異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
「そろそろか……」
ゆっくりと立ち上がり正宗を右逆手で持つ。今の時刻は6時30分。後少しで開戦の時刻だ。こちらの準備は整っている。後は連中がどう出て来るだが。
「よぅ魔王様。そろそろだな」
「おはようアレク。気合い十分だな」
武装したアレクが姿を現す。彼も異世界人の相手をしてもらう予定だ。担当は南。俺達の予測では、夜薔薇宮周辺に展開している連中同様に東西南北に転移してくると予測している。北は俺で西はゼノア、東はアルビオンだ。
「一応言っておくが出来る限り無傷で捕縛だぞ。救いようのない下種は斬って良いが」
「分かってる。異世界人にも色々事情はあるだろうし穏便に進めるさ」
「頼むぞ。そこにいる二人も」
背後にいるアルビオンとゼノアにも釘を刺す。あの2人なら大丈夫だと思うが念の為だ。異世界人に罪は無いから。
「ふわぁ……お早う皆」
「おはようユニ。大丈夫?」
「まぁね。そうだ。ルミナス達はもう行ったみたい。タイミングは合わせるって伝言残して」
「了解。建物に先生達の結界も張ったし、ベルとハクは城の中で待機。後は……」
連中が来るのを待つだけ。どのようなやり方で開戦するか。そして裏で誰が糸を引いているか。まぁ大体は予想できている。
「……!ホムラさん。空間が揺らぎました」
「あぁ。加えて巨人国の方に何か出やがった。という事は……」
かすかに感じるこの気配は天使か。そちら方面は詳しくないから何も言えないが、こちらに来ないなら放置しておこう。
「おや?この感じは……来ましたねホムラ様」
「うっし行きますか」
「はい。出来る限り穏便に。丁重におもてなししましょう」
「おぅ。頼んだぞ」
それぞれ担当場所へと向かうアレク達。ほぼ同時に夜薔薇宮の四方に光の柱が現れて異世界人達が転移してくる。北側には男性と女性3人ずつ。皆西洋人だった。
「さて……。敵意が無いか確認の後に対応を考えるか」
焔を纏って異世界人の前に一瞬で到達。ゆっくりと着地する。異世界人達はこちらを向き武器を抜く。しかし敵意も殺気も無い。纏っている気配から予測すると、何か弱みでも握られてるのか?
「よし。話をしようか。俺は無意味な戦闘をしたくないし、君達も嫌だろう?だから素直に投降して欲しい」
こちらに敵意が無い事を示す。出来る限り穏便に済ませたい事も伝えると、先頭にいたボーイッシュな女性が、少し怯えながら口を開く。
「投降なんて出来ないよ。僕たちに選択肢はないから。逆らえば召喚主の魔法使いに殺される」
「あぁ。殺される位なら死んだ方がマシだ」
「もう嫌だしね。あんな思いは」
「だから貴方達には悪いけどやられてもらう」
(……ふむ)
予想通りの回答か。しかし話に聞いていたが随分不自由を強いられているみたいだな。元勇者として放置しておくわけにはいかないだろう。かつてなら何も出来なかったが今は違う。今の俺なら彼等を縛っている物を斬ることが出来る。
「自由になりたいか?俺ならお前たちを縛っている術式を斬れる」
「え?自由?」
「何言ってるんだアンタ……」
「冗談言わないでよ。私のスキルでも解除出来なかったし」
「冗談は言わん。俺は魔王だからな」
「「「「「「!!!」」」」」」
揃って驚いた表情を浮かべる異世界人達。確かに目の前に魔王が居たら驚くか。或いは俺が魔王に見えないか。話題になるのはギィやミリムだしね。俺の事なんて全然出てこないだろ。
「魔王……様?」
「ぜ、全然見えないよな?」
「と言うか魔王が何でここに居るんだよ!?」
「そうだよ!魔王ってもっと傲慢で理不尽だよね!?絶対に嘘だ!」
「……(信じて貰えねぇ……)」
俺ってそんなに認知されてねぇのか。まぁ魔王だけど魔王って名乗ってねぇし、形式として名乗る事あれどミリムの様に堂々言ってないから仕方ないか……もう少し魔王らしいことするか。まず手始めに彼らを自由にしよう。
「よし。動くなよお前達」
正宗を左手に持ち替える。当然異世界人達は警戒するが、気にすることなく『心天眼』を使用し、彼等を束縛している術式と、何処に繋がっている回路を確認し、一刀両断する。回路は切れ術式は粉砕。異世界人達の体がふらつき膝を付く。
「え……?」
「体が……軽い?」
「そ、それにあの下種の声も聞こえない……」
「どうなってんだ……」
自分の体を確認して驚いた様子の異世界人達。今の技は体を斬るのではなく精神を斬る技の応用。要は術式と回路のみを斬る絶技だ。勇者時代は出来なかったが日々鍛錬を積んだ結果、空間など普通斬れない存在が、スキルを使わずに斬れるようになった。
「これで自由だがどうする?俺に挑むか?別に構わねぇぞ。姫から丁重にと言われてる。こちらとしては素直に降伏を進めるが?」
「……そんなの決まってるよな皆」
「あぁ。自由にしてくれたみたいだし」
「アンタが魔王って信用ならないが、借りは返す」
揃って頷く異世界人達。無駄な血を流さずに済んで良かった。彼等の処遇はこれから考えるとして、他の場所に誰がいるか聞くとしよう。
「そこの君。他にどんな奴がいるのか聞いて良い?それと名前を教えてくれると嬉しい。俺はフレア。本名はホムラ・ホノガミと言ってね。好きな方で呼んで欲しい」
「えっと……僕?僕はランって言います。他の皆も僕等と同じです。1人を除いてですけど」
「1人?どんな子かな?隣のかっこいい少年」
「か、かっこいい……?そんなにかっこいいかな俺……って聞かれたら答えないと。俺はシン。そいつは……」
シンと名乗った青年からその一人について聞く。何でもそいつだけ進んで支配を受けたらしく、この戦いで夜薔薇宮を落とせたら報酬として吸血鬼の姫を求めたらしい。その事を聞き少し殺気が漏れてしまうが丁度いい。そんなに我が物にしたいのならさせてやろうじゃないか……覚醒した彼女の餌食にな。
「よし。そいつは捕縛するように伝えよう。どうやら俺達の事を舐めているようだからな」
他の3人に思念を伝達。思わしき人物を捕縛するように伝えてからミナトを呼び彼らの身を預ける。そして向かうのはルミナスの向かった本陣。無事覚醒するのならば誰かが迎えに行かないと。彼女の配下は進化の眠りに落ちるから。
「さてと、本陣はこの辺り……んー……凄い死の気配。という事は……」
地上を見ると結構な数の死体が並んでいる。そして漂っている死の気配。分かっていた事だが一方的だな。まぁ『色欲者』の能力なら容易い事だろう。そして中心にはルミナスと同盟国のお偉いさん達の姿。彼等は色々と話してもらう為に捕らえるように伝えてあるから大丈夫だろう。一応声はかけるが。
「ルミナス。そいつらは……」
「……分かっておる。殺してはおらぬから案ずるがいい。しかし……」
「……!」
ルミナスがふらつく。地面に倒れる前に腰に手を置き支える。そう言えば人間の魂一つ感じ取れないと思ってはいたが、そういう事か。世界の言葉は本人にしか聞こえないし、今のルミナスの状態が分かるはずもないだろう。
「大丈夫か?眠いだろ。寝て良いぞ」
「寝ない選択肢はないじゃろうが。妙な事はするなよ」
「大丈夫。お姫様抱っこで連れて帰るだけ」
「それを妙な……」
ゆっくりとルミナスの瞼が落ちる。いまから10日は眠り続ける事になるだろう。そう考えると俺が7日程で目覚めたのがどうしてか気になるし、魔王なのに半神半人なのが凄い気になるが…まぁいいだろう。今はルミナスを部屋に送らないと。
(しっかし、この世界は分からねぇことだらけだよヴェルダナーヴァ。だからこそ楽しいんだけど)
今は亡き竜に言ってから夜薔薇宮へと急いで戻るのであった。
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連合国及び異世界人達との戦いの次の日。ルミナスと配下……吸血鬼達が眠りにつく中、念の為被害を確認し、大きな損壊が無い事を確認できれば結界を三重に展開。こちらはひと段落着いたが、大陸各地でも小規模の戦争が起きている。油断は禁物だ。特にダグリュール方面はまだ続いているようなので、落ち着いたら聞きに行こう。
それ以外にも片付ける事は多い。保護……こちらに下った異世界人達をどうするかを考えないといけない。出来る限りは彼らの自由にしてあげたいのが本音だが、そうはいかないだろう。下ったからには最低限俺達の力になって貰わないと困る。どのような形であってもだ。
中には既に自分から行動を移している人も居て、工房方面に入り浸っている者もいれば、エリン達に魔術を習っている者もいる。他にも色んなところに行ってみたいと言っている人もいて、出来れば夜薔薇宮を拠点にしたいとか。これに関してはルミナスと用相談の為保留にしている。(ちなみにその話を先生が聞いて色々と戦いのイロハを教えているとか)。
なので今はそれらを纏めた書類を作成している最中だ。出来ればアレクに纏めて欲しいのだが、マリンさんが心配らしいので俺が引き受ける事に。うん、たまには書類仕事もいいだろう。
「よし、半分ぐらいは纏めたか。自由に好き勝手していいって言ったのに結局半数は教会やら工房やらに入りたがるなんてな、冒険者もある意味驚いた。小国は増えてきてるけど簡単には入国出来ないし」
まぁそれぞれが自分の意思を持って行動しているならいいだろう。それにしてもミナトの話を聞いて攻め込んできた異世界人に妹が混じっていると期待したがいなかった。むしろいない方が嬉しいのだが。出来るなら静江ちゃんと元気にしていて欲しい。
「うっし。後は明日に任せてやることやるか」
筆を置き外套を纏って外に出る。向かうのは人や魔物、魔人達が居ない広い荒野。ここなら多少暴れても問題ない。恐らく戦うのは確定……いや、俺の方から喧嘩を売る事になるだろう。久し振りに血が滾る。
(さて、勝率はどれぐらいだろうか。ミリム以上の化け物に加えてヴェルダナーヴァに認められた男だ。ルドラとは違う意味で最強だろう)
暫く待ち続ける事数分。背後から強い気配を感じ振り向くと、その先に居たのは赤い長髪に瞳を持つ魔人……最初の魔王ことギィ・クリムゾンのお出座しだ。笑みを浮かべている所を見ると俺の考えは筒抜けなのだろう。現に奴の手には今まで感じたことの無い巨大な気配を纏った剣が握られている。
「待たせたな太陽の魔王……いや太陽の騎士か。お前の事だ。こうなると分かっていた」
「そうか。改めて聞きたい事が沢山ある。付き合って貰うぞ」
正宗を顕現させて剣先をギィに向ける。彼も剣を持ち替え構える。さて、今の俺が奴相手に何処まで出来るか。やれるだけやってみるか。
VSギィ。話しという名の戦闘です。