先輩二人が野球部に合流した翌日。私達は新入部員の勧誘をしていたんだけど••••••。
「今日もダメかぁ」
「野球経験者らしき人はさっきので最後だね」
ヨミちゃんと芳乃ちゃんは力なくが肩を落とす。
一年生の野球経験者はみんな別に入る部活を既に決めているか、そうでなくても野球は中学で終わりにした人ばかりだった。
「明日からは未経験の子にも声かけていきましょ」
息吹ちゃんは落ち込む二人を励ますように前向きに話す。
「••••••ところで陽美は何を持ってるの?」
続けて息吹ちゃんが私が右手に持っているものを指差す。
「ふふ~ん。よくぞ聞いてくれました。じゃじゃーん!」
私は昨日、家で書いてきたA3の画用紙を広げた。
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~野球部 部員急募~
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1年生が活躍中
君も頑張り次第でレギュラーも狙えちゃう!
優しい先輩が教えてくれる
アットホームな部活です(^^)
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「ブラック企業のキャッチコピーか!!?」
息吹ちゃんは鋭いツッコミを入れる。これおばあちゃんが“上手に描けたねぇ”って褒めてくれた自信作なんだけどなぁ••••••。
「この息吹ちゃんなんて凄く可愛く書けたと思うんだけど••••••」
「それ私だったの!?」
私が画用紙に書かれた女の子の顔8つの内の一つを指差すと息吹ちゃんが顔を引き攣らせた。
「陽美ちゃん、それ私が預かるね」
芳乃ちゃんが笑顔で右手を私に差し出す。
「え?でも部室までこれ広げて歩いた方が良いんじゃないかな?」
「陽美ちゃん」
芳乃ちゃんは表情一つ変えないが、言葉に乗る圧が少し強くなった。笑顔なんだけど、何だか怖いよ、芳乃ちゃん••••••。
「う、うん••••••」
笑顔の芳乃ちゃんの迫力に気圧され、私は自信作を渡してしまった。
「あ、ここにサインしてよ!」
ハーフツインテールを羽ばたかせて芳乃ちゃんが言う。
あれ?もしかして私の自信作もう戻って来ない!?
練習中の事。
「おっ、大村 白菊です。中学までは剣道部で、野球は初心者ですのでポジションとかはまだ••••••」
「中村 希••••••一塁と外野してました」
何事!?あれだけ探しても見付からなかった新入部員が二人も!!?
詠深ちゃんすごいよ!陽美ポイントあげちゃう!!
白菊ちゃんは初心者みたいだけど、希ちゃんは経験者らしい。二人にはまず体験入部ということでマシン打撃をして貰うことになった。ジャージに着替えてもらうために私は二人を部室に案内する。
「一年生からあんな良い設備を使えるなんて凄いよね」
道中、私は二人とのコミュニケーションを計った。うちはアットホームな部活だからね!
「そうなんですか?」
野球未経験の白菊ちゃんはピンとこない様子。
「ああいうのは上級生が優先だからね。学校によっては一年生は球拾いってのもよくある話だよ」
そういった点では本当にうちは恵まれてる。
「そげなと全国に行けないと意味なかもん••••••」
「?希ちゃん何か言った?」
「••••••何でもなかよ」
「そう?」
希ちゃんが何か言ったような気がしたんだけど••••••気のせいかな?
私に連れられて部室へとやって来た二人は体育着へと着替える。
部室に飾られている全国出場記念の写真を二人が見ていたが、ここでも希ちゃんは表情に影を作っているのが、私は気になっていた。
「希ちゃんは全国とか興味ある?」
「絶対に行きたいっ••••••行かないかんっちゃ••••••」
希ちゃんは拳を握りしめている。希ちゃんが何を思うか私には分からないが、ちょっとだけ想像をしてみた。9人に満たない部員。監督コーチのいないグラウンド。どんなに機材が良かろうが、一年生から試合に出られようが、全国に行きたいと言った希ちゃんにとっては理想と程遠いんじゃないか。
「行こ、みんな待っとろうし」
気が付けば二人とも着替え終わっていた。
「そうだね。白菊ちゃんも準備できた?」
「はいっ、いつでも行けます!」
気合い十分な白菊ちゃんと一緒に、既に背を向けていた希を追うように部室を出た。
「全国か••••••」
私は部室の前からグラウンドにいる七人を見る。
「陽美さん?」
「何でもないよ。行こっか」
立ち止まっている私を見て不思議そうな白菊ちゃんにそう言って、再び歩き出した。