異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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妖精の棲家

 朝早く。俺はハクエンを連れて夜薔薇宮を散歩兼見回りをしていた。移転作業もある程度目処がつき、移民も大半が終わっているが、完全に終えるまでもう少しかかりそうだ。だが、時間はかけた方が良い。一気にやるよりも少しずつの方が適応しやすいからだ。

 

 

「この時期は寒いな……」

『天気も曇っているので尚の事ですね。温まりに行きますか?』

「雪降るかもしれないしな……」

 

 

 今の季節は冬。天気が不安定な大森林は兎も角、ここや王国は変わりにくいが油断は大敵だ。それにハクエンも結構きつそうだ、ウインディなんて先生から離れなかったし。

 

 

「ハク。コートの中入るか?」

『……そうやって尻尾をモフモフするつもりでしょう?』

「それはルミナスだろう。たまに枕にすることはあるけど。おいで」

『ではお言葉に甘えて』

 

 

 体を小さくさせてフードの中に納まるハクエン。顔だけ出したのを確認してから散歩を再開。特に目立った事は無いと思っていた時だった。王国の民が住まう区画の入口で、アレクとマリンさんが談笑している所を目撃したのは。

 

 

「おぅ……花畑」

 

 

 彼等を纏う桃色の雰囲気に呑み込まれそうになる。このまま2人がゴールインすれば人間と吸血鬼のハーフが産まれる可能性があるのか。これは全力で陰で応援しよう。

 

 

「こっそり背中を押そうハク」

『そうですね。影でこっそり覗いている方がいますが』

「覗いてる……ん?」

 

 

 丁度アレク達から死角になる位置でルミナスが熱い視線を送っている。気付かれたら雷落とされるぞ。しかもなんか小言で余計な事言ってるし。

 

 

「押せ!押さんか小僧!男ならグイグイ行かんか!」

「『……』」

 

 

 アレク達が魔力感知を切っているせいか気付いていない。俺とハクエンにはばっちり聞こえている。マジで止めた方が良いかも知れない。下手をすればアレクの2つあるユニークスキルの1つである『断罪者』に引っかかる可能性が出て来る。

 

 

『あの……ルミナス様の為にも……』

「いや。放って置こう。俺達は何も知らない」

 

 

 180度反転して鍛冶区画に向かおうとした時、ルミナスの魔素が少し減少したのを感じ取る。まさかと思い視線を向けると、彼女の顔が青ざめている。

 どうやらアレクの『断罪者』が発動した模様。自身より下位の存在は条件を満たすと問答無用で即死、上位の存在には何かしらのデメリットが生じる。ルミナスの場合は体調が悪くなるようだ。

 

 

「全く……」

 

 

 アレク達に気付かれないようにルミナスの隣に転移して腰に右腕を回す。ルミナスは悔しそうな顔と嬉しそうな顔をしてから体を預けてくる。

 

 

「自業自得だぞ」

「分かっておる。小僧の癖にやりおるわ。奥手の癖に」

 

 

 それは関係ない気がするが、あの2人がどうなるかは気になる。ので、あまり余計な事をしないように釘を刺しておこう。

 

 

「もう大丈夫だな。俺は鍛冶区画に行ってくる。頼んでいた物が完成したらしいからな」

「ならこれからラミリスの元に向かうのか。何をするのか楽しみにしておく」

「あぁ。夕方までには戻る。何かあったらすぐに連絡して欲しい」

「分かった。気を付けての」

 

 

 ゆっくりとルミナスが離れたのを確認してから鍛冶区画へ。既に大半の工房は移設しており、俺の刀を担当している刀匠さんもいる。だが向かうのは刀匠さんのいる工房ではなく、魔鉱石を様々な物へ錬成及び加工している場所だ。

 

 

『一体何を頼まれたのですか?』

「着いてのお楽しみだ」

 

 

 暫く歩くこと数分。鍛冶区画到着し、一件の工房へと入る。中では1人の少女が30cm程の魔鉱石で作られた人形に可愛い服を着せている所だった。

 

 

「可愛い服だねリン」

「あ。フレア様!それにハクちゃんも!」

 

 

 俺達の呼び声に笑顔で答えるリン。彼女はこの工房の錬金を担当する立派な錬金術師であり、怒るととても怖い少女である。

 

 

「頼まれたお人形出来たよ。もしかしてルミナス様への贈り物?それにしては複雑な仕組みだけど。小さな宝珠も作って欲しいて言ってたし」

「とある素敵な妖精さんの器。宝珠は核に使うから後で俺の能力で錬成する。後でもう一度調整頼んでもいい?」

「勿論。その変わり今度ルミナス様とお茶したいって伝えてくれる?」

「了解だ。任せて」

「うん。はいどうぞ」

 

 

 リンから少し重い人形と宝珠を受け取り、仕上がり具合を確認してから鞄にしまう。それから宝珠に焔で錬成しつつ特殊な結界で保護をして作業終了だ。

 工房を出て、城に一旦戻ってから以上が無かった事をルミナスに報告し、ベルを連れてラミリスのいる迷宮へと地道……ではなく空を飛んで向かう。

 

 

「あのホムラ様。私も付いて来て宜しいのですか?」

『それを仰るなら私もですが。もしもの事を備えてせめてベル様だけでも』

「別にいいさ。3魔人がいれば大丈夫。皆強いし、俺との鍛錬でそれぞれのユニークスキルが進化してる。究極能力に覚醒するのも近いだろう」

 

 

 基礎能力が優れている影響か成長速度が速い。実際に本気で戦っていないので分からないが、究極能力を使わず、ユニークスキルのみで戦闘すれば少なくともエンブにはかなり苦戦を強いられるだろう。中でもパールヴァティの水、ウインディの風、エンブの炎を交えた合体技はヤバかった。

 

 

「先生が暴風竜と殴り合った話は嘘ではなさそうだよね」

「ユニークスキル同士でも魔素量で明らかに暴風竜の方が上のはずですが」

『あの人に常識を求めてはいけません』

 

 

 それには同意する。そもそも魔人やギィ達に常識の範囲内で解釈をしてはいけない。絶対に痛い目を見るのは確定だ。

 

 

「さて、そろそろ到着だけど……」

「いやぁぁぁぁ!」

 

 

 響き渡るラミリスの悲鳴。視線を降ろすと、大きな蟻に追いかけられているラミリスの姿が。おいおい、迷宮で待っているって言ってなかったか?

 

 

「大丈夫かラミリス?」

「大丈夫なわけないでしょ!アンタが遅いから迎えに行こうとしたらいきなり襲われたのよ!」

「そうか。ならそのまま逃げておけ。ベル」

「はい」

 

 

 ベルは杖を取り出し巨大蟻の目の前に分厚い石柱を具現化させ衝突させる。ベルの究極能力『幻影之王(ファントム)』。生み出した幻影の具現化及び実体化や、五感を狂わせたり認識等をずらす事が出来る。ベルがその気になればミリムクラスでも欺く事が可能だとか。

 因みにこの究極能力は俺が魔王に進化した時に強く望んでユニークスキルを進化させたと聞いた。加えてアレクのユニークスキルが強力になったのも同じ理屈だ。

 

 

「巣へと帰って貰います」

 

 

 濃霧が巨大蟻を覆い巣へと誘導させる。巨大蟻は戸惑いつつもゆっくりと巣へと戻って行き、それを見ていたラミリスは『おぉ……凄い』と声を漏らしていた。

 

 

「ふぅ。これで大丈夫。お久しぶりですラミリスちゃん」

「うん。久しぶりねベル。ホムラの肩に乗ってる子は初めてかな?」

『はい。ハクエンと申します。貴女の事はホムラ様達から。どうぞ背中にお乗りください』

 

 

 ハクエンは肩から飛び降りてラミリスが乗るのに丁度いい大きさに変えるとラミリスが『え?いいの?』と聞き、ハクエンが頷いたのを確認してから背中に乗り、妖精の棲家へと談笑しながら進む事数分、妖精の棲家の入口に到着し中に入る。以前来た時と変わらず、色んな精霊がいて、ベルとハクエンは目が離せないようだ。

 

 

「うわぁ……精霊がいっぱい……」

「凄いでしょ。でもこの先に行けばもっと凄い事が見れるわ」

「俺が光の精霊に罵声を浴びせられる姿をね」

『出来れは見たくないですが……』

 

 

 まず来るか分からないけどね。来ても何されるか分からない。精神生命体だから殴られないけど、酷い事言われるかもね。

 

 

「到着よ。祈りなさいホムラ」

「……了解」

 

 

 中心まで進み、大きく深呼吸して祈ろうとした瞬間だった。頭上からとても冷たい声が聞こえてきたのは。

 

 

「誰かと思えば魔王に進化した元勇者じゃない。久しぶり……初めましてかな?」

「「『……』」」

 

 

 俺達の前に姿を現す精霊。間違いない。ここに始めて来た時に祈るより早く待ち構えていた光の精霊だ。とても素敵な笑みを浮かべているが、俺達からしたら恐怖そのものだが。

 

 

「初めまして。まさか来るとは思わなかったけど」

「言いたい事沢山あるから。覚悟いい?折角待ってたのに祈らずに帰って魔王に堕落した元勇者さん?」

「……ぐぅの音も出ないから後で聞く。俺の頼みを聞いてくれないか?」

「内容によるかな。まぁ……付いて行かない選択肢はないけど。絶対もう一度来るって信じてたし」

「ありがとう。実は……」

 

 

 今までの事を話し、これからやりたい事、やろうとしている事を話す。光の妖精は何も言わずに聞き、全て話し終わった後、瞼を閉じて少し考えてから瞼を開ける。

 

 

「成程ね。話しを聞く限りはかなり酷い。でもかなり難しいと思う。私の知識や力は全く役に立たない。それでも契約したい?」

「あぁ。それなりの物は用意している。君に頼みたいのは一緒に考えて欲しいんだ。砂漠化を解決する手段を。それだけでいい。期間もそれまでだ。頼めるか?」

「……そうだね。正直絶望的だと思う。それこそヴェルダナーヴァでもなければ解決出来ない。けど……」

 

 

 光の精霊は微笑みながら右肩に座り、ベルとハクエンを見てから俺を見る。小さく頷き、ラミリスと視線を合わせて言った。

 

 

「ラミリス。ホムラが死ぬまでついてくよ。妖精として彼の生き様を見守りたい。勇者では無いから宿れないけど、契約という形で」

「分かったわ。君が決めたなら何も言わない。大事にしてよホムラ」

「あぁ。ありがとう。では早速始めよう。君に渡すものがある」

「ん?もしかして鞄の中に入っている物かい?」

「うん。気に入るか分からないけど」

 

 

 鞄の中から人形と宝珠を取り出す。珍しい物を見たのだろうかラミリスと光の精霊は興味津々のようだ。確かにこの手の物は珍しいだろう。俺も作っているのを見て驚いたから。

 

 

「宝珠を核としてこの人形を自由に使って欲しい。それと名前を贈ろうと思う」

「いいの?私器があれば助かるし嬉しいけど。それに名前まで」

「それぐらいはしないといけないと思う。細かい調整が必要なら言って欲しい。作った子に頼むから」

「……ありがとう。待ってて良かった。宝珠を人形にセットして。後は私がやる」

「了解した」

 

 

 人形の背中に宝珠を嵌めると、光の精霊は宝珠に宿り人形が輝く。そしてゆっくりと浮遊し姿が精霊へと変わっていく。それと同時に俺は彼女に名前を付けた。

 

 

「君の名前はユニ。今日から宜しく頼むよ」

「ユニ……いい名前。ありがとう」

 

 

 彼女がお礼を言ったと同時に魔素がごっそりと抜けユニに吸収され、彼女は進化する。姿形こそ変わらないが、ベルやハクエン、先生達以上に大きく変わり、見ていた俺達は驚きを隠せないと同時に、これがもし悪魔だったらと考えてしまった。

 

 

「これからよろしくホムラ。手を出して」

「あぁ……」

 

 

 右手を出すとユニは微笑みながら触れる。何をするのかと思っていると、何かが体に流れてくる。それだけではない、彼女との強い繋がりを感じる。

 

 

「ユニ?これは……」

「ふふ。ずっと付いて行くって言ったから。私の能力には繋がりが必要だからね。名前を貰い進化した時に得た能力を最大限に引き出すには」

「そうか(ちょっと気になるけどいいか)」

 

 

 しかし上位精霊が進化するとどんな種族なのだろうか。精神生命体である事には変わらないと思うけど。今は考えなくてもいいか。ここでの用事は終わった訳だし。

 

 

「ありがとうラミリス。苦労を掛けた」

「別にいいわよ。絶対に大切に。ユニも頼んだわよ」

「うん。定期的に会いに来る。その時は沢山お土産話してあげる」

「楽しみにしてるわ。それじゃあねホムラ達」

「元気でラミリス。またお茶会で」

 

 

 ラミリスに別れを告げ、夜薔薇宮へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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