何かの手違いでマブいスケがイケイケのナウいチームに入るお話。 作:ダイコンハム・レンコーン
チームスピカのチーム小屋にやって来たメジロマックイーンは、引き続きゴールドシップと沖野トレーナーとの話し合いに参加していた。
その傍らでは、暇を持て余し過ぎた三人組がホワイトボードの前で時間を潰している。
「みじかびのきゃぷりきとればすぎちょびれすぎかきすらのはっぱふみふみ」
「(助けてくれマックイーン、マルゼンスキーが謎の呪文唱え始めた)」
「(知りませんわよ!? アナタのチームメンバーではなくて!?」
「(いやこのチーム今日が全員ほぼ初対面だ)」
「(いえ仲良すぎでは?)」
「はっぱふみふみが書き味最高なのよね!」とスラスラホワイトボードにノリノリのイケイケで書き進めて行くマルゼンスキー、ダイワスカーレット、ウオッカは相変わらず熱心に勉強している。しかしその台詞は水性ペン片手に使うモノではないのだが。
「だがまあ、流石の統率力だな」
「ん? オイトレーナー、マルゼンスキーの事知ってんのか?」
「マルゼンスキーは校内でも『言葉遣いを除けば最高のウマ娘』と評判だったからな」
「センスがモロバレじゃねえか?! ……ハッ! まさかトレーナー、お前これを見越してあのポスターを!?」
「いや予想外だ」
「そこは嘘でもハイって言えオラァッ!!」
鋭いラリアットが沖野トレーナーの首を刈り取った。「ふぐぅっ!」と吹き飛ぶ沖野トレーナー、ウマ娘の膂力をモロにぶつけられて外傷らしい外傷がないのは異常としか言い様がない、既に別の異常が起きているが。
とにかく、メジロマックイーンを見学者としてチームスピカに迎え入れた面々はチームスピカとしての活動を……
「待ってください」
「ん? どしたマックイーン?」
「今日集まったばかりのメンバーでチームでトレーニングが成立するのですか?」
「……言われりゃそうだな」
「ああ、確かにな」
「しれっとアンタまで同意してんじゃねえぞトレーナーッ!?」
ゴールドシップはそうツッコミを入れるが、今日一日でここまで人が集まる事を予見するのは難しく、無理もない事なのだ。だからと言ってチームスピカの唯一の残留メンバーであるゴールドシップだけでメジロマックイーンに見学らしい見学をさせる事が出来るかと聞かれればそうはいかない。
(マルゼンスキー達がスピカ入りを決めたのはあのクソダサポスターが理由でアタシはまた別の理由だ。だから……チームスピカ自体の魅力を押し出さねえとこれ以上人数を集めんのは厳しいぞ、トレーナー……)
(基本的にトレセン学園の情報はインターネットやマスメディアを通じて流される。逆に言えばその匙加減でトレセン学園に入学するウマ娘たちのここの認識も全て変わる。……今のトレセン学園の認識はおハナさんのチームリギルを筆頭とした徹底した管理主義の育成。対して俺は当人の自主性を重視する育成。チームスピカは今トレセン学園に居る多くの新入生の気質には合わないチームになる……やはりここがネックか)
探せば見つかる。とは言うが、新入生含め約二千人近く在籍する生徒の中からたった数人でマッチングする相手を探すのは無茶無謀、砂漠の中で一粒の砂金を探す様な行いだ。
「……それなら、マックイーンちゃんもアタシたちと一緒にチームの練習に参加してみたらどうかしら?」
と、先程までホワイトボードを古代の言葉で解読不能のロゼッタストーンに仕立て上げていたマルゼンスキーが急にボードをひっくり返し、真っさらな板面にでかでかと『お試し期間』とやたらに達筆で書き上げる。
「なるほど、マックイーンも一緒にやれば良いんだよな。けどよ、マックイーンは時間あんのか?」
「ここを見定めると決めたのは私です。中途半端は言語道断……望む所ですわ」
「いよっし! んならトレーナー、新入りにここのやり方教えてやんぞ!!」
「ああ、任せとけ!」
………………
…………
……
『スイーツ! スイーツ!』
トレセン学園が誇るトレーニング場、その中から五人分の声が響き渡る。
ジャージに着替え、蹄鉄付きの運動靴を履いたチームスピカ+αの面々はコースの外周を回るランニングを行っていた。
チームスピカ在籍者は現在四名。チームとして成立していないスピカはコースの優先的な利用が出来ない為だ。
『スイーツ! スイーツ! スイーツ! 「イタ飯!」 イタ飯!』
お試し期間と言う事でトレーニングに参加していたメジロマックイーンは耳を疑った。スイーツと言う甘美な響きの中に唐突に侵攻を開始したイタリーに。
『スイーツ! イタ飯! スイーツ! イタ飯!』
少しお洒落な組み合わせになり始めた掛け声に、ゴールドシップが待ったを掛ける。
「ちょいストップストップ!!」
もはやツッコミも堂に入り始めたゴールドシップ、1日も経たずして既にボケの捌き方を学び始めている。ゴールドシップ自身は認めたくない事実であろうが。そして更に認めたくない事実として、マックイーン以外は先程の掛け声に何の疑問も抱いていない様だった。
「……oh」
ゴールドシップは欧米風のリアクションでまた天を仰いだ。もう面倒見切れんよ。そんな副音声が聞こえて来そうな程見事な仰ぎっぷりだった。
「今イタ飯って言ったヤツ、手ェ上げろ」
「は〜い!」
問いに答えたのは勿論マルゼンスキー、分かりきっていた答えである。悲しい事にマルゼンスキーとゴールドシップの相互理解は取り返しのつかない形で進行しているらしい。ゴールドシップのトラウマリストに刻まれるのはいつの事だろうか。
「……ホワイ? 何故イタ飯ホワイ?」
「その、掛け声となるとつい……ね」
「出るのか掛け声でイタ飯がッ?!」
「昔、色々と、ね?」みたいなノリで呟くマルゼンスキーにゴールドシップは驚愕していた。トレセン学園に居る中でナチュラルにイタ飯が出るウマ娘など今時居るのか、と。強いて言えば駿か……「これ以上は触れんなよ。アタシたちの命も危ねぇからな」……そんなウマ娘、中々居るものではないだろう。
「ゴールドシップは誰と話してるのかしら?」
「ミステリアスってのも、カッコいいよな……!」
「……そもそも、"いためし"とは何の事ですの?」
ダイワスカーレットを始めとした中等部三人はイタ飯もゴールドシップの言動も理解出来ていなかった様だ。しかし、ゴールドシップだけはイタ飯が何か、ある程度想像はついていた。
「あら? 皆イタ飯って分からない感じかしら? イタ飯って言うのは、イタリア料理の事なのよ」
マルゼンスキーがすかさず説明を入れる。こういった時の対応の早さは流石高等部と言った所か。
「イタ飯……良いですね。アタシも今度使ってみます!」
「いかにもな"通"みたいでカッコいいっすね! 俺も今度使わせて貰います!」
マルゼンスキーの言語センスのシンパと化したダイワスカーレットとウオッカは即座に陥落。
このままでは、チームスピカが代々守って来た『スイーツ』と言う掛け声が『イタ飯』と言う『5時から男』並みに言葉の耐久年数が低いものに置き換わってしまう。そう危惧したゴールドシップは起死回生の一手を模索するが、あまりにもくだらな過ぎる問題を前に何も出ない。
しかしここでメジロマックイーンが前に立つ。
「イタリア料理?! 納得出来ませんわ!」
「おし! 行けマックイーン! このカオスをどうにかしてくれ!!」
──ゴールドシップは確信した。今この場で
「イタリア料理でスイーツと肩を並べるのならば、そこはティラミスであるべきです!!」
「アタシの期待を返せ」
──前言撤回、メジロマックイーンも
孤軍奮闘、四面楚歌、字面に直すと何処ぞのカイチョーが駆けつけそうな状況だが、ゴールドシップには秘策があった。
「だが、こんな事もあろうかと……来い!! ゴル四天王ッ!!」
──ゴールドシップが嘶き、それに応え、周囲から三つの影が飛び出した。
「……ったく、何の用だ? 私だって暇じゃねえんだぞ」
──ゴル四天王が一人"勝負師ウマ娘・ナカヤマフェスタ"。
「『ゴル四天王参謀、エイシンフラッシュ。私の神算鬼謀に狂いはありません!』……台本通りですが如何でしたか、ゴールドシップさん」
──ゴル四天王が一人"計画遵守のウマ娘・エイシンフラッシュ"。
「『ふっふっふ、私はゴル四天王の中でも最弱……』って何よこれ!?」
──ゴル四天王が一人"蹴り易いウマ娘・トーセンジョーダン"。
「そ〜してアタシが大・登・場!! ゴル四天王を統べるお頭、ゴールドシップ様だ!!」
──ゴル四天王が一人"稀代の癖ウマ娘・ゴールドシップ"。
今ここに、選りすぐりのツッコミ野郎たちが結集した。
普段からゴールドシップの奇行の被害者と化すこの三人。
普段から
「おったまげ〜ッ!?」
もはやトレーニングどころの話ではない。トレーニング場が一種のお笑いステージと化していた。
「よし行くぞお前ら! コイツらのボケを捌くぞ!」
ゴールドシップが号令を出した。
「私はそう言うガラじゃねえ、お暇させてもらうぞ」
「台本は読み終わりましたので、これで帰らせていただきます」
「よく分からないからあたしもパスで〜!」
……かと思えば、呼ばれた三人は即座に解散した。
一体何だったのか、その謎すらも押し流す勢いで。
「……ランニング、続けようぜ!」
「何ですの!? あの方々は一体何でしたの!?」
「ゴールドシップちゃんにも、面白いお友達が居るのねえ。お姉さん、羨ましいわ」
「だろ?」
「一欠片も友情が見えませんでしたのに!?」
メジロマックイーンのツッコミが冴え渡る。ゴールドシップはますますメジロマックイーンがチームスピカに欠かせない存在である事を確信していた。せめて脚で評価してあげて欲しいものだが。
「おいお前ら! そろそろマトモにやらないと周りの目がキツイぞ!」
と、沖野トレーナーが檄を飛ばし、ゴールドシップたちはランニングに戻る、が。
「スイーツ! ティラミス! スイーツ! ティラミス!」
……スイーツの内容が具体的になっていた。
尚、もはや誰もツッコミを入れなかった模様。
──✳︎──
夕暮れ間近のチーム小屋、そこにはマルゼンスキー以外のチームメンバーとトレーナーが集まっていた。
「マックイーン、お試しトレーニングの感想はどうだ?」
今日1日のトレーニングを終えたメジロマックイーンは、すっかりヘトヘトになっていた。
「……普段のトレーニングよりも疲れた気がしますわ」
それもその筈、マルゼンスキー以外五名、詰まる所チームスピカ全員が突発的に行うボケにツッコミを入れていた為に消耗しきっていたのだ。反比例してゴールドシップの肌艶は良い。遠慮なくボケれる相手が居るからだろうか。
とは言ったがメジロマックイーンもボケ気質である。チームスピカは割と総ボケ体質なのだ。もはやツッコミ役に別のチームを宛てがわなければ釣り合いが取れないレベルである。
「んま、当然だろうな。スタミナには自信があるアタシでも結構キツかったしな」
そんな事実を悟っているのか、ゴールドシップはツッコミ役としてチームのフォローに回るなど、人生史上最も理性的に動いていると言う確信があった。
そうしてゴールドシップとメジロマックイーンが互いの労を労っていると、トントントンとドアをノックする音が響き、沖野トレーナーがそれに入って良いぞと返事を返す。すると白い箱を持ったマルゼンスキーが入って来た。
「お疲れ様! 二人も一緒にティラミス食べましょう? なるたけチョッパヤで走って、行きつけのお店のを買ってきたの。すっごく美味しいわよ!」
「こ、これって有名なスイーツ専門店のティラミスじゃないですか!」
「これがオトナな気遣いってヤツか……俺も見習わねえと!」
「す、スイーツ……! っ、ですが私は、甘い誘惑には負けないと誓ったのです……!」
「ま、良いじゃねえかよマックイーン! 今日は一気にチームメンバーも増えたし、お祝いみたいなモンだろ!」
机の真ん中で開かれた箱の中には有名店の高級ティラミスが六つ入っていた。どうやらマルゼンスキーが自腹を切ったらしい。
沖野トレーナーは他の四名がティラミスに視線を集める中、マルゼンスキーに小さく声を掛ける。
「なあ、マルゼンスキー、あのティラミス、幾らだったんだ?」
「ふふ、ヒミツ。……ってのは冗談、でも心配はよし子さんよ? 私だって独り立ちしてる身だし、余裕のよっちゃんなんだから」
財布をポケットから取り出そうとした沖野トレーナーの手の上にマルゼンスキーが手を重ねてそう言うと、沖野トレーナーは観念した様子で財布を離し、席に着いた。
そして沖野トレーナーの手により、各々の目の前にティラミスが振り分けられていく。
ふわふわとして濃厚なクリームチーズの上に、ほろ苦いココアパウダー。甘過ぎず、それでいて奥深い味わいの一品。
「さあ、遠慮なく行っちゃって!」
そんな一級品のティラミスを前に、目を輝かせる甘いもの好きなウマ娘たち。彼女たちはそれぞれマルゼンスキーに礼を言い、モノトーンの甘味に舌鼓を打ち始めた。
「ゴクリ……な、ならば、一口……はむ……んっ!!」
辛抱ならず、メジロマックイーンがティラミスを口にし、その美味に頬を押さえ、満面の笑みを浮かべる。トレーニング後の甘味と言う事もあり、その味は更に美味に感じられただろう。
「んじゃ、マックイーンもティラミス食ったし、チーム入ろうな?」
「んん?! ゴールドシップさん、それは卑怯ではありませんの!?」
「でも、美味しかっただろ?」
「う、確かに美味しかったですが……って、それとこれとは別問題では?!」
冗談だと笑うゴールドシップ、それに顔を赤くしてティラミスを頬張るメジロマックイーン。
「ふふっ、まるで親子みたいね。羨ましいわ」
そんな二人を見てくつくつと笑うマルゼンスキー。
「一欠片頂き!」
「あ!? ウオッカアンタね、自分の分があるんだからそれだけで満足しときなさいよ! じゃなきゃ……隙ありッ!」
「うおっ?! やられた!? くっ、負けるか!」
「いいわ、アンタのティラミス、アタシが一欠片も残さず食べてあげる!!」
「それはこっちのセリフだ!」
何故か同じ味のティラミスを取り合うダイワスカーレットとウオッカ。
「全くお前ら……」
そんな彼女達を見て呆れた様に笑い、スプーンを口に運ぶ沖野トレーナー。
今この時、この場所に、立場に縛られた者たちは一人も居ない。ただただ笑顔が溢れていた。
それが、この場に居るウマ娘たちは居心地良く思えた。
その在り方は、何よりも眩しく、得難いものである事は間違いない。
トレセン学園の一角で出会った一癖も二癖もあるウマ娘とトレーナーは、ここから先、どんな物語を紡ぐのか。
──「『ナウい』? 何これ、変なポスター。大体絵とかもっと入れるでしょフツー。このボクが書いた方が百倍マシなのが出来る気がするよ」
チーム"スピカ"の物語は、少しずつ動き始めているのであった。