異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
「うぅ……もう動けない」
バタッと大の字になって倒れるラン。あれから半刻。適度に休憩を取り乍らみっちりと鍛錬をし、ランの魔法剣による属性付与の種類が大分増えた。それでも属性の相性等で重ね掛け出来ないパターンもあるが、数が多くても困るのでこれから種類を絞る方向に。こればかりはランが何処まで考え纏めるかだ。俺の加具土命のように。
「お疲れ様ラン。今日はゆっくり休んで明日に備えろ」
「了解。近くに温泉あるから一時間位浸かろうかな?折角だしアルビオンさんやホノカも誘うよ」
「ん。俺も後から3人が上がってから向かうよ」
「はーい。師匠もあまり羽目外さないようにね」
釘を刺してから宮殿へと戻って行くラン。羽目が外れるかはルミナス次第だか……少し心配だな。もう夕方なのにまだ帰って来ていない。難題な話でもあったのだろうか。アイツらに限ってそれはないと思いたい。
(心配だが大丈夫だろう。喧嘩を売られてもルミナスなら軽く流すさ)
その前にルミナスに喧嘩を売る馬鹿はいないだろう。余程の馬鹿でもなければの話だが。ルミナスを怒らせたら最後……想像したくないな。
(そういった意味でも大丈夫。俺は笑顔で出迎えるだけだ)
刀を鞘に納めて宮殿へと戻り、神官殿と話をしていると、背後に大きな扉が現れる。扉が開き姿を現したのは、物凄く機嫌が悪いルミナスだった。さて…最初の言葉を間違えるとえらい目に合うわけだが……。
「……少し酒に付き合え」
「それは良いが……その前に温泉でも入ってきたらどうだ?美女が3人いるぞ」
「今は美女よりお主が良い」
「そうか。じゃあ湖が見える高台に行くか」
「ん。すまぬの」
神官殿にホノカ達への伝言を頼んでから湖が見える高台に移動。適当な岩にルミナスは腰を降ろしてからボトルを2本取り出す。
「果実酒か?」
「うん。ザイファが美味しいブドウとやらでワインを作っての。その試作じゃ」
蓋を開けて渡してくる。『ありがとう』と言ってから受け取り一口飲む。ブドウの甘さがいい感じで後にも残らない。アルコールもキツくないし、お酒が飲めない人でも大丈夫そうだ。
「いい感じだな。あまり酒を飲まない俺でも大丈夫だ」
「そうじゃろ。他の魔王達も好印象だったわ」
満足そうに笑みを浮かべながら一気飲み。あまり度数が強くないからって調子に乗ると酒乱になるのだが、止めるだけ無駄なので雑談を続け、ある程度ルミナスが出来上がったところで今日のお茶会の話を聞いてみる。
「今日のお茶会はどうだった?」
「……2度と行くものか。あの小僧の顔など見たくもない」
と、なんとも冷たく低い声でルミナスは言った。これは思った以上にヤバい新入りの様だ。加えてあまり名も聞かないし、いつ魔王の座に就いたのかも知らない。ルミナスはラミリスの事を結構言ってるからそれなりに名は広まっていてもいいのだが……。
「対価も掲示せず作り方を教えろと一方的に言いよって。そんなに知りたければ直接足を運べばいいものを」
「ワインの作り方か。流石に何も無しでの技術提供は出来ねぇな。同盟を結んでいるルミナスやシルビア達でさえそれなりの事を要求するか合同開発だし」
「それが普通じゃ。それを『んなもん知らねぇ。とっとと教えろ吸血鬼』と上から目線で。しまいに『臆病者と仲良くするより俺と仲良くしようぜ』などとぬかして。誰が青臭い小僧と仲良くするか」
「……(もはやただの馬鹿だろそいつ……)」
一体何がしたいのやら。ワインの作り方を含めて技術を提供したところで設備が無かったら意味がない。それすらよこせと言いそうな感じだが、そんなことを口にして、アレクや皆の耳に入ったら……ニコニコしながら消しに行きそうだな。
「下心が丸見えじゃあの馬鹿は。力で敵わぬから周りから埋めようと小汚い真似を。そんなものが通じるなら今頃お主らの国は妾の物じゃ」
ワインを飲みながら自信満々で言うルミナス。そこに関しては彼女の言う通りだろう。本気で言っているかは置いておいてだが。
「きっとルミナスの美貌を見て惚れたんだろ。だからルベリオスを落とせば自然と君も手に入るって思っているかもな」
「あの程度の戦力でお主らを落とせんじゃろ。それと妾は死んでもあんな男の物にはならぬ。そもそも人妻に手を出す気が知れん」
「そうだな。きっと新入りもルミナスの側だけを見て中身を見ていないんだよ。大事なのは側より中身。中身を磨けば自然と側も綺麗になって輝いて、色んな人が付いて来てくれる」
「そうじゃの。妾もその1人」
「おっと…」
膝に座ってボトルを開けるルミナス。彼女の右頬に触れると、体温が少し高いのか僅かに熱を感じるが、頬がいい感じに柔らかいのでついフニフニとしてしまい、ルミナスがジト目を向けてくる。
「ごめんルミナス。いい感触だからつい」
「別に構わぬが、このまま襲う気ではないじゃろうな?」
「何でだよ。寧ろ俺が襲われる側だろ」
「こういう風に?」
ルミナスは鋭い歯を見せてから左首筋に甘噛みをし、小悪魔のような笑みを向けてくる。そんな彼女の頭を優しく撫でていると、ルミナスは甘噛みを止めて左胸に右耳を当てて体を預けてくる。
「噛まないのか」
「ん。また後でにする。妾の頭を撫でてくれるのなら、お主の鼓動を聞きたい」
「そうか……」
ルミナスの頭と髪を優しく撫でる。彼女は瞼を閉じて俺の鼓動を聞いている。このまま寝るのでは……と思っていると、ルミナスは小さな声で言った。
「いい音。妾の鼓動も聞くか?」
「大丈夫。君の熱で分かるから。しかし……こうして触れてると本当に神祖の最高傑作なのか疑わしくなってくる」
「珍しいの。そんな事を言うなんて。シルビアから多少は聞いておるじゃろ」
「まぁ……ね。神祖がえげつない奴とはシルビアを含め色んな奴から聞いているが」
神祖・トワイライトバレンタイン。ルミナスはシルビア…ともう1人を生み出し、数多の種族を配合させていたというとんでもない奴。俺がこの世界に来た時点でルミナスに跡形も無く消し飛ばされていたが、この事をある悪魔は『正直精々した』と言っていた所を聞いたので、相当えげつない奴だったのだろう。
中でもルミナスは最高傑作らしいのだが、こうして接していると本当に最高傑作なのか疑わしくなってくる。
「ホムラ……お主の思惑通りにいけば近い内にお茶会が開かれる。既に気付かれた以上はお主は逃げられぬ」
「気付かれたって……。そう言う事か」
朝覗いていた奴は新参者の配下か。お茶会のタイミングが中々良いと思ったがそう言う裏があったのか。裏を取って俺達と全面戦争でもしたいのかね。どう考えても勝てない戦だが、仕掛けてくるなら容赦はしない。
「格好いい所見せてくれる?」
「んー。奴の出方次第だな。名前は?」
「確か…デネブだったかの。種族は知らぬがそれなりの強さじゃの」
それなりの強さか。ルミナスが興味を持たない所を見ると、良い所ソフィぐらいか。彼女は非戦闘員だが力を上げているって話だし。
「それなりなら大丈夫だろう。偉大なる先輩の力を示してみせよう。ついでに格好いい所もね」
「うむ。期待しておるぞ。しかし……」
ルミナスは空になったボトルと自身の頬を触って溜息を付く。そこで俺も気付いたのだが、どうやら姫は話をしている間に酔いが冷めたようだ。当初の目的である話には付き合ったので問題は無いのだが……。
「酔いが覚めてしもうたわ。全く…お主と話すといつもこうじゃ。どうしてくれる?」
「そう言われてもな……軽く運動でもするか?」
「運動……ふむ。それも良いかも知れぬ」
笑みを浮かべて立ち上がり、ある程度距離を取った所で愛刀を抜くルミナス。こちらも立ち上がって正宗を抜く。正宗と夜薔薇の刀。別世界の刀とこの世界最強の一角であろう刀。さて、どっちが強いのだろうか。
「手加減なしだぜルミナス」
「当然じゃ。では…行くぞ」
太刀を構えて向かってくるルミナスを迎え撃つのであった。