異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
あの戦いから早くも50年。恐ろしいほど何もない平和な日々が続いた。異世界人達はいつの間にか仙人まで覚醒し、多大な成果を残し、夜薔薇宮の発展に貢献。加えて周辺諸国を一か所に纏めて都兼避暑地の開拓もあっという間に終わった。丁度何もない大きな山と広大な平原があったからだけど。その辺をルミナスに少し言われたが、結果的には彼女達に有益な事しかないので問題なしだろう。
それに伴い俺達の拠点も移転し一回り大きくなった。あぁ、魔術協会も移転している。そちらに関しては色んな人物が入門した影響だ。移転先は山を覆う様に建築した地下の吸血鬼の避暑地に繋がる神殿。アレクとマリンさんはそちらに住んでいる。俺とルミナスも変わらず仲が良い。会える機会は少し減ったが、こまめに連絡は取っているので寂しくはない。
さて、戦いの後に関してはこれぐらいでいいだろう。今はある客人達とお茶会をしている。その客人とは、珍しく遊びに来たラミリス。ユニと仲良く俺の机の上で話していた。
「……て感じでね。皆好きにやってる。ラミリスの心配は無用だよ」
「それは良かったわ。結構心配だったのよねホムラの件があったし」
「大丈夫だよ。ホムラと違って真っ直ぐな子達だから。ミナトも頑張ってる」
「そうよね。ホムラとは違って面倒な子じゃないもんね。きっとあの子も……」
軽く悪口を言われているがまぁいい。俺はラミリスよりもソファーで優雅に紅茶を飲みながらカステラを食べているギィの相手をしなくてはいけない。
「中々美味いじゃないか。紅茶もいい。あの幻霧魔人が用意したのか?」
「そうだよ。つーか何をしに来たんだよ」
「ラミリスがお前の所でお茶会を開くと聞いてな。暇だったから邪魔した」
「帰れ」
素直な意見だが来てしまったなら仕方ない……わけ無いだろう。ミリムの奴が強襲してくる可能性が上がるじゃねぇか。ラミリスも話があるから来たのに、暇だからって連絡なしに来るなよ。
「所でホムラ。ホノカって知ってる?」
「……ダレデショウ?」
「何で片言なのよ……」
おっと。聞き覚えのある名前の聞いて少し変な答え方をしてしまった。勿論その名は知っている。だって妹の名前だから。というかラミリスが知っているって事はアイツもこの世界に来てるのかよ。どんな顔をして合えばいいのかね。
「知り合いかフレア?」
「まぁな。出来る事なら会いたくない人物の1人。俺の妹だ」
「あらやっぱり。アンタの変装と瓜二つだからまさかと思ったけど」
「もしかして教えた?ここに居る事?」
「……てへ」
(……この堕落妖精め)
何処まで話したのか軽く問いただすと、ラミリスは俺の名前しか出していないらしく、ミナトの件で反省したので詳しい詳細は話していないらしい。
「ならいい。けどいつかは会う時が来るのか」
「ど派手な兄妹喧嘩はやめてね。色々と大変だから」
「分かってる。出来る限り対話を試みるよ」
(ふっ。フレアの妹か……)
まぁ子供の頃は喧嘩しなかったし大丈夫だろう。しかしラミリスの元を自力で訪ねたのなら迷ったのか。召喚されなかっただけまだマシか。どんな感じに成長したか楽しみだ。
「失礼します先生……おや?ラミリス様?それに……ギィ・クリムゾン」
「久しぶりミナト!元気にしてた?」
「え、えぇ。もしかして魔王のお茶会?」
「違う。ギィは乱入だ。どうした?」
「はい。地下に向かう昇降機が故障しているみたいで。エリン様はシルビア様の所に行ってらっしゃって修理出来ないんです」
おっと。それは急がないと。確か何人か来ていたな。修理となると回路の見直しからか。エリンが居ないと結構大変そうだ。
ギィ達に一旦離れる事を伝えて街に出る。多くの人で賑わい盛り上がっている。様々なお店が並び色んな人が出入りしていた。
「流石行商区。凄い賑わいだな。隠れて犯罪とかないよな?」
「大丈夫ですよ。先生が率いる剣星の1人。シンの直轄である自警団が見回りしていますから」
「それなら安心……って言ってると、大きい爆発とかーーー」
ードカン!!!
「「……」」
近くで大きな爆発音。くれぐれもさっきの言葉は演算予知で分かっていたから言ったのではない。本当にタイミングが良すぎた。ミナトが凄く睨んでくるが、俺は悪くないぞ。
「急ぐぞ」
「当然です」
瞬時に姿を少年に変える。普段なら妹の姿を借りるのだが先ほどの話を聞いた以上は借りれないので少年姿で現場に向かう。そこは青果店で、大きな黒煙が上がっていたが、炎は人間に擬態したパールさんが消火し、ウィンディが店主を救出していた。
「自分も行ってきます」
「任せた。俺は……見つけた」
この場から逃走する3人組を発見。武装している所と手慣れた逃げ方を見ると盗賊か。残念ながらそう簡単には逃げられねぇぞ。
全力で後を追いかけると、盗賊3人衆は急に足を止める。前方を索敵すると、1人の人間が立ち塞がっているのが分かった。俺も足を止めて伺うと、黒いコートを着てフードを深く被った1人の人物がいた。
「てめぇ!いきなり現れるんじゃねぇ」
「死にたくなかったらそこを退くんだな!」
「……」
威勢よく言う盗賊2人。だが黒コートの人物は、盗賊たちが背負っている大きな袋とかすかに匂う果物の香りを感じ、鋭いまなざしを向けながら言った。
「その荷物を降ろしなさい。今ならまだ軽い罪で許されるわ」
「あ?何言ってんだガキ。降ろす訳ないだろうが」
(この声は……)
聞き覚えのある女の声。だけどまだアイツとは限らない。似た声という可能性もあるからだ。
「兄貴!追っても来るからコイツをやっちまいましょう」
「そうだな。行くぞおめぇら!」
追っ手を警戒して強行突破を試みる盗賊3人。黒コートの人物は溜息を吐きながら後ろ腰に携えている大きな弓を構えた時だった。黒コート人物から一瞬強烈なエネルギ―を感じ取る。そのエネルギーはミナトやシン達を上回る物だ。
「ライトニングアロー」
左手に光の弓が現れ超高速で放ち、正確に盗賊達の足を貫き膝を付かせる。凄まじい早業だ。恐らく盗賊達は弓を構えたことすら気付いていないだろう。
(あの撃ち方は……)
「さて……」
黒コートの人物は弓を剣へと変形させて盗賊達に向ける。先ほどよりも鋭く冷たい視線を向けて。向けられた盗賊達は体を震わせて後ろに逃げようとするが、彼女の圧に圧されて動けない。
「お縄にかかりますよね?」
「は、はい……」
とても盗賊達が可哀そうに見えてくるが、無事に捕らえられたのでいいだろう。俺は黒コートの人物を警戒しながら光で縄を形成して近づく。
「ありがとう優しい人。お陰で助かった」
「あ……そんな。寧ろ勝手な事をしませんでしたか?」
「そんなことは無いさ。手が足りていないからね。よっと」
盗賊達の両手を縛り動けないように。彼等は都の法に裁かれてもらうつもりなので、シンに思念で伝えて念のために壁に縛って置く。
「よし。これでいい。あの、良ければ名前を聞いても?」
「はい。では……」
フードを脱ぐと、中から現れたのは赤い髪に紅い瞳の女性。その顔を見て『やっぱりか』と思っていた。彼女の顔を忘れるはずがない。出来る事なら元の世界で幸せな暮らしを送って欲しかったが…
「
「ホノカ……いい名前だね。俺はフレアよろしく頼むよ。お礼したいから来てくれる?」
「お礼……ありがとうございます」
ホノカ……妹を連れて向かったのは俺達の拠点。正直危険ではあるが自室に案内するわけではない。客間に案内してベルに紅茶とお菓子を出して貰う。
「どうぞホノカ様」
「は、はい。(う、うわぁ……凄い屋敷……フレアさんって結構凄い人なのかなぁ?)」
「ありがとうベル」
「いえ。ごゆっくりしてください」
一礼してから奥に入って行くベル。淹れて貰った紅茶を飲み、遅れてホノカも一口飲むと、少し目を見開き頬が赤く染まる。流石ベルが淹れた紅茶。兄妹だから好みも似ているのか。
「あの。フレアさんは凄い人ですか?」
「凄い人……まぁこの屋敷に住んでるからね。こう見えてこの都を統治している皇子の側近だ」
「皇子。確かアレク陛下でしたか。とても優しいお方だと聞きました。出来ることなら謁見したいのですが……」
「何かあったのか?」
「……その。ある人に……妖精女王に聞いたんです。この世界に兄がいると。そしてこの地にいるとダークエルフから」
顔を俯かせて小さな声でホノカは言った。何の為に俺に会いに来たかは聞かない方が良いかも知れない。どのような理由であれ、今は会う訳にはいかないから。
「分かった。もしかしたら殿下が知っているかもしれない。謁見の件も含めて尋ねてみよう」
「ありがとうございます」
「うん。今日はここで休んで行くと言い。部屋を用意する」
思念伝達でベルに伝え、俺は神殿へと向かった。
ーーーーーーーーー
~その日の夜 ホノカSide~
「う……ん?」
強い光で目を覚ます。ゆっくりと瞼を開けると見慣れない天井と、カーテンの隙間から月光が差し込んでいるのが見えた。
「そっか。今日は野宿じゃあなかった」
今日は兄がいると聞いた都で一晩泊まらせてもらっている。まさか盗賊を捕らえただけでこんなにいい場所に止まらせてくれるなんて。久し振りに凄く疲れが取れている。フレアさんには感謝しないと。皇子への謁見許可も取ってくれると言っていたし。
「ちょっと外歩いてみようかな」
ベットから出てコートを着る。念のために愛用の弓剣を後ろ腰に携えてから外に出る。夜の都はとても静かで神殿以外光が無い。昼間あれだけ賑わっていたのが嘘のようだ。
「とても静か。周囲には誰もいない。本当に兄さんはこの地にいるのだろうか?」
フレアさんに詳しい話を聞いた。私の兄……ホムラ兄さんは今は魔王として活動をしていると。魔王になった詳しい経緯は聞けなかったけど、昔に大きな戦いがあってミリム・ナーヴァを止める為に覚醒したと。しかも人間から魔人に反転して。それからも色々あって今はこの都か魔王ルミナスがいる夜薔薇宮のどちらかに滞在している。
(勇者から魔王に。とても辛く苦しい事があったはず。なのに私は……)
妹として兄の力に慣れなかった。この世界に来る前も。家に縛られ窮屈な生活の日々。私は兄の背中を見ているだけだった。何か出来る事があったはずなのに何もしなかった。
(だからこの世界に来て消えたはずの兄がいると聞いて嬉しかったけど)
来た時代が違い過ぎる。向こうでは5年程しか違わなかったのに。ここでは数百年以上過ぎている。もしかしたら千年越えているかもしれない。
「どんな顔をして会えばいいのだろう……」
そう考え始めた時だった。ふと近くに誰かがいることに気付きそちらに視線を向ける。その先は私が泊っている屋敷の上。そこでは月光に照らされてる1人の男性がいた。
「おや?こんな時間に外に出ない方が良い」
「あ……すみません。少し夜風に当たりたくて」
「そうか。なら吸血鬼に気を付ける事だ。君の後ろにも」
「え……?」
後ろを振り返る。背後には私と同じぐらいの銀髪に赤と青のオッドアイ。そして黒のドレスを纏った1人の女性がいた。その様子に視線を奪われ見惚れてしまう。それだけ彼女は美しかった。
「綺麗……」
「見惚れたか人の子。じゃが妾に見惚れるのはやめておけ」
「そうだな。身が幾つあっても足りんぞ。滅ぼしたくなければ線引きをしておけ」
「は、はい。(あれ?この男性と話しているとどこか懐かしいような……)」
会うのは初めてのはず。なのにどこか懐かしいこの感覚は何だろうか。まるで兄さんと話している感じだ。
「夜風に当たるのは控えた方が良い。今日は帰れ。明日フレアがお前の元を尋ねる。朝から忙しいぞ」
「もしかして盗賊団の……分かりました。では……おやすみなさい」
「おやすみ。優しい人よ」
男性と銀髪の女性に頭を下げ屋敷の部屋に戻る。あの2人が何者なのか気になったけど、今は気にしないでおこう。近い内に会える気がするから。
主人公の妹登場。彼女は重要なポジションを務めて貰います。