ウマ娘雑筆   作:三途リバー

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URAのゴルシの話です。
色恋とは別のベクトルでトレーナーへの好感度が振り切れてるゴルシが見たかったので書きました


操舵士に捧ぐ勝利

風が吹き抜ける。雲ひとつない晴天の元、青々と光る芝が陽光に照らされて輝く。

 

出来すぎだ。決戦の舞台におあつらえ向きの、絶好の良バ馬だ。

 

「眠……途中で止まっちまったらアイツに背負ってもらってゴールすっかな…」

 

そんな舞台に、場違いとすら思える呑気な声が響く。それに苦笑する者、白い目を向ける者、周りのウマ娘達の反応は様々だが、当の本人は気にすることも無くひたすらに空を見上げている。

 

黄金の不沈艦(ゴールドシップ)

 

その異名が現すのはデビュー以来不敗、無敵という単純にして至極の才。並み居る強豪をなぎ倒し、火花を散らすライバル対決に割り込んで主役をかっさらい、皇帝にさえ泥を付け、そして今URA決勝の大舞台に立つ()()のウマ娘。

 

そんな彼女が、心ここにあらずと言った顔でぼんやりと視線を漂わせる。観客の中には真面目にやれだの、しっかりしろだの叱咤とも罵声とも付かぬ声が投げ掛けられるがそれすら耳に入っているか怪しい。絶対王者に似ても似つかぬ体たらくである。

 

「ぁぁぁ〜〜〜ー……ノらねー………一晩目のカレーくらいノらねー……」

 

出走も近付いているというのに、尚もそのボヤキは止まらない。虚ろな目は空の青さを写すばかりでゲートの方を見向きすらしない。

 

「あんでかなー…なーんかやる気出ねぇんだよなぁ…大舞台ってのは分かってんだけどよぉ」

 

走るのは好きだ。勝つのも好きだ。それは間違いないし、譲れない。だというのに今自分の心は滾らない。

どこか客観的にそれを見つめるゴールドシップだったが、考えども考えども解決策もどうしたいすらも浮かばない。溜息を一つくれてなんとなく周囲を見渡したその時、()()が目に入った。

 

「あン?トレーナー?」

 

見るからに絶不調な愛バを目にしても、呆れも怒りもせずに笑って手を叩く呑気野郎が周囲の観客や学園関係者に怒鳴られている姿。ペコペコと頭を下げても、それでもその顔から笑みは剥がれない。

そのうちこちらの視線に気付いたバ鹿が、一瞬だけ目を見開いてまた笑った。そして、口を開いてナニか言っている。

 

「…………ふひっ。ふひひひっ」

 

うわぁ、というドン引きの声は隣の枠のウマ娘のものだろうか。

しかしそんなもの、ゴールドシップにはどうでも良い。

 

ふひひひひ、と年頃の乙女が出して良い声ではない笑いを漏らし、ゴールドシップはようやっと前を向く。

その目はもう虚ろなどではない。焔を灯し、真っ赤に燃える様はまさにレッドストライプ。

 

「ふっ……そうだ。それだよ、ゴールドシップ。私は()()()を倒したくてここに来たんだ」

 

宿敵の声も耳に入りはしない。もう勝ち以外何も見えない。

そうだ、勝つのだ。勝ってあのバ鹿を蹴り倒すのだ。

 

 

「出走じゃあぁぁぁい!!!!!」

 

不沈艦の砲声がターフに轟く。

第一回URAファイナルズ決勝、開幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

言葉も通じない気まぐれな才能の化身が嵐のようにターフを駆け抜けて全てを薙ぎ倒していく…どこぞの雑誌がそう評したように、ゴールドシップは理解不能な怪物扱いされてきた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

トレーナーはただのお飾り、トゥインクルシリーズ出場のための据え置き装置とは誰の言葉だったか。

 

ぶっちゃけ最初はそう考えていた節もあるし、実際暇そうな奴をとっ捕まえて無理やりトレーナー契約をしたのだが、何時からかゴールドシップはそんな有象無象の声に苛立ちを覚えずに居られなくなった。

そんな声を聞く度無性に腹が立ち、面と向かって『幽霊トレーナーしかついてないあんたには負けない』なんて言われた時には相手の胸倉を掴むほどムカついた。……流石にゲンコツを落とされたので菓子折り(ゴルシちゃん特製カラシマスタード人参パイ)を持って謝りにいったが。

 

ともかく、ゴールドシップが才能を、そして結果を示せば示すほどトレーナー不要論は勢いを増していったのだ。

 

(ふざけんな)

 

曰く、才能だけを武器に全てを追い抜く天性の末脚。

 

(誰の作戦だと思ってる)

 

曰く、他の追随を許さぬ爆発力。

 

(誰の組んだメニューで鍛えたと思ってる)

 

曰く、走る為に生まれてきた天才。

 

(誰がここまで、アタシの舵を取ったと思ってる──!!)

 

 

()()()()()()()()()見せてこい、ゴルシ』

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉりゃああああああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

叫ぶ。駆ける。追う。抜く。逃げる。走る、走る、走る、走る!!

 

『ゴールドシップ、咆哮ーーーーーーッ!早い、早すぎるぞ不沈艦っ!!栄光のゴール板はもう眼前だぁぁぁっっ!!』

 

その日、名実ともに日本最強のウマ娘が誕生した。己が力を最大に発揮出来る場で、それ以上の力を引き出して他を圧倒した究極のウマ娘。

 

そのウマ娘の優勝インタビューは後のレース界にて長らく語り継がれた。誰よりも早く、強く、そして美しかったウマ娘が残したたった一言。その一言は、時を経て珠玉の輝きを放っている。

 

『アタシとトレーナー、2人の波紋だぜオラァッッ!!』

 

レース後、人々は彼女を、そしてその相の片棒を担いだ男をこう評した。

黄金の不沈艦と、その操舵士と。

 


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