異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
暗く静かな闇。その中で唯一輝いている物の前に俺はいた。その輝いているものとはヴェルダナーヴァが俺に贈ってくれた桜。今は夏なので葉桜だがとても神秘的な空気を纏っている。
何で夏なのにここに来たか、それは桜の確認と周辺を覆っている結界の確認。加えて近くで噂の黒狐が確認されたからだ。
「親友が遺した数少ない物。アイツの親友として守り抜かねぇとな」
「そうだねホムラ。彼が復活したときに悲しまないためにも」
「あぁ。だからそろそろ終わらせる。これ以上被害か増える前に」
黒狐が目撃されてからかなり経ち被害が増えている。皆が対処してくれてるが黒狐も遭遇する度に強くなっているらしい。少し前はランとシンが一方的にやられたって話だ。
「……ホムラ。来たみたい。やっぱり強い力に反応してる」
「みたいだな」
背後から感じる強い気配。ゆっくりと振り返ると、闇の中から全長10メートル程の黒狐が殺気を放ちながら姿を表す。
漆黒の毛並みに強靭な四肢。加えて9つの尻尾には赤い斑点まである。皆から聞いた外観と一致し最近見ない"あの子"と瓜二つだ。
『マ…オウ。コロス!』
「む!?」
黒狐から強烈な威圧が飛んでくる。その威圧には鋭い殺気も混じっており肌に突き刺さる。やれやれ、これは中々に大変そうだ。
「さてと…サポートは任せるぞ。解析は不要だろ」
「うん。幻獣の本能に飲まれてもあの子の意識はある。ラン達を見て気付いてるぐらいだからね」
「良くも悪くも死者はまだ出てない。アイツは何も悪くねぇ。悪いのはあの外道だ」
村正を抜き黒狐に近づく。少しずつ距離を縮め黒狐の間合いに入った瞬間だった。
「ガァッ!!」
血に飢えた獣のように襲って来て容赦なく俺に鋭利な爪を振り下ろす。俺は軽く飛んで回避するが、黒狐は瞬時に2本の尻尾を槍のように突いてくる。
(正面から受け止めるのは得策ではないな)
受け流しながら間合いを詰め斬擊を放つ。黒狐は斬擊を尻尾で容易く防ぎ、赤い斑点から小さなエネルギー波を放つ。
「小さいが威力は高いか!」
黒い靄を村正に纏って自身を覆うように斬擊を放って防ぐが、黒狐は後隙を狙うように爪を振るい、斬擊を掻き消して俺に直接攻撃してくる。
(むぅ……思ったよりやるな。意外と冷静じゃないか。見ないうちに強くなってる)
爪を防ぎつつ後ろに交代。次の一撃に備えようとした時、地面から尻尾が現れ右に回避するが頬を掠める。
「大丈夫?」
「問題ねぇ……っ!?」
グラッと視界が歪み、何かが体の中に入ってくる。これは……呪いか。くそぅ。今は夜だから無効化出来ない。かといってユニに解除してもらうのもなんか嫌だな。
「無効化出来ないなら弾き出す。下がってろユニ。呑まれるぞ」
「……!やるんだね。分かった」
距離を取るユニ。さて……たまには魔王らしい一面を見せるとしよう。大きく深呼吸し、俺の体に流れる妖の血を覚醒させると全身から黒い靄が溢れ出て村正の刀身が黒く染まり上がる。
『ナ…二?』
目を大きく見開く黒狐。当然の反応だろう。今の俺を知っているのはルミナスとユニだけ。他の皆には話だけしたが姿を見せていない。
『ダレダ…キサマハ……』
「おいおい。主の顔を忘れたか?変わったのは髪色だけだろ"ハク"」
『!!??』
黒狐の名を呼ぶと奴はあからさまに動揺する。正直信じたくはなかったが、ハクエンが姿をあまり見せなくなったのと黒狐が目撃されたのは同時期。皆から戦闘時の様子から正体はほぼ特定していた。
「ハクの意識があるのは分かっている。故に何を斬るべきは明白だ」
『キルベキモノ…?マサカ!?』
「そのまさかだ。ケルベロスがいい情報を残してくれた。例え獣の性に囚われても魂に刻まれた物は消えないってな!」
村正に漆黒の闘気を纏う。俺が斬るのはただ一つ。それさえ分かれば幻獣など怖くもない。
「全てを喰らい業を斬る」
『マ、マテ!ワルカッタ。カラダハカエス。ダカラーーー』
「……」
命乞いをする黒狐。こちらの油断を誘うのが狙いだろう。いつもなら乗る気はないが乗るのもまた一興だろう。少しだけ力の抜くと、黒狐は笑みを浮かべながら大きく口を開けて巨大な黒球を解き放つ。
『キサマガシネ!』
黒球が地面を穿ちながら迫ってくる。あの技もハクエンの白焔球と瓜二つだ。普通に受けると結構なダメージになるが、生憎と俺に届かせるには大きな壁がある。
「ヴィゾフニル」
『!?』
大きな水球が黒球を覆い爆ぜる。大きな爆発と衝撃波が響き渡り黒狐が怯む。その隙に黒狐との間合いを一瞬で詰め、『心天眼』が獣の性を捕らえる。
「秘剣抜刀。『加具土命・明鏡』」
黒狐の性を斬り伏せる。肉体ではなく中身……本質を斬る一撃。ハクエンの体を乗っ取っている獣の本性を斬る。それにより獣の本性に乗っ取られたハクエンの意識が表に出て来る。
『オノ……レェ』
小さく声を上げながら色が綺麗な白毛に戻り、体が何時ものサイズに戻って行く黒狐……いやハクエン。邪悪な気配は一切感じ取れず周囲が一気に明るくなり、月光が差し込んでくる。
「よっと……。大丈夫そうだね。良かった」
気を失ったハクエンを受け止めるユニ。呼吸が安定している所を見ると上手く斬れたようだ。加えて村正の切れ味も絶好調で何よりだ。
「さて…ハクをどうするかだけど、まずはハクの特性を調べないとね。この事は私に任せて。一月で調べ上げる」
「任せる。その間はハクの傍を離れないようにする」
「そうして。また性に飲まれる可能性もあるから」
「ん。じゃあ帰ろうか」
転移術で国に帰還。ハクエンの身を預かった次の日。未だに目覚めない彼女を撫でていると、部屋にランとシンはが入ってくる。
「し、失礼しまーす……」
「し、失礼するぜ……」
何故か恐る恐る入る2人。恐らくハクエンにビビっているのだろう。さっきも言ったが結構ボコボコにやられた2人。その相手が俺の膝の上で眠っているとはいえビビらない方がおかしいだろう。
「大丈夫だ2人とも。獣の本性は俺が斬ったから問題ない。対処はユニが考えている。だから心配するな」
「「……」」
2人に示すようにハクエンを撫でると、2人は警戒しながらハクエンに触れる。ハクエンは起きる事無くスヤスヤと眠っており、2人は一安心する。
「ふぅ。あんなに怖い姿になってたからどうなるかと思ったけど……」
「流石ホムラさんか。はぁ……何か悔しいわ。ホムラさんの手を殆ど頼らないって話をしたばかりなのに」
大きな溜息を吐くシン。ランも同じことを思っているのかとても悔しそうな顔を浮かべている。ふむ……これは俺にも責任がありそうだな。表向きの事は皆に任せたが裏側はまだ俺がやっている。もう少し皆に時間を割く方法を考えるか。
「強くなりたいならギィやミリムに挑んでみろ。都合なら合わせてやる」
「あ…。そういえばホノカもミリムさんに鍛えられて強くなれたって言ってたけど……」
「今の俺達があの2人に通じるかな……」
まぁそこは2人の努力次第だろう。上手くいけば覚醒できる可能性もあるし、ミナトやホノカの尻を叩くことも出来る。俺としてはもっと強くなって欲しい。アイツとの約束を守るためにも。
「配下が強ければ王が強い証になる。これからハク以上の怪物や魔王になった奴が喧嘩を売ってくるかもしれん。もっと自分の力を信じろ」
「自分の力を……」
「信じる……」
それが出来ねぇと"次の段階"には上がれないし、俺も信じることが出来ない。とにかくミナト達は自身が無さすぎる。ここは強引にいくか。
「ラン。一月程有給をやる。ミリムのところに行くぞ」
「え?」
「ハクが落ち着いたら直ぐだ。聖剣も準備しておけ」
「り、了解!(う、うわぁ……生きて帰れるかなぁ……)」
駆け足で出ていくラン。ついでにシンと軽く睨むと顔を青ざめてランの後を追いかける。さて…これでアイツらは大丈夫だろう。後はホノカとミナト。ソフィとザイファか。後者は難しいが前者はそろそろだろう。
「俺の時みたいに怪物が今の時代居ないから仕方ないか」
ハクエンを撫でつつあの頃を思い出していると、ハクエンの目がゆっくりと開く。どうやら目が覚めた様子。ハクエンは周囲を見渡してから俺の方に顔を向けてくる。
『……ホムラ様。私……』
「強くなったなハク。中身は大丈夫か?」
『中身……あ。私の魂にあった獣の性が無い。でも力は残ってる』
「それならよかった。後はその力を使えるようにならないとね」
ハクエンの頭を撫でると嬉しそうに眼を細める。俺と戦った記憶はないのか。恐らく切り替わる時にあの黒狐は元居た場所に戻っているのだろう。ならこの事を話すのはまた後だ。
「さて……俺はミリムの所に行くからユニの所に行っておいで」
『はい。お気を付けて』
膝から飛び降りてユニの所に向かうハクエン。後はユニが何とかしてくれるだろう。ミリムの所から戻って来た時が楽しみだ。
「俺も準備するか。美味しい物でも持って行けば頼みを聞いてくれるだろ」
腕を伸ばしてから部屋を出て、台所へと向かった。