異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
「ねぇ…どういう状況なのこれ?何で師匠とルミナスさんが戦ってるのかな?」
「それを聞かれても……」
ランに聞かれて答えることが出来ない私。なんであの兄さんと姉さんが熾烈な戦いをしているなんて分かるわけが無いだろう。出来る事なら私が知りたいぐらいだ。
「でもいい機会じゃない。あの2人が戦う…手合わせなんて珍しいし。多分お茶会のストレス発散じゃないかな?」
「あー…あの新人さんか。あれで魔王の座にいるのはちょっと不思議だけど……」
最近魔王の座に座った新人さん。人を見た眼で判断する人で、姉さんやラミリスさんをかなり見下している。加えて顔を出さない兄さんまで……。それなりに強いならともかく、少なくとも私達より弱い事だけは分かる。一度姉さんの護衛でお茶会に行って見たことがあるけど、あまり驚異的には感じなかった。
「兎に角…ボクは2人の手合わせを見るよ。奪えるものは奪わないと」
「そうだね。姉さんは魔法と剣。兄さんは刀術…あまり見れないから私も勉強させてもらう」
視線を2人に戻す。兄さんと姉さんは互いに譲らない戦いを続けている。一定の距離を出方を疑いながら技や魔法を放っている。特に姉さんの方は兄さんの間合いに絶対に入ろうとしてない徹底ぶりだ。
「うーん。師匠が『焔天之王』を使えないから間合い管理が徹底してるね。近づこうとしたら容赦なく魔法を飛ばしてるし。ちょっとルミナスさんの方が有利かな。月も綺麗だから」
「そっか。今日は満月だし、夜だから『焔天之王』の加護が使えない。そうなると……」
『武神之王』かいまだに見たことがない3つ目。もしくは妖の力だろうか?でも遺跡の試練を突破して血が完全に一つになったって言ってたし。
「ん…どうやら覗き見している奴がいるな」
「ふふ……だからどうした?ふっ!」
「おっと!?」
姉さんの突きを交わしながら斬撃を放つ兄さん。どうやら私達が見ている事に気が付いた様子だが、気にすることなく姉さんと剣を交える。
「凄い読み合いだね。お互いの事を知り尽くしているからかな?最初はルミナスさんの間合い管理が徹底しているだけだと思ってたけど」
「視線。息遣い。体の重心。そして初動から相手がどう動くか読んで、その上相手の読みの裏を突く」
「後は計算かな?ルミナスさん得意だし」
計算…ユニさんもその系統が得意って言ってたかな。魔法の威力や範囲。特定の状況に陥った際に瞬時に最適解を導き出す。そうでもしないと時間停止空間で動けないって言ってたかな。そもそも時間が停止する事なんて起こりえなさそうだけど。
「これはどうじゃ?」
「っ!?」
兄さんの周囲に4つの魔法陣が現れ、強烈な光弾が放たれる。無論兄さんは回避するが魔法陣が後を追尾して逃がさず、姉さんが魔法陣を操作して誘導している。その誘導先は当然姉さんの目の前だ。
「
姉さんの刀から強烈な一撃が放たれる。今まで見た
「や、やば。距離取るよホノカ」
「う、うん!」
急いで距離を取るとほぼ同時に、強烈な気配に襲われ私達は止まってしまう。気配の正体を確認するべく振り返る。気配の正体は兄さんで、漆黒の妖気を纏い、正宗が漆黒に染まり上がっていた。
「魔法陣諸共斬り伏せる!≪黒陽≫」
その場で回転斬りを放ちながら斬撃を放つ。斬撃は魔法陣を侵食して砕き、姉さんの一撃を簡単に弾き飛ばす。これには私も含め驚きを隠せない。特に姉さんは大きく目を見開いていた。
「くぅ…」
「勝負あり…かな?」
そのまま正宗の先を左胸に近づける。姉さんは悔しそうに刀を鞘に納めてゆっくりと地上に降りる。私達も気付かれないように立ち去ろうとしたけど、兄の目から逃れられる筈も無く、私とランは捕まって連行されてしまった。
連行された先では姉さんが岩に座ってとても悔しそうな顔を浮かべている。確かにいい所まで行ったのに巻き返されたら悔しいだろう。
「はぁ…あそこまで準備して一本取れぬとは。改めて≪太陽の騎士≫の脅威が良く分かった。そしてホノカ達が強い訳も」
「私なんてまだまだですよ姉さん。ランだって」
「少なくとも勇者時代のあ奴よりは腕が立つ。あの頃のあ奴は色々と抱えて負ったからの」
(そうか。その頃から……)
その頃から体の異変があったのか。兄さんはあまり話さないし、陛下は『胃に穴が開くから嫌』と言うし、ベルさんは遠くを見ながら『あの時は楽しかったですね』と思い出に浸る。ロイさん達に聞いても同じことしか言わない。
「あの…勇者時代の兄さんってどんな人でした?無口で色んな事に首を突っ込んでましたか?」
「ん?そんなことは無かったの。少なくとも妾の言う事は最低限聞いていたし。旅の道中の事は小僧が度々胃を壊してベルが笑顔でキレていたぐらいかの」
「誰のせいだろう…」
旅を始めた時は陛下と一緒で次に加わったのがエリンさんだったかな。あの人はまだ子供で、王国に預けるまで期間限定だったって聞いている。
「そんなに知りたければ本人に聞けばよかろう」
「聞いても答えてくれません。皆嫌がって話さなくて」
「ふふ……逆を言えば自分達だけの思い出にしたいのじゃろう。気が向けば話してくれる」
「話してくれるかな…」
きっと話してくれないだろうと思っていると、いきなりゲートが開きユニさんが姿を現す。何か問題が発生したのかと心配して聞くと、ユニさんは『暇だから私も来た』と答える。
「仕事は良いのか?月末じゃろう」
「問題ない。来月の計画含めて纏め済み。来月の司会は私だからね。政治事も大丈夫。何か面倒な奴が小国にちょっかいかけてるみたいだけど」
「ちょっかいって……」
思い当たるのは1人しかいない。でもユニさんの目やランの警備体制は完璧だし、内部に関してはシンの自警団があるから簡単にはヤサは作れない。そもそも入国するのに手形がいるから入れないけど。
「どうやって仕掛けて来ますか?」
「んー。色々と考えているけど、戦力が分からないからね。普通ならジワジワ攻めて来るかいきなり頭を取りに来る。その二つでは無いから余計に読みにくい。夜薔薇宮やサリオンにも同じちょっかいがあるなら分かるけど」
「ふむ。その辺りは聞かぬの。加えてサリオンはまだ開国しておらぬし、国交もまだじゃろ。陸路の整備もまだしておらぬし」
「基本は転移で行き来してますからね。物流の経路等は開国してからって話ですし」
サリオンとはシルビア様の国の名前。(と言っても正式名を発表するのは開国してからとか)。私はまだ言った事がないけど、エリンが『とても綺麗で素晴らしい国です』と言っていた。開国記念祭とかも開くって言ってたから私達も日替わりで行けるかもしれない。
「ただでさえ魔獣がまだまだ沢山いて大変なのに、他の勢力からの横槍にも備えないといけないなんて」
「それだけルベリオスが発展している証だね。ソフィやザイファの技術は少しずつ普及させて、一気に発展させないように調整してるけど。これでホムラと陛下にとって
『はぁ…』と小さく溜息を吐くユニさん。この溜息はいい意味での溜息だろう。きっと兄さんに与えられた仕事を含めてやりがいがあるのだろう。それは私も同じだ。
「でも問題があるんだよね」
「問題ですか?」
「そ。ホムラの跡継ぎ。時代の流れに沿って次の世代に託していかないといけない。≪剣星≫の皆や私達は老いぬ肉体を持っているけど、ずっと私達が中心にいる訳に行かない。セーラが継ぐと同時にホムラ達も次に託さないとね」
「それはそうですけど……」
流石にまだまだ早いと思う。せめてあと1000年位は前線で働きたいし。でも兄さんの跡継ぎは少し賛成。あの人は大将だからも後方に控えて貰わないと。
「……ユニよ。さり気無く妾の心を抉らないでくれるか?」
「心って…あ。それはごめん」
ルミナスさんの頭に抱き着くユニさん。その理由は言わない方が良いだろう。でも2人にはエリンが居るし、何より2人が幸せならいいと思う。
「おや?ユニも来たのか?」
「ん。仕事が落ち着いたからね。後報告多数あって」
ユニさんは兄さんの肩に座って小さな声で何かを言う。聞いた兄さんは『はぁ…』とため息をついた。その事を心配したのかランが『戻った方が良いかな?』と尋ねる。
「その必要はないだろ。どこかで俺が正体隠してお茶会に参加して裏を取ればいいだけ」
「堂々行けばいいのに…という訳にもいかないか。あくまでも魔王のお茶会だし」
「そう言う事。まぁルミナスが行くって言うならだけど」
「絶対に行かぬ。行くぐらいならセーラと遊んでいた方が楽しい」
「そうだよな……」
姉さんの隣に座って頭を優しく撫でる兄さん。少しユニさんがムッとするが直ぐに何時もの表情に戻って腕を組む。
「どうするかは置いておいて、例の新入りはあまりいい話は聞かないね。ラミリスも随分荒れてたし」
「そうなのか?先日会ったがそんな事無かったけど」
「そっか…って何でラミリスはここに居たんだろう?それにホムラ達も随分滞在してるね?」
「あぁ。取り合えずランが一歩先に進むまでは。あとミリムが頼みあるって言われて」
「へぇ…」
興味深そうな表情を浮かべながらランの元に向かうユニさん。彼女の肩に座って話し始める。それを見ていた兄さんは姉さんを抱き寄せて嬉しそうに微笑んでいた。
「本当にユニはよくやってくれている。俺の相棒だけではなく光の精霊としての役目まで果たしてくれて」
「勇者を導くのが光の精霊の役目じゃからの。ホノカもたまには相談してみると良い」
「そうですね。あの人の魔法含めて1つ手合わせ願うのもいいかも知れません」
「それが良い。俺もたまには相手してやらんとな。今度一緒に街でも見て周るか。いい気分転換になるだろ」
「ふむデートか。その時は妾も一緒に行かせてもらおう」
とても怖く冷たい笑みを兄さんに向ける。その笑みだけで周囲の空気が凍るわけだが、慣れている私達は大して気にしない。姉さんとユニさんによる兄の取り合い何て何時もの事だから。
「そうだな。その時はルミナスも一緒にーーーん?」
「おや?この気配は…」
「む。まさかーーー」
急接近してくる気配の方を見ると同時に、何かが兄さんに抱き着いて勢いよく吹き飛んでいく。飛んでいった先には兄に抱き着いて何かを言いながらポカポカと胸を叩いているミリムさんの姿があった。
「ワタシに黙って何を話しているのだ!ズルいぞ!」
「痛い!痛いってミリム!」
どうやら私達が話をしているのを見て飛んできた様だ。多分さっきのやり取りも見ていたのだろう。直ぐに飛んでこなかった所を見るとかなり我慢したのが分かる。分かるけど…流石に飛びつくのはマズイと思う。
「おいミリム。誰に抱き着いておるか?」
「ねぇミリム。いきなりそんなことをして許されると思っているのかな?」
そう。姉さんとユニさんが黙っていない。姉さんはミリムさんの首根っこを掴んで兄さんから離し、いつも以上に恐ろしい笑みを浮かべながら顔を近づける。
「お主とホムラが友達なのは構わぬ。いい兄貴分だからの。しかお互い魔王である事には変わらぬ。ちょっとしたじゃれ合いで周囲に大きな被害が出る事も考えんか」
「加えて元に戻すのって民の皆だよね?どれだけ時間が掛かると思う?」
「そ、それは……」
(うわぁ……)
詰め寄られて言い返せないミリムさん。いつも見る自信満々なあの態度もこの2人の前では無力だ。この2人の前で余裕を保てる人物はこの世界にいるのだろうか。
「まぁ2人共、除け者にしていたのは事実だし、多少は大目に見よう。そろそろミリムの頼みを聞かねぇとな」
「む。そう言えば言っておったの。妾がいると都合がいいとも」
「そ、そうなのだ。ホムラとバレンタインにしか頼めないことでな。詳しい話は明日するから時間を作って欲しい」
両手を合わせて頼むミリムさん。何だろう…普段のミリムさんからは想像できない姿だ。それほど重要な事だろうか?
「…了解。明日だな。そうなると修業は休みにしよう。体を休めてくれラン」
「了解師匠。ホノカやアルビオンさんと都で遊んでるよ」
「助かる。んじゃ今日はお開きにするか」
「そうじゃの。今日は付かれたしぐっすり眠れそうじゃ。行くぞホムラ」
兄さんの腕を引っ張っていく姉さん。私達も後を追って竜の都へと戻って行った。