異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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戦いの前の宴

ーほぅ。宣戦布告とは律義じゃのぅ……。

 

 

 玉座にて小さな紙切れを見ているルミナス。その表情には余裕の笑みが浮かんでいる。既に出迎える準備は完了しており、後は時が来るのを待つだけ……という時に律義に宣戦布告してきたのだ。というかこれって相手側が完封負けする流れだよね。

 

 

「さて太陽の騎士。この紙切れはどうする?」

「捨てたらいいだろ。俺は興味ない」

「それもそうか」

 

 

 パチンと指を鳴らして紙を燃やす。しっかし相手側も災難な物だ。どんな切り札があるか知らないが、勝ち目は限りなく低いだろう。こちら側の切り札は俺だが、俺にも役割はある。夜薔薇宮に直接転移してくるであろう異世界人達の相手。元勇者として斬るのは心が痛いが、そろそろ人間の魂を補充したいと思っていたところ。アルビオンやユニの名づけの時に結構分けたからね。加えてもし犠牲者が出た場合に反魂の術を使う時に魔素に変換させて代用も出来る。

 

 

「時にルミナス。覚醒したら君に贈り物をしたいと思っている。何が欲しい?何でもいいぞ」

「……」

「ん?どした?」

「……あぁ。少し驚いた。よもやお主の口から贈り物(その様な)言葉を聞けるとは思っていなかった」

 

 

 少し面を喰らったという事か。言われてみれば予め贈り物をしたいだなんて言ったことが無かったか。

 

 

「で。本当に何でもよいのじゃな?」

「俺が叶えられる範囲内なら」

「承知した。考えておこう」

 

 

 妖艶な笑みを浮かべるルミナス。こいつはかなりの無茶を求めてくるな。何を求めてくるか考えつつ玉座を出て城の一番上に向かう。戦は明日の朝の予定。夜薔薇宮から東西南北20キロの地点には連合軍が展開している。俺は座り正宗を隣に置いて精神統一を始める。

 

 

(ふぅ。ルミナスも人が悪い。結局異世界人は皆招き入れて始末しろって言うし。まぁ……)

 

 

 相手が悪かった。としか言えないな。裏で誰が糸を引いているか知らないが、ルミナス達の力を侮り過ぎだろう。多分俺がいる事を知らないのもあるだろうが。そう考えると、時代によって姿を変えた方が欺けるか。

 

 

「あの時は時が経つのが早く感じたが今は遅すぎる。それだけ時間が有り余っている証拠でもあるが」

 

 

 だからと言って怠けるつもりはない。やるべきことと守る物が沢山ある。その為に必要な物は全て求め会得する。当然攻め入ってくる異世界人からもだ。奴らの魂をもらい受け、己が力の糧にさせてもらおう。

 

 

「さて。奴らの魂は俺に何を与えてくれるだろうか」

「何物騒なこと言ってるのさっ!」

「いて!」

 

 

 背後からユニに叩かれる。『まったくもう…』とぶつくさ言いながら呆れた様子の彼女は、そのまま右肩に座り、持参したお菓子を食べ始める。食べているのはカステラ。最近ベルとルミナスが密かにハマっているお菓子だ。

 

 

「ホムラも食べる?明日の朝早くから開戦だし。今のうちに甘い物補給しておかないと」

「俺はいい。寧ろ頭を使うユニが食べて」

「む。私の為を思って言ってくれるのは嬉しいけど、どうせ優しくするならルミナスにした方が良いよ。覚醒したら10日は傍に居ないといけないからね」

「いないといけないかぁ」

 

 

 この事は仕方ないだろう。彼女は俺が目覚めるまで傍に居てくれたわけだし。今度は俺がルミナスの寝顔を堪能させてもらおう。

 

 

「おぅ。ここに居たのかお前達」

「先生?どうした……て。何だよその樽」

 

 

 大きな樽を担いでいるエンブ。僅かに麦酒の香りがするという事は、近頃開発した麦を使ったお酒か。因みに俺は果実酒の方が好みなのでまだ飲んでいなかったりする。

 

 

「明日の決戦に備えて皆で飲もうと思ってな。お前はどうする?」

「俺はいい。皆って事はルイとロイも来るんだろ。俺はもう少し上の屋根から見てるよ。ユニは?」

「私は頂こうかな。陽も沈んできたし」

「そうか。程々に」

 

 

 ユニを肩から降ろして少し上の屋根に移動。暫くするととエンブ達の賑やかな声が聞こえてくる。たまには少し羽目を外すくらいは良いだろう。それはそうと考える事が1つで来たな。

 

 

(そろそろ新し土地を見つけないといけないか。ここから離れるという訳では無いが、このままいい意味で発展を続けると領地拡大より新しい土地を見つけて、農作物の栽培や工房等を専門とした都が近くに必要だが……)

 

 

 実際にやるとなれば時間はかなり必要だろう。その間にも発展と人口増加はするわけで。いつまでもルミナスにおんぶにだっことはいかない。これ以上弱みを握られないためにも。

 

 

(俺の独断で進める訳にはいかない。纏めてからルミナスに……)

「辛気臭い顔をしておるの。酒が不味くなる」

「あ……」

 

 

 甘い香水と麦酒の匂い。いつの間にかルミナスが膝に座って月光に照らされながら優雅に麦酒を飲んでいた。というかまた気配遮断して。俺をそんなに驚かせたいか。

 

 

「何か用か?」

「別に。1人寂しそうだったから構ってやろうと思っての」

「結構だ」

「そう言うな。お主も飲め」

 

 

 ルミナスは自身が飲んでいた容器を俺に渡してくる。よく見ると彼女の頬が少し赤く染まっている。本来なら『毒耐性』があるので酔わない筈だが、効果を弱めている様子。因み俺自身の耐性等は『焔天之王』に含まれており、条件を満たないと発動しなかったりする。

 

 

「太陽も無い事だし純粋に酔えるぞ」

「だったら生み出すまでさ」

 

 

 手のひらサイズの太陽を生み出す。ルミナスはとても不服そうな表情を浮かべつつ麦酒を一気に飲み干す。

 

 

「付き合いの悪い男よ。そんなんだと欲しい物も手に入らん」

「俺は毎日貰ってる。民の笑顔をね」

「一年帰らなかった男が良く言う。妾が言いたいのはな」

 

 

 ルミナスは俺の方に振り向き、両手で頬に触れながら顔を近づけてくる。最近は特に距離感が近い気がする。ただルミナスが俺を弄って楽しんでいるのか、あるいは真剣なのか。酔っている所を見ると前者だろう。

 

 

「もう少し自分の我儘を言え。ベル達に言えぬのなら妾に言ってみろ。お主には世話になってるからの」

「別にない。世話になってるのは俺の方だろう。君の方こそ俺に我儘の一つでも言ってみろ」

「それなら妾の覚醒後に言う。だから覚悟しておけ。戦の報酬じゃ」

「……分かった。ほら離れる」

 

 

 ルミナスを持ち上げて隣に座らせて横になる。我儘か……今更何を求めればいいのだろうか。元居た世界で欲しかった物は手に入れた。なら次は手に入れた物を守り導くのがやるべきことだろう。俺の力はその為にあると思っている。今もこれからも。ただ振るう相手が変わっただけだ。

 

 

「かつてヴェルダナーヴァが俺に聞いて来てな」

「そう言えばそれなりに交友があったか。その外套も……」

「あぁ。アイツと最後に話した時にもらったんだよ。俺のいた世界の話を沢山話したからな。そのお礼って」

「そう……(ならその外套にはあ奴の力が込められているのか)

 

 

 やや真剣な表情で外套に手をかざすルミナス。恐らくは外套を解析鑑定しているのだろう。これはユニやベルも行っていたが結果は何もわからず。なのであの2人も俺も諦めている。

 

 

「……むっ!」

「お、おい!」

 

 

 ルミナスがゆっくりと倒れてくる。慌てて受け止めようとしたが俺の肩に手を置いて耐えた。何があったのか確認しようと声をかけると、無言で外套を握りしめる。

 

 

「末恐ろしいの。竜種の力は」

「まぁヴェルダナーヴァだし。つか分かったのか外套の正体」

「……今は何も起きんじゃろ。少し強い力を感じ取っただけじゃ」

「君の言う少し強いって宛てにならんのだが……」

 

 

 なんかとても怖いんだけど。俺から見たヴェルダナーヴァって力は恐ろしいけど考えている事は共感出来る。俺の話に目を輝かせるぐらい無邪気な面もあるし。あの時代は異世界人が殆どいないし召喚成功した例も全くなかったらしいし。

 

 

「何時転生するんだろうな。話したい事が沢山あるんだけど」

「ヴェルドラが姉に殺されて復活する定期を考えると、もう復活していてもおかしくない。何か特別な理由か……」

「あるいは既に転生する時間と場所が決まっているか。まぁどっちにしろアイツ不在の間はギィが何とかするだろ。俺は俺でこの世界に来た異世界人が間違った道に進まねぇようにするだけだ」

「早速その時が来たの。明日は頼んだ。頼りにしてる」

 

 

 ルミナスは優しく微笑んでからエンブ達の元へと戻って行く。俺も暫く彼らの宴を見守っていた。

 

 

 

 

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