かぐや様はブラコンのようです   作:エクソダス

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第2話

 お昼の昼食時間。それは学生にとって待ち望んだ解放された時間であり、勉学から解放された生徒たちのわずかな癒しのひと時。

 

 

「はい、あ~んっ」

「あーん」

 

 

 そして、この秀才の集まりである秀知院学園でもそれは例外ではない。

 この午後の短い時間は青春を謳歌している者達には好きになった人と触れ合える絶好の機会。

 それ故に、目の前で行われているあーん……、異性同士が食べさせあう光景は珍しくもなく、寧ろほほえましいくらいだ。

 

 

「はしたないっっ!!!」

 

 

 しかし、生徒会にいる駿の姉は、どうやら別の感情を抱いているようだ。

 

 

「そこまで怒る必要ある? 姉様」

「そうだ、そこまで怒ることではないだろう」

「伝統ある秀知院の生徒としての自覚が足りません! 物乞いじゃないんですから!」「ひどい言いようだな……」

 

 

 どうやら駿は微笑ましいと思っていても、姉のかぐやの方ははしたない、と思っているようだった。

 

 

「そういえば会長、今日もお手製なのですね」

「ああ、まあな」

 

 

 駿は御幸のお弁当箱を見て素直な感想を述べる。

 ハンバーグにだし巻き卵、そしてふりかけの乗っている白米……実に弁当箱が目に鮮やかである。

 こういう時はこの人はモテるな。と実感する。

 

 

「さて、姉様。僕達も食べましょう」

「……」

「姉様?」

「えっ? ええ。そうね」

 

 

 一瞬、かぐやが駿の言葉を返せず言い淀んだ。

 まるで何かに目を奪われているかのように言葉が遅かった。

 

 

(……まさか)

 

 

 かぐやの視線の先には御幸の弁当箱があり、そこにはタコの形をしたウィンナーがあった。

 かぐやと駿の昼食は四宮家専属の料理人が休み時間に温かいできたてが届けられるように調整されている。

 栄養バランスは当たり前として旬の食材を基調とした調和、彩りが取られているお弁当。

 会長よりもはるかに豪勢のはずなのだが……。

 

 タコさんウィンナーを欲しがる姉はどうなのであろう……。

 

 

「みなさんこんにちわー!」

「あ、藤原先輩、どうも」

 

 

 

 と、そんな話をしていると……藤原がこの生徒会室に元気に入ってきた。

 

 

「会長お弁当ですか? おいしそー!」

「そうだろう?全て俺の手作りなんだ」

「いいなー、一口分けてくださいよー」

「ん?一口ぐらいなら別に構わんぞ」

 

 

 この人はある意味この生徒会のムードメーカーだ。

 過去の生徒会はかなり険悪だったと聞いている。その情報があったから駿は今ここにいるわけなのであるが。

 かぐやがいる時点で険悪になるのは必然であり、その点では本当にこの人に感謝している。

 

 

「ぁぁ……これ、旨いやつ~~」

 

 

 藤原は幸せそうに一口頬張った。

 その顔はとろけきっていて、まるでこの世の天国でも見たかのような顔だ。

 

 

「駿、オマエもどうだ?」

「結構です」

 

 

 しかし、どれだけこの男が優秀でも、駿はこの男が苦手だ。

 こんな事にほいほい乗っかって、親睦を深めてやる義理もないであろう。

 

 

「……」

 

 

 というか、かなりかぐやが駿から見て軽蔑した目で藤原を見ているのは気のせいであろうか。

 

 

「ハンバーグってアツアツの肉汁が出まくるのもおいしいですけど。常温だとおいしさぎゅ────っと全部閉じこめちゃった♡ って感じがしてまたいいですね」

「なんですかその変な食レポ……」

 

 

 そんなことを言っていると、御幸はおもむろに水筒取り出し、小さな器に注ぎだした。

 

 

「会長、それは……」

「ああ、これは味噌汁だ。弁当の米は硬くていかんだが。味噌汁と一緒にいただくと……最高の一品に化ける」

「……」

 

 

 駿は息をのむ。

 彼は知っているのだ。汁物と冷えた米のベストマッチを……否応に食欲をそそられ、食べたいという衝動が止まらない。

 

 

「ああ……お米が……! お米がおくちのなかでホロホロと……」

「……ごくりっ」

「駿、どうだ?」

「結構です!」

 

 

 妙にどや顔してくる会長に、駿は逆切れ気味に声を荒げた。

 

 

「……」

 

 

 それにしても、姉がずっと怖い顔をしている。

 

 

「……駿、やり返すわよ」

「……あ、うん」

 

 

 

────

──

 

翌日

 

「これまた、今日はずいぶん豪勢な……」

「はい、弟が作りすぎてしまいまして」

「……」

 

 

 駿は無言でどや顔をする。

 今回この弁当を作ったのは駿本人だ。彼は料理が大の得意分野で誰にも負けないことを自負している。

 それゆえ、昨日の会長が不快でならなかったのだ。

 キチンとした栄養バランスはもちろんのこと、かぐやの胃袋を把握し、味付けもそれにあったものにしているし、量だってむやみに少なくなく多くもない。

 まさに自信作だ。

 

 

(さぁ、同じ屈辱を味わえ。会長)

 

 

 駿自身が彼の弁当をおいしそうと思ってしまったのは屈辱の極み、それどころか姉であるかぐやの視線までも虜にしたのだ。

 駿にとって、到底容認できる怒りではなかった。

 

 

「……」

 

 

 現に、会長は何処か悔しそうな顔でこちらを見ている。

 

 

「あれ、藤原先輩。そのお弁当……」

「あ~、会長がつくってくれたんですよ~」

「食材を腐らすのももったいないし、一人分も二人分も対して変わらないからな」

 

 

 笑止───

 駿は心のそこからそう思った。自分への当てつけのつもりか。『これくらいなら余裕』と主張しているようだ。

 だが、残念だったな。僕が作るときはいつも姉の分込みだ。この勝負……俺のか……。

 

 

「……」

 

 

 ……しかしなぜ。

 なぜかぐやは恨めしそうな顔で藤原を見ている? 今回はこちらのほうが圧倒的に優勢なのは間違いないのに……何が不満だ?

 

 

「しまった! 今日は部活連の会合の日ではないか! 急いで食べないと……!」

 

 

 そういって、御幸は物の数秒で食べ終わる。

 

 

「……姉様。今回は勝ちだね」

「……私、何してるんだろう」

 

 

 駿は微笑みを浮かべるが、かぐやがうなだれている。

 

 

「姉様、僕の弁当じゃ不満ですか」

「あ……えと……そういう事じゃなくて……」

 

 

 駿は柄にもなく嫌味を口にする。

 先ほどからあちらの弁当ばかりを見ているかぐやに、多少の憤りを感じていた。

 かぐやが言い淀んでいると、藤原が一つのタコさんウィンナーをかぐやに渡す。

 

 

「はい。あーん」

 

 

 

 それをかぐやは目を丸くして食べた。

 

 

「おいしいでしょ? 一緒に食べましょう?」

「藤原さん……ごめんなさい。私は貴方のことを誤解してました……貴方はちゃんと人よ」

「今まで何だとおもってたんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

───

 

──

 

「もう、いい加減機嫌直してよ」

「別に機嫌なんて悪くねえよクソ姉貴が」

 

 

 お昼後に今現在進行形で、かぐやは自身の弟の機嫌直しに精一杯だった。

 彼が切れている理由はいたってシンプル。『自分がせっかく朝起きて作ったのに。タコ型のウィンナー食べていた時が一番嬉しそうだったから』だ。

 

 

「姉貴なんて一生タコウィンナー食って栄養失調で死ねばいい。控えめに言ってしね」

「だからごめんってば……」

 

 

 たこさんウィンナーが食べれたのがうれしかったばかりに、多少駿をないがしろにしてしなったので、かぐやはご機嫌取りに難儀していた。

 四宮家の長女であるかぐやが、弟の機嫌取りとは……ほかの者が知ったらいい笑い話だ。

 

 

「もう……、どうしたら許してくれる?」

「……むぅ」

「……駿の望むことならできるだけやるから」

 

 

 冷酷なかぐやでも、流石に大切な弟には頭が上がらない。

 一番近くでかぐやの事を見守り、一番かぐやが大切にしている弟分だから。

 

 

「……じゃあ、明日も作るから姉様食べてよ」

「はい?」

「タコウィンナーも付けるから」

 

 

 かぐやは目を丸くする。

 今回の一件はかぐやが無理言って駿に弁当を作ってもらってたので、かぐやの考えでは『せっかく早起きしたのに』と愚痴られると思っていたので少し意外だ。

 

 

「……姉様が、他の男が作った……弁当で笑顔になってるの……なんとなく嫌なだけ」

「……そう」

 

 

 相変わらず変な弟だ。

 気にくわない理由も理解不能、思考の理論もよくわからないし。

 本当にご機嫌取りも一苦労だ。

 

 しかし……どうしてであろうか───

 

「わっ……ねえ…さま?」

 

 

 こんなにも愛おしく思うのだろうか。

 どれだけつくろっても、どれだけ偽っても。この少年が愛おしく、愛でたいという気持ちは何年たってもかぐやの中では変わらない。

 

 

「姉様、苦しい」

「あ、ごめん」

 

 

 どうやらいつの間にか抱きしめてしまっていたようだ。

 我ながら不覚だ。こんな所を誰かに見られたら『あの姉弟は学園で抱き合う仲だ』と、恥になる所だ。

 

 

「と、取り合えず離して姉様」

「……」

 

 

 しかし、何故か手が離れない。

 困った弟である。

 

 

 

 

 

 

 

────

 

──

 

「早坂先輩、少しよろしいですか」

「はい。なんですか。駿様」

 

 

 駿が家に着くと、この四宮家の誇り高きメイドである……早坂愛に話しかけた。

 

 

「すこし、教えていただきたいことが」

「私で教えられる事があれば、何なりと」

 

 

 無表情で答える早坂は、駿にとって姉のかぐやと同じくらい頼れる姉貴分だ。

 メイドと主人という立場ではあるが、駿はこの早坂愛を心の底から尊敬している。

 それゆえに、駿はメイドを呼ぶには似つかわしくない『先輩』という言葉を使っている。

 

 

「たこさん」

「……はい?」

「タコさんウィンナーの作り方。教えてほしいです」

 

 

 

 突然の駿の言葉に、早坂は珍しく目を丸くして────

 

「ふっ」

 

 

 鼻で笑った。

 

 

「なっ!? 何がおかしいんですか!」

「いえ、相変わらず可愛い方だなと」

 

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