じゃじゃ馬ストレート   作:碧河 蒼空

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6話 今からそれを証明するので

 ルールは怜先輩の提案で外野に強い当たりが飛んだら怜先輩の勝ち、それ以外では詠深ちゃんの勝ちと決まった。先輩の出血大サービスだ。

 

 守備は藤田さんと川崎さんの二遊間に藤原先輩がライト、息吹ちゃんがセンター、そして私がレフトに着いた。芳乃ちゃんは球審を務める為、ファーストとサードには誰も居ない。

 

 芳乃ちゃんのコールで勝負が始まった。

 

 初球、詠深ちゃんの直球が低めいっぱいに決まる。昨日も見たけど、やっぱり詠深ちゃんはコントロールが良い。

 対峙する岡田先輩はピクリとも動かなかった。手が出なかったという訳ではなさそう。初級は見るタイプなのかな?

 

 続いて詠深ちゃんが投じたのは例のカーブ。詠深ちゃんの伝家の宝刀に対して岡田先輩はフルスイングで応える。

 

「ストライクツー」

 

 白球は珠姫ちゃんのミットに収まりカウントはB0ーS2。詠深ちゃんは2級で岡田先輩を追い込んだ。

 

 昨日は珠姫ちゃんに夢中になっていたのであまり注視しなかったけど、詠深ちゃんのカーブ系の球は相当レベルが高い。これだけ見れば全国でも通用すると思う。

 

 カーブを見せた後にバッテリーが選択した球種はストレート。

 

「······ぼ、ボール」

 

 芳乃ちゃんは迷った素振りを見せるも外れていると判定したようだ。

 

 今回は流石に岡田先輩は手が出なかったんじゃないかな。僅かに低かったけど、審判によっては入っているとジャッジしてもおかしくない。

 

「先輩!」

 

 勝負の途中にも関わらず詠深ちゃんは対戦相手の岡田先輩に声を掛けた。

 

「この勝負、負けた方が何でも言うこと聞くってどうですか?」

 

 現在、B1ーS2。詠深ちゃん優位のカウントだ。先輩相手に何とも図太いものだ。

 

「ぷっ······あはははははっ······」

 

 そんな詠深ちゃんが可笑しくて私は吹き出してしまった。

 

「詠深ちゃんこのタイミングで言う?」

 

 詠深ちゃんってば中々の大物かもしれない。

 

「いいよ······でもそう簡単にはいかないよ」

 

 こんな提案を岡田先輩は承諾してくれた。さっきはあんな事言ってたけど実は器が大きいのかもしれない。

 私達がこうして何不自由なく野球が出来ているのも先輩のお陰だし、言葉とは裏腹に物凄く好い人なんじゃないだろうか。ツンデレかな?

 岡田先輩!陽美ポイントを進呈します!!

 

 勝負が再開され、詠深ちゃんが勝負球に選んだのはカーブ。岡田先輩は白球を引き付けコンパクトに振り抜く。

 

 キィン!······。

 

 グラウンドに甲高い金属音が鳴り響いた。白球は空を駆け放物線を描く。

 

「息吹ちゃんバック!」

 

 息吹ちゃんが打球を追いかけ飛び付くがグローブは白球に届かず、息吹ちゃんは外野の芝に倒れ込んだ。

 白球は右中間後方を転がりフェンスまで到達して動きを止める。

 

 勝負は岡田先輩に軍配が上がった。

 

「息吹!ナイスファイト」

「見直したぜ」

 

 藤田さんと川崎さんが息吹ちゃんに手を差し伸べ彼女のガッツを讃える。

 ても何だか息吹ちゃんが気まずそうな表情を浮かべていた。捕れなかった事を気にしてるのかな?

 

「惜しかったね。しっかり練習して次こそは捕ろうね!」

 

 私も息吹ちゃんに声を掛けてグラブで腰を叩く。

 

「あー······う、うん」

 

 だけど息吹ちゃんの言葉は歯切れが悪かった。

 

 

 

 

 

 

 ベンチへ引き上げると、打たれた詠深ちゃんよりも珠姫ちゃんの方が落ち込んでいる様子。

 私は二人を労おうと口を開きかけた所で岡田先輩がやって来た。

 

「捕っていた、私なら。センターフライ。勝ちだよ、そっちの」

 

 詠深ちゃんも珠姫ちゃんもキョトンとしている。

 

「良い球だった。悪かったよ、さっきは。お遊びなんて言って」

 

 岡田先輩の謝罪の言葉を聞いた菫と稜は納得した様子を見せていた。

 

「そんな······なら引き分けって事で。でも、私達にはまだ陽美ちゃんがいます。陽美ちゃんとの勝負で決着を付けましょう。良いよね、陽美ちゃん?」

「先輩さえ良ければ私は行けるよ」

 

 二人の勝負を見てて私もウズウズしていた所だ。詠深ちゃんの提案は正に私に船(※)。

 私は岡田先輩に視線を向けた。

 

「良いよ。今度こそ文句なしのヒットにしてみせるよ」

 

 

 

 

 

 

 マウンドに上って周囲を見渡した。いつもより頭一つ分くらい高い所から見る景色。何だか凄く懐かしい気がする。

 私はしゃがみ混んでピッチャープレートを撫でた。

 この場所が凄く愛しく感じる。高鳴る鼓動によって全身に血潮が巡るのを感じた私の体は今にも震え出しそうだ。ここに帰って来れた喜びが溢れて止まらない。

 早く白球を投げたくて仕方ないけど、始めに言っておかないといけないことがあった。

 

「先輩。さっきの負けた方が何でも言うことを聞くって話、まだ有効ですか?」

 

 バッターボックスでバットを担いでいる岡田先輩に尋ねる。

 

「······良いよ」

 

 先輩は顔色一つ変えることなく答えた。

 

「だったら、私が勝ったら野球部、続けてください」

 

 先程とは打って変わって先輩は驚いたように目を見開く。しかし、視線を鋭くさせ私を見つめながらバットを下ろした。

 

「自分が何言ってるか分かってる?上級生はみんな不祥事を起こした時の野球部を知ってる。一年生だって噂程度なら知らない子はほとんど居ないんじゃないかな。私達のせいで君達も悪い噂を立てられるかもしれない。云われもない陰口を囁かれるかもしれない。そんな過去を断ち切って新しくスタートするチャンスなん······」

「そんなの関係ありませんっ!!」

 

 私は先輩の言葉を遮るように叫ぶ。

 

「先輩はたくさん嫌な思いをしてきたんじゃないですか?それなのに野球部が失くならないように残っててくれて、野球が出来ないのにグラウンドだってこんなに綺麗にしてくれてっ。本当は先輩だって辞めたくないはずですっ。それでも私達の事を考えてくれてる先輩だからこそ私の後ろを守ってて欲しいんです。

悪い噂?陰口?そんなの先輩の分まで私達が黙らせてみせます。今からそれを証明するので、だから······」

 

 私はストレートの握りを岡田先輩に見せる為に右手で白球を掲げた。

 

「私が勝ったら野球部に残ってください」

 

 私の宣言を後押しするかの如く一陣の風が吹く。

 

「······分かった。理沙もそれで良い?」

 

 岡田先輩がライトに立つ藤原先輩に問うと、藤原先輩は両腕で丸を作って答えた。

 

 これで舞台が整った。後は私が勝負に勝つだけだ。




※私に船:渡りに船の間違い。

 陽美はアホの子です。
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