キーンコーンカーンコーン…
「…くぁぁ、やーっと終わったぁ!」
自分の机に突っ伏して寝ていたミサキが、終業のチャイムが鳴ると同時に飛び起きた。
「全く、あんたにはもうちょっと真面目さってのがつかないもんかしらね?」
「まあまあ、そう言わなくても」
呆れ顔のウヅキと、それをいさめるアスミがミサキの机に近づいた。
「おお二人とも、おっはよー」
「おっはよーじゃないわよ。あんたいっつもヤメ先生の授業寝てるわよね?」
「えぇ~、だってしょうがないじゃん、ヤメッちゃん見てるとすごい眠くなってくるんだもーん」
現国担当のランコ・ヤメは、見ているだけで眠気を誘われると生徒に言われている。
「…はぁ~、何で私の授業って、ほぼ半数が寝てるんだろ。向いてないのかな、私…」
当の本人であるヤメは教卓の上に突っ伏していた。
「ま、いっか、二人とも早く帰ろー」
「そーだねー」
「あ、待ってよ!」
三人は、教室を後にした。
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「クソッ!何だよ皆して、何で俺のことを地味地味言うんだよ!」
繁華街の裏路地に、一人の男子高校生がいた。相当気が立っているようで、ゴミ箱や段ボールを片っ端から蹴散らして回っている。
「ああ、もうイライラする!いっそ、俺を無視する奴らなんて…」
「消えてしまえばいい、そう思うか?」
その時、目の前に突然黒服の男が現れた。
「うわっ!だ、誰だあんた!」
男子高校生の質問を無視して、男が歩み寄る。
「では、君が憎いと思っている奴らを全員消せる力があるとしたら、どうする?」
「そ、そんなもんがあったら、そりゃあほしいけど…」
「では…」
そう言うと男は、懐から何かの機械を取り出した。全面が黒くゴツゴツした短剣とも言えなく無い奇妙な物だった。
「これを使いなさい」
「これは…?うわっ!?」
その機械にふれた瞬間、大量の闇がふきだし、その男子高校生の体に流れ込んだ。
「フフフ、さあ、その力を使い…」
「ヒカリを、ヤミへ」
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「あー、たいくつだーうづちゃん一発芸かなんかやってよー」
「やるわけ無いでしょ」
「ふっ、これだから素人は」
「あんた一体何者よ」
「よーしアーちゃん!このトーシロちゃんにお手本を見せてやれ!」
「え?え~っと…。か、髪を垂らして、貞子!」
「10点!」
「そんなぁ」
三人は、帰りの道を何ともない話をしながら歩いていた。
「いやー、それにしても最近暇だねぇ。なんか刺激が欲しいって言うか…」
ピリリリ!ピリリリ!
その時、三人のケータイから同時に着信音が鳴った。
「!」
三人はケータイを取り出し、通話ボタンを押す。
『C002地点に怪獣が出現。カカントウ地区第4班、ただちに出動せよ』
スピーカーから、無感情な女性の女性の声が響く。
そして、三人はその声を聞き終わる前に、わき目もふらずにかけだしていった。
~~~~~~~~~~
「ギギギ」
それは、ロボットと呼ぶには人間らしく、人間と呼ぶにはロボットらしい姿をしていた。両腕には巨大なドリルが装着され、機械仕掛けの装甲をしていたが、その隙間から見えるのは明らかに人間の肌だった。
チュイイイン
手当たり次第に周りにある物を壊してまわる。その手にかかれば、鋼鉄で出来た物も粉々に砕けてしまっている。
キキィーッ!
そこへ、何台ものパトカーがやってきた。先頭にいた車両から一人のモジャモジャ頭の男が現れ、それに続いて何人もの警官が車から降り、横一列に隊列を作った。
先頭の男が、胸ポケットから通信機を取り出した。
「特攻A班、現場に到着しました」
『近隣住民の避難は完了している。特攻A班、発砲を許可する。』
通信を終えたモジャモジャ頭の男は、通信機をしまい、腰のホルスターから拳銃を取り出した。
「総員、構え!」
一糸乱れぬ動きで、警官全員が拳銃を構えた。
「発砲!」
銃声が響きわたり、弾は半分ロボットたちの大群に向かっていった。
しかし…
カカカァン!
弾はすべて、弾かれてしまった。
「怯むな!撃てっ!」
銃撃は続けられたが、その弾はどれも半分ロボットたちの体に弾かれてしまった。
「ギギッ!」
お返しと言わんばかりに、半分ロボットたちの顔上半分を隠していた仮面からレーザービームが発射され、警官たちのすぐ目の前の道路を焼け焦げさせた。そして、それを皮切りに半分ロボットたちの猛連撃が始まった。
レーザーの雨が警官隊を襲い、彼らは完全に戦意を失ってしまった。
「ひ、ひぎぇぁぁぁ!」
「おっかさぁぁぁん!」
一目散に警官たちは逃げていき、あっという間に最初に出てきたモジャモジャの男だけになった。
「あいつら…!くそ、腑抜けが!」
しかし、その男の目の前に、レーザーが降り注いだ!
「!」
男はとっさに腕で顔を隠した。
(終わりだ…!)
そう思った瞬間。
「スパークレーザー!」
ズドォン!
自分の背後から放たれた攻撃によって、すべてが打ち落とされた。
「な、なぁ!?」
とっさに後ろを確認しようとしたが、その瞬間、通信機から声が響いた。
『本部より入電、これ以上の攻撃は危険と判断し、特攻A班に撤退を命ずる。』
「な!でもまだ奴らは!」
『繰り返す。これ以上の攻撃は…』
思わず抗議をしたが、通信機からは事務的な返事しか帰ってこなかった。
「…特攻A班、撤退!」
モジャモジャ頭の男は、その場から去っていった。
「…行った?」
「…行ったみたい」
「いよっし…突撃ぃ!」
三つの人影が、半分ロボットたちに襲いかかった。
「ギギ!?」
右腕につけた機械から伸びる剣で、半分ロボットたちに攻撃を加えていく。突然の攻撃で、半分ロボットたちは反応が出来ていなかった。
「ギギィ!」
しかし、やられてばかりで済むわけはなく、半分ロボットたちは腕のドリルで三人を追い払った。
後ろに飛び、地面に着地したその人影は、
「いゃあー、なかなかやりますなぁ」
「ま、それなりね」
「燃えてくるねぇ!」
ミサキ、ウヅキ、アスミの三人だった。
「それじゃ、行きますか!」
ミサキのその声を合図に、三人は右腕を水平に構え、装着していた機械を操作した。すると、その機械から乾電池の取り付け穴のようなものが飛び出した。
[セットアップ、オーケー]
機械から女性の声が聞こえるとともに、三人は懐から緑色の半透明カプセルを取り出した。その中には、電、炎、風を模した物が封じ込められていた。
「「「マケットチェンジ!」」」
そう叫び、三人はカプセルを機械にセットし、差し込んだ。
[チェンジマケット!タイプ:エレキ!]
[チェンジマケット!タイプ:フレイム!]
[チェンジマケット!タイプ:ウィンド!]
三人の体が粒子状の緑の光に包まれる。
「ギギィ!」
しびれを切らした半分ロボットたちが、三人にレーザーを打ち込んだ。
キキィン!
しかし、全て光に振れた途端に弾かれていった。
そして、光は三人の体に集まり、だんだんと形作られていった。光が収まる頃には、三人の体には鎧のような物が装着されていた。
ミサキには、腕の部分を大きく包むようなアーマー。そして、ヒレに見えなくもない、上半身を覆う茶色にクリアパーツの混じった鎧。
ウヅキは、背中や足の部分につけられたブースターに、腰の部分にはタンクが取り付けられた銀色の鎧。
アスミは、脚部を大きく強化するようなアーマーに、動きやすさを重視した流線型の鎧。
「エレキバトラー・1!」
「フレイムバトラー・2!」
「ウィンドバトラー・3!」
「「「カプセルズ、ミッションスタート!」」」
三人が、半分ロボットの大群に向かっていった。
「エレキエッジ!」
ミサキは電気を帯びた二本の曲剣を出現させ、半分ロボットたちを切りつける。
「ヤアッ!」
「ギギーッ!」
目にもとまらぬ連撃で、半分ロボットたちはどんどん消滅していった。
「いよっし!」
「フレイムマグナム、スタンバイ!」
ウヅキは銀色に輝く銃ーフレイムマグナムーを構え、半分ロボットたちに向かって光弾を発射した。
「ギギィ!」
ほとんどの個体が消滅していく。しかし、その中で光弾の雨をくぐり抜けた何体かがウヅキに飛びかかった。
ウヅキは、フレイムマグナムの側面に取り付けられたスイッチを操作した。すると、足や背中に装着されていたブースターの噴射口が半分ロボットたちに向けられ、無数の火炎弾が浴びせられた。
半分ロボットたちは、ほとんどが消滅された。
「行きます!ウィンドハンマー!」
アスミは巨大な緑色の鎚ーウィンドハンマーーを取り出し、それを地面に叩きつけた。すると、周囲に突風が巻き起こり、ロボットたちは相当数が吹き飛ばされていった。
「やったぁ!」
どんどんロボット達を蹴散らしていく三人。しかし、突然そこへ黒のオーラを纏った光弾が襲いかかった。
「うわっと!」
三人は後ろに跳躍して攻撃を回避した。
『…ダレダ、オマエラハ?』
そこから現れたのは、黒の短剣を持った高校生ぐらいの男であった。しかし、その体からはどす黒いオーラが溢れ出ていて、眼光は赤く光っていた。
「…あいつ、まさか!」
ウヅキが驚愕の声を出す。
『オレノジャマヲスルナ…キエロ!』
男が叫ぶと、周りに飛んでたオーラが男の左手に集まり、明らかな形を作っていく。そして、オーラが収まると、男の手には15センチほどの怪獣の人形が握られていた。
「やめて!その人形から手を離して!」
ミサキが叫ぶ。しかし、その制止を聞かず、男は人形の足に短剣の先を突きつけた。
[ダークライブ!ベムラー!]
その瞬間、男の体を黒い魔法陣のような物が包み込み、体を変化させていく。そして、魔法陣が消えたときそこにいたのは…
「ギャァァァァ!」
刺々しい体を持った、2メートルを超える怪人の姿に変貌していた…。
いかがだったでしょうか?
それでは、次回、『強者』。ご期待下さい。