異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
昨日に引き続き朝早くから平原に来ていた。昨日は大事な話で今日は弟子に指導。即ちランとの鍛錬である。ランとミリムの手合わせはホノカが立ち会っているが、かなり一方的にランがやられているらしいので、今日は気分転換に俺とルミナスが相手をすることに。
「んじゃ今日は戦闘形式ではなく、俺やルミナスの技を伝授だ」
「む。妾が教える技は…いや、メルトスラッシュぐらいなら教えられるか」
「メルト…スラッシュ?」
首を傾げるラン。メルトスラッシュ……通称・崩魔霊子斬。霊子崩壊を剣に込めて突き技として放つえげつない必殺技だ。勇者時代に一度ルミナスのを受けたことがあるが、アレはえげつなかった。左手は持って行かれるし当時愛用していた刀は粉々になるし。だからこそ威力は保証する。威力の高い霊子崩壊を剣に込めれば、覚醒魔王クラスでもただでは済まない。
「…とまぁ威力は保証する」
「お主の数少ない敗北じゃのう。あれ以降妾は一度もお主に勝てていないが」
「ふぇ?師匠はルミナスさんに負けてるの?」
「……」
ランの問いに答える事無く視線を外すと、ルミナスはクスクスと笑う。これを見て分かると思うが、俺は一度ルミナスに負けている。というか勇者時代の戦績は結構悪い。負けたことは少ないが勝った事も少ないのが事実だ。
「お主の言う通りホムラは妾に一度負けておる。対魔法戦が疎かったからの」
「意外かも……。今はメチャクチャ強いのに」
「それでもギィやミリムには敵わない所が多い。ダグリュールだって俺より上だと思う…が。今はその話より技の伝授だろ。取り合えず現状を見せて見な。俺も聖剣の試し切りをしたいし」
「了解。じゃあボクも」
光り輝く黄金の剣を取り出すラン。相変らず凄まじい存在感を放っているな。クラスで言えば伝説級って所か。こちらとしても高ランクの得物と戦える機会は少ないからいい鍛錬になる。
そんな訳で、準備運動も兼ねて軽く打ち合ったわけだが、早速よろしくない所が沢山出て来る。ランはスピードと手数、それに加えてユニークスキル『戦乙女』とエクストラスキル『魔法剣』を駆使するが、やはりパワーが足りないし決定的な一撃を持ち合わせていない。
(やっぱり切り札も兼ねた一撃必殺は必要だな。他にもスキルの応用……魔法剣は面白いんだが)
「……むむ。何を考えてるの師匠?」
「君の良い所をどう伸ばすか。ルミナスはどうだ?」
「ふむ……1つ思いついた。メルトスラッシュを教えた後に助言する」
「という訳だから準備運動はこんなものでいいだろう」
ランと一旦距離を取って聖剣を鞘に納める。それからルミナスは愛用の刀を抜き、呪文を唱えてから刀に凄まじい魔力を宿す。その魔力に僅かだが空気が震え、思わず身構えてしまった。
「え、えっとルミナスさん?凄い魔力だけど……」
「これがメルトスラッシュ……の前段階じゃ。このまま放てばメルトスラッシュとなる」
「へぇ……で。誰に向けて放つの?流石にそこらへんの岩……は無いから空かな?」
「誰が空に放つか。正面から受け止めてくれる優しい男がいるじゃろ」
「……え?」
まさかと思っていると、ルミナスは俺の方を向きニコッと笑う。背中に強烈な悪寒と凄まじい恐怖が襲ってくる。お、おかしいぞ。覚醒魔王なのにあの一撃がものすごく恐ろしい。心の底から死を感じている。
「ま、まてルミナス。流石の俺もそれは受け止められ……ん?(む…この気配は…)」
「そうか…妾からの愛は受け止められんか」
「それの何処が愛なのかな!?マジで死ぬんだけど!?」
「案ずるがよい。死んでも妾の腕の中で蘇生する。その前にお主は魔王じゃからこの程度では死なん」
「いやいや。めっちゃ死を予感してるから!」
手を振ってアピールしながら上に合図を送る。ルミナスは合図に気付いたのか一瞬目を見開いてから、チラッと上空を確認し、こちらにジト目を向けてくる。そんな目を向けられても非常に困るし、上空にいる人型の何かが誰かの配下で視察に来た理由等分からん。
「仕方ない。大切な家族との交友をのぞき見する愚か者に向けるか」
「ふぇ?」
ランが可愛らしく首を傾げると、ルミナスは上を向き、丁度真上に居た人型の何かに強烈な殺気を向ける。当然ながら人型の何かは殺気に気付き逃げようとするが、それよりも早く技を放つ。
「跡形も無く消えるがよい。≪
刀から凄まじい光が放たれ人型の何かに直撃し、人型の何かは一瞬で消滅。その威力にランは思わず『うわぁ……』と呆気に取られていた。その気持ちはものすごく分かる。俺も初めて見た時は同じ反応したから。
「相変らずえげつないな」
「何がえげつないじゃ。お主の加具土命にくらべたら可愛い物じゃろ。それよりこの技を教える前にやることがある」
「やる事?」
「そうじゃ。なんせこの技は魔力の調整が難しい。まずは妾が思った事をランに教えるからその辺でゆっくりしておけ」
「了解。頑張れよラン」
「は、はい!よろしくお願いしますルミナスさん!」
(だ、大丈夫かなぁ……)
もの凄く心配だがここはルミナスに任せよう。俺は2人から距離を取り仰向けで横になる。暫くすると剣がぶつかり合う音が聞こえてきて視線を向けると、ランの黒曜石の剣に炎と水。2つの属性が付与されていた。
(属性付与を同時に二つか。威力は上がりそうだが、その分制御に力を注ぐと考えると……)
他の部分が穴になる可能性が出て来る。その辺は慣れと経験でカバーする必要があるだろう。何事も回数を重ねる事で熟練度は増し、バリエーションが増えていく。俺の加具土命が何よりの証拠だろう。
(物事の本質を見抜き断ち切る剣か……。そこに『武神之王』の零の極意が加わればあらゆるもの全てを斬る事が出来る。防ぐ手段は……アイツが持っていた『制約之王』ぐらいか)
正直あのスキルを持っていたある皇子とは戦った事がないので防がれるか分からない。俺と会った時は既に『正義之王』だったしね。あのスキルは色んな意味で要注意だろう。俺の配下に天使系スキルが現れたらその時点でゲームセットだ。
(元気にしているのだろうか。ヴェルグリンドがいるから息災だろうが……)
一応東の脅威にも備えるべきか。今は大人しいヴェルドラの方を考えたい、現状を考えると奴を相手に出来るのは俺かユニ…は難しいか。『絆之王』を使ってるときは『聖賢之王』は使えないって話だし。
(一癖も二癖もある連中を上手く枠に嵌めるのは難しい。そこは俺の手腕次第か)
そう考えるとルミナスは上手く纏めている。身近な世話を侍女に任せ、国がらみはギュンダーやルイ兄弟に任せつつ縄張りもきちんと把握し、自分の時間もきちんと作っている。こればかりは生きた年数の差か…。
「よし。一旦休憩にしようラン。大分制御が上手くなったの」
「あ、ありがとうございます……(き、きっつー……以前手合わせした時より厳しいんだけど……)」
「お疲れ様2人共」
2人に水の入った水筒を渡す。時間にして10分程だったが、ランが肩で息をしている所を見るとかなり成果があったと見える。修業の類は時間より質。短時間でみっちりやった方がいい。時間をかけると途中で集中力が切れるからだ。
「ふぅ…。改めてダメな所多いなぁ。師匠の剣には程遠いよ」
「比べる対象を間違えてるぞラン。ホムラの剣をそこらの剣と一緒にしないほうがよい。それと目指すのもやめた方が良い」
「それは何で?弟子だから目標にしてもいいと思うけど」
「なら目標までにとどめておけ。あ奴の剣を会得するのではなく自身の剣を磨き続けて師と同じ場所に辿り着くのじゃ」
「そうだな。辿り着く境地は一緒だが過程は人によって違い、会得する物も違う。ランだけの剣を会得するんだ」
「ボクだけの剣……」
腕を組んで考えるラン。何事もイメージするのが大切だ。どのような自分を目指し、他にはない自分だけの力を手に入れるか。それが究極能力として顕現すると俺は思っている。自分の力に適した形として。
「ゆっくり考えればいい。それが合わないならひたすら鍛錬だな。次は俺が相手をしてやる」
「その前に朝食じゃ。お弁当も用意してある事だし」
「ル、ルミナスさんのお弁当…?」
「おい、なんじゃその反応は。妾がお弁当を用意していたらおかしいのか?」
ルミナスは冷たい笑みを浮かべながらランの頬に手を置いて顔を近づける。思わず狼狽えて頬を赤く染めるランだがルミナスは止まらない。尖った歯をチラつかせながらランの首に噛みついた所で俺は2人から視線を外し、ルミナスが用意した弁当箱を取り出し、草原の上にシートを敷いてから置いて風呂敷を外すと、中から5段の重箱が姿を現す。
「随分気合いが入っているな……(まさか持ってきた食糧全部使ってないだろうな……)」
不安を感じながら一番上の蓋を開けると、手頃な大きさのおにぎりがぎっしりと詰められていた。まぁ…この辺りはセオリーだろう。なら2段目はと思って1段目を動かすと、再び1段目と同じ様におにぎりがぎっしりと詰められている。
(……そう来たか)
少し呆れながら2段目を動かすと、3段目は蓋が被せてあった。大変嫌な予感がしながら蓋を開けると、3段目には野菜の天麩羅が詰められていた。それを見て、少し前のやり取りを思い出してしまう。
(ハマったのか……)
作れる料理の量が増えるのはいい事だ。鍛錬の後に食べるのはかなり胃にきつそうだが、野菜を選んでいる辺り、ルミナスはきちんと考えているのだろう。
「となるとの4段目と5段目は……」
3段目を動かし再び4段目の蓋を開けると、4段目には分厚いだし巻き卵。5段目は煮物と、馴染みの和食が詰められていた。これは……うん。ホノカやランは大喜びしそうだ。
「うぇ……かぷって噛まれたぁ……」
「お…おぅ……」
右首筋を擦りながら近づいてくるラン。小さく歯型があるところを見ると結構深く嚙まれたようだ。で、噛んだルミナスはとても上機嫌。流石は絶世の美女好きだ、一体どれだけ俺の配下を犠牲にするのだろうか。
「準備出来たぞルミナス」
「助かった。お茶は水筒に入れてあるから自由に飲むと良い。さて……」
「こ、こら!」
俺の膝に座り、お皿にお弁当の具材を乗せていくルミナス。ランも遅れてシートの上に座ってお皿に乗せていくのだが、俺はルミナスが膝に座っているので動けない。
「頂きますルミナスさん」
「ん。感想を楽しみにしているぞ」
「あの……姫?俺はどう食べるの?」
「ふっ…決まっているだろう。一度やってみたいと思っていての」
(や、ヤな予感……)
とても嫌な予感を感じていると、ルミナスはだし巻き卵を器用にお箸で掴んで口元まで持って来る。あぁ……やっぱりか。そんな事だろうと思っていた。
「姫。流石に人前では避けてはしい」
「何じゃ恥ずかしいのか?」
「そうだよ。だから自分で取って食べるから」
箸を手にとって腕を伸ばし、玉ねぎの天麩羅を掴んで食べる。サクッと良い音がなり、とても美味しくて甘い。以前食べた時以上だ。
「うん。美味しい」
「他に感想は?」
「それは他を食べてから」
順番に椎茸。薩摩芋。野菜のかき揚げの順番に食べていく。その間ジーとルミナスは俺の顔を見てきて、その様子を見ていたランは気付かれないように笑っている。
「本当に仲いいね。ルミナスさんと師匠は」
「付き合いは長いからな。君が思っているよりずっと」
「それでもお互い知らないことは多いが、それは少しずつ知って行けばいい。今妾が知りたいのは……」
そっと俺の頬に手を伸ばそうとした時だった。上空からゆっくりとミリムが俺達の前に降り立つ。その姿を見たルミナスとランは瞬時に警戒態勢。ルミナスに至っては俺から離れて殺気を漂わせている。
「どうかしたかミリム?」
「あぁ。先ほどギィがお茶会を開くと言ってな。それを伝えに来たのだ」
「なら妾は不参加と伝えて置け。ホムラは元より参加せぬじゃろう」
「む。そうはいかん。今回は全員参加との事だ。ホムラは……まぁいいだろう。ギィは何も言わないからな。だが魔王の座に就いているルミナスは参加だ。例の新参者が絶対と言っている」
「………あの愚か者か」
ルミナスを纏っている気配が変わり周囲の空気が凍る。そのきっかけになったのは間違いなく新参者とやらがお茶会を開くと言ったからだろう。新参者がどんな奴かは話として聞いている。簡単に言えば人を見た眼で判断する野郎で、とにかく自身の力を誇示し、ルミナスやラミリスを『魔王としてふさわしくねぇ』とか言ったらしい。
まぁそんなことを他の魔王の前で言うから、あまりいい印象はないらしく、ルミナスやラミリスに関しては相手にしていないらしい。
「行ってこいよルミナス。帰ってきたら時間作るから」
「……そう言う事ならよいか。では行ってくる」
優しく微笑んでからミリムと一緒に宮殿へと飛んでいくルミナス。2人の姿が見えなくなってからランと残っているお弁当を食べて鍛錬を再開した。