異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
廃城での一件から早くも1週間。いつも通りの日常が戻り平和に生活していた。あの城の調査はシン達に任せており近い内に報告が来る。妹……ホノカはルミナスの護衛や話し相手をしてくれている。俺の仕事も手伝って貰ったり。そして現在俺は……目の前にある大量の書類の片付けに追われていた
「ザイファめ……何でもかんでも発注しやがって」
ザイファ……主に農作や養殖等を担当している子で、一癖も二癖もある面白い子だが……色々とネジが外れると手がつけられくなるのだ。余談だがミナトが好きな特撮ヒーロー系の話しもヒートアップすると大変である。
「取り合えず速攻で……ん?」
『コンコン』とノック音が響いた、俺の『どうぞ』の声で扉が開きホノカが部屋に入ってくる。今日は確かパールさんやウインディと一緒のはずだが。というか最近あの辺と絡むことが無い気がする。まぁ仕事以外ではの話だ。
「失礼します。ええと兄さん?その書類は……」
「手伝って。仕分けするだけでいいから」
「…了解です。直ぐに終わらせましょう」
ホノカと手分けして書類を仕分けしながら誤字を修正していく。彼女はまだこの世界の言葉に慣れていないのだろう。俺も慣れるのに50年近くかかったからな。何度ルミナスに叱られたことか。
「よし。こんなものか」
「こちらも終わりました。それにしても凄い量の発注ですね」
「好きにしていいって言ったからな。やり過ぎなければいいさ。さーてこの後何するか」
実は今日一日暇だったりする。特に予定もないのでグダグダするのも良いが、そんなことを目の前の妹が許してくれるとも思えない。
「では妾の相手をしてもらおうか?」
「む……」
「あ、姉さん……いえ姉様」
背後にいきなり現れるルミナス。瞬時に仕事モードに切り替えるホノカ。さて……俺も切り替えるとしよう。仕事中に来たというという事は無理難題を押して付けてくるに違いない。
「相手ってどっちの相手だ?ルミナス?」
「ふふ……どっちだと思う?」
「……生憎と今日は雨だぞ」
「あれ?今日は晴れてますよ兄様?」
「今はね」
「……?」
いまいち言っている意味が分からないホノカ。まぁこのまま晴が続けば妹も誘っていいだろう。気温も上がってきたし、そろそろ咲いているだろうから。
「お酒の用意は頼んでも?」
「勿論じゃ。美味しい食事を楽しみにしている。ではの。ん……」
「!?」
「お、おい!」
妹に見せつける様に頬にキスをして去って行くルミナス。目の前にいたホノカの顔は真っ赤である。しかも口を大きく開けてパクパクしている。ルミナスには公私混同は避けるようにと伝えたはずなのだが。現にホノカは基本的に『兄さん』呼びだが仕事の際は『兄様』だし。
「そうとなれば材料調達だな。一緒に行くか?」
「勿論です。夜何をするか聞きたいですし」
ニコッと微笑むホノカだが、その微笑みの後ろにどす黒い物が見える。改めて一緒に過ごす事になり幾つか気付いた点がある。それは……うん、今日の夜話そう。きっと潰れるから。
「よし行こうか」
「はい。何を作るか考えながら買いましょう」
仕事部屋を出て街に出る。道中でアルビオンとハクエンと出会した。買い出しの事を話すと、2人も手伝ってくれるとのことなので手分けすることに。俺はアルビオンと、ホノカはハクエンと。買い出しは2人に任せて俺達は農林水産区にあるビニールハウス群に向かう。
「で。どうして買い出しに?」
「あぁ。夜にあの場所にルミナスが行きたいみたいで」
「あの場所……あぁ桜が綺麗なあそこですか」
「そ。だから美味しい料理を作るつもり。俺とホノカでね」
何を作るかは材料次第。恐らく和食メインになるだろう。今からでもある程度固めておかないと。
「到着しましたね。ザイファさんは……どこでしょう?」
「そうだな。いつもなら直ぐに来るはずだけど」
この一帯はザイファが管理している。なので俺が来たらいつも直ぐに顔を出す筈なのだが出てこない。まさかビニールハウスの中で爆睡しているのか?あの子なら……全然ありえるな。
「取り合えず端から順番に探してみよう」
「了解です。周りの人にも聞いてみますね」
早速ザイファを探し始めようとした時だった。突如俺とアルビオンの間にヌッと眼鏡をかけた女の子の顔が現れた。
「うぉぉぅ!?」
「ひぃっ!?」
驚きのあまり魔王らしくない声を上げてしまう。アルビオンに至っては顔を真っ青にして俺の背後に隠れてしまう。一瞬心臓が止まりそうになった。魔王がショック死なんて笑えねぇぞ。
「おはようフレアさん。アルビオンさん。今日は何用ですか?」
「お、おはよう。えと和食に使う野菜を取りに来て」
「成程。では後で屋敷に配送しておきますね。良いものをジブンが選んでおきますよ」
「た、頼んだ」
「ではまた後で」
早足で去って行く眼鏡少女。彼女こそが目当ての人物ーーザイファである。とても優秀な才女なのだが、さっきのようにいきなり現れる事が多々あり。完璧な気配遮断能力で俺達を度々驚かせている。
「帰るか」
「そうですね」
用は済んだので屋敷に帰還。ホノカ達はまだ帰ってきていないようなので先に厨房に向かおうとしたのだが、エントランスにあるソファーに仰向けで倒れているエリンを見つける。
そういえば最近はシルビアの所に毎日行ってたか。大丈夫だとは思うが声をかけておこう。
「よぅエリン。シルヴィに随分な扱いを受けているようだな?」
「……パパ?」
「誰がパパだ」
「じゃあお父さん?」
「そっちもダメだエリン。いくら親代わりとは言ってもな」
優しくエリンの頬を撫でる。この子は俺とシルヴィ……シルビアとその旦那と会うきっかけになった子。幼くして両親を失い、エルフの街のスラム街で1人死を待っていたのを俺とアレクが保護。その後にシルビアの頼みで親代わりになったのだ。
「で?
「建国宣言はまだ先かな。色々とお願いは頼まれてるけど、それは皇子の仕事だし。パパとママは……相談聞くぐらいかな?」
「相談か……まぁあの馬鹿の件もあるし酒の一つくらいなら付き合うさ。それとエリン。ルミナスの前で絶対にママって言わないように。変なスイッチ入るから」
そうなった場合は自己責任だ。俺に助けを求めても全力で逃走するぞ。様々な手を行使してくるが、何とか耐えるしかない。
「そうだ。今日の夜あの場所に集合だ。みんなにも声をかけておいてくれ」
「了解フレア様。また後で」
軽くエリンの右頬を突いてから厨房へと向かうのであった。
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日付が変わる少し前。俺は近くの山をくり抜いた広大な空間に来ていた。ここには小さな湖と大きな桜の木がある。この桜……何とヴェルダナーヴァが俺の記憶を元に作り出した物。今でも覚えている。あの人の褒めて欲しそうな顔を。隣に居たルドラとヴェルグリンドは思いっきり呆れていたが。
「さ、桜……」
「まぁそういう反応するよな」
隣に居たホノカもあの時の2人と同じ表情をしている。大丈夫、俺の配下の連中も何か言いたそうな顔をしていたから。ルミナスは見惚れていたな。
ともあれ、この場で行われるのはただ一つ、花見という名の会議だ。因みに友好関係を築いている小国の王とかも参戦している。その辺の相手はアレクに任せ、俺の方は桜の木の下で見覚えのあるハイエルフが寛いでいるのが見えたので声をかけるとしよう。
「連絡無しでの乱入は願い下げだが、シルヴィ?」
「あら?誰かと思えばお義兄さんじゃない」
「誰が義兄さんだ」
全力で突っ込む俺。この図々しいハイエルフは名をシルビアといい、勇者時代からの付き合いだ。
「まぁ座るがよいホムラ。お主も飲むじゃろう?」
「当然」
ボトルを手に取り蓋を開ける。桜の木に背中を預けてボトルの半分ほど一気に飲む。それを見ていたルミナスは上機嫌で、シルビアは怪訝そう顔を浮かべている。
「中々美味いじゃろ。ザイファのお陰じゃな」
「このお弁当も美味しいわ。私の国でも振るって欲しいぐらい」
「国ってのはまだ先の話だろ。もう少しかかるって聞いたが?」
「えぇ、けど名前はもう決まってるわ。是非とも国交を……ってこの話は皇子にしないとね。んく」
『ぷはぁ』とボトルの残りを一気に飲み干すシルビア。彼女の頬が真っ赤に染まっている所をみると、既に出来上がっている。隣のルミナスはさらに赤いしペースが速い。この2人は何時から飲んでるんだか。
「お母様?こちらにいらしていたのですか?」
「エルメシア?どうしたの?」
シルビアの娘エルメシア。会うのは随分久しぶりだな。赤子だった頃に一度会った以来か。子供の成長は早いとよく言うが、見ない間に随分と大きくなったな。
「久しぶりだなエル公」
「フレアのおじちゃん?」
「ぐふっ」
「「ぷぷ!」」
心に大きな剣が深く突き刺さる。そしてルミナスとシルビアは軽く吹く。だが俺もこの程度で参るような豆腐メンタルではない。外観は兎も角中身はオッサンだからな。
「ごめんなさいおじ様。これ見て。ユニ様から頂いたの」
「花を形どった水晶か。でもまだ色が無いね」
「色?」
エルメシアがユニから貰った花の水晶は透明。まだ何色にも染まっていない。ユニの奴、ワザとだな。俺の所に持って来たら赤く染めて焔を灯してくれるとでも言ったのだろう。
「エル。ユニの所に戻って水晶の染め方を聞いてごらん?」
「染め方?」
「あぁ。この水晶は魔法を吸収してその色に染まるんだ。いい練習にもなるから行っておいで」
「うん。また後でねおじ様」
ニコッと笑いながら走り去っていくエルメシア。子供の純粋な笑顔はいい。少しシルビアの事を羨ましいと思ってしまった。
「子供か……」
「……(予定あるのルミナスちゃん?)」
「……(覚醒している妾達の間に出来るわけ無かろう……と言いたいが、あ奴のあの顔を見るとな)」
「……(頑張ってみる価値はあると思うけど。最強の魔王の1人に吸血鬼の姫。きっとすごい子が産まれるわ)」
何やらルミナスとシルビアがひそひそと俺に聞こえないように話をしている。女子の会話に介入するなど、そんなことをすれば漏れなくルミナスのえげつない魔法が飛んでくる。
「それよりフレアちゃんもこっちにおいでよ。色々と話を聞きたいから」
「俺はここでいい」
「そうはいかん。お主も座らんか」
「……分かったよ」
ルミナスの隣に座ると、彼女は直ぐに俺の膝の上に座って未開封のボトルを手に取ると蓋を開けて一気飲み。それから抱きついて来て首に噛みついてくる。
「あら大胆。お熱いわね」
「噛まれる身にもなって欲しいがな。ちょっと飲みすぎだぞルミナス」
「んー。たかがボトル15本程度で飲み過ぎとは言わぬぞ。あむ」
「こーら」
ポンポンと軽く頭を叩くが止める気配が無い。これはルミナスが寝落ちするまで待つしかなさそうだな。流石に明日影響が出るほど血を飲む様な事はしないとおもうけど。
「さてフレアちゃん。今日は語るわよ色々と」
「……了解」
まだまだシルビアから解放される気配はなさそうだ。
話しは続きます。