異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です   作:八葉と黒神の剣聖

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修行の開始

―やっと…終わった……。

 

 

 地獄の様なテスト期間がようやく終わり、机に伏っしてしまう。

 三日間あったテスト期間で、最終日が一番地獄だった。

 よりにもよって面倒な教科三つ全て最終日に来るなんてありえないだろう。

 一日目と二日目は余裕だったので怪しいと思っていたけど、まさか魔導学と錬金学に論文という最悪な組み合わせがくるとか誰が予想出来ただろうか?

 スパルタ教育に慣れてるとはいえ、かなり精神的に来たので三日程しんどかったのは別の話である。

 

 ともあれ、地獄のテスト期間が終わり、結果も学年二位と好成績(ちなみに一位はセーラ)だったので長めの夏休みを獲得に成功し、旅の日程も決まった。

 しかし、その前にパパからの頼み事があると言われたので、私は姉たちと修行に使っている修練場へと足を運んでいた。

 

 

「で…頼みって何?」

「あぁ…その前に箱は開けたか?」

「開けてないよ。パパがいるときに開けようと思ったから」

「そうか。なら開けよう。話はそれからだ」

「ん。分かった」

 

 

 黒い箱を取り出して開封すると、中には淡く光る鉱石が付いた首飾りが入っていた。

 この首飾りの事を聞くと、パパは胸ポケットから色違いの鉱石が付いた首飾りを出す。

 

 

「立ち入り禁止の森は知っているか?」

「うん。絶対に入るなって言ってたよね?」

「そうだ。その森には御師様と、あの人が封じたある存在がある。アイカには御師様の所で修業して、封じた存在を倒してほしい。その為にはあの人のアトリエに行かないといけないのだが……」

 

 

 少し難しそうな顔を浮かべるパパ。

 こういう顔を浮かべるときは、たいてい普通の方法では行けないパターンが多い。 

 となると、この渡された首飾りがカギとなっていると予想する。

 大方、首飾りがないと森に入れないとか、入ったとしても首飾りがないとアトリエにたどり着けないとか。 

 そういうパターンだろう。

 

 

「首飾りがないといけないんだね?」

「そう。森の中は特殊な結界が張られてるから、それがないと絶対にたどり着けない。当日は俺も行くから心配しなくていいが…あの人に師事する前に、ある程度抑えておかないといけないことがある」

「前使ったパパの魔法……魔素を加工したり、形作る奴?」

「そう。俺が教わったのは放出と加工に収束と固定。魔法陣を用いた詠唱破棄と重ね掛け。後は…錬金術だな。器とか武器とか。他にも色々な基礎は教わったな。だが一番世話になったのは……」

 

 

 そこで言葉を止めるパパ。

 少し黙って、難しい顔を浮かべて、苦笑いを浮かべて、最後にため息を吐いてから言った。

 

 

「人との付き合い方だな。アレクにも世話になったが、あの人にもかなり叩き込まれた。座学とか地獄だったからな。何度呆れた顔を向けられて小言を言われたか」

「……(全然想像できないんだけど……)」

 

 

 

 今のパパでは想像できない光景だし、イメージも湧かない。

 というかそんなパパを見てみたい。

 ママ以外の女性にぶちぶち言われるなんて珍しいから。

 

 

「というわけだから、ある程度鍛えてから御師様の所に行ってもらいたい。どうだ?」

「行く、というか会って見たい。パパの黒歴史知れるから」

「……そういうところはママに似たんだな」

 

 

 いい性格だよと言いたそうなパパだが、子は親に似る物なので、ママに似るのは当たり前の事と思うし、何よりパパの貴重な勇者時代を知れるのはとても嬉しい。

 

 

「ま、行ってくれるのはとても嬉しい。期間は一か月で、俺が一年掛かった修行をこなしてもらう。そのために修業だ。ビシバシ行くぞ」

「うん。宜しくお願いします」

 

 

 深く頭を下げた後、修練場の中心に移動すると、パパは黒い革の手袋を嵌めて構える。

 刀を抜く気配がないところを見ると、まずは拳で確かめるのかな?

 あるいは、この間見た魔弾が主体になるのか?

 分からない以上まずは様子見だ。

 

 刀を抜き、パパの出方を伺ったところでふと思った。

 そういえば私、パパと修行したことがあったっけ?と。

 今思えばこうやって向き合うのは初めてな気がする。

 

 

「じゃ、早速…っといけない。まずは日程を言っておかないと」

 

 

 思い出したかのように、パパは構えを解いてパチンと指を鳴らし、右側に見たことのない魔法陣を構築する。

 日程と魔法陣が関係するのか?と思っていると、パパは魔法陣を指さししながら説明を始めた。

 

 

「まずは初めに、最初の三日は御師様から教わった魔法と格闘術を加えたバトルメイジスタイルで戦う。その次の二日は応用を見せて最後の二日は武器を使用する。アイカは覚えるのではなく、御師様はこういった魔法を使ってくるんだと、覚えてくれたらいい」

「えっと覚えるだけ?習得は?」

「それは座学で教わってくれ。この魔法陣とかは構築理論から学ばないと使えない。重ね掛けとか冗談抜きで難しいから」

「重ね…掛け?」

 

 

 何か恐ろしい言葉が聞こえたような気がしたが、聞かなかったことにしよう。

 ひとまず、私はパパと拳を交えて体感し、事前予習をしろということだ。

 

 

「了解。じゃあまずは準備運動?」

「そうだな。少しずつペースを上げていくから、思いっきりこい」

 

 

 魔法陣を消失させ、再び構えるパパ。

 私も手袋を嵌めた後、大きく深呼吸して構えてパパと視線を合わせる。

 パパの目はいつになく真剣で、姉や兄達と修行しているときと同じぐらいで正直怖い。

 これに殺意が加われば…考えるのも恐ろしい。 

 

 

(落ち着け…あくまでも模擬戦。思いっきり全力をぶつければいい)

 

 

 自分に言い聞かせ、軽く息を吐いてから一歩踏み出す。

 一気に間合いを詰めて、右手に力を込める。

 パパは動かず、右手を前に出して防御の体勢だ。

 ならば、遠慮なく打ち込む!

 

 

「てりゃぁっ!」

「っ―――」

 

 

 突き出した拳は、パパにあっけなく受け止められると同時に、体が180度回転した。

 これは合気と呼ばれる技で、相手の力を利用して体勢を崩すという物。

 完璧に決まれば受け身はほぼ不可能で、私はこのまま地面に背中からド派手に落下―――と思いきや、何故かパパは拳を突き出す体勢に入っていた。

 

 

「まずは…放出から!」

「ちょ―――」

 

 

 強烈な右拳が腹部に向けて放たれる。

 咄嗟に空いていた左腕を間に割って入れ、一撃を防ごうとしたが、拳が左腕に接触した瞬間、『ズドン』と強烈な衝撃が伝わり、体は紙のように吹き飛ばされ、壁に全身を強打する。

 

 

「う…ぐぅ……」

 

 

 全身に激痛が走り、立ち上がることはおろか、息をするのがやっとだ。

 時間をかけてゆっくりと息を整え、体の痛みに堪えながら、壁に手を置いてゆっくりと立ち上がってから聞いた。

 

 

「何…今の?」

「ん?普通に殴った。魔力強化に放出を加えて。この間見せただろ?」

「この間…?」

 

 

 この間と言われ、思い当たったのはひずみを吹き飛ばしたあの魔弾。

 だけど、さっきのは魔弾には全く見えず、ただの右ストレート。

 あんなふざけた技とは似ても似つかない。

 

 

「ま…魔弾に比べたらまだマシだ。原理は至って簡単だし」

「簡単で…あの威力?それはおかしいでしょ?どう考えても―――うっ」

「っと!」

 

 

 体がふらついて倒れそうになるが、ギリギリのところでパパが受け止めてくれる。

 自分が思っているよりもダメージがひどいみたいで、いったん休憩しようとパパが言った。

 私としても、こんな状態で修業なんてできるわけもなく、パパの提案を受け入れ少し休憩することに。

 それにしても、準備運動はおろか、一発KOなんて情けない。

 

 

「はぁ…一発KOか。情けないね」

「そんなことないぞ。俺も御師様に一撃でやられるのは日常茶飯事だし、毎日気絶していたからな」

「そんな姿は想像できないけど、主に鍛錬で?」

「………」

 

 

 気絶するなら鍛錬かな?と思って聞いたら、パパはなぜか遠い方を見て露骨に視線を逸らし、あはは…と髪を掻きながら笑った。

 

 こんなパパを見るのはとても珍しいと感じた私。 

 ママはおろか、私達の前でも見せたことがあっただろうか。

 

 

「いや…その何というか。殆どがやっちゃいけないことをやってお仕置きなんだけど」

「……はい?」

 

 

 聞き間違いかと思って聞きなすが、パパは同じことを言ったので、決して聞き間違いではなさそうだ。

 あのパパが約束破ってお仕置きって、昔のパパはどれだけ悪い子だったのだか、大変興味が湧いてきた。

 

 

「まぁでも。全部親父達が悪いんだよ。神社に隔離してろくに外に出さず、人との接触を禁止するから。神社が山奥ってのもあるけど、今思えばあんな生活したら認識ズレまくるし、周りに合わせられないし、常識が通用しない人間になるよ」

「何があったの……?」

「話せば長い。知りたかったらホノカに……」

 

 

 とおば様の名前を出した所で『あいつはダメだ。話がややこしくなる』とため息を吐きながら言った。

 そこは私も同意、どうもパパの事になると暴走することが度々。

 以前なんてママとお酒飲んで泣いてたし。

 

 

「ともあれ…常識が通じない人間だったから、御師様とアレクにはかなーり迷惑かけたのさ。まずは人との付き合い方と話し方。だから座学は地獄だった。俺の知る座学と全く違うからね」

「例えば?」

 

 

 その例えを聞くと、パパはうーんと考えながら、『一番いいのはアレか』と、いい例えがあったようで、人差し指を立てながら言った。

 

 

「そうだな…ユニの授業で分からないことが出た場合。アイカは直ぐに聞くだろう?」

「うん」

「でも俺は聞かない。聞くことが恥で、分かるまで自分で考えろって教えられた。なので、御師様の座学でも同じ事してキレられた」

「………」

 

 

 成程、すなわち昔のパパは至極当たり前の事が全くできない人間だったようだ。

 普通に考えて、分からないことはきちんと聞いて教わって理解する物。

 逆に理解するのが難しい場合は、教える側の人間は上手に分かりやすくかみ砕いて説明する。

 それが、教える人と教わる人の関係。 

 私もママやユニ姉には耳が痛くなるほど言われている。

 分からないことあれば直ぐに言えと。

 

 

「その時のことは覚えてるよ。あの人が呆れた目で『あなた馬鹿なの?分からないことがあれば聞くのが普通でしょう?』って。んで、次から座学の時に10秒以上黙って止まった時点で、頭に高密度の魔力の塊が落ちるようになってね」

 

 

 『あぁ…あれはとても痛かった』と、今でもトラウマなのか、顔を少し青ざめながら言った。

 それを聞いた私は、パパの二の舞にならないと誓い、分からないことがあればすぐに聞こうと決める。

 

 

「他には……まぁ見ちゃいけない物見たり…?」

「何で疑問形?後何で照れてるの?」

「……御師様に聞いたらいいさ」

 

 

 プイっとそっぽを向いて言い、体を大きく伸ばして立ち上がる。

 どうやら休憩は終わりの様だ。

 私も立ち上がり、体の痛みが無いのを確認してから拳を握って合図を送る。

 

 

「んじゃ、今度はアイカがどこまでついて来れるか、確かめながら行くぞ」

「うん。気を取り直して全力で行くから」

 

 

 軽く引きを吐いてから、パパとの修行を再開するのであった。

 

 

 

 

  

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