異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
「わーはっはっは!よく来たなホムラよ!」
高笑いをしながら腕を組み仁王立ちするミリム。ここはミリムを信仰する竜の都。人と竜が交わった種族や色んな種類の竜が住んでいるのだが……。
「相変らず元気だなミリム」
「うむ。私は元気だぞ。という訳で……行くのだ!!!」
右手に魔素を込めて一瞬で間合いを詰めるミリム。何と言うか最後に会ってから全然変わってないな。全く誰に似た事やら。さて……いつもなら受け止めるのだが、今回の主役は俺ではない。
「はぁっ!」
「む!?」
俺の背後からランが飛び出して聖剣で受け止める。ただ受け止めたのではなく上手く力を四散させて。ミリムは止められて事に不満かと思ったが、むしろ興味深そうな顔をしていた。
「ほぅ。お前はホムラの弟子だな。ホノカから聞いているぞ」
「それは光栄ですよっと!」
聖剣から光が放出されミリムを弾き飛ばすがノーダメージ。軽く腕を振っている位だ。よし、そのままの流れで頼むとしよう。
「ミリム。暫くランを鍛えてやってくれないか?」
「勿論なのだ。その代わり私の頼みも聞いてくれるか?」
「いいぜ。程々に頼むぞ」
「任されたのだ!」
強烈な魔素を全身に纏ってランと距離を詰める。ランも聖剣を構えなおし紫の鎧を纏う。俺は邪魔したら悪いから都を見て周ろう。上空で待機しているアルビオンに降りてきてもらい都を周り始めるのだが、もう2人……心配して付いてきたルミナスとホノカが都に入った瞬間に何処かに行ってしまった。
「あの2人を探しますか?」
「大丈夫だろ。ホノカも居るし何かあれば飛んでくる」
「信頼してるんですねホムラさん。では私は貴方の護衛に専念します」
「ん、助かる」
アルビオンの頭を撫でる。多分ヤバイことなど無いと思うが彼女が側にいてくれるのは大変助かる。
「それにしても沢山の竜と竜人がいますね」
「皆ミリムを慕う人ばかり。本人は部下など要らないって言ってるけど」
ミリムらしいと言えるだろう。俺はもっと仲間欲しいけどね。国の力を確固たる物にするために。
「あの……頭を撫でられるのは好きなので嬉しいですが背後の視線が怖いです」
「背後……っ!?」
背中に冷たい殺気が突き刺さる。とても怖いので振り返らずに進もうとしたが、両肩に手を置かれて無理やり後ろを向かされ、視界に何とも素晴らしい笑顔を浮かべたルミナスが映る。
「お主。配下の者は可愛がるのに妾は可愛がらんのか?」
「い、いやそんなことは……」
「最後に愛でられたのはいつだったかの?」
「……」
(これは……)
(兄さんの完敗ですね)
部下を可愛がるのは上司の義務…だと思うのだが、ルミナスの前では今後控えておこう。まぁ可愛い所を見れるので役得だが。
「で?妾よりアルビオンの方が可愛いか?」
「君は可愛いより素敵で綺麗。瞳も銀髪も魅力的だよ」
両手で頬を包み込んで微笑む。いつもならこれで解決なのだが…今日はダメだ。目が笑っていないし肩に置かれている手の力が強い。これは今晩覚悟しないといけないなぁ……。
「まぁ良い。最近は一緒に居れていないし後で時間を作って貰おう。神殿まで案内しておくれホノカ」
「は、はい。(う、うわぁ…絶対明日ヤバいよね……美味しい朝ごはん作ろう)」
ルミナスは左腕に抱き着いて手を繋いでからホノカの後をついていく。道中でアルビオンが興味深そうに都の住人を見ていた。竜王からしたら竜魔人や他の竜は珍しいのだろう。
「到着しましたよ……あれ?あの小さな精霊は……」
「む。この面倒な気配はラミリスか」
「うげぇ。何でいるんだよ……」
神殿の前に見覚えのある精霊…ラミリスが居て、俺達を見ると超スピードで俺の目の前に来てポカポカと額を叩いてくる。
「誰かと思えばホムラじゃない!お茶会に顔を出さずにこんな所で何をしてるのよ!?」
「ちょっとミリムに用があったんだよ。ラミリスこそ何をしてるんだ?」
「あたしもミリムに用があるのよ……ってあら?ルミナスも居たのね。というかホノカもいるじゃない」
「今更気付くのからラミリスよ。その前に妾のホムラを叩くな」
パチンとラミリスにデコピンするルミナス。慌ててホノカが受け止めるがクリティカルヒットしたらしく目をクルクル回してダウン。軽めの一発だけと一撃か……多分転生したばかりだな。
「と、取り合えず入りましょう。神官さんとは顔見知りなので」
「そうだな。手土産と一緒に挨拶しよう」
「はい。では開けますね」
ホノカはラミリスを肩に置いてから扉を開け、彼女の後を付いて行った。
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「うーん……もう飲めぬ……ぎゅー」
「うぐぅ……いきなり抱き付くなルミナス……」
空っぽになったボトルを地面に置いて抱き付いてくるルミナス。彼女の周りには20本ほどの空になった酒のボトルが転がっている。確か持ってきた酒のボトルは200本ほど……考えるのは止めておこう。
「相変らずラブラブだな2人は」
「ミリム。ホノカとはもういいのか?」
「うむ。暫く滞在すると言っていたから話はその時なのだ。それよりさっきの話覚えているか?」
「あぁ。頼みごとなだな」
「そうだ。2つあってな。その内の一つは2人に頼みたい」
「む……妾にもか?」
ミリムに聞き返すと大きく頷く。なんか嫌な予感しかしないのだがいいだろう。ミリムからの頼みなんて珍しいからな。
「まずは1つ。近くの湖の中心に洞窟が現れてな。入るには特殊な指輪がいるらしい。面倒だからぶっ飛ばそうとしたら神官に止められたのだ」
「当然だな。そして湖の中心という事は地下に繋がってるのか」
「そうなのだ。そして扉を開けるには月の指輪が必要らしくてな」
「ほぅ。この指輪か」
ルミナスは箱を取り出して開け、中の指輪をミリムに見せる。彼女はやや驚いてから俺の肩を叩いて『後は任せたのだ!』と言って場所を俺達に伝えてからラミリスの所へと向かっていった。
「……どうする?俺一人で行こうか?」
「やだ。妾を1人にするな」
「了解。これからどうする?まだ飲むか?」
「飲めぬと言っただろう。部屋に戻るぞ」
「そうだな。では失礼して」
「っ!?」
軽々とルミナスをお姫様抱っこする。ルミナスの顔が一気に紅く染まる。酒に酔っている影響もあるだろうが、この赤さは恥ずかしい証。だって沢山見てるから良く分かる。
「可愛いぞルミナス」
「こういう時だけ言うな馬鹿」
「……」
今度は照れながら言うルミナス。その表情が胸にグサッと突き刺さり、心臓の鼓動が早まっていく。
「ルミナス。部屋戻ったら何する?」
「そんなこと決まっておる。離さぬに決まってるだろう」
「そうだな……」
高鳴る心臓を抑えつつ用意された部屋へと戻るのであった。
ーーーーーーーーー
「んーいい天気」
青い空に強い日差し。そして過ごしやすい気温。部屋から見える景色と肌で感じる事だけで直ぐに分かった。今日は最高の探検日和だ。
「起きてルミナス。いい天気だぞ」
「うーん……」
掛け布団の中でモゾモゾ動くルミナス。彼女は頭まできちんと布団を被っている。出てこない所を見るともう少し時間が掛かりそうだが、次が控えているので出て貰おう。
「ルミナス。ミリムの頼みも聞かないといけないから出てきて」
「ん……分かっておる」
布団の中からゆっくり出て来るルミナス。彼女の後ろに座って櫛で髪を解き始める。ルミナスはウトウトしながらも化粧していつも着ている黒いドレス…ではなく、黒いスカートに薄いシャツと同じ色のカッターシャツを着てから、カーディガンを羽織る。
「ドレスじゃないんだ。珍しい」
「デートじゃからの。ドレスばかりではお主も飽きるじゃろうて」
「そんな事ないさ。浴衣も似合うし」
「ありがとう。では…もう一つ頼むかの」
ルミナスは俺の方を向き、薄い桃色の口紅を取り出す。『え?』と困惑していると、口紅の蓋を開けて俺に渡し、顔を近づけてくる。
「あ、あの姫。流石にそれはまだーーーんん!?」
問答無用で唇を塞いでくる。承知しましたよ姫。塗ればいいんでしょ!?塗れば!!
「分かったよ姫。では……」
彼女の頬に手を置いて、彼女に口紅を塗ろうとした瞬間だった。勢いよく扉が開いて元気なミリムの声が響き渡ったのは。
「お早うなのだホムラ!今日はいい天気だぞ!まだ寝てるのなら私が目覚めの一発を………あれ?起きていたのはホムラ。それに……バレンタイン?」
「……ミリム。今すぐ逃げろ。今すぐだ」
「今すぐに?それは何で?」
「いいから今すぐに逃げろ!ルミナスがブチ切れる前に!」
と言ったのだが時すでに遅し。目の前にいたルミナスの米神に今までに見た事がない程の青筋を立てる。部屋には冷たい空気と死の気配が漂い始める。
「ル、ルミナス?落ち着こう。落ち着こうな?ミリムだって悪気があった訳ではない」
「……黙れホムラ。妾は機嫌が悪い。一時間ほどで戻るから先に行って待っておれ。よいな?
「……おぅ。程々に」
触らぬ神に祟りなし。俺は外套を纏ってから村正を携えて湖へと向かった。
今の章も後僅かです。