じゃじゃ馬ストレート   作:碧河 蒼空

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 ここしばらく、別名義で多作品の二次創作を書いておりました。


 今回は三人称で書いており、“ーー”の後に来るのはキャラの心の中の声です。


7話 この勝負には絶対負けられない!!!

 陽美はセットポジションから腿を大きく上げた。平行移動中にタメられた力を左足に乗せ、下半身から練り上げられたパワーを右腕へ無駄無く伝えられた彼女の右腕から放たれる白球は、唸りをあげて珠姫へ向かい駆ける。

 

「ストラーイク!」

 

 珠姫のミットがけたたましく鳴り響いた後に芳乃がストライクをコールした。怜はバットはピクリとも動かない。 ••••••動かすことが出来なかった。怜の想定を遥かに越える速度で目の前を通過したからだ。

 

 怜が冷や汗を拭う真もなくボールが陽美へと返される。サインの交換もなく陽美が再びセットポジションに入ると、怜も慌ててバットを構えた。

 

 続いて陽美が投じたストレートに対し、怜は今度こそバットを振ったものの、白球に掠りもせず振り遅れる形で空を切る。

 

 ーー直球がくると分かっていて二球目もタイミングすら合わないとは情けない••••••。何が“お遊びに付き合うつもりは無い”だ。

 

 ーー『悪い噂?陰口?そんなの先輩の分まで私達が黙らせてみせます。今からそれを証明するので、だから私が勝ったら野球部に残ってください』

 ーー••••••ああ、後輩にそんな事を言わせてしまうなんて、本当に情けない••••••。

 

 怜はバットを短くもって再び構える。

 三度もやられるものかと(ふる)ったバットは今度こそ白球に触れることが叶ったが、それでもまだタイミングは遅く、ギリギリ掠ったに過ぎなかった。

 

 陽美の直球の衝撃が伝わって震える右手に心中カツを入れ、再度構える。今度はよりバットを短く握って、その分もっとベースに寄って。

 

 ーーここで野球が出来るわけでもないのに、周囲の風当たりに耐えながらグラウンド整備や備品の手入れをする日々••••••。何故、こんなことをしているのかと幾度と無く思ったことか。

 

 四球目にしてようやくタイミングが合ってきた。白球は前に飛ぶことこそ無かったものの、バックネットに鋭く突き刺さる。

 

 ーーどれだけ情けなかろうが、何度も挫けそうになっても続けてきた事が、目の前に対峙する後輩の言葉で全て報われたんだ。

 

 

 

 怜は陽美を見据え、陽美も怜と視線を交差させた。

 

 

 

 ーー野球を諦めてこの学校に来た私がまたこうして野球をできるのは先輩達のお陰なんです。

 

 陽美は新しいボールを芳乃から受けとる。

 

 ーー小石一つ落ちていないグラウンドに綺麗に整備された備品。先輩達がこの野球部のために、来るかも分からなかった私達新入部員の為に、少しも手を抜かずに尽くしてくれたのは、何も見てない私にだって分かります。

 

 大きく一呼吸をとり、セットポジションに入った。

 

 ーーそんな先輩達がここで野球が出来ないなんて絶対に間違ってます。

 

 陽美と怜の纏う雰囲気が変わり、二人の近くにいた珠姫と芳乃はゾクリと背筋に冷たいものが走るように感じた。

 

 ーーみんなが私を野球に連れ戻してくれたように。

 

 外野を守る四人もただならない雰囲気を感じて息を飲む。

 

 ーー今度は私が先輩達をこの野球部に連れ戻して見せます。

 

 

 

 陽美が軸足に体重を乗せて左足を上げると、それに呼応するように怜も軸足に体重を乗せて左足を浮かせた。

 

 

 

 ーー今度こそ仲間に入れて欲しいって言うために••••••。

 ーー先輩達は何も心配しなくて良いんですって言うために••••••。

 

 陽美が渾身の直球を投じるために腕を振り抜き、怜も陽美のストレートに負けぬよう鋭くバットを振るう。

 

 ーーこの勝負には絶対負けられない!!!

 

 ••••••グラウンドに鳴り響いたのは甲高い音は金属音ではなく、皮の打ち付ける音だった。

 

「ス、ストライクスリー。バッターアウトッ」

 

 陽美が怜を三振に切って取った事で、勝敗が決する。物言い無しの晴美の勝利だ。

 

「••••••っ」

 

 怜は俯いて拳を握り締める。それだけ彼女にとってこの勝負への思いは大きかったのだ。

 そんな怜に、近くにいた二人の少女は声を掛けるのを躊躇っていた。

 

「岡田先輩」

 

 だが、マウンドから歩いてきた陽美は迷うこと無く怜に声を掛ける。

 

「待ってくれっ」

 

 怜は顔を上げて晴美の言葉を制した。その表情は酷く必死だった。

 

「勝負に負けてこんなこと言うのはとてもみっともないのだが、けじめを付ける為にも私から言わせて欲しい」

 

 そう言って怜は右手を差し出す。

 

「私達もここでみんなと野球をさせて欲しい」

 

 すると、陽美は影一つ無い笑顔を浮かべ両手で怜の手を握り返した。

 

「勿論です!!」

 

 手を取ったままブンブンと腕を振る陽美を、珠姫と芳乃は微笑まし気に見つめている。

 

「陽美ちゃーん!」

 

 外野から戻ってきた詠深が陽美と怜に抱き付いた。

 

「これからよろしくと願いしますね、キャプテン!」

「ああ••••••って、キャプテン!?」

 

 詠深の言葉をスルーしかけた怜は思わず聞き返す。

 

「あっ、それ良いですね。私の行き場を無くしたお願いがまだ残っているので、キャプテンお願いしますね」

 

 そんな晴美の物言いに怜は吹き出してしまった。

 

「それなら仕方ないな。させてもらうよ、キャプテン」

 

 抱き合う三人はみんな等しく笑顔を浮かべている。

 こうして新学期早々、野球部に訪れた騒動は大団円で幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 この後、先輩より先にグラウンドへ入ったペナルティで罰走20周が新キャプテンにより命じられるのは、また別の話。別の話ったら別の話。




 詠みにくいとの声があればまた考えます。
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