アホの子が時折見せる王者の風格が大好きです。因みに筆者の初のA評価はバクシンオーでした
『絶対』のないレースにおける『絶対』。
彼女達は紛うことなき王者だった。
唯一無二、無敗の皇帝、シンボリルドルフ。
不死鳥の如く蘇った新たなる帝王、トウカイテイオー。
彼女達と距離が被るウマ娘は不幸、端から2着狙いで走るが吉とまで言われた。それ程までの圧倒的な実力差、才能差。
帝に、王に、誰もが適うはずも無いと謳われた時、そこにNoを突き付けたウマ娘がいた。
「ムムムッ!確かに彼女達は優駿!強敵!最強の壁!!しかしそれを崩せずして、越えられずして、そしてそれを皆に示せずして!!なにが学級委員長か!!!!」
蛮勇と嗤う者もいた。
現実を見ろと罵倒する者もいた。
自分の適正を、いい加減理解しろと激昂する者もいた。
しかしそれでも、そのウマ娘はターフに立った。
「皇帝!そして帝王!いずれも実力に裏打ちされた厳かなる二つ名…!しかし皆さん忘れてはいませんか?ここにいま1人、王の名を冠す学級委員長がいることを!!」
その名は、サクラバクシンオー。
*****
「委員長さ…どうしてそんな元気で居られるの?」
「む?」
有馬記念を翌日に控えた日の昼、いつも通り健啖を披露する友人を前にそのウマ娘は口を開いた。
目の前にはこんもりと盛られた生姜焼き定食をかきこむ明日の出走者…いや、犠牲者。なんの気負いも感じさせることなく、バクシンバクシンといつも通りの騒々しさを発揮している。
「ふむ…そうですね、何故私が常に明るく、皆さんを照らす太陽の如き存在かと言われると我が身魂から生い立ち、そしてその道程で学んだ数多のことを一から説明せねば……」
「そうじゃなくって!…明日、会長達と有馬で走るんでしょ。委員長の実力を疑ってる訳じゃないけどさ…あの人達は別格とかそういうレベルじゃない。次元が違うよ。そもそも委員長、長距離向いてないし…皆面白がってるけど、こんなの公開処刑じゃん!」
激した彼女だが、その心の底にあったのは、なにもサクラバクシンオーに対する侮蔑などではない。むしろその反対だ。
ちょっと(と言うか大分)抜けているところはあるが、天真爛漫な明るさで皆を引っ張り、ちょっとやそっとではへこたれない我らが学級委員長は間違いなく愛されている。レースという厳しい世界で生きる中で、皆にとって彼女の明るさはかけがえのないものにすらなっていた。
だがそれにしても、そんなサクラバクシンオーの人気をもってしても今度の有馬記念は自殺行為としか言いようがなかった。
そもそも距離が距離である。確かにバクシンオーはデビュー以来短距離で無敗を誇り、現役最強スプリンターと謳われているが有馬記念は長距離のレース。そこに距離適性抜群の、それこそ無敗のシンボリルドルフが参戦してくるのだ。さらに次代の皇帝などと噂されるトウカイテイオーまで。
無謀である。
「……これは私のトレーナー受け売り…というより、この言葉を聞いた私が3年間を走り切った上での所感ですが」
びり、と空気が震えた。この席だけではない。食堂のあちこちで食事をとっていた生徒が、皆一様に耳と尻尾を跳ね上げている。
ざわめく食堂の中心において、そんな『威』をまともに喰らい、へたりと椅子に座り込む彼女にバクシンオーは淡々と語りかけた。
「無理だとか無駄だとか、それこそ無謀であるとか、そういった類の言葉はもう聞き飽きましたし、私には関係ありません。何故ならば私が諦めなければ無理などではないからです。私が歩みを止めねば無駄などではない。私が私である限り、無謀などなんの問題にもならない。道とは、栄光のバクシンロードとは自ら切り開くものなのです」
桜色の瞳が見たことの無い強さで輝き、真っ直ぐにこちらを射抜く。
声が出なかった。何も言えなかった。
それほどまでにサクラバクシンオーの言は重く、そして厳かなものだった。
バクシンオーはよく、大真面目にこういっては周囲に笑われていた。『私が目指すは最強のウマ娘!全ての距離を、ターフを、文字通りバクシンしてみせましょう!全てにおいて最強の称号を勝ち取るまで止まらない、古今比類なき学級委員長!ゆえに我が名はサクラバクシンオーなのです!!』
(あぁ……あぁ…!!)
間違えていた。彼女の名は、バクシンオーという名は。
飾りでも見掛け倒しでも、そして最強ステイヤーの称号ですらない。
絶対に止まることの無い、紛うことなき王者の誇り。
それをそのまま言い表した、王の御名だ。
「おや、皆さん食事中にどうされました?食事は美味しく感謝しながら頂いてこそ!明日の私の活躍が気になりすぎるのは分かりますが、食事を疎かにするのは頂けませんね!その点このサクラバクシンオー、お米の一粒一粒に感謝を捧げながらよく噛んで──」
「委員長っ!」
「はいっ、学級委員長です!!」
気が付けば彼女は立ち上がり、バクシンオーの両手を強く握り締めていた。突然手を握られた当の本人はいつも通りの様子だが、それでも溢れ出す言葉が止まらなかった。
「明日絶対、絶対応援しに行くから…!だから…だから勝ってね!優勝してね!サクラバクシンオー!!」
「勿論ですとも!私が走れば勝利は間違いなし!何故ならば私、学級委員長ですので!!」
バクシンあるのみ、はーっはっは、と気炎をあげるバクシンオーを笑う者など誰もいない。どころか場の全員が口々に彼女を称える。
「いよっ、流石私達の委員長!」
「いつものバクシン期待してるから!」
「優勝の垂れ幕作っとくから、無駄にしたらタダじゃおかないかんね!」
「はーっはっはっはっは!!ご安心下さい!皆さんの歓喜の委員長コールを中山の芝に響かせてご覧にいれましょう!はーっはっはっは!!そうと決まれば明日の為に質の高い睡眠を取らねば!では皆さん、また明日!バクシンバクシーン!!」
食器を持って嵐のように去っていく背中を見送りながら、委員長コールは暫く鳴り止むことはなかった。
誰もが諦め、哀れとすら思われる戦いに敢然と挑むバクシンオーの気概は人々の心に火を付けた。
皇帝、帝王…絶対なる強者に並び立ったその様は、背を見せて人を導く王の姿に他ならない。
適正も才能も評判も、全てをぶち破り走り抜いた『驀進王』。
非常識にして純然たる王、サクラバクシンオーここにあり。