異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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悩み事

「……はぁ。何か楽しめないぁ」

 

 

 小さくため息を吐いてしまう。

 今はセーラの誕生日パーティーの真っただ中だ。

 昨日あんな事があったのにも関わらず、まるでなかったかのような盛り上がりだ。

 

 昨日の事を知っているのは一部の人間のみ。

 幻獣を討伐した私達とパパ達だけで、セーラが誘拐されたことを知っているのはそれこそごく一部の人間だけだ。

 ミナト兄達は聞いているみたいだけど、シルビアおば様の部下は誰一人知らないらしい。

 レンも出来る限り話さないようにと口止めされているとか。

 

 

「何であんな事したんだろう…?」

 

 

 セーラを攫った理由はまだ分かっていない。

 あのエルフの口が思ったよりも硬くてなかなか喋らないらしい。

 ママのえげつない精神攻撃も耐えているとか。

 だけどパパは裏にいる奴が分かっているらしく、『最終判断はシルヴィに任せる』とパパは言っていた。

 

 

「どうしたアイカ?」

「あ…ママ。ちょっと考え事」

 

 

 とても綺麗な漆黒のドレスをも身に纏っているママ。

 お酒を片手に少しだけ頬が赤い。

 わざと毒耐性を弱らせて飲んでいる。

 その理由は…あまり考えないでおこう。

 

 

「今日は無礼講だから飲んでよいぞ」

「飲まないよ。セーラは飲んでいるみたいだけど、私はあまり」

「そうか。では何を悩んでいる?」

「うぅ…」

 

 

 流石ママ。

 痛いところを聞いてくる。

 どうしよう…素直に話した方がいいのかな。

 何でもママたちに相談すればいいとは限らないし……。

 

 

「ふむ…昨日の件を引きずっておるな。大方もっと強ければ…と」

「何で分かるのママ……」

「ふふ……そういうところはパパそっくりじゃからの。よし、ちと妾に任せておけ」

 

 

 ママはそういってからお姉ちゃんの所に向かう。

 何を任せておけかよく分からないけど、ここはママに甘えておこう。

 

 

「人…おおいな。見覚えのある人もいるし」

 

 

 高貴な服を纏った人が多い。

 見覚えのある人もいるし、見たことのない人もいる。 

 多分、政治ぐるみなのだろう。

 今のうちにサリオンやルベリオスと関係を紡いで置きたいと考えている人が多いはず。 

 そして…おじさまを狙う人もいる。

 だからかパパがずっとおじさまの近くで気を巡らせていた。

 

 

(凄いな…あれだけ強烈なのに、ごく一部の人間以外には気づかれていない)

 

 

 

 卓越した妖気の制御。 

 気づいている人物はかなり冷や汗を流している。

 その人をミナト兄達が見つけると外に連行していた。

 外で何をしているかは詮索しないでおこう。

 

 

「あ。ここにいたのアイカ。一人?」

「うん。一人だよソフィ姉。考え事」

「そっかぁ…一人で悩んだらダメだよ。ホムラさんみたいに誰にも相談せず一人で片づけたりとかしたら怒るからね」

「う、うん……(怒られたことあるんだパパ……)」

 

 

 多分ユニ姉かベル姉かな。

 あの二人はパパに厳しいところは厳しいし、甘いところは甘く、上手に飴と鞭を使い分けている。

 付き合いが長いからかな。

 

 

「その、パパって結構怒られてる?」

「うーん…時々かな。最近は少し暴れて怒られてたっけ。相手が相手だからそこまでだったけど」

「暴れたか……」

 

 

 あのパパが暴れているところは最後にいつ見たっけ?

 そもそも修行以外で戦っているところはあまり見たことがない。

 暴れているとなると、私が生まれて一度もないんじゃないのかな。

 

 

「誰相手に暴れたんだろ?」

「あんまり聞かない方がいいよ。ルミナスさんの機嫌が悪くなるし」

「そんな人いるんだ……」

 

 

 本当に誰なんだろうか?

 温厚なママが不機嫌になるなんて、滅多にない事だし。

 

 

「アイカ。ここにいたか」

「あ…パパ。どうかした?」

「さっきママに頼まれごとしてな。ちょっと来い。ソフィは警護を」

「はい!任されました!」

 

 

 おじ様の護衛に向かうソフィ姉を見送ってから、私はパパの後を付いていく。

 向かった先は、先日ティアマトと戦った場所だった。

 

 

「ここは…何で来たの?」

「調べ物があるのと、後処理だな。向こうだ」

 

 

 部屋の奥に向かったパパは、壁を何回か叩いたのち、右ストレートで壁を破壊した。

 その様子を唖然と見ていたら、壁を破壊した先に道があった。

 ということは、壁を叩いて空洞のある場所を探していたのかな。

 

 

「行くぞ。この奥にセーラが捕らえられた場所がある」

「この奥に…分かった」

 

 

 警戒しながら道を進むと、大きな部屋にたどり着く。

 部屋の奥には祭壇と十字架があり、周囲の壁には見たことのない魔方陣が描かれている。 

 だけど、魔方陣には魔力が流れていない。

 すでに、効果はなくなっているようだ。

 

 

「この部屋にセーラは捕らえられていたの?」

「あぁ。十字架は吸血鬼に対して、マイナスな力が発揮する。銀の銃弾とかもそうだな」

「銃…弾?」

 

 

 パパの故郷の話かな?

 少なくとも、十字架が吸血鬼にマイナスな力を発揮するとか、銀の銃弾とか知らないから。

 

 

「だが、セーラはハーフだったからあまり効果はなく、アレクから引き継いだ『断罪者』の効果で相殺したようだ」

「たしかルールとか、あらゆる状況を自分に対して平等にするだっけ?」

「そうだ。ルールを決めて、それを破った場合にデメリットが発生する。そのデメリットはルール次第だが」

「へぇ……」

 

 

 少なくとも、私はそのスキルを使っているところを見たことがない。

 パパは勇者時代に見たことがあるかも知れないけど。

 

 

「ルールによって範囲も変わるが…アレクはあまり使わなかったな。国を興してからは、同盟国と対等な関係を結ぶ為に使っていたか。大体は『虚偽』や『下心』。加えて『我欲』が混じったら、容赦なく断罪される」

「どんな感じに?」

「まぁ…度合いによるが、体調が悪くなるだけで済めばいいな。最悪死ぬ」

「えぇ…死ぬの」

 

 

 なんと恐ろしいスキルだろうか。

 でも、流石に相手ばかりではなく、自分にも影響がありそう。

 そうじゃないと釣り合いが取れないから。

 

 

「あくまでもアレクが求めるのは平等だ。だから、スキルによって顕現する天秤は、常に一定だ。どちらにも傾かないように注意を払っている」

「成程。ならセーラも気を付けているのかな」

「多分な。天秤は俺達に見えないし、かなり気を付けているはずだ。アレクみたいにどことなく伝えてくれたらいいんだが」

 

 

 そっか、だからおじさまは、会談の時に必ずパパやユニさんを含め、色んな人を連れてるのか。

 天秤の傾きが良くないと、合図を送って助言を求める。

 そうすることで、状況を共有し、考える力を身に付ける。

 あれ?でも七賢者の人達はいないような。

 

 

「ねぇ。おじさま直轄の七賢者は?」

「アレは国の内部のみだ。外は俺と剣星で対処する。王とその直轄は民のために。俺達は国の外からの脅威から民と国を守る。ま、時々言い争いはあるけどね。世代ごとによって考え方が違うし」

「確か、おじさまの指名だっけ。任期が最大10年で、頻繁に変わるよね」

「だが、いい功績を残した場合は継続だ。最大で30年ぐらいだな。(表向きにはだけど)」

 

 

 30年か…。

 人間の寿命を考えると、大体70歳ぐらいかな。

 …ちょっと待って。そうなるとおじさまやパパってめっちゃ長生きだよね。

 剣星の皆も人間なのに長生きだし……。

 

 

「強さの秘密は長生き?」

「とは限らんな。得た力を上手に使わないと」

「…そうだね。私の2つのユニークスキルを、もっと知らないと」

 

 

 魂を束縛して使役する『冥界者』と、パパに名付けされた影響で会得した『烈日者』。

 後者は扱えるけど、前者は本当に難しい。

 束縛した魂の技を会得出来るし、使い魔として使役も出来るから便利だけど、捕まえた奴が強いということを聞かない。

 

 

「そうだアイカ。夏季休暇に旅でもしてきたらいい。3か月もあれば、それなりの所に行ける」

「旅か…」

 

 

 パパも、おじ様やベル姉たちと10年近く旅をしていたっけ。

 おじ様はそこで外交の腕を磨いて……あ、ちょっと待って。

 これって利用出来るかも。

 

 

「セーラを連れて行くのもあり?」

「おぅ…何か企んでるな。まぁいいが…護衛は必要だな」

「ん。自分で声をかけるよ。それで…調査はどう?」

「大丈夫。あとは持ち帰って調べるだけだ」

 

 

 小さな瓶を見せてくる。

 中には煙のようなものが入っていたり、回路のようなものが入っている。

 アレをユニ姉に渡して解析を頼むのだろう。

 

 

「よし。戻ってミナトを助けるか」

「何で?」

「戻ったら分かる」

 

 

 いい笑みを浮かべたパパと一緒に戻ると、会場では音楽が流れていた。

 その音楽に合わせて、色んな男女がペアを組んで踊っている。

 そんな中で私は、ニコニコ微笑んでいるエルメシアと、顔が真っ青なミナト兄がペアを組んで踊っているのが視界に映った。

 

 

「色々と大変だからね。こういう場で踊るのは。そういうわけだから、あいつを助けるついでに踊ろうか」

「え?でも―――きゃっ!」

 

 

 パパは私の手を掴み、エルメシア達の近くまで引っ張って行く。

 そして、音楽のいいところで私の腰に手を置いた。

 

 

「一応ママから教わってるな?」

「う、うん。でも下手だよ?」

「大丈夫。俺も最初は下手で、おっさんや師匠(・・)に怒られたから」

「そう。じゃあ頑張る(って…師匠?)」

「じゃあ頑張って」

 

 

 気になることを言ったパパだけど、踊りの方が大変で、考える余裕がない。

 師匠に関してはまた今度聞こう。

 

 

「良いところでミナトとと変わる。それまでよろしく」

「うん。よろしく」

 

 

 ミナト兄と変わるまで、パパとダンスを続けるのであった。

 

 

 

 

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