異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
ーガァァッッ!!
ケルベロスの強烈な咆哮。それが衝撃波として襲ってくるが、前方に結界を展開して防ぐ。戦闘が始まって数分経つが、互いに一進一退の攻防が続いている。俺の体には傷やダメージは全くない。ケルベロスには大分入っているはずだが、その様子は見受けられない。
「痛覚無効は確実。後は……超速再生。他にもありそうだが……」
「グゥッ!」
「おっと!」
右前足の鋭利な爪が襲ってくる。正確に回避しつつ急所に反撃。ケルベロスが軽く空中に浮くが、左前脚で反撃してくる。その一撃を空に回避しつつ大きな炎玉を放つ。
「《メギト》!」
「ガァッ!」
「っ!?」
放った炎玉を喰らうケルベロス。そして僅かだが纏っている魔素が上昇。それを見た俺は嫌な記憶が蘇ってくる。
ー喰らいな……インフェルノッ!!
ーだ、ダメじゃ日輪の勇者。そいつはーーー
ーグガァッ!
ーなっ!?炎を喰らった!?
あの時の狼野郎と重なった。どうやら前回の狼野郎の特性と体質を組み込んでいるようだ。そうなると魔法は使えない。『粒子崩壊』も使えねぇ。だがあの時とは違う。『焔天之王』との相性が悪いのなら、もう一つの究極能力を使うまで。
「ユニ。解析はどうだ?」
「大体終わった。前回の狼の能力に加えてアイツの体内の魂の数から推測して魂魄を喰らう事で強くなる。『暴食之王』に近い能力だね。究極能力ではないけど結構厄介だ。どうする?」
「『
焔と光を消して刀を抜く。鍛錬の末に『剣聖』が進化した究極能力。その名の通り武術と剣術に特化した能力で、この能力に俺の剣技が加わると無類の強さを発揮する。こいつのお陰で『焔天之王』に頼る事無く戦う事が出来る。
「魔素を使用した魔法攻撃は効かない。だが……実在するものに纏えば別だ」
『焔天之王』の焔を刀身に纏い光速で切り抜ける。ゆっくりと鞘に刀を納めるとケルベロスが綺麗に真っ二つに分かれる。確実に
「まぁそう簡単にはいかねぇよな」
「そうだね」
ケルベロスの半身から黒い靄の様な物が現れ残りの半身と繋がる。その靄は肉体を繋いで完全に修復。ケルベロスの6つの目が怪しく光り立ち上がった。
「斬られる前と変わらねぇな?」
「多分肉体に魂が癒着しているから。肉体から離れない限り再生して生き返る。これは困った」
「まだコイツ特有の特性も分かってないのに……おや?」
城の方向から炎玉が飛んで来て俺とケルベロスの間に墜落。中から全身傷だらけのテツトが姿を現し、跡を追う様にホノカが隣に現れる。
「はぁ……はぁ……なんだよこのアマ。くそっ」
「覚悟はいいですか?」
弓をテツトに向けるホノカ。無傷の妹を見るとかなり一方的にやられているようだ。少し可哀そうに感じるが、自業自得だろう。というか10年程で強くなりすぎてない?
「こうなったら仕方ねぇ……ケルベロス!」
後ろに立っているケルベロスの名を呼ぶと、テツトは含み笑いを浮かべ両手を広げる。その時、妙な悪寒が背中を走る。何か、何か嫌な予感がする。
「くくく……こいつは魂魄を喰らえば喰らうほど強くなる。質量が多ければ尚の事な」
「どういう意味です?言っている意味が分かりません」
「今に分かるさ。兄妹ともども死ね!」
「っ!まさか!」
そのまさかが的中する。その身を供物として捧げるテツトを、ケルベロスは躊躇なく喰らい尽くす。アイツが言った事が本当ならかなりヤバい。魂魄は魂……質量とは存在値と考えると、強い人間や魔物を喰らうと急激に強くなるという事だ。もし仮にテツトがシン達と同じ段階まで覚醒していたらケルベロスは一気に成長する。
「グ……ガァァァァァ!」
テツトを飲み込むと同時に大きな雄たけびを上げるケルベロス。黒い魔素が全身を覆い一回り大きく成長……進化する。この威圧感は違いない。俺やルミナスの一段階下。魔王種を獲得した存在だ。
「な、なな、でかくなりすぎでしょ!」
「冷静になれホノカ」
「無理だよ兄さんーーーあ……」
「……ち。気付いてたか」
まぁバレてるとは思っていたけどね。テツトが兄妹共々とか俺の事を魔王って言ってたし。気付いているなら普段通り接したらいいのに。何を遠慮しているのやら。
「まぁいい。下がっていろホノカ」
「下がっていろって。待って兄さん。ここは協力して……」
「やめておけ。今のお前では勝てない。ミナトでも無理だろうな。多分昔の俺でも。しかし今は違う。あの時は力も足りずスキルを限界まで引き出して死にかけた。だが!」
腕を交差し魔素を急上昇させる。『武神之王』のある権能を使うにはかなりの魔素が必要だ。今日は太陽が出ていないので『焔天之王』の権能の一つである『焔天の加護』が使えず、使用した魔素を還元できないが仕方ない。
「さぁ。その目で刮目するがいい。お前を裁くのは太陽ではなく仏だ。『心意創生・武神招来』」
俺の背後に10メートル近い強面の仏が現れる。『武神之王』の権能の一つである『心意創生』。自身の心を
「……後ろにいる大仏。ナニアレ?」
「スキルの権能。私も初めて見て絶句した。というか対竜種様なのに手札晒していいのやら?」
「良いんだよ。どのみち魔法効かないし重ねる必要も無いからな。そういうわけで、とっとと蹴りをつける」
刀を抜くと、背後の武神も同様に刀を抜く。武神は俺の動きと連動し、常に俺の背後に居る。この武神のお陰で俺より遥かに大きい奴とも戦える。実際、目の前のケルベロスはぶるぶると体を震わせて、耳や尻尾も垂れ下がり、すっかり武神の放つ威圧に怯えきっている。
「ガ……ァァ」
「これは……」
「決まったかな?あれだけ怯えてたら……ホムラ」
「分かってる。《破断剣》」
光の一撃を振り下ろしケルベロスを跡形も無く消し飛ばす。大地も少し切り裂いてしまったが仕方ないだろう。時間を見つけて修復しておこう。『焔天之王』の力を使えばすぐに終わる。
「えっと。終わりですか兄さん?」
「まだだ。残ってる物があるだろ」
「上見てごらんホノカ」
「上……あ」
上空に黒り靄が集まり球体に変化する。あの球体の中には強い怨念を感じる。あの時のフェンリルから感じたのと同じだ。やはり誰かが裏にいるのだろう。あれだけの魔獣を生み出したとなるとかなり博識か、似たような事をやったことがあるかの2択か。
「取り合えず回収だね。解析して解剖して、一通り情報を得たら消そう」
「そうだな。回収頼む」
「了解」
黒い球体に近づき、警戒しながら手を伸ばすユニ。結界に包み込んで回収しようとした時だ。ドクンと球体が高鳴り、黒い触手がユニに襲い掛かる。
「えーーー」
「危ないユニ!」
球体とユニの間に瞬間移動し、黒い触手を一太刀で斬り伏せてからユニを抱き寄せて距離を取る。危ない、危うくユニが取り込まれる所だった。どうやらあの状態だと誰でもいいから依り代にしようとするようだ。
「兄さん!ユニさん!大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫。ユニは?」
「……」
「ユニ?」
体が少し震えている。彼女にしては珍しい事だ。ただ驚いただけか、何か感じ取ったのか。どちらにしても心配だ。
「兄さん。あの球体を壊します」
「あぁ。勿体ないが頼む」
「承知」
ホノカが弓を目一杯に引き絞る。強烈な炎を矢に纏わせ球体に向け解き放つ…が、球体を結界が多い炎の矢を弾き飛ばす。しかもかなり強固な結界……加えて先ほどまで結界は無かった……という事は、俺たち以外に誰かいるって事だ。
「クク……あの小僧は失敗したか」
「っ!誰!?」
「……!あそこか」
近くの高台にフード付きのコートを着た人物が居た。声からして男か。男から発せられる気配をどこかで感じたことがある気がする。エリンに近い気配か?それにしては随分混じっているようだが。
「忌々しい魔王。此度は失敗したが次は成功させる。既にお前の近くにも私の手が及んでることを忘れるな。流石の貴様でもアレは倒せんだろう。それが実証出来れば、奴に…ギィに復讐出来る」
「ギィ……お前、あの魔導帝国の生き残りか?それともルミナスの兄貴の知り合いか?」
「どうだろうな?そんなことを気にする暇があるなら周りを警戒する事だ。あの3人もそろそろ限界だろう。大切な仲間を失いたくなければ、精々手遅れにならぬよう頑張るんだな。そこの羽虫のように」
「ユニの事か。どうやら死にたいようだな?言っておくが
「だろうな、だが生憎とお前に挑むほど馬鹿じゃない。私はソレを回収しに来ただけだ」
そう言って球体を杖に吸収する男。そのまま姿を消し居なくなる。周囲を探るが気配を感じない、長距離の空間転移か。中々卓越した使い手のようだ。
しかし……面倒な奴に目を付けられたな。あの大国の生き残りと思わしき人物か。ギィを呼び出した連中らしいが詳しい事は知らない。俺がこの世界に来る前の事だからな。
「よし帰るか。ホノカはどーする?」
「勿論一緒に帰ります。行く当てもありませんから」
「そうか。じゃあ帰ろう。ユニも良いか?」
「……ん」
小さく頷くユニ。少し心配だがユニなら立ち直ると信じて都へと戻った。
2つ目の究極能力は武神乃王(タケミカヅチ)です。
権能
・時空切断
・剣聖
・武神
・心意創生
・零の極意
になります。