異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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民を守る力

「えっと後は…午後の実技の準備か」

 

 

 昼休み。クラスの代表として仕事をこなしていた。後は午後から行われる実技の準備で、書類を確認すると、『魔術学院で開発された物を使用』と書いてあった。しかしそんな物が何処にあるかは聞いていない。となると、魔術学院側から持ち込まれるのかな?

 

 

「困ったな。授業まであと30分位だし…っと。あれは……」

 

 

 黒いフード付きのロープを纏い見覚えのある制服を着た生徒を見かける。大きな箱を持っていたのも見えたので声をかけてみる。

 

 

「君。もしかて実技で使用する物を持ってきたのかな?」

「あ。そうそう。エリン師匠に頼まれて……あれ?アイカちゃん?」

「ん?この声は……」

 

 

 聞き覚えのある声。まさかと思ってフードの中を覗くと、エルフ独特の耳と蒼い瞳に整った綺麗な顔。あぁ…この子の事はよく知っている。

 

 

「久しぶり。レン」

 

 

 彼女の名前を呼ぶとそよ風が吹いてフードが外れる。エルフの魔法使い…レンはニコッと微笑んだ。

 

 

「ふふ……久しぶりだね。士官学院に入ったとは思わなかった」

「それは私も。お姉ちゃんに弟子入りしているのは知ってたけど魔術学院にいるなんて思ってなかった。持とうか?」

「大丈夫。思ったよりも軽いからね。教官室どこ?」

「案内するよ」

 

 

 雑談をしながら彼女を教官室に案内する。レンは…私よりも一つ上の子。何でもサリオンでお姉ちゃんが魔法をお披露目した時に惹かれて弟子入りしたとか。それも10年位前の話し。

 

 

「レンはどうして魔術学院に?」

「魔法を学ぶには一番いい学院だからね。加えてサリオンの大使も兼任出来るし、一石二鳥」

「それはそうだけど、シルビアおば様にいい様に使われないように」

 

 

 お姉ちゃんみたいに過労死しない事を祈ろう。たまに屋敷に返ったらソファで死んでる所見かけるし。

 

 

「っと。教官室着いたね。中にいると思う」

「ありがとう。昼から楽しみにしてて」

 

 

 笑顔で言ってから教官室に入るレン。それと同時に予鈴が鳴ったのでグラウンドに向かうと、私以外のクラスメイトは集まっていた。

 

 

「遅かったわねアイカ」

「どっかの姫がサボったから」

 

 

 声を掛けてきたセーラにジト目を向け乍ら言い返す。元より今日の仕事担当はセーラなのに、理由を付けて逃げやがった。そのお陰で私が仕事が回ってきたんだ。

 

 

「それはごめんなさいアイカ。お父様から連絡が来て」

「言い訳しない」

「うぅ…」

 

 

 こういう時だけおじ様を利用するのは良くない。というか学校行ってる娘に連絡なんてしないでしょ。私だって全くないのに。

 

 

「全く…後でおば様に言わないと」

「そ、それだけは許して!」

 

 

 涙目で訴えてくるセーラだが、生憎とその訴えは受け入れられない。なに、おば様は厳しい人だからこってり絞られたらいいさ。

 

 

「ほら。教官来たよ。静かにする」

「むぐぐ……」

 

 

 教官とレンがグラウンドに来てセーラも口を黙らせる。さて…今日の実技は一体何をするのだろうか。前回は武具の適正だったけど、レンがいるって事は魔法の類かな。

 

 

 

「みんな揃ってるね。今日の実技は"ある物"のテストをしてもらう。レン」

「はい教官」

(テスト…?)

 

 

 なんのテストだろうと思っていると、レンは持っていた箱を地面に置いて中から一本の魔法瓶を取り出す。中には小さな宝珠と液体が詰まっており、僅かに魔素も感じる。

 

 

「現在魔術学院で研究中の自立防御型のゴーレム。これの耐久テストをして欲しい」

「自立…?」

「防御型…?」

 

 

 レンの言った事がいまいち理解していない皆。確かに士官学院では滅多に聞かない言葉だが、私は聞き覚えがある。パパが以前におじ様と話をしていて、『攻撃ではなく防御に適して自立稼働するゴーレムが欲しいな』と言っていた。それを戦争に使うのではなく、『民を守るためだけに使用』と用途を絞って。

 

 

「まずは起動しないとね」

 

 

 魔法瓶の栓を開けて地面に液体と宝珠を埋めると、地面が隆起して2メートル程のゴーレムが形成された。

 

 

「このゴーレムは防御しかしない。攻撃手段は皆無。だから遠慮なく魔法や剣をぶっ放して構わないよ。何処まで耐久出来るかを知りたいからね」

「そういう訳だから出席番号一番から行こうか。頼むよアイカ」

「え?私結構後ろだけど?」

「下の名前で最初は君」

「理不尽な!?」

 

 

 一種の苛めでは無いだろうか。そう思ってしまったが指名された以上はやるしかない。ゴーレムの前に立ち、愛刀を抜刀して考える。

 

 

(さて…問題は何に対して耐性があるか。民を守るとなれば範囲が広い。そもそも誰を守るか気になるけど…)

 

 

 この場合はレンかな。このゴーレムを作ったのはレンだし、対象を守るという回路を組めば容易い事だろう。なので試しにレンを攻撃したいが抑えよう。あくまでも耐久テストだし。

 

 

「よし…手始めにーーー」

 

 

 刀に焔を纏って振り下ろす。ゴーレムは右腕を上げて容易く止めて見せた。成程、物理と魔素で形成した物への耐性はあるか。

 

 

「となると。こっちはどうかな」

 

 

 一旦下がって今度は刀の先に焔を集約させて刺突。再びゴーレムは右腕で防御するが、今度は防げず刀が貫通する。

 

 

「おぉ!」

「貫通したぞ」

「さっすが!」

 

 

 クラスメイトから驚きと称賛の声が聞こえる。大してレンは顎に手を置いて貫通したゴーレムの右腕を見ている。恐らく今の一撃を見てどれだけの耐久があるのか調べているのだろう。

 

 

「ねぇレン。予備はあるんだよね?」

「ん?もちろんあるから遠慮しなくていいよ」

「りょーかい」

 

 

 刀を縦に構えて霊子を集約。その上から黒紫色の焔を纏って霊子を漏れないようにする。それを見ていた教官は興味深そうな笑みを浮かべ、レンも少し驚いていた。これは以前ママが使っていた技…を私なりに考えて練習した技。幸いにも私のユニークスキルのある権能を使えば何とか出来そうだったから。

 

 

 

「秘技・怨嗟豪炎斬!」

 

 

 

 そのまま刀を振り下ろしてゴーレムを一刀両断。それから黒紫色の焔がゴーレムの断片に纏わりついて炭と変えてしまった。

 

 

「……わぉ」

「え、えげつな……」

 

 

 

 それを見ていたクラスメイトが思いっきり引く。そして教官も苦笑いを浮かべている。私は気にすることなく刀を鞘に納めてからレンの方を向く。

 

 

 

「流石にやりすぎたかな?」

「そんな事無いよ。いいデータが取れた。まぁ…後の子のハードルは高そうだけどね。ベディ教官」

「そうだね…じゃあ次行こうか。下がっていいよアイカ」

「了解」

 

 

 皆の所に戻って実技再開。順番にゴーレムに挑むが、中々上手く倒すことが出来ず苦戦する。それでも皆考えて腕を斬り落としたり足を粉砕したりと善戦する。ただ一人を除いて。

 

 

「クリムゾンランサー」

 

 

 焔で槍を形成して解き放つセーラ。焔の槍はゴーレムの核を貫き、それによってゴーレムの体が崩れて土になる。流石セーラ…だけど上位魔法をレンの前で放つのはよくないかなぁ。

 

 

「これでどうでしょう?」

「うん。見事だね。魔法の選択肢もいい」

「ありがとうございます教官」

(甘くない…?)

 

 

 まぁ今に始まった事では無いからいいか。ともあれ最後であるセーラが終わった訳で。いつもなら後は自由時間だが、今日はそれ以外に何かある気がする。近々行われるイベント等の話しも無いし。

 

 

「さて…今日の実技はここまでだが、1つ大事な話がある。来週行われる校外学習だが、我々のクラスはサリオンに決まった」

「っ…(サリオンって……)」

 

 

 シルビアおば様が治めている国。他のクラスは属国って聞いているけど、何で私達はサリオンなのだろう?理由はいくつか考えられるが、一番はセーラの外交の勉強だろうか。

 

 

「当日は現地集合だ。私が決めたルートを通って来て欲しい。帰りは転移陣で帰れるから心配しないで」

「え?現地集合ですか?」

「ま、魔物とかいっぱいいるのに?」

「怖いよな……」

 

 

 確かに皆の言う通りだろう。ルベリオスから一歩出れば外は魔物の巣窟。故に数多の人がルベリオスに流れ込んでくる。安定した生活と平和を求めて。

 

 

「それに関しては、指定してルートで来てくれたら問題ない。ルベリオス周辺とルート周辺の厄介な魔獣はラン達が倒してくれてるからね。加えて当日は、中継点に遊撃隊のメンバーと空からきちんと見てくれている人も居るから大丈夫」

 

 

 と教官は言った。成程、事前に準備はしてあるって事か。まぁそうじゃないと誰か死んだら大変だからね。

 

 

「というわけだから解散。当日はあまり無茶をせずゆっくり来てね」

 

 

 教官が手を叩いて実技の授業は終わり。クラスの皆が教室に戻っていく。私も戻ろうとしたけど、後ろからレンに手を握られる。

 

 

「レン?」

「ちょっといい?放課後にベルさん達の喫茶店に来て欲しい。相談があって」

「勿論いいよ。放課後だね」

「うん。忙しいと思うけどお願い。また後で」

 

 

 駆け足でレン。彼女の顔が少し深刻そうだったのを見ると、かなり厄介そうな内容みたいだ。

 

 

(……なにかあったのかな?)

 

 

 少し心配しながら教室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 放課後。レンとの約束通りベル姉達の喫茶店の前まで来ていた。レンは……気配が感じ取れないのでまだ来ていないのだろう。なので外のテラスで待とうしていた時だった。

 

 

「あれ?珍しいねアイカ」

「おや?ウインディ?」

 

 

 声をかけてきたのはウインディ。エンブ先生やパール姉の妹だ。この人がお店に居るなんて珍しい。隙あらばサボる人だから。

 

 

「珍しいねウインディ」

「物資の運搬。今月は限定メニュー多いからね。アイカは?」

「私はレンから相談あるって言われて」

「あの子から?もしかしてあの件かな?」

 

 

 心当たりがあるウインディ。となるとパパ達の耳にも入っているね。なのに私に相談してくると言うことは、優先順位は低いけど急ぎの内容か。

 

 

「気長に待ってるよ。ベル姉居るみたいだし声かけとく」

「厄介事だったらすぐに言ってね。それじゃ!」

 

 

 手を振ってから去っていくウインディ。見送ってからベル姉に一言言って外のテラス席で気長に待ってると、駆け足でレンが来る。

 

 

「ごめんアイカちゃん。ちょっと片付けに時間かかっちゃって」

「大丈夫。のんびりするのも好きだから」

「ありがとう。えと、何か頼んでくるから待ってて」

「ん。気長に待ってる」

 

 

 レンはお店の中へと入っていき、私はのんびり待っていると、コーヒーが淹れられたマグカップを持ってきて私の前に置き、レンは向かいに座った。

 

 

「それで頼みだけど…ホムラ先生とルミナス様に渡して欲しい物があって」

「渡したい物?直接渡したらいいじゃない」

「その…物が…ね?」

 

 

 瞼を閉じるレン。そんなに怪しい物…を私に託さないで欲しい。というか持ち込まないで欲しい。もし爆発でもしたら大騒ぎだから。

 

 

「で。渡して欲しいのが、エルメシア様の誕生日パーティーの招待状」

「パーティーの招待状!?何でそんな危ない物……え?招待状?」

「そう。これ」

 

 

 カバンの中から2通の封筒を出す。私はとても恐ろしい物だと思っていた。それにしても招待状か。確かエルメシアの誕生日って……。

 

 

「待って。校外学習の次の日?」

「その通り。もっと早く出さないといけないのに、シルビア様がギリギリに渡して来て。ホムラ先生に渡さないわけにもいかないし、でもいきなり渡すと予定を合わせるのが大変でしょ?」

「大丈夫だと思う。暫く暇らしいしね。パパとママに渡しとくよ」

「ありがとう。その…当日はお願いね。後気を付けて」

 

 

 

 封筒を懐にしまい、少し雑談してから屋敷へと帰った。

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