異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
デートの翌日、宮殿では朝早くから月に一度の会議が行われていた。出席者は俺を含め都を支える者たち(ホノカやミナト達)と俺の配下の合計12人。この会議では先月の生産や輸出入等の報告も兼ねており、それが済めば各自で各々気になった事や改善点等を相談しあう。中心にいるのは当然アレクでまとめ役は俺だ……出来ればまとめ役もアレクにして欲しい所だが、出席者の身元預かり人と統括してるのが俺なので断るわけにもいかないのだ。
はぁぁ……と目の前の現状に思わずため息が漏れる。概ねの報告や意見交換にも目処がたち、今回の会議もいつも通り何事もなく終わると思われたのだが、生憎とそうもいかなかった。ある案件について意見を交わしていると、突如ランとシンの二人が言い争いを始めてしまったのだ。その件の内容としては、一つは以前話した黒狐の件、もう一つが最近活発になりだした魔物と他の魔王とのやり取りについてである。後者に関しては俺とルミナスで引き受けると言ったのだが、残りの前者の黒狐の件の対応で二人は火花を散らしているのだ。
頭に座っているユニから『早く止めなよ』と言いたげなキツい視線を向けられてはいるが、生憎と俺は疲労困憊なので、もうこのまま二人の怒りが爆発するギリギリまで放置するつもりである。
「だーかーらー!!もう少し手伝ってくれてもいいじゃん馬鹿シンっっ!!」
「誰が馬鹿だ!こっちも手が一杯なんだよっ!」
「優秀な人材を取っていく奴が何を言うんだいっっ!!」
こんな感じで30分ほど言い争いが続いている。お互いの手が剣に伸びはじめた所を見るに、そろそろ止めないとまずいだろうなと思い、億劫に感じながらも仲裁に動きだそうとする俺の頭上からふと
「二人ともそこまで。その辺りの対策はこの後私達でやるから喧嘩なら外でやって」
「うぅ……分かったよユニさん」
「すみません」
「よろしい。じゃあ閉めてね殿下」
「オーケーだ」
ユニのキツめの一言で言い争いをやめる二人。そのままアレクが会議内容を纏めて終了。そのまま解散となり、会議室には俺とアレク、ユニとホノカそれとベルだけが残った。
「ひとまず会議は終わりましたが……どうしてそんなに疲れてるの兄さん?」
「……寝てない」
「珍しいですね。昨日は確かルミナスちゃんとデートでしたか」
「歓楽街を周ってお茶会しただけでしょ。なのに睡眠不足って……」
ユニにはジト目を向けられ、ベルは苦笑い。アレクはやれやれと言った表情。ホノカは頭の上に?マークを浮かべている。多分3人は察しがついている。
「お楽しみだったんだねそれも朝まで」
「……ノーコメント」
「どちらかと言えば被害者だろ?ホムラは」
「まぁ……最近はあまり一緒では無かったようですし」
「うーん。確かに私と殆ど一緒だったよね。もしかするとヤキモチかな?」
「???」
何故か嬉しそうに笑いながら頭に抱きついてくるユニ。ヤキモチ…恐らくそうだろう。俺は別に気にしないが、最近のルミナスは結構気にする。ホノカと少し出かけただけでも頬を膨らませるぐらいだし。別に疚しい事をしている訳ではないし、ただの買い出しなんだけどなぁ。
「私を含めてホムラの2番目を狙っている女の子は多いからね。ルミナスも危機感を感じているんじゃない」
「ちょっとユニさん。洒落にならないっすよ」
「本気で狙ってるのはユニ様だけです。私やラン達は
「え?私は本気で愛してますけど?
「……妹の将来が不安だわ」
どうしよう。妹が兄貴離れするかどうか心配だ。俺としてはいい人見つけて幸せな家庭を築きながら色々と手助けしてもらえるとうれしいんだけど。どうにかしてブラコンを矯正しなければ。
「改めて吸血鬼ってエグイわ。お前もそう思うだろアレク?」
「俺に振るな……と言いたいところだが、よく分かる。でもお前の場合は自業自得な部分もあるけどな」
「で?結局お茶会の後はどうなったの?」
「それは……」
「私気になりますっ。姉さんの意外な一面とか知りたいですし」
「……あの後。陽が沈んだから帰ろうとしたらな・・・」
ーもう帰るのか?妾はもっとお主に甘えたいし愛でられたい。
ー……本当にどうした?昨日といい今日といい。
ー嫌か?妾だって一人の女じゃぞ。愛する人に抱かれたい時もある。お主は全然妾に手を出さぬしな。妾は度々誘惑してると云うのに。
ー……鈍感で悪いな。そう言う男だからな俺は。良いぜ。君が満足するまで一緒にいる。
「……という訳だ」
「相当溜まってたんだなあの姫さん」
「それはどういう意味で言っているですか若様?」
「あーあ。これじゃあ私に勝ち目はなさそう。でもいいや。私がホムラの事が好きっていう事実は変わらないし」
「……(私の知っている姉さんと全然違うっ!……って、まだそれほど時が経っていないから知らない事が多くて当然だけど)」
多種多様の反応を見せるユニ達。ホノカは頬を赤く染めている所を見るとまだ彼女には早い大人の話しのようだ。自分で言って置きながら恥ずかしい。
「魔王同士の子供も見れたりして。あり得ますかユニ様?」
「無理……とは言いたくないけど可能性は低いと思う。ルミナスは神祖の分身だし、ホムラは元人間だけど堕落して魔王に覚醒してるからね。勇者なら可能性ありそうだけど」
「うぐっ」
「に、兄さん!?」
心に鋭い物が突き刺さり大きなダメージを受ける。相変らず容赦のない妖精殿だ。未だにあの時の事を根に持っている。
「まぁ2人の事は置いておいて。若様は何時までここに居るつもり?早くマリンの所に戻ったら?」
「おぅ。すぐ戻るさ。それじゃまたな」
パパッと資料を片付け、そそくさと退出するアレク。あの二人は順調そうで何より。後は無事に出産を迎えれば大盛り上がりになるだろう。一月ぐらいはお祭り騒ぎだ。
「さてと、そろそろ私の話をしないと。ラミリスからの報告で、前回の戦争で各地に遺跡が現れたらしいの。だから今から一番近い所に行こう」
「いいぞ。付き合ってくれベル。ホノカは留守番だ」
「了解です兄さん。留守はお任せを」
「では準備をしてきますね」
「西側の門で1時間後に待ち合わせだ」
そうして約束をしてから各々一度準備のために部屋に戻った。
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あれから一時間後。俺は姿を少年に変えてから西側の門に来ていた。外に出る時は大体この姿な事が多い、この姿でいると低燃費で魔素の消費を抑えられる(そもそも魔素切れを起こすと何故か少年になる)から便利なのだ。良い鍛錬にもなるしね。
ともあれ少し早く来すぎたので暫く待つはめになると思っていたら、話しを聞きつけたランとルミナスが先に待っていた。
「さっきぶりだなラン。頭冷えた?」
「うん。さっきはごめんなさい師匠。ルミナスさんにも怒られた」
「妾はアドバイスしただけ。若い内はもっと言い争って方がよい……が、お主らには寿命の概念が無いからあまり若い等と言ってはならんか」
「ははは……まぁ年齢は70歳ぐらいだしね。というかルミナスさんって凄く長生きなのにもの凄く綺麗だよね。お肌なんて輝いてるし。秘訣とかあるの?」
「残念だが無いの。妾は吸血鬼の神祖だから体は老いぬ。だが肌が輝いて見えるのは……」
何故か俺の方を見てくるルミナス。確かにルミナスの肌って輝いててとても綺麗だよな。特に化粧とかしていないのに。その辺はあまり聞かない方が良いと思っている。デリカシーが無いとか言われたくないし。
「それはいいとして何でルミナスまで来てるんだ?ランもいいのか?」
「ボクは休みでルミナスさんに対魔法戦の練習に付き合って貰おうと思っていたらユニさんに呼ばれて」
「何でも装置解除を手短にするには6人いた方が楽と言っておった」
「成る程……じゃあ後1人は……っと来たな」
ユニとベル。そして大きな特殊大剣を背負ったアレクの三人だ。アレクにはマリンさんの側にいて欲しいので『帰れ』と言ったのだが、その本人に(目が笑ってない)笑顔で『たまには体を動かしなさい』と軽く脅されたようだ。
「よし行くか。案内頼むぞユニ」
「了解。歩いて15分ぐらいで着くから」
ユニの案内の元。遺跡に向かい始めたのだが……。
「ユニよ。何故妾のホムラの右腕に抱き着いている?離れんか」
「私が抱きつくのに君の許可がいる訳?ルミナスこそ昨日独占したから譲りなよ」
「なんじゃヤキモチか?昨日一晩中抱かれた事を妬いておるのか?」
「……喧嘩売ってる?」
「……(喧嘩するなよ……)」
何故かよろしくない空気の2人。(もしかしてルミナスは会議の後の話を聞いていたのか、だとしたらどうやったのか気になるな。無言のゼノアもいたし……もしやあの子の目を通して内容を把握していたとか?だとするとこの行動にも頷けるのだが……)
「そ、そう言えば遺跡に何があるんだユニ?」
「さぁ?ラミリスと少しは行ってみたけど、静かで何もなかった。ひときわ大きな建物には強い結界と、解除するには左右の建物を攻略しないといけないぐらいかな。あとスイッチが6個で同時に押さないといけない」
「成程の。どのメンバ―で行くか考えておくか」
「そうだな(ふぅ。何とかなったか)」
これ以降は言い争いも無く談笑が続き、ある場所でユニが止まる。そこは何も無い平原だが、僅かに歪みがあるのが見える。成程、ベルの『幻影之王』で隠したのか。
「これは……私の『幻影空間』ですか」
「えっとそれって……」
「私の『幻影之王』の権能です。狭い場所での戦闘を行う時や、大きな建造物などを隠すのに使う権能ですね」
「それを『絆之王』で私が使わせてもらったってわけ。解除するよ」
『パチン』と指を鳴らすと、霧が解けて古く錆びた大きな遺跡群が姿を現す。大きさ的に一つの小国ぐらいはあるだろうか。確かこの場所にあった国はあの馬鹿な国に属していたと聞く。これは色々と楽しみだな。
「んじゃ行こうか」
遺跡群に入り目的地の中心に向かい始めるが、こういった場所に来たことの無いランは辺り見渡しては頻りに目を輝かせていた。それを見たアレクは昔の俺達の冒険譚を彼女に話し始め、それを聞いたランは興奮しながら何度もアレクに質問していた。
「やれやれ。頑張ったのは俺とベルなのに」
「まぁまぁ。実際
「あれ以外は何度も罠に嵌まってたけどね」
俺達が昔話を懐かしんでいると遺跡群の中心にある大きな建造物の前に到着。ここから左右に進んだところに小さな建造物があり、その中にスイッチがあるのでそれを同時に解除する必要がある。のでメンバーを分ける事に。勿論文句なしのくじ引きで決めた結果は……。
「……なぜ妾がユニとランと一緒なのだ」
「それは私のセリフ」
「はは……(苦労しそう)」
素敵な女性3人と、元勇者パーティー。俺達は大丈夫そうだがあちらは心配だ。まぁ問題は無いだろうと思い一足先に右に進む。その先にある建物の中に入るが、中は真っ暗だった。
「お約束だな。全く」
右人差し指に光を形成して周囲を照らして確認する。所々崩れてはいるがそれ程廃れてもいない。思ったよりも綺麗だ。逆に怪しく感じるのもお約束だろう。
「少し熱いな」
「なら脱げよ外套」
「そうはいかねぇ。外に出る時は身に着けろってヴェルダナーヴァに言われてんだ」
「普通の外套なのにか?」
「……そうか。お前達は知らなかったな。この外套の秘密」
この外套には秘密が幾つかある。その内の一つは他の者には何の変哲もない普通の外套と認識され、あらゆる鑑定スキルを無効化することが出来る。そしてもう一つはと、…話すなら絶対に他言しないか確認しないといけないな。
「絶対に言わないって約束するか?」
「……?あぁ話さないぜ」
「私も話しません。もしかしてあまり知られるとマズイ物ですか?」
「まぁな。さて……何処から話すべきか」
一先ず遺跡の探索は置いておき、俺はあの時の事を思い出しながら2人に話し始めたのだった。