異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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魔法武具

「喰らえ石頭ッ!」

「吹き飛べ脳筋ッ!」

 

 

 シン兄の右ストレートとラン姉の聖剣がぶつかり、凄まじいエネルギーと衝撃波が発生する。それだけで周囲を消し飛ばしそうだが、この修練場はかなり特殊な作りになっているので早々壊れない。もし壊れたら自分たちで修繕しないといけない。なのである程度は抑えないといけないけど……。

 

 

「メルトスラァッッシュ!」

「ライトニンゼロッッ!」

(ここ持つかなぁ……)

 

 

 2人よりこの場所を心配していると、ラン姉が前方広範囲に斬撃を放ち、シン兄は上空に回避。しかしそれを読んでいたラン姉が先回りして聖剣に強烈なエネルギーを集約する。

 

 

「ちょいちょいちょい!?」

 

 

 顔を真っ青にするシン兄だけど、ラン姉はいい笑顔で聖剣を振り下ろしてエネルギーを解放。シン兄は成すすべなくエネルギーに飲み込まれて、凄まじい断末魔を上げる。『えげつな……』と思っていると、まる焦げになったシン兄が姿を現し、その前にラン姉が降り、くるっと回ってから私にVサインを向けてくる。

 

 

「ボクの勝ちぃっ!」

「そうだね……」

 

 

 無邪気な笑顔を浮かべるラン姉。流石にシン兄が心配なので彼の元に向かい頬を突く。帰って来たのは『おのれ石頭……』と、捨て台詞だった。それを言ってからシン兄は気絶したのだが、シン兄は決して弱くない。だって私でも勝てるか分からないし、そもそも武術の師匠だからね。

 

 

「所でアイカはどうしてここにいるの?」

「セーラの得物の試し。そろそろ…っと来た」

 

 

 大きな音と同時に扉が開いて大きな杖を持ったセーラが入ってくる。杖の形状を見て少し嫌な予感がしたのだが、セーラはシン兄を見て血相を変えがら近づく。

 

 

「シ、シン様!?一体何が!?」

「あー放って置いてセーラ。自業自得」

「は、はぁ……(まさか何時もの喧嘩……)」

「その通り。さ、次は私達」

 

 

 修練場の中心に建って愛刀『灰塵』を取り出す。セーラも私の向かいに立って杖を構える。杖の先が花弁のような複雑な機構になっていて、何が仕込んでいるのか分からない。その方が個人的には楽しいけど。

 

 

「では行きますわよアイカ!」

「ん……軽く捻ってあげる」

 

 

 灰塵を抜刀。黒い刀身と紫の刃が姿を現した。対するセーラは魔素を杖に流すと、杖の花弁が淡く光る。その現象を見てソフィ姉とお姉ちゃんが開発している″ある物″を思い出した。

 

 

(魔法武具。および魔法道具だったかな。魔法を使えない人や、魔素の制御が苦手な人に向けた物。あとは家具の類だね)

「同調完了。後は魔法を撃ってみないと」

(絶対セーラには不要だと思うけど……)

 

 

 これも自分の身を護るためか。セーラもおば様に大分鍛えられてるって話だし。加えて吸血鬼と人間のハーフだから、両方の性質がある事を視野に入れないと。

 

 

「準備良さそうだね。ボクが立ち会うから思いっきりやってね」

「了解。遠慮はしないから」

「えぇ。手加減は無しですわ」

 

 

 闘気を練り上げる。それに対応するようにセーラの魔素も上がっていく。それを見て『一筋縄ではいかないか……』と警戒を高めると同時に、ラン姉が手を上げる。

 

 

「始め!」

「っ!先手必勝ですわ!」

 

 

 杖をこちらに向けて正面に魔法陣を展開するセーラ。それとほぼ同時に魔法陣から強烈な光が放たれた。

 

 

「エターナルレイか!」

 

 

 アレはユニ姉の魔法の簡易版。速射に長けている分威力は低い。だからと言って正面から受ける訳には行かないので右に回避したが、それを読んでいたセーラが先回りしていた。

 

 

 

「次はこれよ!」

「風…?」

 

 

 旋風が私の周囲を覆い逃げ場を無くす。ならば『斬り伏せるまで』と刀に闘気を纏わせると、足元に魔法陣が展開され、鎖のような物も現れる。

 

 

「これはーーー」

霊子崩壊(ディスインテグレーション)!」

 

 

 成程うまいな。旋風で逃げ場を無くした上での大技。確実に当てるにはいい手だろう。初見なら(・・・・)防ぐ手段はないし防御に回る余裕が無い。しかし相手が悪かったねセーラ。私は子供の頃からスキルの制御を間違える度に、ママにお仕置き(英才教育)として受けて来たら対処法は分かる!

 

 

「霊子破壊!」

 

 

 刀に霊子を纏って振り下ろして正面から霊子崩壊を壊す。その余波で覆っていた旋風が消し飛び、大きなクレータが出来てしまう。

 

 

「う、嘘…そうして防げるのよ?」

「お仕置き…じゃなくて教育の賜物かな?それより隙だらけ!」

 

 

 セーラとの間合いを一気に詰めながら刀に炎を纏い振り下ろすが、その一撃は結界によって防がれた。

 

 

「!?」

「え……って。忘れてた!」

 

 

 何かを思い出すセーラ。よく見ると杖の花弁の部分が光っており、そこを中心に結界が展開されていた。もしかして…と思い乍らも、もう一度刀を振り下ろして結界を粉砕してから杖を弾き飛ばす。

 

 

「あっ!」

 

 

 杖が飛んでいった先に視界を移すセーラの首に刀を向ける。そこでラン姉の手が上がり、手合わせは私の勝ち。軽くガッツポーズをしていると、セーラはとても悔しそうに『絶対リベンジするから!』と言ってから杖を回収して走り去っていった。

 

 

「どこかで見たような……」

「そうなのラン姉?」

「うん。どこだっけ……?」

 

 

 確かに既視感の様な物は感じるが思い当たることは無い。ただの想い過ごしかもしれないし、気にしないでおこう。

 

 

「さてと、立ち合いありがとうラン姉。帰るよ」

「気を付けてね。それと暫く師匠が休みだから、色々と我儘言って見たら?」

「それは嬉しいな。放課後にでも言って見る。それじゃあね」

 

 

 ラン姉に手を振って去ろうとした時だった。私は扉の前で腕を組んでいる小さな精霊を見て足を止めてしまう。その精霊とはパパの相棒であり、ある魔法の師匠であるユニ姉だ。

 

 

 

「ねぇ…後片付けをしないで何処に行く?」

「あ、後片付けって…?」

 

 

 何故か強烈な悪寒に襲われながら聞く。ユニ姉はニコニコしているが、背後で漂っているどす黒い物を見て物凄く怒っているのが良く分かった。

 

 

「あのクレーター。アイカだよね?きちんと見ていたから」

「あ、アレは仕方なくて…」

「言い訳しない。きちんと埋めて帰るように。終わるまで見てるから」

「……はい」

 

 

 有無を言わせない圧力に負けた私は、クレーターを埋めてユニ姉の確認が済んでから家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「ただいま……あ。良い匂い」

 

 

 玄関の扉を開けるといい匂いが漂ってくる。その匂いの元に向かうとリビングに到着。扉を開けて入ると、リビングでは上機嫌なママが晩食を作っていた。

 

 

「ただいまママ。良い匂いだね」

「ん。お帰りアイカ。今日は和食メインじゃ。煮物とサラダを持って行ってくれぬか?」

「分かった。パパは?暫く休みって聞いたけど」

「パパは書斎で仕事中じゃの。後で呼びに……ん?今なんと?」

「暫く休みだって」

「……」

 

 

 ママが無言になる。この様子は聞いていなかったパターンか。まぁパパは忙しいし言えなくて仕方ないかな…後々大変だろうけど。

 

 

「折角だし2人で過ごしたら?私は空いた時間でいいし」

「そうじゃの。色々溜まっている家事もあるし、農園も片付けねばならん。エリンにも声を掛けるかの」

「そろそろ収穫か。なら明日やろうよ。大根にレタス…キャベツと人参だったかな」

「うん。我が家に残るのは三分の一程度。残りはザイファに品質確認をしてもらった後に売り場に回す」

 

 

 そうなると念入りに準備しないと。蔵にどれだけ入るか見ないといけないし、ザイファ姉にも連絡しないと。収穫した後は次の野菜の種を植える為に整地もしないとね。

 

 

「それと…果物も収穫する。そちらは妾がやるからお主とエリンは大変じゃが大根担当じゃ」

「レタスやキャベツの方が大変な気がするけど…あ。小皿何枚?」

「エリンが居ないから3枚。あと盛り付ける大皿を出しておくれ」

「ん。よっと」

 

 

 脚立に乗って大皿と小皿を出し、大皿をママに渡して小皿をテーブルに。それから大皿に盛られた野菜のサラダと、煮物をテーブルに持って行く。

 

 

「よし。後は……」

「パパを呼んで来てほしい。後はやって置く」

「分かった」

 

 

 マントを畳んで荷物を一緒にソファに置いて書斎に向かう『コンコン』と扉をノックしてから入る。

 

 

「パパ?晩御飯出来たって。後ママが怒ってる」

「そうか……え?ママが怒ってる?」

 

 

 やや驚いた表情を浮かべるパパ。『休みの件』と伝えると、『あー……』と天井を見上げてから立ち上がり、リビングに向かう。私も後を追ってリビングに戻ると、ママが良い顔でパパに詰め寄っていた。

 

 

「色々話があるから朝まで覚悟しておけ」

「……おぅ」

(相変わらずラブラブだなぁ……)

 

 

 私としては夫婦間の仲が良いのはとても嬉しい。噂では最強魔王夫婦とかいう渾名まで付けられているとか。

 

 

(先に座っておこう)

 

 

 先に椅子に座り暫く待っていると、私に気づいたママが話を切り向かいに座る。パパは私の隣に座って、手を合わせて『いただきます』と揃って言ってから食べ始める。

 

 

「ん。この煮物…筑前煮だっけ?美味しい」

「それはよかった。ちと濃いか心配だったが」

「そんなに濃くないけどなぁ…あむ」

「私も大丈夫」

 

 

 それを聞いたママは安堵の息を漏らす。ごく稀にだが、パパの国の料理を再現したとき、滅茶苦茶濃い時がある。数年前に味噌を作った時はえげつなかった。

 

 

「そうだパパ。セーラの杖の事聞いた?」

「んく…あぁ花弁の杖か。ソフィが泣いてたぞ。『要望と我が儘と文句が多すぎるパワハラだ!』って」

「うわぁ……」

 

 

 その光景が目に浮かぶ。パワハラの概念があるかは置いておき、あの人が泣くほどの得物なのか。私の『灰塵』は一月ほどで仕上がっていたけど。

 

 

「五つの花弁それぞれが特殊な機構になっているらしくてな。接続には専用の魔術回路をくんでいるらしい。次世代の魔法武具のベースにするとか」

「そうなんだ。今支給されてるのもかなり高性能だと思うけど」

「色々あるからなぁ……。あ、注ごうかママ?」

「む。珍しいの。妾を酔わせて何をする?」

 

 

 

 露骨に話を切りママにお酌するパパ。きっと私の知らない所で色んな問題があるのだろう。魔物の脅威もそうだし、他の魔王ともうまくやらないといけない。加えてパパの国を狙う存在もあるから。

 

 

「ま。アイカは気にせず青春を謳歌してパパとママに我が儘言いな。『魔王の娘だから』とか気にするな」

「パパの言う通りじゃの。お主は好きなことをすればよい。その上で妾達を助けてくれるのなら、喜んで受け入れよう」

「……うん」

 

 

 あくまでも一人の娘として接してくれる2人。例え血の繋がりがが無くても。それは剣星の兄や姉を背中を見ていれば分かる。本当の妹の様に可愛がってくれたから。

 

 

「じゃあ我儘言っていい?」

「いいぞ。何でも言ってみろ」

「いいんだね。じゃーーー」

 

 

 私は笑みを浮かべながらパパに言った。

 

 

「弟か妹が欲しい」

「んんっ!?」

 

 

 聞いたパパはとても驚いた表情を浮かべて喉を詰まらせる。慌ててお茶を飲んで強引に流し、『ふぅ…』と息を吐く。因みに弟も妹も欲しくない。だってパパとママ取られるから。

 

 

「嘘。冗談」

「洒落になんねぇぞ…なぁルミナス」

「ふふ……パパの頑張り次第かの?」

「こ・ら!」

 

 

 いい笑みを浮かべるママ。ママが反応しなかったのは私が嘘を言ったと分かっていたから。パパは馬鹿正直だから何でも真に受ける。今みたいにね。だから弄りがいがあるんだけど。

 

 

(でも…何時かは本当の我儘言ってみようかな…)

 

 

 胸に秘めているある想い。それをいつか言う日が来ることをパパとママの顔を見ながら祈った。

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