異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
新たな仲間と遺跡
旅を始めて凡そ一年。この一年は夜薔薇宮の周囲をグルグル回り近くの集落を転々としつつ、勇者時代と同じ様に魔人や人を助けていた。いつの間にか
その途中で俺とユニは、西側……すなわちダマルガニアより西に向かえないかと考えていた。何でもこの一年でさらに砂漠化が進んだらしく、既にサンフレア王国は砂に埋もれているとか。ともあれその手段を雨宿りついでに洞窟で考えていた。
「正直無理だと私は思う。君の能力の結界でもね。あぁ、最近会得したもう一つの究極能力でも無理」
「だよな。魔素を浄化し還元する結界は何種類か編み出したけど、実際に使うとなれば同時に発動して長時間維持しないといけない」
「細かい調整も含めて難しい。貴方だけなら問題ないけど、私が行けば即死……ではないけどきついかな」
結局の所手段無しか。ダマルガニアも簡単には入れそうにないし、1人で行っても砂嵐が吹き荒れているから方角が分からなくなる可能性もある。空飛ぶのも危険だし。
「待つのも重要。今は少しずつ力を貯めて色んな知識から技や魔法を編み出そう。ヴェルザードからの宿題もあるし」
「妖気の制御だろ。魔力操作とは違うから難しい。能力に枷を掛ける事とまた違う。完全に外に漏れないようにするのは難しいよ」
「でも君が魔王と気付かれないようにするためには重要。こればかりは修行あるのみだね。特に戦闘中」
「……頑張ります」
改めて自分を見直すと出来ない事……必要な基本を会得していない物が多い。特に妖気を制御する術については甘すぎるとヴェルザードから指摘されたので、絶賛修業中である。
「本当に難しいよな。戦闘中はある程度良いとして、少し動くだけで漏れるもん」
少し腕を上げると、黒い靄のような物が少し出て来る。これが妖気と呼ばれる物で、ヴェルザードは完璧に制御できる。戦闘中でも完璧に。末恐ろしい技術だ。
「さて、雨も上がったし出ようか」
「あぁ。遺跡も近いしね」
立てかけていた刀を左腰に携え洞窟を出ると、先程まで雨が降っていたことが嘘のような晴天だった。
「いい天気。行くぞユニ」
「了解」
向かうは洞窟より少し西。少し進むと開けた場所に出て来る。その更に先には遺跡の入口があり、その前には一体の白い上位竜族が座っていた。属性は氷だが、あの手の輩は数多の知識を得ているので大人しい(ミリムから聞いた話だが。ついでに他にも色々と聞いている)。しかし……こんな所にいるのはおかしい。遺跡に惹かれたという訳だはなさそうだが。
「あの子……右足を怪我してる。しかも鋭利な何かで切り裂かれて」
「それはマズイ。直ぐに治療したいのだが……」
近づいて大丈夫だろうか。少し怖いが妖気等を抑えて近づこう。ゆっくりと近づくと、氷竜は俺に気付き視線を向けてくる。俺は視線を合わせ逸らす事無くゆっくりと近づく。敵意が無い事を示しながら。
「大丈夫。君の傷を治すだけだ」
「……」
一歩一歩と近づくと、こちらの想いが届いたのか氷竜は警戒を解く。安堵の息を漏らしながら駆け寄り、右足に触れて焔で癒す。傷が癒えたのを確認してから体を優しく撫でて伝えると、氷竜はゆっくりと立ち上がる。
「もう大丈夫。次からは気を付けろよ」
「また何処かでドラゴンさん」
別れを告げて遺跡に入ろうとした時。氷竜が頭を甘噛みし、同時に思念が脳に過ぎる。
『遺跡に入るなら私も行く。助けてくれたお返しに』
「え?それは良いけど……」
「君が入るには……待って。君は上位竜族。なら……ホムラ。名前つけてあげて」
「名前?どうして……あ!そうか!」
この子は上位竜族。すなわち竜王に進化する一歩手前だ。確かミリムの住まう国の竜も人化して人と交わったと言っていたし、ここで名前をつけて竜王に進化すれば人型にもなれるのか。
「えと、君が良ければだけど……どうする?」
『いや、名前は……でも一緒に遺跡に入るから必要かぁ……』
「別に無理はしなくていい。竜に名前付けたらミリムになんて言われるから分からないし」
『ミリムって……魔王ミリム様?知り合い?』
「あぁ。俺も魔王だ。名乗ってないけど」
『え……?』
おや?ドラゴンさんの様子がおかしくなったぞ。止めどなく冷や汗が顔を流れている。そういえば俺が魔王って言ってなかったな。
『ま、魔王様……。わ、私なんてことを……』
「別に気にしていないからいいよ」
「大丈夫。ホムラは優しい魔王だから気にしない。こうやって抱きしめても」
背後から頭に抱きついてくるユニ。彼女の言う通り甘噛み程度では何も言わない。むしろあれぐらい心を開いてくれた方が嬉しいしね。
「そういう訳だから一緒に遺跡に入ろう。君のような強い子がいてくれると助かるよ」
『私なんて魔王に比べたら全然強くないですよ!』
「そんなことは無い。だから一緒に行こう」
「ふふ。ホムラは意外と押しが強いよ。気に入った子は特に」
『……』
強制はしないが、実際に彼女のような強い子が友達だったら凄く嬉しい。名前を付けるのも許可を取ってからだし。
「俺は旅をしてるんだ。ここから西の砂漠化を解決するために。それには数多の遺跡を巡って色んな知識を得る必要がある。手強い場所に向かう事もある。だから仲間がいてくれると助かるんだ。どうかな?」
『……私なんかで良いんですか?』
「うん。竜と友達なんて滅多になれないし。きっと皆ともすぐに仲良くなれる」
『皆と……分かりました。貴方には傷を治していただいた恩があります。私でよければ連れて行って下さい』
「ありがとう。ではそのお礼として、君の名は……アルビオンだ」
ごそっと魔素が抜けアルビオンを覆う。少しずつ魔素が吸収され、中から一回り程大きくなったアルビオンが姿を現した。これが竜王か……超克者の吸血鬼以上の力を秘めている。最近分かった事だが、名づけ親の魔人次第で進化後の強さが変わるらしい。
「凄い……竜王って初めて見るけどこんなに力を秘めているんだ」
「話としては聞いていたけど凄いよ」
驚きを隠せないでいると、進化を終えたアルビオンの体が輝き、銀髪の小さな少女の姿へと変わる。これが人化と呼ばれる物か。どうして少女なのかは聞かないでおこう。
「また女の子増えたね?帰ったら楽しみ」
「怖いよ俺は……。で?どうだアルビオン?」
「はい。まだ未熟ですが竜王に進化しましたホムラさん」
それは良かった。未熟と言っているが内に秘めた力は進化前と桁違いだ。ミリムに色々と言われ、帰ったらルミナスにも冷たい瞳を向けられながら何か言われそうだがいいだろう。
「よし行こう2人共」
「楽しみだね。どんな罠があるかな?」
「よ、よろしくお願いします」
2人と共に遺跡へ入る。目当ては最奥にあると言われる魔導書。古代魔法と言われる物でとある魔導大国の宮廷魔術師が残した物とか。ギィが滅ぼした2つの魔導大国かエルフの魔導大国の生き残りのどちらかと予測している。
「あの……ホムラさんはどうして遺跡に?先ほども強い仲間が居たら助かると言っていましたが」
「少し昔……いや結構前に色々と。話せば長くなるけど、西側の砂漠化を解決して国を再興したいんだ」
「魔王になったのはその前の戦い。ホムラは元勇者の魔王。種族は半神半人だよ」
魔王となった際に種族が進化している。不老不死になったのも覚醒した影響だ。なので時間は無限にある。だからといって時間をかけ過ぎるのは良くない。出来る限り早く何とかしたいものだ。
「だから俺は他の魔王とは違う。理不尽な暴力とかは振るわない。他の仲間もいい人ばかりだ。戻る時があれば紹介するよ」
「はい。楽しみにしてます」
(ま、一癖も二癖もあるけどね)
きっと他の皆とも上手くできるだろう。ルミナスには数日愛でられそうだがいい経験になる。その為にもこの遺跡を踏破しなければ。
「おや?広間に出ましたね」
「結構暗いね。ちょっと待って」
淡い光を生み出し展開するユニ。周囲が明るくなり、最初に現れたのは大きな魔鉱石で出来たゴーレムだった。それも俺達の目の前に。その背後に扉があるのを見ると門番だろう。
「魔鉱石で作られたゴーレム。大きさは10メートルぐらいか」
「魔力の反応はないけど……」
「これも魔導大国の産物ですか?」
「どうだろう?分かるかユニ?」
「ちょっと待って」
警戒しつつゴーレムに近づき解析を始める。今の所は問題もなさそうだし周囲を調べよう。アルビオンに右側を任せて左側の壁を調べるが何もない。スイッチとかあればいいのだがとお思ってると、あからさまに窪んだ場所を見つける。
「ホムラさん。一部窪んでいる場所が」
「そっちもか。俺の方にもあった。押していいぞ」
「え?でも罠だったら大変な事に」
「大丈夫。扉の開閉スイッチかもしれないから。それ」
窪んだ箇所を押す。レンガが更に沈み、カチッと音が鳴る。その後にアルビオンが恐る恐る押し、同様の音が鳴るが何も変化が起きない……と思っていると、ゴーレムの足元に魔法陣が展開され、ゴーレムに魔力が注がれていく。
「ん?この魔法陣は周囲の魔素の吸収して……って、何してるの二人とも?」
「悪い。扉の開閉スイッチかと思えば門番の覚醒スイッチみたいだ」
「後で説教。頼んだよ」
「おう。アルビオンも下がってな」
「は、はい!」
2人が下がったのと同時に、ゴーレムの目が光り俺の方を見る。どうやら一番近い敵対生物に自動的にターゲットが向くようだ。
「さて、練習中だが試し撃ちだ」
右手を胸に添えて左手に光を集約。威力を30%程に抑えて、光線として解き放つ。
「
光の光線がゴーレムを焼き払い、一瞬で炭と化す。ミリムのドラゴ・ノヴァを元に編みだし、対竜種の対抗策として練習中の物。左手で放つ時は敵を完全に消滅させる時。右手は敵を無力化か、浄化する時にとスキルを使い分けている。
「凄い……高熱の光破熱線……」
「あれでまだ30%か。フルパワーで撃てばどうなる事か」
ユニとアルビオンが絶賛してるが、正直制御がとても難しく、本気で撃てないのが欠点だったりする。周囲の被害を考える必要が無いのなら構わないが。
「さて、これで扉が開くといいのだが」
「私が開けてきます」
「ん。任せた」
駆け足で扉に向かうアルビオン。両手を置き、深呼吸をしてから力を込めるとゆっくりと扉が開き始める。それを確認した俺達も扉を押し開けると、大きな真紅の大剣と、蒼白の大剣。加えて埃に埋もれた本が姿を現す。
「アレは……ユニーククラスの剣が二本。本は情報通りだけどあの二本は予想外だね」
「戦利品といて頂いておこう。青い方は君が貰うといいアルビオン。属性も氷みたいだし」
「それは嬉しいですが、私は剣を扱えませんよ?」
「それなら大丈夫。俺と修業する機会もこれから多いからその時教える。ユニには魔導書を」
「勿論。先に見せてもらう」
ユニは魔導書の側に。俺は剣の前に立ち最初に蒼白の大剣を抜いてアルビオン渡す。彼女は大きく頭を下げてから受け取り、軽く振って手応えを確認。手に滲んだのか、頬が少し紅潮していた。
「相性は重要。さて……」
真紅の大剣を抜く。今愛用している太刀以上で正宗には届かないが凄まじい力を感じる。良い剣だ。暫くはこれを愛用しよう。
「どうだユニ?」
「外れかもしれない。取り合えず外に出て詳しく見て見る」
「了解だ。出るぞアルビオン」
「分かりました」
大剣を背中に担ぎ、遺跡を出るのであった。