異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
エルメシアの誕生日パーティーから数日経った。
あのようなことがあったのにも関わらず、アイカとセーラは仲良く学校に通っている。
だが…内部はそうはいかず、朝からアレクに呼ばれ、会議室にてサリオンでの一軒を七賢者の一人である『緋色』殿に問い詰められていた。
「魔王フレアよ。サリオンでの一件はどうお考えか?あなたが付いていながら姫が誘拐されるなど。あってはならぬこと」
「まぁ…生きてるし良かったんじゃない?」
「っぅ!」
バンっと机を叩いて立ちあがる緋色。
今の回答はまずいと思っているが、セーラの身に関してアイカに任せているし、アレクにもあまり甘やかすなって言われてるしな。
「何が『良かった』だ!一歩間違えばお命が失われる可能性があったのだぞ!なのにどうしてサリオン側に賠償を求めない!『知らなかった』では済まされないのだぞ」
「そういわれても…狙いは俺…というか魔王だし。シルビアも、最大限の警護はしてくれてたぞ。レンだって待機していたし」
「だったら尚の事!早く犯人を見つけて始末しなければならない!他の魔王は何をしている!」
「他の魔王ねぇ……」
何かしら動いているのなら、情報が入ってくる。
だけど、皆立場があるから簡単にはいかない。
それに、今は俺が狙いみたいだし、大きく動くにもアレクの意見が必要だ。
というか…さっきからサリオンの件でやたら攻めてくるな。
他のみんなは何も言わないのに。
「まさかとは思わぬが、此度の一件は、あなたが仕組んだことなのか?」
「……あん?」
思わぬ発言に、普段出ないような言葉が出てしまう。
頭に座っていたユニも、米神に青筋を立てるが、ぐっと我慢している。
流石の俺も、今のは聞き捨てならず、言い返そうとしたら、一番右端に座っていた『白銀』が口を開く。
「緋色殿。証拠はお有りですか?魔王フレアが事を仕組んだ証拠が」
「いいえ。あくまでも可能性として申し上げたまで。私も彼が仕組んだとは思っておりませぬ。しかし…近頃は職務を怠けている傾向にある。部下に任せ、時間が余っている様子なので」
それは俺に言わないで欲しい。
剣星の皆が俺の仕事奪っていくんだもん。
だから、職務を怠けているわけではないし、空いた時間で修業しているだけだし。
「はっ。別に時間があるのはいい事だろ。剣星の皆が、大将の時間を作ってんだ」
「っ…蒼の……」
ヘアバンドを額に身に付けた青年…七賢者で一番若い彼が言った。
そういえば彼は、元はミナトの所に居た人物か。
その隣にいる『灰』の青年もそうだっけ。
『黄金』は頭がキレる男だし、『黒』は宰相も兼ねている外交のエキスパート。
『紫紺』は昔、外交先でアレクとド派手な喧嘩をした相手……。
そう思うと、結構な怪物ぞろいだよな。
「
「
「そういうことだ坊ちゃん。素直に言っときな」
「
黒と紫紺に背中を押された緋色は、握りこぶしを作り、やや体を震わせながら言った。
「ギィを…あの赤い悪魔をぶっ飛ばしてきてもいいですか先生っ!」
「や、やめとけ。ヴェルザードに氷像アートにされるぞ!」
「国と陛下のためなら氷像になっても構いません!」
「ダメだから!若い芽を摘むわけにいかんから絶対に行くな!」
今にも飛び出しそうな緋色。
ちなみに、七賢者の中では一番若く、いまだ席が確定していない上に、先代がやらかした件で組織改革に努めている。
そのため、めっちゃ忙しいし、その上で今回の件があったので、かなり荒れている。
そうじゃなければ、演技なんてするものか。
「落ち着きなさい緋色。他の魔王に関しては他言無用です」
「ですが
「そうだぜ。落ち着きな坊っちゃん」
「誰が坊っちゃんですか!?」
「はは……」
これは収拾がつきそうな居ないな。
こういう時はユニに任せたいが、いつの間にか膝に座って魔導書を読んでいる。
仕方ねぇ、アレクが止めるまでユニと話でもするか。
「なぁユニ。頼んでいた件はどうなった?」
「セーラを捕らえられていた十字架と魔法陣?アレに関しては特に重要な情報は無かったかな。だから廃棄処分した」
「そっか。特に無しか……」
ユニの究極能力で調べても特になかったということは、今までの幻獣や、飼育場に使われていたものと同じということになる。
「でも、アイカは良くやったよ。あの幻獣はかなり手強かった。属性特化ってものそうだけど、ウインディ抜きで良く倒せたね」
「ウインディ……って。そういうことか。ならこれから、アイツらと同じ属性も出てくるってか」
「そうなるね。属性を封じるには、同じ属性か相反する属性をぶつけるしかない。風は大地……あれ?」
首をかしげるユニ。
何か引っ掛かる様な感じの様子で、魔導書を閉じ、腕を組んで考え始めた。
こういう時のユニは、邪魔をしない方がいいので、一旦アレク達の方に顔を戻すと、いつの間にか話が終わっていて、七賢者は皆退室し、アレクが暇そうにしていた。
「終わって暇そうだな」
「んなわけあるか。疲れたよ」
大きく体を伸ばすアレク。
近頃は宮殿に籠りっきりで、自分の時間を作れていないようだ。
だけど、マリンさんとよく一緒にはいるので、そろそろ二人目か!と俺たちの中でも噂があるが、その気配は全くと言っていいほどない。
「そっちこそどうなんだ?アルビオンがそろそろだろ」
「確か今日からミナトと一緒に付いてくれる予定だな。ローテーション通りなら」
「いや、そっちじゃなくてアレだよ。また国が氷付けになるのは避けたいぞ」
「あぁそっち。帰って聞いてみるよ。時期によって違うから大変だ」
アルビオンのアレとは、少々言いづらい事で、以前放置し(そもそも俺が知らなかった)、その結果として、アルビオンの溜まったものが爆発。
季節外れの大寒波にルベリオスが襲われる事態に発展し、一晩で凍りついてしまった。
それ以来、溜め込む前に伝えるように約束を交わしている。
「あれは大変だったね。まさかアルビオンにあの時期があるとは思ってなかった。他の皆にはないのに」
「俺も知らなかったし、アルビオンも言わなかったからお互い様だ。アレの対処も仕方ないし、皆も何も言わないだろ?ルミナスだって」
「たまに混じってるよねあの吸血鬼。というか、たまには私達にも譲りなよ」
「こらこら。だからローテーション組んだだろ。それに、ユニは相棒だから、いつでも来たらいいさ」
彼女の頭を撫でるが、ユニは頬をぷくっと膨らませている。
言いたいことも分かるが、魔王フレアに関しては、基本的に皆平等に接しないといけない。
そこが難しいからこそ、一ヶ月毎にローテーションを組んで交代交代で平等に、俺の側に支えると決めている。
これには、ミナト達のある計画が裏にあるのだが、それを抜きにしても、良いやり方だとは思っている。
「それとホムラ。剣星の数字を増やすらしいな」
「あぁ。今は7人だが、あと4人増やす。候補を選別して、試験を実施いないとな」
「確か、一人いたよな。マゴイチだっけ?」
「
去年学院を首席で卒業した異世界人。
小柄だが、彼女の銃の腕前は、俺達の知る中で一番だろう。
加えて剣術もかなりのもので、俺やホノカが継いでいる剣技と一致している部分が多い。
そのことを以前に聞いた時、彼女は『元は一緒で、途中で分岐したのでは?』と言っていた。
ともあれ、彼女の実力は織り込み済み、アイカとも仲がいいし、遊ばせておくのは申しわけないと思っている。
「あと3人か。国も大きくなってきたし、役割を増やしていくには良い頃か」
「あぁ。セーラへの引継ぎも少しずつしていかないといけない。学院を卒業するまでに、アイカもセーラもある程度の知識を得て、多くの仲間を見つけてもらわないと」
「成程…夏季休暇を利用しての旅は、そういうことか」
「そう。あとは護衛だが……」
待てよ、この旅は色々と利用出来そうだな。
ルミナスには小言を言われそうだが、娘と国のためだ。
何が何でも納得してもらう。
「よし…帰るか。何かやっておく事あるか陛下?」
「無いな。暇なときに相手してくれたらしい。運動不足になると、色々大変だからな」
「体力尽きて愛想つかされるかもな」
「うるせぇな。おめえらとは違うんだよ!」
「はいはい。んじゃまたな。2人目期待しているぞ」
「余計なお世話だ!」
いつもの様な馬鹿なやり取りをしてから会議室を出て、宮殿内にある剣星の本部に顔を出し、書類作業をしているホノカに声をかけた後に屋敷に戻る。
屋敷に入ると、黒い髪に赤い分厚いマントで全身を覆った少女が姿を現す。
そう、彼女がマゴイチで、今は屋敷に勤めている。
「お帰りなさいフレア王。ミナトとアルは書斎でお仕事中。ルミナス様はアイカと遊んでいる」
「ありがとう。それとマゴイチ。あとでミナト達と一緒に部屋に来るように。話がある」
「了解。では一時間後に伺う」
マゴイチは頭を下げて屋敷の奥に向かう。
その後に、ルミナス達がいる場所に向かうと、そこでは、ルミナスとアイカが得物をもって手合わせをしている最中だった。
しかし、二人の様子を見ると、アイカの方はかなり苦戦しているようだ。
服はボロボロだし、肩で息をしているが、対してルミナスは、余裕の笑みを浮かべていた。
「はぁ…はぁ…まだまだっ!」
刀に霊子を纏い、その上から黒紫色の炎を纏う。
あの技は、以前ルミナスが見せた技と同じだが、少しだけ違う。
込めた霊子は兎も角、炎の制度があまりよろしくない。
もう少し上手に調整しないと、霊子が溢れて周りに大きな被害が出る可能性がある。
「ちょっと危ないけど、ものにしたらアイカのいい武器になる」
「あぁ。問題もあるが、ルミナスを信じよう。どうやって受け止めるか」
ルミナスがどう対処するか見ていると、彼女は俺の顔を見た後、愛刀に手をかざし、魔王覇気を込める。
それを見たアイカが思わず怯んでしまい、その一瞬をルミナスが見逃すわけもなく、アイカとの間合いを一気に詰め、刀の柄で鳩尾を突き、アイカはゆっくりと倒れる。
「ふぅ…もう少し覇気の耐性をつけねばな」
「そうだな。お疲れルミナス」
「うむ。お主らもご苦労じゃ。で…今月はあの二人か」
少し不機嫌になるルミナスだが、まぁまぁと言って機嫌を損ねないようにするが、頭に座っていたユニが、ニヤッと口角を吊り上げたのを見て、ルミナスから冷たい殺気があふれ出てくる。
「何か言いたそうじゃのユニ」
「別に。ルミナスも大変だなって思ってさ。魔王フレアが皆の物と言っても、ある程度線引きして欲しいものね?でも、配下に問題があった場合は、主がきちんと相手をしてあげないと。嫌なら混じったらいいじゃない」
「ちょ、ちょいユニさん?あまり焚きつけたら―――」
「ホムラ」
「っ!どうした?」
冷たいルミナスの声。
非常に嫌な予感がしていると、彼女はユニに手を向けていた。
その意味にユニが分からないわけではなく、ユニはゆっくりと上空に移動。
あとをルミナスが追いかけ、屋敷の上空にて、二人の盛大な戦いが始まった。
「あー……またか。仕方ない。結界を張って戻るか」
被害が出ないように結界を張ってから屋敷の自室に戻ると、約束通りにミナト達が待っていた。
椅子に座って一息つき、アルビオンが淹れてくれた紅茶を飲んでから、会議の話とアイカ達の旅の件について話すと、マゴイチが興味深そうな顔を浮かべながら口を開く。
「その旅に私も同行したい。魔王フレアは知ってるけど、勇者フレアは知らないから」
「勇者って…あ。そういうことですか」
「成程。先生のやり残しを片付けさせるのですね」
「うん。ちょうどいい機会だし、国内はほぼ片付いている。あの時よりも環境も整っているから、国外のやり残しを片付けてもらう」
勇者時代に残した厄介事は多い。
魔物の封印や、古の時代の遺跡。
国内は国の平定のために片したが、国外は一つも手を付けていないので、この際にアイカやセーラに片付けてもらおう。
「異論はあるか?剣星の統括者であり俺の一番弟子」
「……」
ミナトに問いかけると、彼は何も言わずに頷いて部屋から退出する。
処理に関しては彼に任せておこう。
俺達が辿った軌跡に関しては、ミナト達に話してあるから、上手にやってくれると思う。
多少の遊びは交えるかも知れないが。
「じゃあ私も行く。ソフィに愛銃の調整頼んでるから」
「了解だ。準備は進めるように」
一礼してからマゴイチも退出し、部屋には俺とアルビオンだけになったわけだが…どうしようか。
上空の戦闘は終わりそうにないし、晩御飯の当番でもないから、やることがないし。
「ホムラさん。実は書類仕事がありまして。月末の締め日が近いので、処理をお願いします。自警団と遊撃団の経費や、支出と収入の確認。今月の生産進捗など色々と」
「……おぅ」
どん!と、大量の書類が目の前に積まれ、思わずドン引きしてしまう。
あれ…つい先日に大量の書類を片付けた記憶があるのだが…おかしいぞ?
「お願いしましたよホムラさん」
「頑張ります」
頬を叩いてから、書類を片付け始めるのであった。