異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
ーガキィン!!!
正宗とギィの剣がぶつかり、大きな音と衝撃波が響き渡る。お互いにまだ剣の戦い。魔法等の小細工は全く使っていなかった。時折猛毒の爪が飛んでくるが見なかったことにしよう。喰らったとしても太陽があるから毒は直ぐに解毒されるし。と言ってもいつまでも様子見を続ける訳にはいかない。そろそろ仕掛けるか。
「仕掛けてくるか?そろそろ」
「チッ、よくお分かりで!」
一歩下がりつつ切り返し、ギィの上体を後ろに逸らす。やや後退するギィ。本来なら透かさず攻勢に出たいところだが、ここはあえて慎重に、成るべく手の内を明かさぬように仕掛ける。何せ相手は一度見た技やスキルを自分の物に出来るふざけた魔王なのだから。
「それなら……」
ギィとの間合いを一定に保ちつつ光で2体の分身を作成と同時に偽物と本物の気配を混ぜる。おそらくこんな小細工はギィには通用しないだろう。現に奴は気にすることなく分身を一刀両断にし、俺に剣を向けてくる。だか、さっきよりも少しだけ反応が遅い。並みの魔人や人間相手なら問題にならない程度の差。その隙に、俺は一気にギィとの間合いを詰めながらーーー技を放つ。
ー紅蓮一閃
ただの振り下ろす一撃だが、刀身に太陽と同程度の焔を纏わせているので受け止めようとすれば例え魔王でも大火傷は免れない。それを分かっているギィは避けるかスキルで相殺するかの2択しかない。
「はっ。そう言う事か!」
ギィは笑いながら紅蓮一閃を正面から受け止めて焔を四散させる。成程そう来たか。俺の生み出した殺傷力の高い焔を、調和の焔……すなわち俺の焔天乃王のもう一つの焔で効果を零にしたのか。その手を考えてはいたが実際に初見で難なく成功させるとは、それもコピーした他人のスキルで……流石と云うべきか。当然だが俺も同じ事は出来る。分身を相手に自分の究極能力と保有している能力がどれだけ恐ろしいかは、身をもって実感している。
「全く規格外の男だな」
「それは貴様にも言える事だろう?魔王でありながら聖なる力と魔の力をその身に宿す異質な男。俺は貴様が半神半人とは認めん。大方あの光の妖精が調べて推測の範囲で言ったのだろう?」
「よくご存じで!」
一歩踏み込みギィを斬り飛ばしながら複数の斬撃を放つ。ギィは軽やかに斬撃の間を潜り抜け禍々しい爪と剣での連撃を繰り出してくる。正宗を巧みに扱って的確に防ぎつつ反撃。一進一退の攻防を繰り広げていると、ギィの方から距離を取ってくる。
「どうした?」
「……気に食わん。能力はいいが剣は本気じゃねぇだろ」
「おっと……そんな事ないけど?真面目にやってるし」
「それは分かる。剣と能力を上手く合わせてな。だが俺が見たいのは貴様の純粋な剣技だ。あぁついでに『黒い太陽』の力も見せてくれたら嬉しいが」
この野郎……あくまで軽い手合わせってのを忘れてねぇか。仕方ない。軽い手合わせが殺し合いに発展するなんて日常茶飯事か。
「いいぜ。本気で行ってやるから後悔すんなよ」
「安心しろ。後悔はしない主義だ」
ギィの纏っている魔素が上昇する。こいつはミリムの『憤怒之王』か。しかも完璧に制御している。成程な。コピーした究極能力を解析して調整してるのか、加えて相手によって能力を切り替える。『憤怒之王』という事は正面から受けるつもりか。
「いいだろう。見せるのは一瞬だ」
全身の力を抜き纏っていた焔を消して魔力を正宗に伝導させると、刀身に刻まれた桜が淡く発光する。そして、呼吸を整え刀を構えた次の瞬間ーーー。
「!?」
ギィは何かを感じ取ったのだろう。表情が変わり剣を構えるがもう遅い、俺の剣は勇者の頃とは次元が違う。概念を斬り、例え時間を止めようとも止める事が出来ない剣。その速度はまさしく時を超えた一撃だ。
ー絶技・加具土命
剣先がギィの腹部を掠める。本気で放ったが殺す気で放ったわけではない。故に出血もなく薄皮一枚を切っただけ、もし殺す気だったなら防御する隙も与えずにに首を落としている。
「……はっ。成程な。流石にこいつは俺には出来ねぇ。俺達と会わない間に異次元の剣を会得したようだな」
「日々の努力は裏切らない。さぁあの時のお茶会の約束は果たしてやった。いい加減にお前の望む世界を教えて貰おうか?大方の予想は付いてるが」
正宗を左逆手に持ち替える。問われたギィは傷を治しただ一言だけ。
「お前は好きにやれ。定期的に顔を見せてくれたらいいさ」
「……そうかよ」
ギィが言うなら好きにしよう。まぁ最初から好きにするつもりだけど。何か余計な事したら直接乗り込んでくるだろうし。
「俺は帰るぜ。また相手を頼むぞ太陽の……いやお前は聖魔人だな。聖なる力と魔の力を持った魔王」
「好きに呼べよ。呼ぶなら≪太陽の騎士≫の方が嬉しいが。かの王国の名を背負うものとして」
「分かってる。あくまでも魔王間の呼称だから気にするな。またな」
笑いながら飛び去って行くギィ。お茶会の約束もそうだが今回の手合わせはギィも得るものがあったようだ。俺としては出来る限り会いたくもないし戦いたくもない。余程の事がない限り勝てない戦に挑みたくはないから。
「はぁー……しんどい」
彼の姿が見えなくなると緊張の糸が切れて姿が変わると同時に地面に倒れる。視界に映るのは一面の青空と眩しい太陽。能力を最大限発揮できるこの状況でもギィに届くかと考えたら怪しい。互角の戦いは出来ても勝てる確率は低いか。やっぱりアイツの究極能力がエグイんだろうなぁ……。
「もう一つの究極能力と『
そうと決まればすぐに戻ろう。ルミナス達が起きたら騒げないしね。
ーーーーーーーーー
ギィとの軽い手合わせから2日後。戦争もひと段落付き、戦いの気配は消えて行った。ギィから聞いたが覚醒したルミナスだけでなくダグリュールが魔王を名乗ったとか。正直関係ないので気にしないことにしている。誰が魔王の席に着こうが知らないし、興味も無いからだ。
「うーん。周辺諸国の処理をどうするか……。各国の王は捕縛しているし、拷問して吐かせた後に始末するか?丁度いいから一か所に集めて……」
まぁそんなことを考えるより後処理で大変なのだが。一通りの方針を決めるのは勿論、連中をどうするかも決めないといけない。あぁ……保護した異世界人はそれぞれの意思を尊重している。例の小僧は牢屋だが。彼には目覚めたルミナスの餌食になって貰う予定だ。
「諸国を纏めて一か所に集めるの良い案か……って何で俺がやってるんだよ……」
正直これはアレクの仕事だろう。なのに俺がやっている理由……は少し前に話したな。愚痴を言っても仕方ない。俺もルミナスの事が心配だし。
「入るぞ魔王様」
「む……
絶賛仕事をサボっている
「今日も起きないなみんな。ルミナスはあと5日ぐらいか?」
「そーだな。俺が七日で目覚めたのが異常だろ。つかどうしてルミナスの話が出て来る?」
「目覚めたら彼女が求めてるものをあげるんだろ?んな物一つしかない」
「……なんだろうね?」
ルミナスが何を求めてくるかは考えない方が良い。かなりの無茶を言われる可能性が高いからだ。まぁ逆を言えば俺の想いは一生届かないという事だが。今はそんな事よりも後の事を考えないといけない。
「連中はどうする?」
「諸国の王は全員戻すが、どっかで統一しようと思ってる。属国にするつもりはないが丁度いいだろう。以前話していた件と同時進行だ、夜薔薇宮も絶対じゃあない。仮に暴風竜が来たら……あぁ考えたくもない」
「だな、避難地という面でも早急に進める必要がある。こればかりはルミナスの許可がいるが」
「俺達は兎も角、吸血鬼達はな」
最近はヴェルドラも大人しいが噂を聞いてこないとは限らない。来たときのことを考える必要はあるだろう。いついかなる時にも最善の選択を取り犠牲を零にしないと。
「そう言えばお前の直轄組織の名前は決めたのか?俺は魔術協会が下についてくれてるが、ホムラは魔人やベル達、それと今回下った異世界人のシンとラン。後はザイファか?」
「うん。全部で9人だな。俺は構わないって言ったんだが押し切られてな。まぁ好きにしていいって言ったから仕方ない」
「確かにみんな好きにしてるな。エリンさんに弟子入りしたり、冒険者になりたいって言っている奴もいたか。そいつらは先生が鍛えるって言ってたぜ」
「当然だろ。まだこの世界に来て日が浅いからな。シフォン達も俺が鍛える予定だ。ミナトのいい刺激になる」
貴重な戦力と考えるつもりはない。あくまでも友達だ。だから出来る限り死なせないし、好きな事をやらせる。この世界に来た異世界人は皆勇者の卵。何人覚醒するかは分からないが少なくとも『聖人』まで至るだろう。
「んー。よし、後のまとめは頼んでも良いか?」
「任せろ。お前は少し休みな」
「そーするよ」
細かいまとめをアレクに任せて部屋に戻る。そして3日後。ついにルミナスが目覚めるのであった。
主人公はまだまだギィには届きません。もっと強くなります。