異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
「……さて。そろそろかな?」
ルミナスの寝所の前。扉の隣にある壁にもたれてその時を待っている。戦争から丁度10日。ルイ兄弟やマリンさんが目覚め、ルミナスも今日目覚めるはず……。なので出て来るのをここで待っているのだ。
「俺の時は膝枕をして待っていてくれたけど俺がやるわけにはいかないな。追いそれと女性の寝顔を見る訳にはいかない」
見たら拳骨が飛んでくるだろう。やられたらやり返せとよく言うが、今回はやられたらやり返すなが正しい。心身ともに殺されないためにも。
「おや?こんな所で待ってていいのかしら……フレア様?」
「うっ……別にいいだろうマリンさん?」
如何にも不満げな表情でマリンさんは言った。分かるよ言いたい事は。ルミナスは俺が目覚めるまでずっと傍に居たから俺もせめて目が覚めた時ぐらいは隣に居ろって言いたいんでしょ?でもそんなことをしてみなよ。後が怖い。
「別に気にしなくてもいいじゃない。それにルミナス様は何も言わないわ」
「……でもなぁ」
「後からブチブチ言われるよりずっとマシよ」
「……分かったよ」
言い募る彼女に押し切られてしまい、深呼吸をしてから部屋の中に入る。ルミナスは……まだ眠っている。俺は椅子をベットの前に置いて座り、持参していた魔導書を読みながら目覚めるのを待つが、視界にどうしても魅力的な寝顔が入ってしまい、魔導書の中身が入ってこない。
(心臓に悪いな……しかしルミナスは7日膝枕してたんだろ?よく耐えたわ)
あの時のルミナスに敬意をしめしていた時だった。かすかに空気の流れが変わる。ゆっくりと魔導書を閉じた後、ルミナスの瞼がゆっくりと開く。吸血鬼の姫覚醒だ。
「……ここは。妾の部屋……」
ここが何処か分かっているようだ。それなら大丈夫だろう。理性の無い化け物になっていない。まぁルミナスなら問題無いだろうけど。
「おはよう。無事に目覚めてよかった」
「お主……丁度良い。周囲には誰も居らぬか」
「あぁいない。俺とルミナスだけだ」
「そうか……なら隣に来ておくれ」
「はいはい」
ルミナスの隣に座る。もしかして覚醒前の話しだろうか。さて……ルミナスは何を望んでいるのだろう?出来る限り俺が叶えられる範囲にして欲しい所だ。
「ふむ……言いたいことがあったのだが忘れてしもうた。やはり伝えるより行動で示した方が伝えやすい。だから……」
「ルミナス?」
ゆっくりと上体を起こすルミナス。それから両手を俺の肩に置いた彼女は、力を込めて押し倒してくる。血が欲しいのか?いや、それなら首に噛みつくだけでいいはず。それなのに押し倒したという事は別の理由か。
「大胆で積極的な女だ」
「嫌か?妾は欲しい物を全力で取りに行っているだけぞ」
「……そうか。欲しい物は俺か。何処が良いのか」
「それは主にも言えることじゃ」
頬に手を添えて顔を近づけてくる。そう言えば似たような事が前にもあったか。確かあの時は別れる前に目隠しをされて唇に何かされたか。あの時はルミナスの顔を直視できなくて逸らしたんだっけ。
「のぅホムラ。どうして妾なのじゃ?ベルやユニでもいいじゃろうて」
「どうしたんだよいきなり。あの2人は大切な家族だけど?」
「……家族か。なら尚の事聞かねばならぬ。どうして妾の事が好きになった?」
「どうして……か。俺と似てるからか?」
「似てる……あぁ、そう言えば妾の昔を話したか。確かに境遇は似ている。じゃが」
それだけでは納得しない様子。勿論他にも理由はあるさ。俺に無い物を沢山くれた。元居た世界では得られなかった物を沢山だ。
「出会った時を覚えてるか?」
「当然じゃ。あれだけ熱い焔を放っておきながら感情があまりない冷たい男だったからの。理由を聞いて納得はしたが」
「だからルミナスには感謝してる。あれだけグイグイ来られて好きにならないわけ無いだろう?君にとっては遊びかも知れないが」
「遊びな物か。少なくとも心臓の鼓動が早くなり体が火照り始めてからは本気で欲しいと思い始めた」
「……本当にどこがいいのやら」
これ以上考えても無駄だろう。正直にルミナスの想いを受けとる。男なら当然だ。どのみち逃がしてくれそうにないし、きちんと答えないと離してくれないだろう。
「俺は面倒で馬鹿だぞ?」
「そんなことは知っている。それでもだホムラ。妾は嫌いか?妾の想いは嫌か?」
「嫌じゃないし大好き。君が俺を求めるなら、俺も君を求めても文句は言えないぞ?」
「当然じゃ」
瞼を閉じるルミナス。そっと彼女の頬に手を添えて優しく彼女の唇を奪い、ゆっくりと離れると、ルミナスは微笑みながら両腕を首に回して抱きつき、再び唇を重ねてくる。
「ん……ふふ。これでお主は妾の物。あぁ勿論、魔王フレアではなくホムラの方じゃぞ」
念を押すように言って頭を撫でてくる。とても優しく、親が子どもの頭を撫でるように。俺がルミナスの事を良い女というのはこういう所だ。優しい所もあれば厳しい所もある。俺の母親とは大違いだ。
「この世界に来て君と……皆に出会えて良かった」
「いきなりどうした?」
不思議そうな表情を浮かべながらルミナスは右頬に触れてくる。そう言えば彼女にこんなことを言うのは初めてか。あんましここに来る前の事を話してないしな。ちょっと特殊な一家としか。
「この世界に来て色んな人や魔人と出会って。戦ったり友達になったり。元居た世界では絶対にあり得ない事だ。そもそも神社の外に出してもらえないし基本監禁だし。神社に来る人と接触するのも禁止だ。そんな中でもある少女とは仲が良かったな。よく妹と遊んでいたし」
「……そうか。だからあんなにも冷たくて、感情を表に出さず、感謝されても戸惑っていたのか。何とも最悪な一家じゃの」
「まぁ愛されていないからな。俺は神社を継ぎ神に身を捧げる。一種の奴隷だ。親の愛なんて知らないし、俺の事なんて血を絶えさせない為の装置。暴力振るわれるのは日常茶飯事。だから……この世界に来て、俺の事を心の底から必要としてくれたアレクやオッサン、王国の民には感謝しかない。ヴェルダナーヴァも俺の話しを親身になって聞いてくれたし。保有している究極能力まで与えてくれるって言ってたしな。結局断ってその代わりに外套をくれたけど。本当にいい出会いしかない。色々と大変だけど」
「それだけお主に期待しているという事じゃ。そしてお主は答えるために日々精進する。なら自然と付いてくる者が現れるのも必然と言えるだろう」
腕を回して抱きしめてくる。こうして誰かに自分の過去を聞いて貰うと少しだけ楽になる。ヴェルダナーヴァに話した時もそうだった。自分の事を知って貰う。それはとても勇気が必要だ。人によれば一気に関係が悪くなる可能性がある。だから基本的には話さない。心を許した相手以外には。
「その期待に応えるためにも日々精進しないとな」
ルミナスの肩に手を置いてゆっくりと押して離れる。何時までも2人だけの空気を堪能するわけには行かない。皆彼女の目覚めを待っているし。
「皆玉座で待ってる。早く行ってやれ」
「……また後で時間を作れ。よいな?」
「ん。必ず。それとこれも。覚醒した君に」
小さな箱を渡す。受け取ったルミナスは迷うことなく箱を開け、中に入っていた物を取り出すと、彼女は嬉しそうに微笑みながら箱に入っていた物……月の指輪を眺める
「月の指輪……遺跡で手に入れた物か?」
「あぁ。夜魔の女王である君に似合うだろう。因みに対となる太陽の指輪もあるらしい。揃えるといい事があるとか」
「ふむ。面白い話よな。なら嵌めるのはまだ今では無い。対の指輪を手に入れた時じゃ」
そう言ってから指輪を箱に戻しベットから立ち上がるルミナス。軽く体を伸ばすと、何時も知っている雰囲気に変わる。相変わらず切り替えが早い。
「では玉座に向かうとしよう。細かい話はその後じゃ」
「了解。後でアレクと向かう」
約束を交わしルミナスを見送った。これで暫く平和……と思っていたのだが、予想だにしない人物が俺の前に現れる事を……この時はまだ知らない。