異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
雲一つ無い青い空の今日この頃。サンフレア王国は朝から慌ただしい。ルミナスの治める国、夜薔薇宮への移民準備を進めているからだ。と言ってもアレクとマリンが裏であれこれしていたお掛けで滞りなく進んでおり、その様子を上空からウインディと一緒に見守っていた。
「順調に進んでるね」
「あぁ。だって今日はアレを転位させる日だし」
俺達の丁度下には大きな屋敷程の窯がある。その周囲には50人程の技師や鍛冶師が作業をしている。あの窯は完成してから一度たりとも炎が消えた事がないらしい。故に今の状況はかなりレアらしい。
「炎と言えばホムラはここに来る前に炎の神を称える一家の長男だっけ。その影響で友達いなかったとか言ってたけど」
「そうだけど?」
「でも、神社ってのに参拝する人は来るでしょ?仲良くなった子ぐらいいないの?」
「あー……一人いたね。母親と一緒に参拝していた子。迷子になって保護したんだよ」
確か女の子だったはず。名前は……シズだっけ。とても優しい子だったと記憶している。元気にしているといいけど。
「ま、向こうの事なんて興味ないけど。美味しいご飯以外」
「だったら何で聞いた……」
相変わらずな彼女に思わずため息がでる。そんな事だからパールさんに説教されるんだよ。でも少し気になる。あの戦争がどうなったかとか家族は無事なのか。個人的には最悪な一家だったけど、愛着はあったし。
『ホムラ様。お客様が来られてます。直ぐに王宮にお戻りを』
「了解。準備出来たら呼んでくれウインディ」
「ラジャ!」
ウインディと別れ王宮に戻る。一体誰が来たのか考えていると、かつて戦った原初の紫と同じ気配を感じ取る。だがギィではない。という事はあの2人のどちらかという事か。
「お茶会ね……」
定期的にギィとラミリス、ミリムの3人でお茶会を開いている話を聞いた。俺の所にもお誘いが来たのだが忙しくて断っている。流石に1回は顔を出すか。あれから会っていないわけだし。
「お久しぶりですフレア様」
「……どうもレインさん。お茶会?」
「はい。今日は首を掴んででも連れて来いと我が主から」
「……了解だ。後ろの扉を通ればいいのかな?」
「はい。どうぞ」
心を落ち着かせ、正宗を右逆手で持ち扉を通り抜ける。通り抜けた先には4つの椅子と丸い机。周囲は白い壁で覆われている。これはギィが生成した空間……アイツの城の一角か。
「ふっ!」
「!?」
光の弾丸が高速で迫ってくる。冷静に速度を見切り正宗を抜いて斬り伏せる。今のは俺の焔天之王で生み出した光。あの野郎……ふざけた挨拶じゃねぇか。
「腕を上げたな。機会があれば剣技のみで相手をしてもらいたい。つか教えろ」
「断る。アンタに唯一勝てるものだからな」
正宗を鞘に納めて机に立てかける。それから椅子に座りだされた紅茶を一口……む。これもいいな。でも個人的にはルミナスが淹れた方が好みだ。
「……で?吸血鬼の姫と何を企んでる?」
「移民だ。砂漠化の問題が解決するまで。文句ある?」
「文句はねぇよ。あの件に関しては。だが……」
「はいはい。一定の距離は保ちますよ。どのみち色々やりたいから落ち着いたら旅に出るし」
「今でも十分だろう?まだ力を求めるのか?」
「……当然だ」
俺にはギィやミリムのような力はない。ましてや能力をコピーなんてできないし、竜種としての絶大な力があるわけでもない。俺にあるのは刀だけだ、ならそれを限界まで極めるのが当然だろう。その為に必要な物は全部手に入れるさ
「あんな思いは……もう嫌だっ。俺は強くなる。例えアンタやミリム、既存している3体の竜種が相手だろうと誰だろうと…負けない為に」
「だが『焔天之王』では相手を倒せない、それを補うための刀とは言え限界がある。それは分かってんだろう?その上で何故お前は『焔天之王』を『反転者』で逆の性質と特性を持った究極能力に変えて会得していない?」
「……痛い所突くなよ」
流石は最強の魔王。俺の焔天之王をコピーした時点で気付いてたか。彼の言う通り、俺の究極能力は『反転』させて別の究極能力に変える事が出来る。そして会得することも、やってない理由は確実にギィにコピーされることが分かってるからだ。
「やってもいいけど、これ以上体に負担をかけるとルミナスに怒られる」
「随分と愛されてるな。2つの究極能力ぐらい同時に使ってみせろ」
「無茶言うな……っと。来たか」
扉が開きミリムとラミリスが姿を現す。2人は同じ場所にいたのか。ラミリスが手のひらサイズだが今気にしないでおこう。さて……取り合えず色々と備えるか
「久しぶりだなギィ!それと……」
「取り合えず一発殴るわよフレ……ホムラ!」
ラミリスが右頬を全力で殴ってくる。おかしい、以前はとても痛かったのだが、なぜか痛くない。ぺちぺちと可愛らしい手で頬を連打してくる。ちょっと鬱陶しいな
「おいギィ。どうしてラミリスが小さい?」
「あぁ。堕落して転生と成長を繰り返す魔王になってな。お前が馴染みある姿は一定期間しかなれない」
「そうか。随分みじめな姿に……」
悲しむ振りをしながらラミリスの頭を持ち肩に乗せる。さて次はミリムだが……
「よぅ。久しぶりだな」
「む、ラミリスとはもういいのか?」
「良くないわよ!アンタ最近コソコソ何をーーー」
「はいはい。その件は今から話す。殴りながらで良いから聞いてくれ。頼みたい事もあるし」
「え?アンタが私に頼み事……」
とても意外そうな表情を浮かべるラミリス。一発弾き飛ばしてもいいだろうか、俺だって友達を頼る事ぐらいはある。最近になってからだけど
「近い内に会いに行くから。時間作っといて」
「それは構わないけど。もしかして吸血鬼とコソコソしてるのと関係してるわけ?」
「……まぁ聞いてくれや。ミリムもいいか?」
「もしかして砂漠化の件か?アレに関してはワタシにも責任はある。何でも相談するといいぞ」
ひとまず現状を皆に話し、それに対しての行動を説明。ミリムとラミリスは何も言わずに聞いていた。そして全部話した後、最初にラミリスが口を開く
「成程……ね。それで知識が必要だから私の元に来るわけか」
「あぁ。光の精霊の力が必要だ。来るかは分からないけど」
「大丈夫よ。きっと来てくれる。いつ頃来る?」
「移民が完了して落ち着いて、国の終わりを見届けてから。後100年以内に訪ねる」
「了解。準備しておくわ」
よし。今必要な話はこれだけか。ルミナスの元に居る件はギィの許可を得ている。他に話すことは特になかったはず。
「という訳だから帰っていい?今忙しい」
「ダメだ。ワタシは用があるのだ」
「……何?」
大変嫌な予感がする。ミリムの用とは何だろう。まさか戦えとか言わないよな。どう考えても負ける未来しか見えないのだが。
「改めてお前と軽く手合わせしたい。あの時のお詫びだ。構わぬよなギィ?」
「好きにしろ」
ギィは机を軽く叩き空間を広げる。ラミリスは俺の頭の上を動かない。ミリムは机を飛び越えて準備運動を始める。
「やれやれ……軽くだな?」
「勿論だ。あの時は暴走してフレアの剣をきちんと見れなかった。だからこの場を借りて見せて貰うぞ」
見覚えのある剣を取り出すミリム。結構ヤバい剣だな。俺の錬成前の正宗といい勝負している。魔素量は上昇していない所を見ると本当に軽い手合わせのようだ。
「しっかり捕まっていろよラミリス」
「落とさないようにね」
「はいはい」
正宗を左手で抜き鞘を壁に立てかけ、剣先で自身中心に半径1メートルの円を描いて構える。
「さて……。いつでもいいぞ。俺はこの円から出ない」
「ほぉ……。楽しみなのだ!」
正面から突っ込んでくるミリム。間合いに入った瞬間に力を入れて殺気を放つとミリムが急停止し、距離を取る。少し冷や汗をかいている所を見ると、届くとは思っていなかったのだろう。
「その距離から届くのか?いくらお前の刀が長いとはいえ」
「あぁ。この円はあくまでも今の俺の領域。間合いは最低でもこの10倍以上はあるっ!そして今君が立っているそこも―――間合いの内だ!」
「!?」
正宗を横薙ぎに振るいながら斬撃を飛ばす。ミリムは跳躍して回避しながら隙を狙って再び正面から突っ込んでくる。瞬時に両腕で正宗を持ち直し受け止める。
「いい反応なのだ!そんな重い得物でよく動く」
「慣れって奴だ」
剣を弾き連撃を繰り出す。ミリムはそれを容易く避けながら反撃を繰り出してくる。その反撃を正確に返しつつ誘導し、隙を作らせた所を柄で突き飛ばす。
「ぐっ!」
鳩尾を抑えながらも壁の手前で体勢を立て直すミリム、あの時とは違い十分戦えている。条件次第ならミリムにも負けない可能性が出てきたな
「やるなフレア……いやホムラよ。そろそろワタシも本気を出す」
「え?ちょっと待ちなさいミリム。軽い手合わせでしょ?」
「……ギィ?」
視線を送るとにやけ面を浮かべるギィ、止める気無いなあれは。それに本気を出すといっても魔素は増えていない。あくまでも魔王として本気を出すという事だろう
「いいぜ。折角だから付き合ってやる。外に出してくれギィ」
「いいだろう。ヴェルザードにはオレが伝えて置く」
ギィが再び指を鳴らすと俺達は城の外に転移、ミリムは鎧を纏い額に角を顕現させてからさらに上空へ移動。俺はラミリスの頬を突き大丈夫だと伝えて頭から離れてもらう
「無茶したらダメよ!」
「分かってる」
釘を刺されてから炎の翼を羽ばたかせ上空に。さて……魔王として本気を出すなら俺も全力をだなさいと。
「周りに被害出ないように気を付けろよ」
「それぐらい分かっているのだ。ゆくぞ!」
さっきより速い速度で迫り、剣を振り下ろしてくる。刀身に焔を纏い受け止めると、衝撃波が周囲に走る。思ったより重い一撃だ。不用意に受けないほうが良さそうだな。
「ふっ!」
「っと!」
力任せに薙ぎ払うミリム。後ろに後退しつつ相手の出方を伺いたい此方にたいし、そうはさせまいと、怒涛の連撃と光弾を放ってくる、こちらも焔弾を放ち迎撃しつつミリムの剣劇を受け流していく。
「ここまで攻めても崩れないとは。大した奴なのだ!」
「経験の差だ!」
回転斬りでミリムを斬り飛ばしてから全身に焔を纏うと、体勢を立て直したミリムは力を集約させはじめる。あの構えはーーードラゴ・ノヴァかっ!?
「ゆくぞ。ドラゴーーーん?」
「……ん?」
溜めた力を解き放とうとした時、周囲の温度が下がる。そして感じるヤバい気配。それは丁度俺の真後ろから。どうしよう、振り向きたくないのだが。
「……ミリム?どうする?」
「お、お前に任せるのだ……」
人任せにも程がある……無視する訳にもいかないか。結構暴れたしね。覚悟を決めて振り返ると、そこにいたのは竜種の一体でありギィの相棒であるヴェルザードだった。
「その……すまない」
「あら。まだ何も言ってないわよ?それに貴方はミリムの挑戦を受けただけじゃない。咎めるなら……」
ミリムに視線を向けるヴェルザード。ミリムは一瞬で俺の背後に回り込み背中を押してくる。俺にどうにかしようと押し付けても無駄だ、例えどんな種族でも女は怖いからな!
「大丈夫よ。こうなる事を分かっていたのに止めなかったギィが悪いから。2人には何も言わないわよ。特に貴方には面白い物を見せて貰ったし」
「どうも。誉れ高き白氷竜にそう言ってもらえて光栄だ。もしよければ手合わせ願いたい。ヴェルドラへの対応を身に着けたいし」
「いいわよ。落ち着いたらね。さて……」
ギィの元へと向かうヴェルザード。身を包んでいた冷たい圧が消え去り緊張の糸が切れたのか、体の力が抜けてゆっくりと落ちて行く。
「おっと。大丈夫か?」
「済まないミリム」
右手を掴むミリム。そのままゆっくりと地上に降り正宗を鞘に納める。上空が雲に覆われているせいか魔素が回復しない。この後激務が待ってるのだが。
「取り合えず帰るか。またなミリム」
「うむ。何かあれば遠慮なく頼るのだぞ?」
「了解。説教受けているギィとラミリスに宜しくな」
言伝を頼み王国へと戻った後、窯の転位作業等で俺が過労死しそうになるのはまた別の話しである。