乱れナーディア達にとって既存の戦争の概念が壊されたというのにそれを超える戦争。

 二人は《零の騎神》が起こした奇蹟を基準に考えて唸る。

 あんな規模の戦いに生身で巻き込まれでもしたら、それこそ肉片も残らないのではないだろうか。

 

「今回はまだ人の争いの範疇だったため君達を雇ったが、私もセドリック皇子も、そしてリィン君も己の身を守れない者に協力をして欲しいとは思っていない……

 その上で聞くが、いくらなら君達は私に雇われてくれるかな?」

 

「おい」

 

 散々危険を煽って来たルーファスにスウィンは白い目を向ける。

 

「準起動者は《騎神》に対しての外付けの電池のようなものでね……

 私はこの二年を使ってクロスベル市民を掌握して、準起動者に仕立てようと考えている。君達もそれに加わらないかね?」

 

「うわぁ~外道過ぎ~」

 

 臆面もなくクロスベル市民を電池に利用すると言うルーファスにナーディアはドン引きする。

 

「彼らが取り壊しを拒否するこのオルキスタワーのシステムを有効利用して上げるだけだよ……

 市民の想念を徴収する限度については《零の至宝》が錬成された際に安全だと証明されている。ならば総督である私が使って何が問題だと?」

 

「うん? それってきーちゃんに代わって《零の至宝》になるってこと?」

 

「今の私の体はそこに至れる“器”ではないよ。ただ《騎神》を動かす力に利用するだけさ」

 

 その身を“不死者”にすればキーアやリィンの様にその身を《至宝》に至らせることは出来るかもしれないが、それこそまだ確証を得られていない机上の空論に過ぎないのでルーファスは黙っておく。

 

「ま……アンタもいたずらに誰かを生贄にするような奴じゃないって分かってるからとやかく言わないけどさ」

 

 何処まで本気なのか分からないルーファスの胡散臭い笑みにスウィンはため息を吐く。

 彼の言葉を信じるのなら、二年の間帝国には近づかない方が良いと思う。

 だが、その一方でその《騎神》の戦いの規模が帝国で収まり切らないものになるのだとしたら、嵐の中にいるよりも中心にいた方が生き残る可能性は逆に高くなるかもしれない。

 

「二年後についてはその時になったら考えさせてくれ」

 

「そうだね~今から二年後って言われてもなーちゃんもあまり良く分からないかな~」

 

 暗殺者として刹那的に生きて来たからなのか、二年後の備えというのに今一つスウィンとナーディアは気のない言葉を返す。

 

「アンタやクリス、それにリィンさんに申し訳ないけど、今は自由に世界を歩き回りたいんだ」

 

 働きたくないと言っていたナーディアとは別に意味でスウィンも限界に達していた。

 組織から逃げたいと思う程に切望していた自由。

 まだ全てのしがらみを清算できたわけではないが、それでも世界を二人で歩くだけの力がある今、思うがままに過ごしてみたいのがスウィンの願いだった。

 

「ああ、それは君たちにとって得難い経験になるだろう」

 

 自由に思いを馳せるスウィンにルーファスは少しだけ羨ましそうな顔をして微笑む。

 

「君たちはトールズ士官学院の生徒ではなかったが、私は君達も教え子だったと思っているよ」

 

「ルーファス……」

 

「何かあれば連絡をすると良い。立場上駆け付けて上げることはできないが、導力ネットを利用すれば資金援助くらいはして上げられるからね」

 

「おおおっ! それは最高の支援だよっ!」

 

 ルーファスの申し出にナーディアは歓声を上げる。

 そんな無邪気な反応にスウィンは肩を竦めて、ルーファスに向き直る。

 

「あのさ……こういうことするのは初めてなんだけど……」

 

 決まりが悪そうにスウィンはルーファスの前まで来ると、利き腕の右手を差し出した。

 

「アンタやリィンさん達のおかげで俺達は“人間”になれた……他にもいろいろ言いたいことがあるけど、とにかく感謝している。ありがとう」

 

 差し出された手にルーファスは苦笑する。

 

「それは私の台詞だ」

 

 多くを語るつもりはないが、自分達が内戦で好きに動くことができたのは彼らが大人顔負けの働きで裏方として支えてくれたからに他ならない。

 彼らの“暗殺者”のしがらみや呪いに縛られながらも、前に進もうとしている姿にはルーファスにとっても多くの事を考えさせられた。

 差し出された手にルーファスは思う。

 初めてだと言うスウィンに対して、それはルーファスにとって当たり前の外交手段の一つだった。

 そう言う意味ではルーファスにとって、差し出されたそれは新鮮な心地がした。

 

「君達の旅路に幸多からんことを女神に願ってるよ」

 

「そっちも次ぎ会う時までちゃんと生きてろよ」

 

 ルーファスとスウィンはそう言って握手を交わした。

 

 

 

 

「父上、僕たちはどうすれば良いんですか?」

 

 その少年は不安げに父である皇帝に今後の未来を尋ねていた。

 

「オズボーン宰相が撃たれて……カイエン公が見たこともない機械人形を引き連れて……もう何がなんだか……」

 

 皇帝はどこか諦観したように状況を受け止め切れていない息子を諭す。

 

「セドリック……今はカイエン公に従っていればいい」

 

「父上がそう言うなら」

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「アルフィンや兄上は大丈夫かな……?」

 

 カレル離宮に幽閉されながら少年は窓の外を眺めて、ここにはいない兄姉の無事を祈る。

 

「大丈夫ですよ。オリヴァルト皇子には兄がついています……

 アルフィン皇女もきっとヴァンダールの者が保護してくれるはずです」

 

「クルト……」

 

「父上もこの状況で黙っているはずはないでしょう。ですからもう少しの辛抱です」

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「あ……あああ……」

 

 目隠しをされ、《緋の玉座》に縛り付けられた少年はただ悲鳴を上げるしかできなかった。

 

「悪いな皇子様」

 

 傍らには同情はしていると良い人の姿を誰かにアピールしているような《蒼の騎士》がいる。

 

 ――どうして僕がこんな目に……誰か助けて――

 

 苦しみもがく皇子をそこにいる者達は誰も助けようとしない。

 

 ――父上……兄上……アルフィン……クルト――

 

 皇子の求めに応える者は終ぞ現れることはなかった。

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「クルト、実は相談があるんだ……あの日から僕は夢を見るんだ……緋色の――」

 

「セドリック殿下、本日はお別れを言いに参りました」

 

「クルト!? それに殿下って!?」

 

「本日を持って僕は皇族の守護役を解任させられました。申し訳ありませんが、以後僕は貴方の隣に立つことはできません」

 

「何を……何を言ってるんだいクルト? そんな他人行儀に……僕達は――」

 

「それでは失礼します」

 

 親友だと思っていた少年は言うだけ言って去って行った。

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「些か躊躇われるが……一つ、殿下に提案がございます」

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「…………これは夢だ……」

 

 一連の光景をセドリックは冷めた眼差しでそう判断した。

 しかし、それはただの夢ではない。

 あの日、クリス・レンハイムになる事を選ばなかった自分の末路なのだとセドリックは理解していた。

 

「キーアが見ていた未来? …………いや、これが本来の僕か……」

 

 皇族としての責務を果たさないどころか、カイエン公にノコノコついて行って利用される自分の愚かさにため息を吐く。

 

「クルトが愛想を尽かせるのも当然か……」

 

 上に立つ者の役割を果たさない皇族に価値はない。

 ユーシスが言う“貴族の義務”と同じ“皇族の義務”。

 それを果たさず、意志を持たずに流された者の末路としてはそうなっていた自分が容易に想像できてしまう。

 

「でも……」

 

 同時に考えてしまう。

 自分がクリス・レンハイムになった事で起きた変化。

 愚かな次期皇帝を確保していたからこそ、貴族連合は余裕があり内戦の被害は大きくなり過ぎることはなかった。

 

「僕にとってはマシだったかもしれないけど……こんなことになるなら僕は……」

 

 ユミルがなくなることはなかった。ケルディックの被害も小さく済んだ。イストミア大森林が燃えることはなかった。

 そして何よりリィンが消えることはなかった。

 自分が動かなければ、もっとマシな未来があったのではないかと考えてしまう。

 

「そんなことないだろ……クリスは良くやっていた」

 

 気付けばセドリックは深紅の制服を着て、夕暮れに染まったⅦ組の教室にいた。

 

「それでも……僕じゃなければ……リィンさんだったらもっとうまくできたはずです」

 

 一つの机を挟んで座っているリィンにセドリックは言葉を返す。

 

「買い被り過ぎだ。俺はクリスが思っている程、大層な人間じゃない」

 

「そんなことはない! リィンさんは“英雄”で! “超帝国人”じゃないですか!」

 

「……うまくできなかったから、俺は内戦に関われなかったんだ」

 

「っ……それは……」

 

「キーアを……クロスベルを見捨てていれば俺は――」

 

「違うっ! それは貴方だけの責任じゃない!」

 

「クリス……」

 

「リィンさんの気持ちは良く分かります……

 ああしていれば良かった。こうしていれば良かった。戦いに勝っても残るのは後悔ばかり……

 何より貴方がしている後悔は本来、僕や兄上達がすべき事なんです」

 

「…………」

 

「みんなどこかでリィンさんに任せておけば全て解決してくれるって身勝手な期待をしていたんです……

 僕達に降り掛かった不幸はリィンさんに頼り切っていたツケが巡って来ただけなんです」

 

「それでも……俺はユミルが滅びるのを見ている事しかできなかった」

 

「見ているだけじゃなかったじゃないですか!?

 リィンさんはあんな状況になっても僕達を助けるために力を貸してくれていた。それなのに守れなかったのは僕達で……謝るべきなのは僕達なのに……」

 

「クリス……強くなったな」

 

 もしかすれば家族たち以上に言ってもらいたかった言葉なのだが、それを無邪気に喜ぶことはできなかった。

 

「クリス……後は頼む」

 

 そう言ってリィンは“太刀”をセドリックに差し出した。

 

「それは……」

 

 差し出された“八耀の太刀”にセドリックは目を剥いた。

 

「…………何を……何を言っているんですかリィンさん!?」

 

 差し出した“八耀”の意味を拒絶するようセドリックは喚く。

 

「クリス……君が《黒》を倒すんだ」

 

「そんな……何で、そんな事を言うんですか――っ!?」

 

 顔を上げて激昂したセドリックはそれを見て絶句した。

 “太刀”を差し出したリィンの半身はゼムリアストーンの結晶に覆い尽くされていた。

 しかもただ覆われているだけではない。

 生身の肉体を浸食するように結晶はリィンを覆い尽くし、そしてその結晶は端から砂になるように砕けて消えて行く。

 

「リィンさん……」

 

 まるで命が砕けて行く様にセドリックは言葉を失う。

 

「――すまない――」

 

 申し訳なさそうにリィンが目を伏せると、結晶は彼を瞬く間に覆い隠し――砕け散った。

 受け取られることがなかった“太刀”は床に落ちて――

 

「リィンさんっ!」

 

 セドリックは手を伸ばして――目覚めた。

 

「あ……」

 

 虚空に伸ばした手を呆然と見据え、セドリックは周囲を見回した。

 

「ここは……《カレイジャス》?」

 

 見覚えのある部屋にセドリックは何故、自分はこんなところで寝ているのかと首を傾げる。

 

「そうだ……内戦は……僕はクロウを倒せたのか? ――っ!?」

 

 ベッドから抜け出そうとして体に激痛が走り、セドリックは悶絶して床に倒れる。

 その音を聞きつけたのか、廊下の向こうで慌ただしい動きを感じる。

 

「くっ……体が……いたい……」

 

 全身に感じる痛みに四苦八苦しながらセドリックは己の体の状態を確かめる。

 幸いな事に何処かの部分が動かなかったり、機能がなくなっている様子はない。

 しかし、この倦怠感は内戦の始まりでノルドで目覚めた時よりも酷かった。

 

「お目覚めになられたようですね。セドリック皇子」

 

「………………オズボーン宰相……」

 

 ベッドに座り直したところで、部屋の扉が開き現れた宰相にセドリックは顔をしかめる。

 

「内戦はどうなりましたか? クロウは!? それにリィンさんも!?」

 

 目覚めたばかりだと言うのに、内戦の結末をセドリックは尋ねる。

 

「落ち着いてください殿下」

 

 消耗から最低限回復しただけの体で詰め寄るセドリックをギリアスは宥め、一つ一つセドリックの疑問に答えてくれる。

 今は内戦の決戦から三ヶ月。

 クロウは騎神との戦いで一命を取り留め、カイエン公に騙されていたことに気付き、己の罪を償うために正規軍の先兵として戦っているらしい。

 《Ⅶ組》は、トールズ士官学院がまだ再開の目途が立たない事からそれぞれが実家に帰省して復興作業に従事している。

 ルーファスなどのセドリックと共に戦った第三陣営もそれぞれのすべき事を成すために帝都にはいない。

 

「――こんなところでしょうかね? 殿下の方から聞きたいことはありますかね?」

 

「…………リィンさんは……どうなったんですか?」

 

 大人しくギリアスの報告を聞いていたセドリックは彼が触れていなかった名前を口に出す。

 

「リィン・シュバルツァーですか……」

 

 ギリアスは一度目を伏せ、口を重くして告げる。

 

「先日、クロスベルにて秘密裏に《零の騎神》の起動実験が行われました」

 

「起動実験……?」

 

「ええ……《零の御子》を搭乗させ“至宝”の再錬成作業についての調査実験になります」

 

「結果は?」

 

 一縷の望みを抱いてセドリックは尋ねる。

 

「結論から言えば実験は失敗しました……

 《御子》は機体に吞み込まれかけて暴走……

 《金》と実験に立ち会った守護騎士と聖女、そして聖獣の二人によって《御子》は救助されましたので御安心を」

 

「そうですか……」

 

 キーアが無事な事にセドリックは安堵する。しかし――

 

「ですが実験の結果、“七耀教会”“結社”そして“魔女の眷族”は彼は既に死亡したものだと判断しました」

 

「え……?」

 

「以後《零の騎神》はガレリア要塞に封印されることになるでしょう」

 

「…………え……?」

 

 ギリアスの報告にセドリックは耳を疑う。

 

「リィンさんが……死んだ……? そんな……何で……?」

 

「リィン・シュバルツァーが使った術は《魂魄》を二つに分けるものだったそうです……

 人間が《魂》と《肉体》を切り離してしまえばそれは死んだものと同じ……

 つまりリィン・シュバルツァーは命を賭して帝都を守ったと言う事になりますね」

 

「っ……」

 

 淡々とした口調で報告書を読み上げる様なギリアスをセドリックは睨む。

 

「何で……何でそんな風にしていられるっ!?」

 

「………………」

 

 セドリックの激昂にギリアスは黙り込む。

 

「リィンさんは貴方の息子だったんじゃないんですか!? それなのにどうして!?

 《黒の起動者》の貴方なら、こんな未来は変えられたんじゃないのか!?」

 

「全ては《黒の史書》の導き、とでも言っておきましょう」

 

「《黒の史書》……?」

 

「それが何であるかは貴方もいずれ知ることになるでしょう。あれは皇帝家が所有し、帝位を継いだ者に“中身”を読む資格があるのですから」

 

「…………それを何で貴方が知っているんですか?」

 

 皇帝家に伝わる何か。

 帝位を継いだ者しか読めないと言ったのに、まるでその内容を知っているかのような口振りにセドリックは違和感を覚える。

 

「ギリアス・オズボーン……貴方は何者なんですか?」

 

「今の私は平民出身のギリアス・オズボーン以外の何者でもありませんよ」

 

「でも――」

 

「しかし前世では別の名を名乗っていました」

 

「前世?」

 

「ドライケルス・アルノール……それが私の“裏”の名前ですよ。我が末よ」

 

 その言葉には口からの出まかせではない凄みがあった。

 慄き黙り込むセドリックにギリアスは不敵な笑みを浮かべて踵を返す。

 

「精進する事ですね皇子……

 二年後の《黄昏》は此度の内戦を超える地獄となるでしょう……そしてリィン・シュバルツァーの助けはもうない……

 つまりもう《黒》の邪魔をする者はいないと言う事に他ならないのですから」

 

「っ……貴方はっ!」

 

「貴方には期待しておりますよ。セドリック」

 

 そう言い残して去って行くギリアス・オズボーンにセドリックは拳を握り締めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

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