異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
王国を出て三つの山を越えた先。そこには大きな平原がある。ここは俺と炎の魔人が死闘を繰り広げた影響で出来た場所。炎の魔人・エンブはここに住んでいる。色々な意味で危ない奴だが根はとてもよく、俺達や国の事を気にかけてくれている。いきなり訪ねても怒らないしいい奴だ。あぁ、アレクは来てないぞ。国王に説教されてるからな。
「よく来たなフレア。今日は何用だ?」
「少し相談。聞いてくれるか?いい酒も持って来てる」
「珍しいな。大体は予想できるが腰を降ろしてから聞こう」
「助かる。ベルも付き合ってくれ」
「分かりましたフレア様」
適当な所で腰を降ろし盃に酒を入れてエンブに渡す。自分とベルにも同様に淹れて渡し、軽く当ててから一口飲み、ルミナスとの話をする。どういった返事が来るか身構えていると、エンブは呆れながら言った。
「なら魔人になればいいだろ。お前の場合は上級魔人に進化するが」
「簡単に言うなよ。俺だって結構悩んでいるんだから」
「中途半端が一番危険だ。いつ『ボンッ!』っていくか分からんぞ」
「何それ怖い……」
本気で言ってるなら洒落にならんが嘘をつくような奴ではない。ルミナスも言っていたが時間は殆ど無いのか。
「先に行っておくがお前の体質を考えると、少しでも瘴気が多い所に行けば強制的に進化する。加えて後30体ほどの魔人や魔獣の魂を喰らっても同じだ。進化の詳しい条件は知らんが、何かしらの強い力で壁を超える事で進化するとだけは言っておこう。あくまでも私見だが」
「成程。壁……ね。それに必要なのは数多の魂。確かギィもそれで受肉したと聞いた。ヴェルダナーヴァとのいざこざは知らないけど」
「うむ。あれはすさまじかった。結果的にギィが負けたが、ヴェルダナーヴァ殿から調停者として世界の平穏を保って欲しいと頼むだけの力はある」
懐かしそうに話すエンブ。マジでコイツヤバいよな。原初の悪魔とも知り合いだしルミナスとも顔見知りだし。いつから生きてんだよ。聞いた話ではヴェルドラ殴り飛ばしたって言ってたし。手抜いてたとはいえよく痛み分けまで持っていけたな俺。
「ギィと言えば聞いたぞ。原初の紫とやりあったらしいな」
「そんな事もあったな」
「半年程前ですね。あれも痛み分けでしたか」
原初の悪魔の1人。あれも偶然遭遇して戦ったが決着付かず。召喚者は焼き払ったから当分は出てこないだろう。アイツらはマジで解き放ったらダメだ。ギィや配下の2人は良いとして。
「顔覚えられてるだろうな……」
「もし悪魔を召喚する時が来れば間に割ってきそうですね」
「絶対に紫陣営の悪魔は呼ばねぇ……」
そもそも呼ぶつもりはないが、呼ぶことになれば他の色にしよう。あぁいったヤバい奴の制御なんて出来ないし、出来る奴なんてこの先現れないだろう。もし現れたら顔を見て見たい。
「ふっ。色々あるが今を全力で駆けて抜けてみろ。そしてギィのように魔王になって俺に勝ってみろ」
「さり気無く促さないでもらえる?後アンタに勝つなんて無理だから」
「無理って言うな。お前は勇者でありこの世界の人間。そして俺が惚れた男だ。前だけ見て不可能を可能にしてみろ。お前には無限の可能性が秘められている」
「持ち上げすぎだっての。あとキモいぞ先生」
「キモい……だと」
何やら精神的ダメージを負っている様子。俺は気にせずお酒を飲みながらベルが焼いたクッキーを食べる。相も変わらず絶品だ。家事も一通りこなせるし。
「時にフレアよ。友は増えたか?」
「ん。色んな種族の友が増えた。その度にあの時を思い出す」
「あの時ってもしかして……」
そのもしかしてだ。俺が国王に呼ばれてサンフレア王国の勇者になったあの時。俺の人生は変わって狭かった世界が広がった時だ。
「そういやベルには話してなかったな。俺がここに来る前に何をしてたか。興味ある?」
「それはもちろんありますよ。きっと今みたいに素敵な方だと思います」
「……うん。まぁ……ね」
「?違うのですか?」
やや驚きつつ首を傾げるベル。どうしよう素直に話すべきか。きっと聞いたら驚くがいいか。長い付き合いになるし、いつまでも隠しておくのは良くない。
「全然違う。この世界に来る前……俺が日本に居た時は友達一人いない寂しい子供だった」
「冗談言わないでください」
「残念ながら事実。俺は炎と太陽を司る神を崇める一家の長男でね。子供の頃から霊感が恐ろしく強かったんだ」
「霊感ですか?そういえば時々妙な声が聞こえると言っていましたね」
「そ。お陰でお化けが見えたり、聞こえない声が聞こえたり。だから両親に子供の頃から言われ続けてたんだ」
ーお前は特別だ。他の人間とは違う。故に友など不要。その身は神にささげるのだ。
「ってね」
「えっと……その……」
うん。言いたいことはとても分かる。だが俺はその言葉通りに成長し、この世界に来るまで友達一人いないし、他人と接する機会も全くなかった。
「同級生の子が度々『遊ぼうぜ』って誘ってくるけど毎回ごめんて謝って断ってた。そんな日が続くと誰も声をかけてこなくなる。そんな時だ、年に一度祠の前で祈りを捧げるんだけど、その時に炎に包まれてこの世界に来たんだ」
「確か国王に呼ばれたと仰っていましたね」
「あぁ、そしていきなり言われた」
―今日からこの国と民、数多の助けを求めている者たちに手を差し伸べる勇者として生きて欲しい。
「正直何言ってんだオッサンって言いかけたが、なまじそういった事に慣れてるのか直ぐに適応してな、国王から名を貰うと一緒に望みを言ったんだ。ずっと子供の頃から欲しいと願った物を」
「それって……」
「あぁ……」
子供の頃から望み、ずっと手を伸ばしても触れる事すら出来なかったささやかな望みを国王に言った。
「友達が欲しいって…馬鹿な事やって、怒られて、一緒に笑って、決して切れることの無い絆で結ばれた友達が欲しいって」
「それで……陛下は何と?」
「笑った」
「え?笑った?」
「そうだ。でかい声で…玉座に響き渡るほどのでかい声でな」
あれは絶対に忘れんっ!二度と忘れてたまるか。俺は真面目に言ったのに大笑いしやがって。でもその後に言った彼の言葉の方が忘れられない、だからこそ俺はあの人の望みを叶える。その代わりにあの人は俺に居場所と自由を与えてくれる。例え戻れない所まで堕ちたとしても。
「あの人は言った。『この国に呼ばれサンフレア王国の勇者となった時点で、国に生きる人は皆そなたの友だと。国王である自分も含めて』って。思わず泣いてしまった。だから願ってしまう」
「何をですか?」
「んなもん決まってるだろ」
俺が今願うのは一つしかない。元居た世界では何も願わず、親の言いなりになって生きていた俺がこの世界に来て初めて願った事。それは……。
「俺の大好きな国の平和と笑顔。勇者としてではなくサンフレア王国の
「……」
俺のたった1つの願い。この事を知っているのはこの場にいる2人とアレク。そして国王だけ。ラミリスやルミナスも知らないことだ。
「うん。聞いてもらったらモヤモヤが無くなったな。どうせ戻れない所まで来ていることだし、行ける所まで行って足掻いてみるか。ギィのように魔王を目指すのもいいかもしれない」
「ふふ。私はずっとお側にいます。フレア様の願いが叶う時まで」
「なら俺も加えて貰おうか。弟子を見守り導くのは師の役目だからな」
「……ありがとう。ベル、先生」
感謝の言葉を伝える。この世界に来て本当に良かったと心のそこから感じる。何かあっても皆となら乗り越えられると思う。
「さてと、帰るかベル。また周辺諸国を回る」
「はい。エンブ様。またお会いしましょう」
「いつでも来い。楽しみにしてる」
「おぅ。それじゃ……」
立ち上がろうとした時だった。とても強烈は魔素が込められた障気の嵐が襲いかかってきたのは。
「っぅ!?何だ!?どこから……っぐ!?」
「お、おい!」
「フレア様っ!?」
体の中に大量の魔素が入ってくる。まるで拠り所を求めるように。魔獣を倒した時とは違う。明確に意思がある。このままだとエンブの言うとおり暴発しかねないぞ。
「……ったく。世話のかかる奴だ。こんなことなら姉と妹を呼ぶべきだったか。いや、ラミリスの誘いを断ったコイツの自業自得か。折角光の精霊を確実に呼べるのに断りやがって。ま、加護を与えていないのに勇者として認めたラミリスも問題あるが」
「何をッ…言ってッ……?」
「大丈夫だ。そのまま受け入れろ。殆ど魔人化してたお前だ。誰も文句言わねぇよ。ちょっと魔素は多くて体が付いて行っていないだけ。時期に慣れる」
「慣れるって……うっ…意識が」
意識が沈んでいくと同時に頭の中に声が響き渡る。この世界に来て新しい力を手に入れる度に響く声。その声が今言う事ぐらい分かる。
『規定数量の魔素を会得。これより進化が始まります』
(ダメだ止まらない。こんな時に……)
全身の力が抜けていく、限界だ。薄れる意識の中でもあの時の……ラミリスの誘いを断った際の言葉が脳裏に響く。
ー光の精霊を呼べるのにいいの?折角勇者の素質があるのに。安定してるけど契約って形で連れて行ったら?
ー別にいいよ。俺には日輪がある。決して陰る事の無い日輪。数多の闇を照らして受け止める日輪が。
ーそのせいで魔獣や魔人の残滓を吸収してるでしょうが!今はいいけど絶対にぶっ壊れるわ、現に魔人化が進んでいるのに!反転して堕ちても知らないわよ!
ーそん時はそん時。俺の呼びかけに来てくれるであろう精霊さんは後輩たちに譲ってやってくれ。
(後悔しても遅い。俺自身で決めた道。だから最後まで振り返らずに突き進むだけだ)
魔王になる前に魔人へ。主人公の過去とこの世界に来てからの願い。ミリムとの戦いまで後僅かです。