異世界から呼ばれて魔王に進化した勇者です 作:八葉と黒神の剣聖
ギィとミリムの決戦はすさまじかった。2人の力がぶつかる度に、凄まじい衝撃波とエネルギーが甚大な被害をもたらす。俺は途中でラミリスと別れ、出来る限り被害を抑えるべく先回りし、巨人族が住まうダマルガニアに来ていた。
「ダグリュール!いるか!」
「フレアか!一体これは何だ!?」
「説明は後だ。ギィとミリムがこちらに来ている。急いで民のみんなを避難させろ。あの2人の戦いに巻き込まれたくなかったらな!それと最悪の事態には備えておけよ」
それだけを言い残し西側の国に状況を知らせて周る。ギィとミリムは少しずつこっちに近づいて来ているが間に合うだろうか。
「何でこっちに来るんだよ。恨みでもあるのか?いや、土地の広さかも知れないが」
今はそんな事を考えるより飛び回る方が大事だ。あとは王国のみ。あの2人の位置を確認しつつ出来る限り早く行こう。
「見えてきた。急いでーーーはっ!」
背後から強い魔素の反応。振り返った先には、さっき見たより強烈なミリムの一撃が迫って来ていた。恐らく流れ弾だろう。俺は咄嗟に避けてしまい、ミリムの一撃が山を穿ち王国に直撃。大きなきのこ雲が立ち上る。
「あ……あぁ……」
何で……何で俺は今避けた。受け止めるのは無理でも逸らすことは出来ただろう。なのに……いや、すぐに向かおう。国王の事だ。何かしらの策を講じているはず。
炎の翼を羽ばたかせ、王国の上空から周囲の被害状況を確認する。眼下に見えるあまりの光景に言葉が見つからない…酷い有り様だ。直撃を受けた場所には文字通り〝何もない〟人が居た形跡すら殆ど残ってはいない。この国の人口は約10万。対して感じ取れる気配は1万程。俺が避けたせいで十分の一の国民の命が失われた。せめてもの救いは城が無事だったことか。
「……せめて魂だけでも」
茫然と成りながら、王国全体を結界で覆い魂を結界内に閉じ込める。魂さえ無事ならばまだ何とかなるかもしれない。それに肉体が残っている者は低確率で蘇生出来る
「……俺は何をしてるんだよ」
「フレアか!?」
「っ!!」
唐突に俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた(今の声はッ!……恐らく城の方面からだろう)。城内を覗けばアレクが城の回廊にいるのが見えた。此方に気付いた様子の彼に構わずすぐに降りて抱きしめる。
「お、おい!男に抱かれる趣味などないぞ」
「黙ってろ!生きてて良かった」
「……まぁな。正直目を疑う光景だったが。大丈夫か?随分ボロボロだが」
「何とかな。すまねぇ」
アレクから離れて心を落ち着かせる。取り合えず跡継ぎが死んでいなくて良かった。詳しい話を聞きながら玉座の方へと向かう途中、城に避難していた民達が目に入る。
「何人生き残った?」
「今確認中だが、8000人程。丁度避難誘導している時にさっきの光が来た。親父や七賢者は無事だ」
「……そうか」
ダメだ。聞いているだけで自分が許せなくなってくる。もしもあの一撃を逸らすことが出来ていたら、もっと多くの人の命を救えた筈なのに。今更言っても仕方が無い。今は生き残った民達をどうするか考えないと。
「親父。フレアが帰って来たぞ」
「ーーッ!?よくぞ無事だった!」
国王は勢いよく立ち上がり俺の両肩を掴んでくる。その顔を見て俺が生きて帰って来たことを心の底から喜んでいる事が分かる。でも俺は……。
「陛下。俺はーーー」
「フレアよ。今は自分の成すべきことを成しなさい。先ほど魔人殿が尋ねて一通り報告してきた。あの魔王殿に重大な役目を与えられたらしいな」
「……だけど今は皆をどうするかが優先だ。生き残った人を安全な場所に避難させないといけない」
「安全な場所などない。だからこそお主は魔王殿から任された役目を果たせ。僅かなら力添えも出来る」
「……ッ」
あぁ。本当にこの人は変わらない。この世界に来て10年。何一つして変わらない。どうしてこの人は何も聞かないんだ。
「いいな。すぐに戻れ」
「……無理だ。アンタを含めて民が避難するまで戻らない」
「……だが安全な場所など何処にも無いだろう。既に争いは近くで起きている」
「大丈夫。俺の部屋にある宝珠からルミナスのいる場所に飛べる。アレクは先に行って状況を説明して来い」
「わ、分かった!」
無茶かもしれないがルミナスなら協力してくれると信じている。俺が今やるべきことは遺体を含めて皆を安全な場所に避難させることだ。
「遺体は回収したか?」
「あぁ。出来る限りだが。何をするのだ?」
「……反魂の術。確率は低いがやってみせる。だから結界を貼って魂が逃げないようにしている」
「ならぬ!」
「っぅ!」
力強い言葉で止められる。何故止めるのか問い質したいが、国王は首を振って優しい声で言った。
「失った命は戻らぬ。反魂の術で蘇ったとしてどうなる?彼らはそれを望むのか?私は知っている。あの光が来るまで民達は必至に手を取り合ってここに逃げていた。お主は必ず戻ってくると、そして此度の異変を解決してくれると信じて疑わずにな。それが間に合わず、命が失われたのは力の無い私の責任だ。お主の責任ではない。何でも一人で背負うな!」
「……」
思わず息を飲む。これが国を束ねる王の威厳。ルミナスもそうだが上に立つ者は、力ではなく別の何かで強い。今の俺には理解出来ない事だろう。
「分かった。少し一人にして欲しい」
「うむ。必ず生きて帰る事。なぁに、もう一度やり直せばいい。時間はある」
「そう……だな。生きて帰って来る」
肩に置かれた手を払い焦土化した街に向かう。あんなにも綺麗な街が一瞬で消えてしまった。俺が避けなければ、いくら咄嗟といえ避けなければ。だが国王の言う通りだ。今の俺に出来る事は一つしかない。
「戻らないと。ラミリス一人では厳しい。でも……」
ゆっくりと瓦礫の上に降り、今の視界に映っている景色を目に焼き付ける。もう2度と後悔はしない。こんなことを繰り返さない。俺を信じている人達のためにも、必ず再興してみせる。どれだけ長い月日を重ねようとも。
「さて。精神的にはきついがそろそろ……ん?」
視界の端に何かが映る。もしかして生存者かと思って駆け付けると、そこには毛先が紅い白狐が大怪我を負って倒れていた。幸いにもまだ息はある。ゆっくりと抱き上げて、治癒の炎をで覆い傷を治す。
(良かった。まだ治せるぐらいの魔素は残ってたか)
「……!!」
「お?大丈夫か?」
目を開けた白狐の頭を優しく撫でると、助けたお礼か頬を舐めて甘えてくる。もう大丈夫そうだな。あとはこの子もルミナスの所に連れて行ってもらおう。
「安全な場所に運ぶから待ってな」
「ほぅ。その安全な場所とは何処の事じゃ?」
背後から聴き成れた声が聞こえてくる。声からして心配して見に来たのだろう。
「酷いの。あれだけ綺麗な街が一瞬で焦土化するとは」
「その責任は取るさ。この子を頼むルミナス」
白狐を渡そうとするが離れない。何とか引きはがそうとしても、尚の事強く腕にしがみついてくる。それを見ていたルミナスは白狐の頭を撫でながら言った。
「今のお主を放って置けんようじゃの。それだけ酷い顔をしていれば当然か」
「そんなに酷いか?」
「酷い。妾と出会った時とは大違いじゃ。そんな状態のお主を行かせるわけには行かん。どうせ死ぬ」
「分からないと思うが?」
「確実に死ぬ。そもそもアルティメットスキル持ちにユニークスキルで叶うはずが無いのじゃ。それに魔王種を得ておるのじゃろう?ただ戻るより、何かやってから戻った方が良いと思うが?」
魔王種とは特定の条件を得る事で会得するらしい。魔王を名乗るには最低限必要であり、真なる魔王に進化するには約1万の魂が必要とされる。そうか、俺は気付いていなかったがルミナスは気付くのか。いつ会得したか、どうやって会得していたかは大体分かるが。
「俺にギィやミリムの様になれってか」
「それも良いかもしれん。決めるのはお主だが。どのみち、あ奴らがこの一帯で力をぶつければどうなるかは分かるじゃろう?」
「邪悪なエネルギーと魔素で下手をすれば不毛の土地になる。人間はおろか上位魔人すら生きる事が出来なくなる」
「それをどうにか出来る力をお主は持っている。だが力が足りない」
「…その通りだ」
ルミナスの指摘は最もだ。俺の『太陽の加護』と『反転者』で邪悪なエネルギーと魔素を集めながら正常な物に反転させて放出することが出来る。だが今の力では黒い太陽で集めれる量をすぐに越えてしまう。先ほどのミリムの一撃のように。
「……ユニークスキルをアルティメットスキルに進化出来れば何とかなるけど。条件満たしてないよね。そもそも分からないし」
「だからって諦めるのか?」
「そんなことは言ってないけど……。うーん」
首をかしげて必死に考えを巡らせる。俺の持っているユニークスキルやエクストラスキル、それと剣技。全部を駆使してギィからの頼みを叶えられるのか。あの2人の力が衝突するたびに発生するであろうエネルギーや魔素をどうするか。日本に居た頃の知識をフル回転させるが思いつかない。ルミナスが考えている事は最終手段だ。
「ぐぬぬぬぬ……」
(選択肢は一つしかないじゃろうが馬鹿者……)
「お。いたいた二人とも!」
他に良い案が浮かばず途方に暮れていると、夜薔薇宮に行っていた筈のアレクが片手を挙げてやって来る。どうやら避難は無事に終わったようだ。タイミングが良いのか悪いのか。
「終わったのか小僧?」
「はい。あとはベルだけど……」
「アイツはラミリスの所。それより今は放って置いてくれ」
「は?その状態のお前を放っとけるか。どうかしたか?」
「二つに一つの選択肢で悩んでいるのじゃ。ちとこの阿呆の背中を蹴ってやれ小僧」
「え?蹴る?怒られる気がするけど……で、その選択肢って?」
(聞くなっ!。聞かないでくれ親友。結界内の魂を喰らって覚醒魔王に進化するか、このまま行って無駄死にするかで悩んでるなんて死んでも言えるかっ!。)
「結界内の魂を喰らって覚醒魔王に進化するか無駄死にするかの2択じゃ」
「ちょっと姫様ッ!?」
「……」
この吸血鬼、俺が必死で悩んでいるのを裏手にとって虐めて楽しんでやがるな。だから性格悪いって言われるんだよ!(言っているのは俺だけだが)
「何で悩むんだよ馬鹿かお前?」
「誰が馬鹿だ!俺は必死で悩んでんだぞ!」
思わず声を荒げてしまう。いくら親友でも言っていい事と悪いことがある。此でも寛容さには自身がある方だが、今のこいつの発言は許せない。
「煩いぞ。つかお前。魔獣とかの魂を自然に喰らってるくせに民の魂は喰らわないのか?そんなんだから真の勇者に覚醒することなく、魔人に進化するんだろ。中途半端な野郎め。お前の霊感は何の為にあるんだよ。幽霊系統の気配を感じ取るだけか?」
「……」
「どーした言い返せないか?だろうな?普段は自分が最後まで諦めるなって言いながらお前は諦めるのかよ。お前を信じて待っていた民も浮かばれねぇわ。悩む暇あるんだったら即行動に移せよ臆病者」
……ブチィィッ!!
(おや?珍しくキレおったわ)
〝ナニカ〟が切れる音が響き、頭の血が沸騰したマグマのように熱い。衝動のままにアレクの顔面をぶん殴る。盛大な音が響き渡り、腕の中に居た白狐はルミナスの元に逃げて行くが、それに目もくれる事無くアレクの首元を掴み持ち上げる。
「そうだよ。てめぇの言う通りだアレク。俺が臆病者で咄嗟に避けなかったらこんなことにならなかったんだよ。だからこそ言ってやる。てめぇに俺の気持ちが分かるか?誰も何も言わねぇんだよ!オッサンも生き残った民達も!あの光の後に来たら誰だって疑うだろうが!なのに誰も聞かないんだよ!」
「はっ……そういう事かよっ!」
返しの一撃が鳩尾に突き刺さる。鈍い痛みが全身に走り膝を付いてしまう。反撃したくても出来ない。
「どーした勇者様?やり返さないのか?あぁ無理なのか。それだけボロボロだったら無理だよなお前らしくない。だけどな……」
「うぐぅ。何を……」
今度はアレクが首元を掴んで持ち上げてくる。その力はとても強く振り払えない。腕を掴むだけで精いっぱいだった。
「傷だらけのお前を責める訳ないだろう。責めてる奴が居たら俺がぶん殴ってやる。きっと結界内にいる皆もそう思っている。霊感強いお前なら何か感じとれるだろう?」
「……」
心を静めて周囲の気配を探る。少し経つと周囲に無数の淡い光が現れ結界内を覆う。とても幻想的な光景。光一つ一つから強い力を感じる。
「これは……皆の……」
「ほぅ……神秘的じゃの」
「……皆同じ思いだ。お前が責任を感じてるのは分かる。ならさ」
アレクは手を離して視線を宙に彷徨わせる。彼が何を言いたいのか、そんな事は…10年来の付き合いだ。この世界に来て最初の親友だ。言われずとも顔を見れば全部解る。
「改めて皆の想いを背負って、この国の、世界の希望の太陽になってみろよ。お前がどうなろうと俺達のダチだって事には変わらない。そうだろ?」
「……だな」
(あぁ、アレクの言う通りだろう。俺がどんな姿になろうとも皆との関係は変わらない。ならやってみせよう。ミリムの相手がギィに変わった時点で俺の勇者としての戦いは終わっている。今の俺の戦いはあの2人の戦いの被害を最小限にすること。それがこの国を、世界を救う事に繋がる)
「ルミナス。
「覚悟は決まったか。良いじゃろう。その時は一思いに殺してやる」
「悪いな。アレクは部屋に封じてある2本の刀を持って来てくれ。この太刀はミリムとの戦いで消耗している」
「分かった。成功することを祈ってる」
「おぅ。また後で」
アレクに手を振って街の中心、魂が一番集まっている場所に向かう。どうか聞いた話が本当である事を祈ろう。
(頼む皆。俺に、皆を守り抜く力を託して欲しい。もう二度と悲劇を繰り返さないために。一緒に戦おう!)
手を空に向け
ー進化の発芽に必要な人間の魂を確認しました。これより
頭に響く世界の声。同時に強烈な睡魔と眩暈に襲われる。先日の瘴気が入って来た時とは訳が違う、拒絶することが出来ない強制力。もっとも今更拒むつもりもないが
(どうか間に合ってくれ。最悪の事態になる前に……)
いざ魔王へ。