異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
北の大地での会談から数日、夜薔薇宮へと戻って来たのだが、一年前より一回り……いや、二回りほど大きく発展していた。ギィから聞いてはいたが驚きだ。周辺の国が狙う理由がよく分かる。
「凄いですね。綺麗で神秘的な王国と聞いていましたが」
「多少はバランスが崩れると思っていたけど、むしろ以前よりいい感じになっている」
「その過程を今から聞きに行こう」
夜薔薇宮へと足を踏み入れ、向かうのは俺達が住まう大きな屋敷。道中でサンフレア王国の民達が賑やかに騒いでいる光景や、超越者と話をしている光景。そして懐かしい鉄と炎の匂い。今からでも見て周りたいが、今は抑えよう。
(ルミナスも上機嫌だと良いが)
実際に会ってみないと分からないだろう。戻る事は事前に伝えてあるし、説教はないと信じたい。アルビオンの件も小言で済んで欲しい所だ。
「着いたね。ここが私達の家だよアルビオン」
「……」
大きな屋敷の前まで来る。その大きさに驚きを隠せないアルビオンだが、俺は気にせず中に入り、遅れてユニ達が入ってくる。向かうは3階の南側にあるアレクの部屋兼会議室。基本的にアレクはここに居る。
「入るぞアレク」
軽くノックをしてから中に入る。返事を聞かずに入るのはいつも通りだ。流石に仕事部屋でよからぬことをしているはずがないからだ。マリンさんも傍にいるからサボれないし。現に部屋の中でアレクはマリンさんに膝枕されて爆睡してるし……ん?爆睡?
「……え?」
「あら?フレア様?」
「……えっと。後にした方が良い?」
「そうね。アレクは過労で倒れたから暫くは起きないわね。半日ぐらい待って貰える?」
「了解。それとすまん」
視線を外しながら謝ると、マリンさんは小さく微笑みながらアレクの頬を撫でる。あぁ、アレクは既に彼女の尻に敷かれてるのか。過労の原因が少し気になるが。
「他の皆は?」
「魔人の方々は見回り。ベルさんはルミナス様の所よ。ゼノアは貴方の部屋じゃないかしら。ハクエンは見てないわ」
「分かった。ユニはゼノアの所に行ってくれ」
「ん。後で合流する。ホムラを頼んだからねアルビオン」
「了解です」
俺の部屋に向かうユニ。彼女を見送ってから俺とアルビオンは城の自室に転移し、彼女のいる玉座へと向かったのだが、大きな扉の前に来た瞬間、扉の向こうから恐ろしく冷たい殺気が飛んでくる。殺気の正体は一人しかいない。俺の手が震えているのが証拠だろう。
「あ、あの……どうして冷たい殺気を向けられているのですか?」
「それは……入ってから確かめよう」
ゆっくりと扉を開けて中に入る。玉座には腕と足を組んで座っているルミナスと、その両隣にはルイとロイが顔を青ざめさせて立っていた。
「よぅ。久しぶり……だな。元気そうで何よりだ」
「どこぞの馬鹿が連絡をよこさんからの。加えて……」
ルミナスが冷たい瞳をアルビオンに向ける。向けられた当人は、ビクッと驚きながら俺の背後に隠れて抱きついてくる。この行動が更にルミナスの怒りを買う事になり、彼女は一瞬で俺の前に移動し、右手で頬に触れながら顔を近づけてくる。
「随分可愛らしい女子がおるがどういう事じゃ?力と知識を身に着ける為に旅をしていたはずじゃろう?」
「その途中で仲間になったんだよ。…怖いんだけど?」
「妾の何処が怖い?普通に接しておるじゃろう」
「と、ルミナスが言っているがどう思う兄弟?」
ルミナスの後方に居るルイとロイ兄弟に訪ねるが、2人はそっぽを向いて答えない。その時点でルミナスが怒っているのは確定だ。どうにかして落ち着かせないと。
「言っておくが、アルビオンは君から俺を取ったりしないぞ。部下って訳でもないし友達だ」
「本当か小娘?」
「は、はい!ホムラさんとは友達です!」
背から離れて、目線をルミナスから外す事無く全力で答えるアルビオン。それを見たルミナスは微笑みながらアルビオンの頬に触れる。
「ならよい。我が友が世話になった。感謝するぞ」
「お礼は結構です、私が決めた事ですから。あの……ちなみにルミナスさんはホムラさんとどういった関係で?」
「ほぅ。知りたいか。耳を貸すがよい」
「余計な事言うなよルミナス」
「安心しろ。お主の黒歴史は後でひとつ残らず話す。あぁそれと晩食の後は時間を空けておけ。よいな?」
「了解。また後でな」
玉座から退室し屋敷の自室に戻る。扉を開けて中に入ると、執事服を着た吸血鬼の青年ゼノアとユニが話をしていた。ゼノアの手に分厚い本があったのを見ると、近況の話しだろうか。
「あ。おかえりホムラ。丁度近況報告受けていたところ」
「そうか。問題は無かったか?」
「えぇ。問題など起きるはずがございません。アレク様とマリン殿の仲も宜しいので」
「良かった。暫くは常駐するからゆっくりしてくれ。その本にも目を通す」
「承知しました。何かあればお呼びください」
本を机の上に置き一礼してから退室するゼノア。俺は椅子に座り全身の力を抜くと、紅茶が注がれたカップが机の置かれる。ユニが気を利かせて淹れてくれたようだ。
「ルミナスの話はどうだった?」
「夜空けておけだって」
「堂々と夜這い宣言か。大変だね」
紅茶を飲みながら心配している素振りを見せるユニ。他人事だからって酷くないかな。血を取られた次の日って結構しんどいんだぞ。しかも決まって抱き枕にして爆睡するし。もう少し色々と気にして欲しい所なのだが。
「少し休む。何かあったら呼んでくれ」
「了解。ホムラも何かあったら呼んで欲しい」
優しく微笑んでから部屋から出るユニ。それから瞼を閉じて脱力すると、睡魔が一気の襲い掛かってくる。どうやら張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったようだ。
(少し……少しだけこのまま……)
寝ないように気を付けて瞼を閉じる事数時間。そろそろルミナスとの約束の時間だと思って瞼を開けると、部屋の窓の近くに椅子を置き、月光に照らされてお酒を飲んでいるルミナスが居た。
「少し早い夜這いだな」
「何を言っておる馬鹿者。それよりもう少し寝ていても構わんぞ」
「大丈夫。結構休めたから。それで?話ってなんだ?」
「あぁ。お主の旅の話を聞きたくての。加えて大事な話もある。近くによっても良いか?」
「いいよ。おいで」
膝に手を置くと。ルミナスはお酒の入った器を机の上に置き膝に座る。そのまま視線を合わせる事になり、沈黙の時間が数分続いた後、ルミナスの方から腰に手を置いてきたので、俺も右腕をルミナスの腰に回すと、彼女は微笑みながら優しく抱きしめてくる。
「女心が分かってきたのホムラ。じゃが……大事な話がある故少し待て。妾も我慢してるからの」
「意外だな。いつもなら大事な話でも血を吸いながらなのに」
「それだけ重要という事じゃ」
ゆっくりと離れて体を預けてくるルミナス。こちらに背中を向け、器にお酒を注いでから一口飲み、少し間を置いてから口を開く。
「近頃周辺諸国で妙な空気が流れておる。かつて……ホムラが魔人に堕落し魔王と覚醒したあの時に近い」
「そうか。俺は何も知らないな。もしかすると急激に発展したから狙ってるんじゃないか」
「だとすれば愚かじゃのう。たかが人間が吸血鬼に敵う訳が無い」
確かにその通りだ。加えて俺の配下も居る。皆魔王種を持つ魔人や魔物と同等かそれ以上。ルイとロイ兄弟のように、ルミナスに使えている吸血鬼も皆同様だ。
「で。お主は何か知らぬか?知っていることがあるなら話せ」
「さぁ?」
知らないと誤魔化す。普段ならこれで諦めてくれるのだが、今回は通じなかった。ルミナスはこちらに向き直り、真剣な表情で右手で頬に触れてくる。
「本当に知らぬのか?隠し事の一つや二つは文句は言わぬ。だが……もしお主に関係する事なら隠さず話せ。力になる」
「……俺には関係ない事だ。この一年まともに連絡していなかっただろ。周辺諸国が何を企んでるかは知らない。でも喧嘩売ってくるなら好都合だろ?君の覚醒の餌になるんだから」
「それはそうじゃが……また抱え込んでいないじゃろうな?妾は……いや、本当に知らぬならよい。連中の出方次第だがまた相談する。力を借りるかもしれんからの」
「ん。また声をかけて欲しい。俺も何かあったら相談する」
右手の小指を出す。どういう意味かルミナスは知っているので彼女も同じ様に右小指を出して指切りを交わす。それと同時に少し嘘をついてしまった事に罪悪感を抱くが、こればかりはギィとの……魔王同士の約束だ。覚醒していないルミナスを巻き込むわけにはいかない。全部終わってから話そう。一発殴られそうだけど。
「さて。では旅の話を聞かせて貰おうか」
「了解。寝不足になるなよ」
俺は夜明けまでこの一年の話をするのであった。