異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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秘密の部屋での密会

 次元のひずみの一件から早くも一か月。

 期末テストまであと一週間となり、私もテストに向けて勉強中である。

 因みにパパはまだ帰ってきていない。

 定期的におじ様とベル姉に連絡はしてあるみたいだけど、ママには何もない。

 ので…現在我が家は色々と大変な状況である。

 本当にどこに行ったのだろう?

 

 

「ねぇアイカ。今日は何処で勉強する?」

「ん―――今日は家においでよセーラ。来てくれた方がママの機嫌もよくなる」

「機嫌って…でもいいわ。たまにはお邪魔したいし」

「決まりだね。じゃあ行こうか」

 

 

 荷物を纏めて学院を出て帰宅の道に付く。

 途中で喫茶店によって勉強のお供を買い、待っている間に店番をしていたパール姉とウインディにパパの事を聞くけど、二人も知らされていないらしい。

 

 

「どこに行ったんだろうね?長期間国を離れるときは誰かに伝えているはずだけど」

「もしかすると、陛下はご存じかも知れませんね」

「あー。陛下なら知ってるかも。というか絶対知ってるでしょ」

「だとしても、一か月も姿を見せないのは心配ですね。一体どこにいるのでしょうか」

 

 

 パール姉の言う通り、本当にどこにいるのだろうか。

 そろそろ帰ってきてくれないとママが爆発しそうで怖い。

 

 

「おじさまはどちらにいらっしゃるのでしょうか?ひずみの件のお礼もしていませんし」

「…直ぐに帰ってくるよ」

 

 

 本当に早く帰ってきてほしいと願っていると、シン兄が頼んでいたお菓子を持ってきたので受け取る。

 ほのかに甘い香りが漂ってきてとても美味しいそうだ。

 

 

「はいお金。またねシン兄」

「ではまた宮殿で」

「おうさ。またなアイカに姫」

「それじゃーね」

「期末テスト頑張ってください」

 

 

 三人に手を振ってから屋敷向かうと、門の前で立っている少年姿のパパがいた。

 一か月振りにパパを見て駆け足で向かって声をかけると、私達に気付いたパパがこちらを向く。 

 

 

「お帰りパパ。どこに行ってたの?」

「ただいま。行っていたのは…秘密。ママは?」

「会って見たら分かる」

「っとと…ちょっと怖いな。会うのはもう少し後にしよう。それとこれお土産」

 

 

 持っていた紙袋から小さな黒い箱を取り出して渡してくる。

 この箱は誰から貰ったのか聞くと、耳元で『御師様』と呟いた。

 その言葉でパパがどこに行っていたのか分かり、行先を誰にも伝えていない理由も分かる。

 けど…やっぱりママには伝えておいた方がいいと思う。

 パパのためにもね。

 

 

「中身を確認しておいてほしい。あと話もあるから夜あけておいて欲しい」

「了解。勉強に支障が出ない範囲でお願い」

「分かってる。では姫。ごゆっくり」

「はい。おじ様も仕事ばかりなさらぬようお願いします。あと、次元のひずみの対処ありがとうございました」

「いえいえ。この国を守護する魔王として当たり前の事。それでは」

 

 

 セーラにお辞儀してから宮殿に向かっていくパパ。 

 その背中を見送ってから屋敷に入り、セーラを私の部屋に行くように伝えてからママのいるリビングに向かう。

 リビングではママが、少し寂しそうな雰囲気で魔導書を読んでいる。

 そんなママの前に立つと、ママが私に気付き、とても笑顔になった。

 

 

「ただいまママ。今からセーラとお勉強」

「テストが来週だったかの。良い成績を残すように。ところで…その黒い箱は?」

「ん。さっきパパから貰った箱」

「…何?帰ってきたのか?」

 

 

 ピシッと空気がとても凍り付き、冷たいオーラがリビングを満たす。

 まだ爆発していないだけマシかもしれないが、この空気は中々慣れない。

 全部パパが悪い…より、パパがいないときにママの相手をする人がいないのが問題なのかもしれない。

 

 

「パパなら宮殿。おじ様の所」

「そうか。では行ってくるとしよう。その箱の事も聞いておかねばな」

「そ、そう。じゃあ晩御飯作って待ってるね。行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 

 ママは指を鳴らし、私服から黒いドレス姿に変わる。

 その後に門を作って宮殿へと転移していった。

 私はパパの無事を祈りつつティーセットを持って部屋に戻り、セーラとテストの勉強を始める。

 

 

「アイカはどのあたりが不安?」

「質の悪い応用」

「それは皆不安かしら。ちなみに私は戦術よ。後衛だから前衛の動かし方が難しいわ」

「そうかな?視野を広げたら大丈夫そうだけど。それにテスト範囲は戦術の名称だから、動かし方は大丈夫」

 

 

 なので戦術は特に問題ない。 

 一番問題なのは魔導学の解読と構築。 

 質の悪い問題が来ると、解読は出来ても構築は出来なくて、大幅減点の可能性がある。

 流石に入試の時みたいにあえげつない問題は出ないと思うけど。

 

 

「ひとまず、魔導学から片付けよう。担当教官の過去問を元にお互い問題を出し合って」

「分かったわ。頑張るわよ」

 

 

 お互いに気合を入れて、テスト勉強を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

―宮殿のとある場所・ホムラSide―

 

 

 

「入るぞー」

 

 

 扉をノックしてから中に入る。

 この部屋は俺とアレクとベルが三人で会う時に使用する部屋で、俺達以外は誰も知らない部屋。

 たとえ知られても特殊なカギが必要なので入ることは不可能だ。

 そんな部屋の中では、アレクが私服姿でお酒を飲みつつ日記を書いている最中であった。

 

 

「ただいま。何もなかったか?」

「おぅ何もなかったぜ。そっちは…大変そうだったな」

「あぁ…色々と話を付けて来た。前座っていいか?」

「勿論だ。話を聞かせてくれ」

 

 

 彼の前に座り、机の上に置いてあるお酒を注いでまずは一口飲む。

 その間にアレクは日記を書き終えて、机の引き出しにしまった。

 

 

「で…元気だったかあの人?」

「うん。半年前に遭った時と変わらず。アイカの事とか国の事を話すと楽しそうだった」

「そっか…。あの件は?上手く付けれたんだろ?」

「……色々とお互いに条件を付けたが」

 

 

 その時の話を軽く説明する。

 話を聞いたアレクは、額に指を当てて少し複雑そうな顔を浮かべたが、すぐにいつもと変わらない顔に戻る。

 しかし、俺の眼に映る彼の顔は、何かを言いたそうにしていた。

 

 

「小言なら聞くぞ」

「いいさ。もう決めたことなんだろう?ルミナスの説得以外なら手伝うさ」

「………」

 

 

 ルミナスの名前が出たと同時に、俺はアレクから目を逸らしてしまう。

 それを見ていたアレクは不思議そうに首をかしげるが、彼は逸らした理由に直ぐに気付き、少しだけ声を震わせながら言った。

 

 

「おい…お前まさかあの人の事をルミナスに話していないのか?」

「………」

「……マジ…かよ」

 

 

 

 アレクは頭を抱えて大きく溜め息を吐く。

 きっと彼の中では、あの人の事をルミナスに話しているのだろうと思っていたのだろう。

 しかし現実は違う。

 あの人の事はルミナスには全く話していない。

 というか話すと真面目に殺される可能性があるから怖くて話せない。

 

 

「だって…怖いじゃん。話すの。初恋というか…まぁ当時はそんな感情なかったからノーカンだと思うけどさ。今思うと…あの時の俺は完全にあの人に夢中だったし」

「まぁ…あの時のお前は諸々欠けてたからな。愛情とか、そんなの全く知らなかったし」

「そうだよ。だから…あの人には感謝してる。だからこそあの人を解放してあげたい。あの森に封印されているアイツを倒せば、あの人は森から出れる」

「でもよ…一度きりって約束だろ。それに…あの人だって怖いんだよ。お前がまたあんな目に遭うのが」

「……それは」

 

 

 ズキっと背中に痛みが走り、あの時の事を思い出す。

 最後の試練で挑んだアイツ。

 御師様が昔にアレクの親父と一緒に戦って何とか封印した古の魔人。

 俺達はそんな化け物に挑んで…惨敗した。

 その時の傷は、いまだに背中に残っている。

 多分、二度と消えることは無いだろう。

 

 

「気持ちは分かる、でも師匠の命は絶対だろ。だから定期的にお茶会行って楽しいお話をしている。それだけであの人は救われてるぞ」

「だけど…約束がある。あの森から連れ出して、たくさん思い出作るって」

「お前……」

「だから…多少ズルはする。その上で最後に決めるのはあの人」

 

 

 最後に決めるのはあの人。

 俺に決定権がない以上、アイカに賭けるしかない。

 それでだめだったら…その時は諦めよう。

 出来れば諦めたくないのだが。

 

 

「ダメだったら諦める。今のように定期的にお茶会を開いてお話をする間柄で納まるよ。あの人も俺にあまり興味ないだろうし」

「……え?そんなことないだろ。興味なかったら家に招いたり、たまには顔を出してほしいって言ったり、駄々こねたりしないだろ」

「そうかな?」

「そうだよ」

 

 

 うーん…俺から見た感じは、もう興味ないって感じだけど、アレクから見たら違うのだろうか?

 あの人は感情をあまり表に出さないから、何を考えているか分からないことが多い。

 修業時代は時おり表情が変わっていたので何となく分かったが、今は殆ど変わらない。

 まるでお人形のようだ。

 昔の俺みたいに。

 

 

「ともあれ…やれることはやるさ。どのみちアレを放置するわけにはいかないから」

「それは同意だ。下手したら国土の三分の一は吹き飛ぶからな」

「あぁ…そうならないようにしないといけない。3度目は怖いからな」

「……そういえば恐ろしいこと言ってたなあの人。確か……」

 

 

 

―嘘…あの時よりけた違いに強い?何で―――。

 

 

 

「だっけ。あの人が珍しく狼狽えて隙が出来て。んで―――」

 

 

 

―危ない御師様―――!

 

 

 

「で、俺が御師様をかばって瀕死の重傷だ。今思えば、あの傷で生きていたのは半妖のおかげなんだろうな。今はどこぞの竜のせいで完全な妖だけど」

「まぁまぁそれは置いておき。結構怖いよな。あの異界の魔人。洒落にならないぐらい強いし」

「そこ…何だよな。でもなんとかなるだろ。御師様の所に預ける前に、みっちり鍛える。一週間ほど修練場借りるから」

「おぅ。好きに使いな(って。ホムラがお嬢に稽古つけるって珍しいな)」

「助かる。それじゃあ戻るよ。アイカに時間作るように言ってるから」

 

 

 時間が来たので手を振ってから部屋に出ると、扉の真横の壁にもたれているルミナスの姿があった。

 とても複雑そうな顔で、部屋から出て来た俺の顔を見てくる。

 顔を見る限り、中での会話は全部聞かれていたのだろう。

 

 

「ルミナス…その―――」

「最初から…気になっていた」

「……」

 

 

 言葉を遮るように、ルミナスは言った。

 彼女の気になる事…思い当たることはいくつもある。

 そのことを俺の口から言ってもいいが、ここは待つことにしよう。

 

 

「見たことのない魔法陣。術式の刻印とそれを用いた詠唱破棄。王国の錬金術とは違う錬金術。魔素を加工して形を作る。他にも突っ込みたい所はあるが、これらを誰から教わったか」

「……」

「はぁ…よくよく考えれば、ルドラに師がいたように、お主に師が居てもおかしくない。加えて、かたくなに立ち入り禁止にしている森もあった。何で今まで気づかなかったのか」

「……」

 

 

 それは、気付かれないように俺が立ち回っていた。

 なんて言えるわけもなく、俺は彼女の視線と言葉に耐え続けると、ルミナスは小さくため息を吐き、いつもと変わらない表情に戻る。

 

 

「で…いつか会わせてくれるのか?」

「……怒らないのか?」

「何で怒らないといけない?隠しごとの一つや二つで怒るような女ではないし、弟子が師に特別な感情を抱くのはよくあることじゃろ」

「よくあるのか」

「お主な……」

 

 

 突っ込みたそうな顔を浮かべるルミナス。

 よくあると言われても、身内でそんなことは見かけないので、実感が湧かない。 

 知らないところではあるのかもしれないが。

 

 

「それはいいとして、その師は家に連れてくるのか?」

「……家族会議しましょう。修羅場はごめんだ」

「修羅場って……なぜそうなる?なんじゃ?見知らぬ女をお主が連れてきて妾が暴れるとでも?」

「そういうドラマがあるってミナトから聞いたから」

「……は?」

 

 

 お主何を言ってるんじゃ?

 と言わんばかりの顔を浮かべている。

 俺もドラマってのはよく分らんが、そういったドロドロな奴があるらしいし、実際にそういった案件で神社に来る人も多い。

 ので、修羅場になる前に家族会議をすべきだと思っていたが、この世界ではその必要はないのだろうか?

 

 

「昔は兎も角、近代では既婚者が愛人とかそういうのを迎えると色々と問題あるというか、遺産とか面倒くさいことになるというか。黙っていて修羅場になって離婚して慰謝料をを払うことになったりとか。色々と大変なんだよ」

「……」

「実際その手の相談で神社に来ることもあったし……って。どうしたルミナス?」

 

 

 物凄く呆れたような表情を浮かべているルミナス。

 別にズレたことは言っていないし、実際にそういう場面見てるし。

 俺もその気は全くないし、経験談を話しているだけなのだが……。

 

 

「色々と突っ込みたいとこが出てきたが、まずは一つ」

「はい」

「この世界で一夫多妻は至極当たり前じゃ。種族によればそうでもしないと種が存続出来ない時もある。あと、お主の師を家に迎え入れるぐらいで文句を言うやつがいるか?妾としては良い話し相手になるし、妾よりお主にガツンと言ってくれるじゃろ。むしろいい事の方が多いのでは?」

「………」

 

 

 有無を言わさない良い笑顔でルミナスは言った。

 これはアレか、色々と不満とかため込んでいて言わずに黙っているのか。

 そんなに不満をため込むようなことは……ないとは言い切れないか。

 

 

「というか、妾だってお主の仲間に手を出しているしの」

「おいおい…それは初耳なんだが…。女同士だからいいのか」

「こほん…そういう訳じゃから、お主の好きにすればよい。くれぐれも無茶だけはしないように」

「了解。じゃあエリンやアイカに話に行こう。箱の事も話さないとな」

「うん。では帰るぞ」

 

 

 差し出されたルミナスの右手を握り、わが家へと帰るのであった。

 

 

 

 

 

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