異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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知らない所で

「んー……。どうしたものか……」

 

 

 書類を見ながら頭を悩ませる。今考えているのはこれからの事。王都は無事に再興し、新たな街を作る計画は白紙。今は国王とアレクを中心に砂漠化が進み王国が飲み込まれる事と、どこか別の場所に移民をしないといけない事を民に話し備えている。

 俺に託されたのは移民先。南の大陸か、北の大陸の間にある小さな島か。他にも候補はあるが、一からやり直すなら、彼等に適応した場所の方が良いだろう。それとは別にもう1つ問題があるのだが。

 

 

「なぁ国王。本当にいいのか?」

「私と七賢者。その他望む者がこの国と共に最後を迎える事か?」

「俺は反対しないけどさ。若い命や才ある者。技術や知識がある民は強制移民だし。魔術協会に対してはエリンの指揮の元、準備済ませてるし」

 

 

 これが大きな問題だ。この国の人口の大半は高年齢。そして国王が認めてこの国と共にすると言った民は4500人。半分以上が残ると言っている。皆が決めた事なら止めはしないが、そのお陰で一部の若者が技術を引き継ぐために地獄を見ている。

 

 

(はぁ……俺がもっと強ければこんなことには……)

 

 

 まだあの時の傷は癒えていない。時々だが自分を責めてしまう。その度に優しく接してくれるアレク達の気使いがとても辛い。

 

 

「陛下。失礼するよ……っとフレア様もいたのか」

「おぉ。エリンか」

「……ん。どうした?」

 

 

 さっき話しに出てきたエルフのエリンが姿を現す。何かあったのだろうか。そうでもなければここには来ないし。

 

 

「ルミナス様が顔出せって」

「……そういえばここ数年会ってないな」

「若様とマリンさんは会ってるのにね」

「仲良いよねあの2人」

 

 

 それは悪いことではないだろう。マリンというのはルミナスの配下の吸血鬼の1人。アレクと仲が良く、隠れてコソコソ何かやっているのを度々見かける。

 

 

「……少し出て来る」

「ルミナス様の所……ではないか」

「あぁ。夕方までには戻る」

 

 

 姿を切り替えて城から飛び立つ。向かうのは王国から南に進んだ場所にある泉。考え事や気分を切り替えるには丁度いい場所だ。この場所もいつかは無くなると考えると……いや、止めておこう。

 

 

「さて……たまには振るうとしよう」

 

 

 愛刀である正宗を顕現させる。究極能力で生み出す炎と光で錬成した影響か、刀身が紅く染まり、金色の桜が刀身に描かれている。ただでさえ小太刀と同様に全てを断ち切ることが出来るのに、更に進化し、安易に振るうことが出来なくなった。

 

 

「ふん!」

 

 

 神速の居合斬りを放ち、水しぶきをあげる事無く湖を綺麗に一刀両断する。毎日先生達と鍛錬しているお陰で、魔王に進化した時よりも剣技は進化している。鍛練の最中にユニークスキル『剣聖』を手に入れ、相手の剣技を瞬時に解析し会得したり、自身の剣技と合わせるとほぼ全ての攻撃を斬り伏せることが出来るようになった。『魔法闘気』等、剣に関係するスキルが含まれている。流石にミリムのドラゴ・ノヴァやヴェルザードの白い閃光は防ぐことしか出来ないが。

 

 

「……いくら剣の腕前が良くても、役に立たなければ意味がない。結局俺は勇者だった頃から変わってないのか……」

 

 

 鞘に正宗を納める。力を得て能力が向上しても役に立たなければ意味がない。役立てるには、相応の立場が必要だろう。王家の側近以外に、誰か俺を上手く使ってくれる奴がいれば……。

 

 

「そうか。その手があったか」

 

 

 ある事を思いつき、城へと直ぐに戻った後、自室の宝珠に魔量を流し、ルミナスのいる城へと転移。部屋を出て彼女のいる場所へと向かっていると、聞き覚えのある2つの声が聞こえてくる。

 

 

「どうだ?上手くいきそうマリンさん?」

「何とかね。ルミナス様の許可は貰ってるから準備するわ。私達からしても貴方達の加工技術や錬金・錬成術は喉から手が出るほど欲しいし」

(……)

 

 

 この声はアレクとマリンか。気付かれないように魔力感知で2人の会話を聞く。

 

 

「それにしても大変ね。貴方からしたら全員生き残って欲しいでしょう?」

「まぁな。でも親父や皆が決めた事ならそれを尊重する。それに生きた証は残るし、どれだけ時間が掛かっても必ず砂漠化の問題を解決して完全復興させて慰霊碑を建てる」

「ふふ……応援するわ。その為にも裏で進めている計画はフレア様に気付かれないように。あの人は色々と面倒くさいから。ルミナス様も時々愚痴ってるし」

「それでいいんだよ。寧ろ面倒じゃない男なんて存在しないさ。それに……アイツにはもっと我儘言って自分勝手に動いて貰わないと。名乗っていないとはいえ魔王なんだからさ」

「でもそこがあの人の良い所で危ない所。そろそろルミナス様もキレそうだし。もっと自分の想いを吐き出せって」

(……)

 

 

 成程。俺は結構面倒な男なのか。あまりそう感じていなかったが、付き合いの長い連中から見ると、そう見えるのかもしれない。正直何処が面倒か分からないけど。

 

 

「……おい」

「!?」

 

 

 背後から声を掛けられ、思わずビクッとしてしまう。幸いにも音は立たなかったからアレク達に気付かれていないが流石に驚いた。魔力感知を使っているのに感知させないとは。そんな芸当が出来るのは一人しかいない。

 

 

「驚かせるなよルミナス。人が教えたスキルまで使って」

「盗み聞きする面倒な男が悪い」

「君も聞いてるじゃん……」

「妾は内容を知っているだけにすぎん。それより面を貸せ。大事な話がお互いあるじゃろう」

 

 

 俺の手を掴み俺が来た方向とは逆……ルミナスの私室がある場所へと向かっていく。部屋に入るとルミナスは手を離し紅茶を淹れ始める。俺はルミナスに許可を得てからベットに腰を降ろす。それと同時に、紅茶とクッキーが置かれた小皿を出してくる。

 

 

「ほれ。落ち着くぞ」

「ありがとう」

 

 

 カップと小皿を受け取り、まずは紅茶を一口。今回はハーブティーか。クッキーの方はバターの味がする。形も綺麗だしベルから教わったのか。

 

 

「珍しい。紅茶はいつも通りだがクッキーは初めてだ」

「妾も乙女だからの。こういった物もたまにはいいじゃろう?」

「……え?乙女?ちょっと年齢的に……あ」

 

 

 しまった。女性に年齢云々を言うのは地雷だ。ルミナスのように長生きしている人物には爆弾に匹敵する。だってルミナスは乙女より大人の女性だろう。妖艶な笑みといい、乙女と思う方が無理だ。

 

 

「その……ルミナス?」

「ふふ……覚悟は良いな?」

「・・・・・・」

 

 

 なんとも素晴らしく冷たい笑みを浮かべながら、俺が持っていたカップと小皿を取り上げて机の上に置き、抱きついてくる。この後彼女が何をするかなど考える必要もない。

 

 

 

生と死の抱擁(エンブレイスドレイン)

 

 

 

「いたたたたたた!痛い!めっちゃ痛い!すまん!悪かったぁ!」

 

 

 彼女のユニークスキル『色欲者』による激痛と不快感が襲ってくる。並みの人間や魔人なら即死してる所だ。俺は覚醒魔王なので死ぬことは無いが、何時もより酷いんですけど!?

 

 

「たまにはいいと思って出したのだが、よもや妾にあのような事をほざくとは!」

「だからごめんって!俺が惚れたのは大人の魅力がある君で乙女の君ではない!」

「そんな事知っておるわ!だからこそいつもと違う妾を見せたのじゃ!」

「そんな無茶しなくていいって!」

「少しは貴様に素直になって貰おうと思っただけだこの鈍感野郎め!」

 

 

 更に力を強めてくる。割とマジて勘弁してください。死なないとはいえ限界に近いので。というか『生と死の抱擁』を受けるのは随分久しぶりだな。勇者時代は事ある度に拘束という名目上やられていたが。

 

 

「あの!そろそろ勘弁してもらえないかな!?反省したからさ!」

「ふん。貴様は繰り返すからな。もう少し念入りに〆ておこう」

「酷い!また黒歴史を増やす気か!」

 

 

 この後一時間近く説教されながら酷い目に合いました。やっぱり種族関係なく女って怖い。次から怒らせないように善処しよう。

 

 

「ふぅ。こんな所でよいか。次は無いぞ」

「……おぅ」

 

 

 ようやく解放される。きっと今の俺の顔は酷いだろう。今は親友だがこれ以上の関係になると尻に敷かれる予感しかしない。どのみち俺はともかくルミナスは俺の事なんて…なんとも思っていないだろうが。

 

 

「少し胸を借りる。よいな?」

「いいよ。動けないし」

 

 

 ルミナスが横を向き、左胸辺りに頭を当てて体を預けてくる。しかし久しぶりに会った影響か少し馬鹿な事をした気がする。まぁお陰で肩の力も抜けて少し気持ちが軽くなったな。心臓の鼓動は早いけど

 

 

「やはりおかしい。妾に惚れてるお主の鼓動が早いのは理解出来る。なのに何故妾の鼓動も早く体が熱い?」

「俺に聞かれても……」

 

 

 それが恋ですよ。と言えればいいのだが、ルミナスのような魔人がそう言った感情(恋愛感情)を持ち合わせているとは思えない。あくまでも個人的な考えだが。

 

 

「……ホムラ。1つ我儘よいか?」

「どうぞ。男は女の我儘を聞いて叶える義務がある」

「そんな義務があるとは初めて聞いたがまぁよい」

 

 

 おや。この辺りはどの世界でも共通だと思ったが違うのか。あまり過度に知識を教えたり持ち込んだりするのは控えよう。後々自分の身を滅ぼすことになるかもしれない。

 

 

「砂漠化の問題が解決する時まででいい。妾の所に来ないか?」

「……迷惑だろ。約3500人もいるのに」

「迷惑な物か。マリンも話していたように拒む理由が無い。暇を持て余している上位吸血鬼からしたらいい刺激になる。加えて献血という形で少量の血を貰えれば、下位の吸血鬼達は夜な夜な人を襲う必要もなくなる」

「加えて共同開発等も出来るから更に発展するか……」

 

 

 そう考えればお互いに良い話なのだろう。以前から錬金・錬成術、加工術に興味があるとルミナスは言っていた。現に彼女から教わった魔法を組んだ新しい術も開発されている。彼女達からすればこれほど興味を惹くものは無いだろう。

 

 

「じゃが……お主は難しいの。配下の者は良いとしてお主は魔王。いつかは名乗る身としても簡単に受け入れる訳にはいかぬ。ギィが何を言うか分からん。魔王で無ければ手元にずっと置いておくのだが」

「……別に良いんじゃないか。君が望むならいいよ」

 

 

 ゆっくりと後ろに倒れて横になる。確かに俺は世界に認められた魔王だか名乗っている訳では無い。ギィが何か言ってくるなら自ら事情を話すさ。

 

 

「君になら縛られても構わない。これから長い時を生きるし、誰かが隣に立っていてくれたら助かる。長い時を掛けてあの国を再建させた後も、傍に居て欲しいなら傍に居る。手元に置きたければ置けばいい」

「……ふふ。お主は……」

 

 

 ルミナスは微笑みながら覆うように抱きしめてくる。両腕を首に回し、俺にも同じ様に抱きしめろと催促してきたので左腕を腰に回し、右腕で頭を優しく撫でる。

 

 

「妾の事好きか?」

「好きじゃなかったらあんなこと言うか。そういう君は?君の瞳に俺はどう映ってる?」

「どう映ってて欲しい?」

 

 

 上体を起こし顔を近づけてくるルミナス。赤と青の瞳が目と鼻の先に現れ、その瞳に視線が吸い寄せられ心臓の鼓動が更に早くなり、思わず顔を逸らしてしまった。

 

 

「妾の勝ちじゃの」

「はいはい。俺の負けですよー」

 

 

 少し離れて頬を突くルミナス。決して恥ずかしくて視線を逸らしたわけではない。見ていると色々と持ちそうにないかっただけだ。

 

 

「安心しろ。妾の瞳に映るお主は出会った時から変わらぬ。勇者なのに魔人であるお主を助けたあの時と」

「俺って全然成長してないのかね……」

「輝きは増してるがな。妾には眩しすぎる。だが……」

 

 

 再び顔を近づけてくる。今度は互いの息遣いが分かる距離。顔を突き出せば口付け出来る距離だ。

 

 

「その眩しさがとても愛おしく感じる」

「さ、左様ですか……(ち、近い!近すぎるって!)」

 

 

 超至近距離で微笑むルミナス。マジでヤバいです。破壊力が凄まじい。改めて吸血鬼の神祖であり姫である事を痛感する。こんな事されて惚れるなってのが無理だよ。まぁ俺の場合彼女の心に惚れたけど。

 

 

「良い返事を期待しておる。準備は進めておくからの」

「……了解。国王に伝えて話を詰める」

「うむ。出来る限り早くの。そろそろ戻れ、小僧が気付く前に」

「ん。それじゃ……離れて。そろそろヤバいから」

 

 

 ルミナスの両肩を押し離れて貰ってから起き上がる。何とか大丈夫そうだ。それにしても今日のルミナスはいつもと違いすぎて心臓に悪い。いい気分転換になったけど。

 

 

「じゃあまたな。近い内に連絡する」

「あまり無理をするな。愚痴や悩みならいくらでも聞く。全部吐き出すのもたまには大事じゃ。酒ならいくらでも付き合ってやる」

「助かる。それは次の機会にしよう」

「ではまた……っとその前に」

「……?」

 

 

 ルミナスは俺の前に立ち、右手で視界を遮る。何をするかと思っていると、唇に柔らかい何かが当たり、それから視界を遮っていた右手を退かすルミナス。

 

 

「何したんだ?」

「……別に。お主が気にする必要はない」

「そうか。またな」

「ん……」

 

 

 少し様子がおかしい気がするがまぁいいだろう。アレクが戻る前に王国へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒロインはルミナスです。
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