異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
「ふわぁ……眠たいな……」
強烈な睡魔と戦いながら制服に着替える。今日は校外学習の日なので朝は早い。二日酔い…という訳では無いので頭が痛いとかはない。セーラが大丈夫か物凄く気になるけど、おば様が目を光らさせていたから大丈夫よ信じよう。
「よし。あとは刀を装備して……エルメシアとお姉ちゃんを起こさないと」
ベットで抱き合って爆睡している2人。とてもいい寝顔なので放置しておきたいが、朝からアレクおじ様と大切な会談があるのでそうはいかない。
私は2人の頬を思いっきり引っ張っ叩いて夢の世界から呼び覚ます。それからお水と軽めの朝食を用意していることを伝えた。
「んじゃ私行くから。時間遅れないようにね」
「うい。ありがとアイカ」
「助かるわ…頑張ってね」
「ん。じゃあ行ってきます」
2人に手を振って部屋を出る。少し急いで集合場所に向かうと、既にクラスメイトほぼ全員が揃っていた。欠員無しに安堵していると、後ろからベティ教官に頭を撫でられる。
「お疲れ様だねアイカ。昨日色々あったとミナトから聞いている」
「本当だよ。ベティ姉…じゃなくて教官」
「ふふ。でも無事に来てくれて良かった。さぁ学習内容を説明するから聞いている様に」
「了解」
どうやら昨日の事はミナト兄から聞いている様子。となると朝から対応に追われていたのかな?ソフィ姉も居るし剣星が3人いるからある程度は決めれるわけだし。
「さて。学習の内容だけど、皆には最低4人以上でグループを作り、サリオンの技術などに触れて欲しい。それらを元にレポートを書くこと。制限時間は夕刻とする。さぁ行ってらっしゃい」
手を叩く教官。それを合図に皆はグループを組んで行き各所に散っていく。さて…私は誰と組もうか。折角だし普段話さない相手がいいけど……。
「チビ助発見」
「っ!?」
背後からヌッと手が伸びてきて私の頭を鷲掴みにする。視線を向けた先には、私よりすっと大きい異世界人のクラスメイトが居た。
「なんだぼっちかチビ助。可哀そうに」
「ぶった斬るよシド」
彼の名前はシド。何でもルベリオス一の技師を目指しているとか。まぁソフィ姉とお姉ちゃんが居るからその夢は叶いそうにないけどね。
「手を離してよのっぽ。本当に斬るよ」
「おーおー。怖いドラゴンだなぁ。お前もそう思うだろセシリア?」
彼が見た方向には1人の黒髪のショートカットの女の子がやれやれと言った素振りで見ていた。彼女はセシリア。少し神秘的な女の子で幽霊とかオカルトとかが好きな女の子だ。
「安易に女の子の頭を触る君が悪いですよ。流石の私でも殴るかな」
「おぅ…怖い女しかいねぇな……」
私の頭から手を離すシド。しかしこの2人が残っているのは幸運かもしれない。出来ればあまり話をしない人が良かったけど、仲いいこの2人と回っても楽しいかも知れない。
「ではアイカ。私達と回りましょう」
「それは良いけど後一人は……もしかして」
恐る恐る周囲を見渡していると、半泣きのセーラが歩いてくる。よく見るとこの場には既に私達しかおらず、どうやらセーラは皆に振られてしまったようだ。まぁ仕方ないよね。
「アイカ…その……」
「いいよセーラ。一緒の行こうか」
「ありがとう。ではルートを決めましょうか皆さま」
地図を広げてどのルートで回るか相談。まずは個人で行きたい所を言い合ってそれを元にルートを決める。
「魔導科学から回って…」
「ホムンクルスの技術を見て…」
「共同で開発し研究している魔法道具の製造過程の見学と実技だな。というか魔導科学行けるかな俺。めっちゃ心配だわ」
「それはそうですね。メチャクチャ難しいですし」
シルビアおば様が提唱している魔導科学。正直私も全然理解が出来ない。魔法で何処まで出来るかって事しか。なんならユニ姉とお姉ちゃんの古代魔法の研究と復元の方がまだ理解出来る。
「それじゃあ周ろうか。セーラもそれで……セーラ?」
「……うぅ」
「「「!?」」」
ゆっくりと倒れるセーラ。彼女の背後には黒いロープを纏った1人のエルフが居て、倒れるセーラを抱きかかえる。
「ダメじゃないかアイカ・ホノガミ。大切な姫から目を離したら」
「っう!」
瞬時に地を蹴ってエルフと間合いを詰める。そのままの勢いで居合斬りを放つが、エルフは笑みを浮かべながら後ろに飛びつつ転移で姿を消した。
「消えた!?今のって!」
「転移術か!でも何で姫さんを!?」
驚く2人を他所に、私は強烈な怒りが込み上がってくるけど、頭はとても冷静だった。頭を何度か振ってから自身の頬を叩いて心を落ち着かせる。
「取り合えず…セーラを探そう。攫ったのはエルフだから何処かに居るはず」
「何処かって、どうやって探すんだ?サリオンは広いぞ」
「そうですよ。いくら何でも無理があるよ」
2人の言う通りだ。この広いサリオンからセーラと攫ったエルフを見つけるのは難しいだろう。でも、だから諦める理由にはならない。何としてもセーラを探し出す。
「ねぇ2人共。助っ人頼もうか。あまり手は借りたくないけど」
「それって教官ですか?」
「いや…お姉ちゃん」
「……成程な。でもいいのか?」
「ん。緊急事態だからね」
思念伝達でお姉ちゃんに伝えると、お姉ちゃんは直ぐに来てくれたので私は事情を説明。事情を聞いたお姉ちゃんは小さく息を吐きながら言った。
「それってシルビア様が言っていたお父さんをよく思っていない人達の仕業かも。詳しい事は知らないけどね」
「おば様知ってて放置してるの?」
「それは無いよ。多分その事も含めての会談だと思う。この事は私とお父さんで―――」
「パパはダメ!」
大きな声で思わず言ってしまってお姉ちゃん達は驚いてしまう。慌てて手で口を抑えようとすると、お姉ちゃんが優しく私の頬に手を添えてくる。
「そうだね。お父さんには頼りたくないよね。よし。私達で何とかしよう。君達もいいかな?」
「は、はい!というか教官に伝えなくてもいいんですか?」
「一応伝えて置いた方が良いよな絶対に」
「それは大丈夫だね。後ろ」
「「え……?」」
お姉ちゃんが指を指した方向には、腕を組み仁王立ちし、凄まじい怒気を纏ったベティ姿があった。その怒気にシドとセシリアは圧倒されるが、ベティ教官は小さく息を吐いてから怒気を抑える。
「話は聞いた。教官としては止めないといけないけど、油断していた私も悪い。サリオンでセーラが誘拐されるとは思ってなかった。だから…私も同行する。生徒の身を護るのは教官の務めだ。出来る限り穏便に済ませよう。絶対にホムラ先生には気付かれないように」
「そうだね。お父さんには気付かれないようにしないと。もし知ったらどうなるか」
「想像したくないね。2人共油断しないように」
「お、おぅ任せとけ(うわぁ…教官と協会長も一緒かよぅ……)」
「わ、分かりましたっ!(し、死んでもヘマで出来ませんね……)」
よし。そうと決まれば即座に行動開始だ。まずはセーラが攫われた時の状況把握から。当時の事を教官に話し、その間にお姉ちゃんが周囲を魔法で調べる。
「状況は分かった。しかし何故姫だろうね。先生が気に食わないならアイカを狙うはずだけど」
「取引の材料としてじゃない?セーラの方が駒として大きいし」
「後は捕獲のしやすさか……どうエリン?何か分かりそう?」
「うん。逃走経路は分かったかな。それ!」
杖で地面を小突くと足跡が浮かぶ。てっきり転移したと思っていたけど、どうやら転移に見せかけて逃げたようだ。となるとあのエルフはかなりのやり手だね。
「足跡が浮かび上がったんだか?どういう魔法だよ…。というか転移で逃げたんじゃねぇのか」
「魔法に魔法を重ねて誤魔化した…って所ですね。転移の魔法を詠唱すると見せかけて本当は透明化の魔法だった…で合ってますか?」
「正解だねセシリア。よく勉強してるじゃない。出来ればその時に気付いて欲しいけど」
「まぁ状況が状況だから仕方ないだろう。ともあれこの足跡を辿っていこうか。でもその前に……」
腰の件に手を置く教官。それと同時に四方から複数の炎弾が私達に襲ってきた。私達は対応しようとするが、お姉ちゃんが瞬時に炎玉を凍らせてから、ベティ姉の刀身が伸び、鞭の様に扱って破壊する。
「す、すげぇ……」
「…!エリン!」
「分かってるさ!」
4時の方向に杖を向けるお姉ちゃん。その方向には黒いロープを纏ったエルフが慌てて逃げる所だった。当然逃がす訳も無く、お姉ちゃんが拘束しようとするが、それより早く私達の背後から、強烈な光が通り過ぎエルフの背中に直撃し壁に叩きつける。
少し唖然としながら振りかえると、背後にはなんとも素敵な笑みを浮かべたレンが居た。
「これでよかったですか師匠?」
「……まぁ生きてるから良し。確保してくれる?」
「了解しました」
お姉ちゃんに言われた通りにエルフを拘束。話しを聞こうにも気絶しているので、見えないように魔法で視覚阻害して放置することに。
「所で何があったのですか?他の皆様は楽しく行動されていますが」
「ちょっと色々あってね。お姉ちゃん。レンにも協力してもらおうよ」
「そうだね。実は……」
レンに一通り事情を説明すると途中強烈な殺気を纏ってシド達をビビらせる。普段怒らない人ほど怒ると怖いのはこの事かと痛感してしまった。
「事情は分かりました。向かった先は…ホムンクルスの研究施設。場所は2か所ですので手分けしましょう」
「2か所もあるのかよ。なら編成きちんと考えねぇと」
「なら私達3人とレンとお姉ちゃん達でお願い」
「それは危なくないですかアイカ?もしもの事を考えると、教官か協会長のどちらかとパーティーを組んだ方が良いかと」
「だからこそだよセシリア。これぐらい私達だけで乗り越えないと。良いよね教官?」
念のために教官に確認を取ると、一回お姉ちゃんと目を合わせてから視線を戻して小さく頷く。レンはととても心配していたが、ベティ教官が何も言わずに彼女の肩に手を置いて納得させた。
「じゃあ始めるよ。危険だと思ったら逃げるように」
「油断しないようにね。本当にヤバかったら逃げて良いから」
「王家直属の方はいないと思いますが、相手はかなりの使い手ですので気を付けて下さい」
「お、おぅ…急に自身無くなったんだが…」
「ぷ、プレッシャーがきつい……」
「大丈夫。そうやって大げさに言ってるだけだから。行こう」
痕跡を頼りに進みだす私達。この時の私達はまだ知らない。今回の件が私達が考えているより厄介な事になる事に。