何かの手違いでマブいスケがイケイケのナウいチームに入るお話。 作:ダイコンハム・レンコーン
──あれは……ふふ、そうね。ちょっとキザなセリフかも知れないけど、運命、みたいなのをビビッと感じちゃったのよね。
「なるほど、それはつまり、ご自身の才覚を遺憾無く振るえる場所を見つけた、と言う事ですね?」
──うん、そうなるのかしらね。……いわばディスコ、私は自分が自由に自由にランバダ出来る場所をあのチームに見出したの。
「……素晴らしいですッ!! まさに運命、いえ天命!! ドラマの始まりはそこからだったんですね!!」
──ええ……今もバッチリ思い出せるわ。あの日、チョベリバな気分に浸っていた私を一瞬で滾らせてくれた、あのポスターを……
……
…………
………………
「いや、ダサいだろそのポスター」
「何を言うんだゴルシ! こんなにもイケてるポスター、どのチームだって作れないだろ!」
「だからその言語センスがダサいって……可笑しいのはアタシじゃねえぞ絶対」
チーム専用の小屋でやいややいやと言い争う二人。一方はウマ娘、一方はヒト。ゴールドシップと沖野トレーナーは両者ポスターを掲げて激論を繰り広げている。
問題のポスターの内容はこうだ。
「コレに掛かるヤツとか相当なモノ好きだろソイツ」
ゴールドシップは臭い物でも扱うかのように摘んだポスターをヒラヒラと揺らす。ゴールドシップは心中でトレーナーのセンスは評価Gと採決を下した。
しかし、ゴールドシップはまだ知らなかった。
巷でブイブイ言わせているウワサのあの子が、チーム小屋目指してレッツラゴー☆している事を……。
「なあトレーナー、今からでも代わりのポスターを用意しようぜ? アタシも手伝うからさ」
「ゴールドシップ……お前……」
ゴールドシップは仕方のないヤツだと呆れを含んだ笑みでトレーナーにペンを手渡す。そして掌のペンに手を伸ばすトレーナー。
が、しかし。
「ふん!」
「ああっ!? 何してんだオイ! ペンどっか消えて行っちまったぞ?!」
トレーナーこれを部屋角に投擲、ペンはチームスピカの立体パミューダトライアングルに消えた。これにはゴールドシップもツッコミを入れる他ない。
しかし、トレーナーはここで止まらない。
「ゴールドシップ!」
「お、おう」
「漢にはな、退くに退けない時があるんだ!」
「オイ嘘だろ……?」
「──今がッ! その時なんだッ!」
トレーナーは胸を張り、高らかにそう宣言する。そして手元のキャビネットから更にクソダサポスターの束を召喚した。一体それをどう捌くのか、ゴールドシップにも皆目検討がつかない。
ゴールドシップは、天を仰ぎ、こめかみを片手で押さえながら、トレーナーに歩み寄り──
「──んなワケッ、あるかァァァァッ!!」
──見事なアルゼンチンバックブリーカーをトレーナーにお見舞いした。
往年のアニメイシヨンを彷彿とさせる流れは些かノスタルジー、件のポスターはと言えば辞世の句ならぬ時世の句。書けば書くほど古臭く、聞けば聞くほど心地の悪い冷や汗が出そうになるそれは、誘蛾灯の如くに特定人物を引き寄せる事になる。
「これ、イカしてるよなあ!」
「そうそう、アンタ中々イイセンスしてるじゃない!」
──そう、今、この時のように。
延したトレーナーを地面に寝かせていたゴールドシップは、背後から迫る会話にギコギコと音が聞こえてきそうな程緩慢に振り向いた。
──(世代が)バブルじゃない(なのにセンスが)バブルじゃない? (認めたくはないけど)本当の事さ──
ゴールドシップの脳裏に毒電波が走る、が、即座にゴールドシップは脳内から怪文書を削除した。
それもその筈、普段は奇天烈な行動を取るゴールドシップだが、割と常識人であり、チームのバランサー的な役割も果たしているのだ。
尚現在、チームスピカはゴールドシップ以外所属していないのだが。
後ろに居たのは二人のウマ娘。髪色は片方紅茶色で片方コーヒー色。ゴールドシップの脳内では死んだ目をしたまた別のウマ娘が二人過ったが、アイツらも大概クセが強いと言う若干理不尽な理由から警戒心をMAXに引き上げた。
「……えっと、オタクら、入部希望者だったり……すんのか?」
困惑を隠せないゴールドシップ。香港でブイブイ言わせてたG1ウマ娘と名乗る黒尽くめのウマ娘にパリ旅行一泊二日のペアチケットを渡された時以上の困惑だった。因みにゴールドシップはナカヤマフェスタと一緒に行った、本人曰くすっげー楽しかったらしい。
閑話休題、話は戻ってゲテモノで釣れた鯛二人について。
「ええ、私の名前はダイワスカーレット。にしてもこのポスターのセンス、感動しちゃった! で、コレは誰が書いたの?」
「えぇ……?」
「おう、俺の名前はウオッカだ。俺もこのポスターにビビッと来たんだよ! もしかして、トレーナーがこれ書いたのか!?」
「おい……このチーム大丈夫か、クソダサセンスが集まる呪いとか掛かってるんじゃね? ……ははっ、冗談キツいぜ」
ゴールドシップはいよいよ膝をついた。ポスターのセンスを褒められ、調子付いているトレーナーとダイワスカーレットにウオッカを見て。
さながらその姿は祈りを捧げる清廉なる巫女。
この時ばかりは世界を司る運命も「いいぞもっとやれ」とゴールドシップの姿に感涙し……更に運命の歯車を狂わせてしまった。
故に
彼女の母の教育は、今ここに結実の時を迎えたのだ。
「えっと、ここがナウなヤングにバカウケ間違い無しのセンス◎なポスターを作ってたマブいコたちが集まるチームで間違いナッシング? あ、いっけない! まずは自己紹介しなくちゃネ! メンゴメンゴ! 私の名前はマルゼンスキー、趣味はドライブ──────」
「オイ嘘だろ……?」
──運命とは、意地悪なモノである。
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「まずは集まってくれた君たちに感謝をしたい」
トレーナーは深々と頭を下げる。目の前には四人のウマ娘、ゴールドシップ、ダイワスカーレット、ウオッカ、マルゼンスキーと言う面々が並んでいた。そしてゴールドシップだけは白目を剥いている。マルゼンスキーは『恐ろしい子ッ……!』と謎アフレコをしていた。
──ゴールドシップは今すぐにでもこの部屋から逃げ出したくなった。
「俺の名前は沖野、このチームスピカのトレーナーだ」
左側を刈り上げにした独特の髪型の男は、蹄鉄キャンディを口に咥えながら四人を見回す。
「じゃあ早速で悪いが、今からの説明を聞いた上で参加の意思があれば、このチームへの参加申請書にサインしてくれ」
……あっけらかんとした沖野の言葉に、ゴールドシップを除く三人が瞳を驚きに染めた。
「……ちょ、ちょっと待ちなさいよ。こう言うのって普通、能力を確かめる為の模擬レースとかあるんじゃないの?」
「そうだよ! てっきり俺もそのつもりで……」
「おったまげ〜! あたしも噂には聞いてたけど、あなたって面白い人ね!」
「アンタも大概面白いヤツだぞ?」
ゴールドシップのツッコミが飛ぶが、マルゼンスキーはどこ吹く風。ゴールドシップのスタミナが削られるデバフスキルを標準搭載しているらしい。
「ああ、それはだな……」
そして、沖野トレーナーはやや勿体ぶりながら話し出す。
「……チーム実績が無いから練習場を貸し切り出来ないんだ」
するとまあ、シンプルに彼女達の予想の斜め上を行く言葉が出てきた。
「思った以上に切実な問題ね。……『同情するならチームに入ってくれ』ってトコかしら?」
「そう言う訳でもある。だが最後に決めるのはお前たちだ。まずここの方針や育成計画の説明をさせてもらう。その上で俺とこのチームが、お前たちの未来を託せる相手と判断出来たらサインして欲しい」
沖野トレーナーは正直な所、精神的に参っていた。ついこの前、スピカから二人のウマ娘が出て行き、残っているのはゴールドシップただ一人。
何故出て行ったのかと言うと、現在の最強のチーム・リギルが徹底した管理制を敷き他トレーナーもそれに同調する中で、沖野トレーナーはウマ娘の自主性を尊重するやり方を行なっていた為、反りが合わないウマ娘が続出してしまったのだ。
勿論、どちらの育成論にも良い点悪い点は存在する、向き不向きもある。ただ、偶然にも噛み合わないウマ娘達が来てしまっただけの事。しかしそれでも、沖野トレーナーは自分の不甲斐無さに頭を悩ませていたのだ。
「俺はお前たちを導けるトレーナーかどうかは、お前たちが見極めてくれ」
そう言った瞬間。
沖野トレーナーの胸元に三枚の紙が押し当てられる。
「なに日和ってるの? アタシはあのポスターを見た時から決めてたわよ」
「一度決めた事をひっくり返すのはダサいからな、俺は俺の直感を、あのポスターを信じるぜ」
「……あのポスターが決め手なのか!? もっとマシな理由無かったのか!?」
「水くさいわよっ! あたし達に火を着けちゃったのはアナタなんだから、もっとノリノリでイケイケな感じでやっちゃいましょっ! これからし・く・よ・ろ、ねっ☆」
「アンタに関しちゃ納得行くけどな! なんか腑に落ちねえけどな!!」
ゴールドシップは二人を珍獣を見るような目で見ていた。マルゼンスキーを見る目に関しては最早怪異でも見るような目である。
思わず目頭を押さえる沖野トレーナー。
別の意味で泣きたくなってきたゴールドシップ。
何故か貰い涙をするダイワスカーレットとウオッカ。
「あらあら皆泣いちゃって、お姉さんも少しウルっと来ちゃったわ」
やっとまともな言語を話したマルゼンスキー。
──はてさて、チームスピカの明日はいずこへ。
この物語は、ノリと勢いに支えられています。