あと「二度とそのツラ見せるなバカたれ」に一人入れててフフッってなった。皮肉や強がり抜きで好きです
今後はそう言われないように励むのでよろしく
凱夏から言われた。いつもの練習と同じように、スペ先輩達の走りをよく見とけ。盗める物は盗んだけって。
だからボクはしっかりと見たよ。スリップストリームも、ピッチ走法?って奴も。土壇場でそれを掴んだスペ先輩の、楽しそうな走りも。
うん。
〜Side:スペ〜
はい!スペシャルウィークです!
今日は、タイキシャトル先輩との模擬レースで得た感覚を身体に覚え込ませるために、神社の階段で根性ダッシュしてます!キツイです!!
「ハッ、ハッ、ハッ…!」
えぇと、足幅を短くテンポを速く。一二っ、一二っ、一二、一二、一二一二一二……
(っとぉ!?)
危うく
「抜かしちゃうよ、先輩ーーー!」
真横に並んでくるポニーテール。て、テイオーちゃん!?
こんのぉ〜、私だってぇ!
「ふんぬぅぅぅぅ!!」
「うぉおおおお!!!」
2人して同じピッチ走法で坂を駆け上がる。いつしかゴールの鳥居を潜り抜け、私達はそのまま地面に倒れ込んだ。
「ト、トレーナーさぁん!タイムは!!」
「42秒5。躓いたら台無しだぞ、もう一回!」
「はい!テイオーちゃんはどうしますか?」
「ボ、ボクはちょっと限界かな……ボクの分までお願い、先輩」
「任せて下さい!!」
私と同じくピッチ走法を身に付けたテイオーちゃんはここでリタイアですか。まぁデビュー前で身体が未完成ですし、無理は禁物ですよね。
ご心配なく!私が先輩として存分に見本を示して見せます!!
「あっ。そういえば質問なんですけど。根性トレーニングってどういう意味があるんですか?」
「そういえばそうだな。オレもあんまりよく知らねぇわ」
「言われてみればボクも…」
ふと思いついた疑問にウオッカちゃんとテイオーちゃんが同調してくれた。そんな三者の質問に、トレーナーさんは目を瞬かせる。
「なんだお前ら。そんな事も分からないようじゃダービーどころか重賞なんて夢のまた夢だぞ」
「だから聞いてるんじゃないっすか。良いでしょ教えてくれたって」
「まぁそれでも良いんだが、なんだか捻りが欲しいな……」
捻りって何ですか捻りって。それ要ります?
「という訳で凱夏君!説明してくれ給え」
「俺っすか!?じゃあマックイーン君、俺の代わりにメンバー代表として答えてくれ給え」
「何で私ですの!?というか貴方に割り振られた仕事では!?!!?」
「単に引き受けるだけじゃそれこそ捻りが無いかなって…でしょ、西崎さん?」
「むっ……その通りかも知れん」
「どこがですかー!!!」
哀れマックイーンちゃん、トレーナーの御二方に見事にしてやられてしまいました。
でも、ここは一度メジロの教育を存分に見せてもらいましょう。お願いします、マックイーン先生!
「なんで皆正座しますの?変にノリが良いのはおやめなさい!」
「なぁに、マックイーンもそのうち染まるさ」
「ふんっ」
「ピグッ」
ああっ!他人事とばかりに笑ってたゴールドシップさんの腰が大変な事に!!
私を含めた皆が顔を青冷め、先生には逆らうまいと決意しました。怖い。
「……仕方ありません、説明しますわ。根性トレーニングとは謂わば、“ゴールを目指す気持ちとその下地”を作るトレーニングですの」
ふむふむ、ゴールですか。つまりスパートに関係するトレーニングって事ですね?
「その通りです、スペ先輩。ですから、根性トレーニングに規定されているメニューでは、根性に付随してスピードとパワーが伸びます。スピードは最高速度、パワーはそれに至るまでの加速時間に関係しますので、最後の競り合いにモロに影響しますわ」
「じゃあ、肝心の根性はどうなのよ?」
「根性自体は“スパートに耐える精神力”という形で作用します。それまでの疲労を振り切り、残りの体力を振り絞るには相応の精神を必要とする事、経験がございませんか?」
言われてみれば確かに……。疲れ果てた体に鞭打つ訳ですから、ちゃんと心がついてこないと無理ですよね。
そんな感じでスカーレットちゃんの疑問を退けたマックイーンちゃんに投げかけられたのは、今度はテイオーちゃんの声だ。
「でもさ、囲まれ続けてたりすると最後に思うように力が出なかったりするじゃん。アレも関係あるの?」
「無関係な訳がありません。集団に囲まれると、他者からの存在感によって無自覚に精神が圧迫され消耗していきます。その結果根性が枯渇し、ラストスパートで自分の力を出せなくなるのです」
「「「「おぉ〜……」」」」
披露されたそれはそれは見事な学識に、私もウオッカちゃんもスカーレットちゃんもテイオーちゃんも思わず拍手。その中心で、マックイーンちゃんは誇らしげに胸を張っていました。可愛い。
「…という事だ!皆、勉強になったか?」
「テストに出るからなー」
「アンタらは話をタライ回しにしただけだろうが!」
「「ぐえぇ」」
最後に、調子に乗ったトレーナーさん方が折檻されて終わり。うん、良いオチがつきましたしトレーニングに戻りましょう!
しかし、ゴールを目指す気持ちですか…今回の場合は仲間の皆さんが待ってる鳥居を目指して駆け上がれば良いですけど、本番の時はどうしましょう?
(ゴール板は目安にはなるけど、コースと並行に立てられて薄っぺらいからしっくり来ないんですよねぇ)
「なんか腑に落ちない事でも?」
うーむと頭を捻る。そんな私の様子を見かねてか、凱夏さんが声を掛けてくれた。
「えぇっと、本番の時にゴールをどう目指せば良いかなって迷っちゃいまして。ゴール板以外の目標が思いつかないっていうか」
「うーん…だったら、ゴールの向こうに“相手”が待ってるのを想像したらどうだ」
「相手、と言いますと?」
どうなも曖昧な言葉に質問を返すと、特に隠す気はないようで凱夏さんは言葉を続けてくれる。
「誰でも良い。目標とする人、憧れの人、負けたくない人、はたまた好きな人。その人がゴールで待ってると考えれば、走る意欲が湧いてくるかも知れん」
「好きな人って、そんな……」
「飽くまで例だ。何にせよ、お近づきになりたい人物目掛けて走るってのは悪い気分じゃないだろ」
それだけ言った凱夏さんは、トレーナーさんに呼ばれて行ってしまった。残された私は、所在なげにキョロキョロと周りを見渡すのみ。
でも、そこで目に映ったのがスズカさんだった。階段上りで疲れ果てていた皆の為にドリンクを買いに行っててくれて、戻ってきた今はウオッカちゃんにすっ転ばされたトレーナーさんを介抱してる。
「スズカさん……」
私の憧れの人。どこまでも速くて、そして気持ち良さそうに走る人。風を切るその姿が綺麗で、いつか一緒に走りたいと、そう思ってる私の目標。私のゴールの、その先を走るウマ娘。
あぁそうか、そういう事なんだ。
「…よーし!」
単純な話でした。凱夏さんの話をしっかり呑み込めた私は、意気揚々と立ち上がります。
「あっ、スペ先輩もう再開するの?」
「はい!良い事聞けたので、次はテイオーちゃんもウオッカちゃんもスカーレットちゃんもマックイーンちゃんもブッ千切れると思います!」
「ほほう、言うじゃねぇか」
「ここまで言われちゃ負けてらんないわ!」
「売られた喧嘩は返すのが礼儀。メジロ家のウマ娘を挑発した事、後悔なさらぬよう」
次々に立ち上がる仲間達に頼もしさを覚えながら、私達は階段を降りていく。さぁ、ダービーウマ娘目指して、スズカさん目指して頑張るぞ〜!!
〜Side:西崎〜
スペの調子は絶好調だ。前の模擬レースで上手い事
これはダービー、いけるぞ…!
……が。それと同じくらい、またはそれ以上に気になっている事が一つ。
「だりゃぁぁぁぁ!!」
「はぁぁあああ!!!」
スペの背に追い縋るテイオー。忘れてはならないのが、彼女はまだデビュー前という事である。
デビュー前の身で、スペの階段ダッシュについて行き、先刻に至ってはペースの乱れに乗じて詰めてみせたのである。
……やばくね?
(いつの間にかピッチ走法まで身につけてるし、今はスペに追いつけないのを良い事にちゃっかりスリップストリームまで利用してやがる……)
一を聞いて十を知る天才、テイオーにはまさにこの言葉が当てはまるのだろう。普通のトレーニングで得る経験を2、実際のレースで得る経験を10、そして実際のレースを見て得る経験を1としよう。テイオーはその1を見て、10ーー今回の場合は先述の二つの技術を見事に獲得している。
とんでもない逸材だ。これは成る程、本人が語る無敗の3冠ウマ娘も夢じゃない。テイオーステップ封印の影響と、凱夏君が懸念するような怪我が無ければ、の話だが。
「っーーー、トレーナーさん!タイムは!!」
「40秒2!あと0.2秒を意地で超えて見せろ!!」
「はいッ!!!」
「くっそー!次は負けないもん!!」
「お前はその前に休憩だ。ホラ、転がってるゴルシ達の仲間入りすんぞ」
「えぇーっ!?」
また駆け下りていくスペの背と、凱夏君に引きずられていくテイオーを交互に見る。前途有望なその足に、期待は高まるばかりだった。
「トレーナーさん」
そんな俺の意識を引いたのは、慎ましやかな声。どうした、スズカ?
「体重大会の件、聞いていますか?」
「あ、ああ。ゴールドシップの奴もよく考えたモンだよn」
「凱夏さんの案ですよね」
背筋が冷えた。
「……分かっちまったか」
「ゴールドシップさんは無茶苦茶ですけど、考えなしに何かを始めるような人じゃありません。今回はその上で、何かゴルシさん以外の思惑が見え隠れしてて……スピカの気風を作ったトレーナーさんが考えたとは思えないやり方だし、こういう管理に関わるやり方はリギル時代に見てましたから」
そう言ってスズカが目を向けたのは、疲労困憊のメンバーにマッサージを施す凱夏君の姿。その後ろ姿から、何かしらの激しい感情は見て取れない。
「あー……騙すような真似してすまん」
「いえ、スペちゃんは実際食べ過ぎのきらいがありましたし丁度良かったと思いますよ。凱夏さんのやり方は正しいでしょうから。それより…トレーナーさんが無理に変わろうとしてないか心配です」
「俺は全然大丈夫だし、元の方針を曲げるつもりは無ぇよ。何より、子供が大人の心配する暇あるのか?」
「ぁっ」
スズカの頭を撫でながら言った言葉に嘘は無い。俺は俺の放任主義なやり方に悔いを持ってないし、これからも続けていくつもりだ。
でも、努力して成長していく担当ウマ娘達に対して、トレーナーである俺が成長する努力もしないのは……不義理だと思ってる。良い所を残したまま悪い所を消していく、それぐらいの試行錯誤は続けていかなければ。
凱夏君は、俺にとって“その為”の風だった。彼にとっての俺がそうであるように。
「スズカ、お前はお前の道を走り切れ。それが、俺が挫けそうになった時の支えになる」
「私が、トレーナーさんの…?」
「ああ。お前の走りを見ているのが好きなんだ」
素直な感情を口にする。いつも飄々としてるつもりだが、こういう時に誠実さを忘れるつもりは毛頭無い。それがウマ娘達の後押しになるなら本望だから。
…ってどうしたスズカ?急に俯いて所在なげにして。まさか俺、なんか変な事言っちまったか?
「ちっ、違います!トレーナーさんの所為じゃありません!」
「なら良いんだけど、体調悪いならちゃんと言えよ?」
「いえ、寧ろ良過ぎるくらいです……トレーナーさん」
そう言って向けられた翡翠色の瞳に息を呑む。そうだ、先頭の景色を映すこの瞳にも惹かれたんだった。
「宝塚記念…私、頑張ります。ゴールで待ってて下さい」
「お、おう」
「では」
それだけ告げて、スズカはスペの下に向かう。心臓に悪かった……今もバクバクが止まらん。
「もしかしてトレ×スズ来てます?」
「ぉあっ!?ちょ、凱夏君いつの間に」
「ついさっきですよ。一同のマッサージが一通り終わったので、俺もタイム計測を手伝おうか、と……」
スペと合流したスズカを見た途端、微笑とともに口を閉じた凱夏君。そのまま彼は踵を返してしまう。
「やっぱゴルシに頼みますわ。スズカの邪魔したら悪いし、俺は足を冷やすための保冷剤調達してきますね」
「いや、別に問題無いと思うが。君もそろそろスズカの走りを直に見てみてくれないか」
「逃げのサイレンススズカは最強ですよ。見なくても分かる事を、わざわざ調子崩すリスク冒してまでやるのは悪手でしょう」
これだ。凱夏君とスズカの和解が進まないのはこれが原因だ。凱夏君が盛大に内心を拗らせている。見もしないで最強確信ってどういう信頼だよ。盲信じゃん。
その上で、自分はスズカに嫌われていると思い込んでいるのが尚更タチが悪かった。
…まぁ、スズカに問題が無いかというとそうでもないのが更に話をややこしくしている。さっきの会話で「凱夏さんのやり方は正しい」という言葉が出たように、スズカは自分と凱夏の関係が上手くいかなかったのは自分の所為だと考えている節がある。こっちもまた難儀な拗らせ方だった。
何とかしてやりたいのは山々だが…実際の所、チーム全体としては上手く回っている。本腰入れて解決に取り組むのはもう少し先、凱夏君がよりスピカに馴染んだ頃合いの方が良いかも知れない。
「トレーナーさぁん!よろしくお願いしまーす」
「…おう!スペ、限界を超えろぉー!!」
まず目を向けるべきはスペのダービー。彼女を日本一のウマ娘へと導く事に、俺は全力を注ぐのだった。
拙作のテイオー君は天才です。原作でもそう言ってるから盛りました
多分「切れ者」を三重掛けぐらいされてる
ちなみに拙作のスズカはダービー2着です
唐突ですが、ここで読者諸君に速報
今後の予定からテイオーの芙蓉ステークス編は消えましたが、代わりに夏合宿前に過去編(凱夏・葵・南坂のトレーナー養成校編)を挟む事が決定しました
つまり!またスズカの掘り下げが遠のく!!