パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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 今日誕生日ですわ
 祝え!クソ雑魚物書きがまた一つ歳を重ねた瞬間である


眠れる王、空に抱かれて

 記録が、伸びない。

 何度走っても。

 何度繰り返しても。

 何度試行錯誤しても、時計の針は変わらぬまま。

 

「…ケホッ」

 

 勝ちから遠ざかって、どれくらい経つだろうか。たかが数ヶ月が、もう何年にもかんじられる。

 昔の勝ちすら、お母様は認めてくれかった。ならばこそより格の高いレースで勝たなければならなかった。

 繰り返される「恥を晒す前に帰って来い」という催促、それを黙らせたかった。

 

「……ケホッ」

 

 我が子に夢を、希望を見て欲しかった。

 なのに、この足は肝心な所で伸びてくれない。皐月賞を逃した今、日本ダービーは絶対に獲らなければいけないのに。

 前はスカイさんに逃げ切られた。それでやっと取った2着だって、スペさんがもっと早くスパートを掛けてきてたらどうなっていたか。

 ただでさえスタミナに難がある。さっきだって、もうこれでもかという程にプールでトレーニングしてきたのに一向にマシになる気配が無い。日本ダービーで走るコースは、皐月賞のコースより400mも長いというのに。

 

「ケホッ、ケホッ……」

 

 恥。無様。惨め。

 母から言われた言葉が脳内で反響する。

 別に、この言葉で傷付いた訳じゃない。ただ、母から失望されていく事、私の惨状で母の栄誉が汚されていくような感覚が煩わしかった。

 応えられるウマ娘でありたかった。

 ありたかったのに。

 

「うぷっ……!?」

 

 胃が痙攣する。喉元まで上ってきた液体の酸っぱい臭いに、私は思わず膝をついた。

 駄目だ。それだけは駄目だ。ただ無様なだけでなく、他人に迷惑をかけてしまう。練習コースを汚してしまう。

 そう思い必死に堪えた。そんな私は、目の前に立った気配に気付けない。

 頬に手が差し込まれたと感じた瞬間、顎を持ち上げられる形で視線が上がる。そうやって見えたのは、ビニール袋。

 

「大丈夫?間に合った?」

 

 いけすかない声だった。皐月賞で、私の道を阻んだ声だった。でもその声以外に頼れる物が無くて、私は恥も外聞も無く縋った。

 右手で袋を掻っ攫うように奪い取り口元へ。今にも倒れそうになる体を支えようと、彼女の腕を左手で握り締める。

 そのまま私は、我慢をやめた。据えた臭いに紛れて出てくる嗚咽を、抑えられなかった。

 

「キングは本当に真面目だよね」

 

 腕を全力で掴まれて痛いだろうに、彼女は私を慮っていた。その情けが有難いやら腹立たしいやらで、私の心はグチャグチャにされていく。背中を撫でるその手つきが、恨めしくて羨ましくて温かくて。

 

「私としては、もうちょっと気楽にやった方が良いと思うんだけどなぁ。少なくともこうなるよりは良いよ、うん」

 

 分かっている。けれど、私は貴女じゃない。貴女のような才能も、それを結果に結びつける器用さも無い。私は、貴女のような“正しい努力”は出来ない。

 ああ、でも分かる。やはり私と貴女は正反対で、だからこそ似ているのね。

 血筋で期待されて、でも強くない私。

 血筋で期待されず、でも強さで示す貴女。

 そこにある苦悩は近似していると思った。思いたかった。共通していれば、それは“共感”だから。“同情”ではあって欲しくなかった。

 これは、私の独りよがりな願望かしら?

 

「あとさ。私とキングって、割と似てない?」

 

 ……あぁ。やはり腹立たしい。

 理不尽な怒りが湧き出す。お望み通りの言葉を告げてもらったのに、酷い逆恨みだと自分でも思う。

 それでも、やはり苛立つものは苛立つ。だって、狡いもの。

 

 

「ーーー貴女って、人は、」

 

 

 どうして、私の欲しい言葉を、掛けて欲しい時に限ってくれるの?

 そう思ったが最後、私の意識は闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

「変に意地張って、予防線張ったり弱み隠したりする所とかさ……って聞いてないか。はてさて、保健室に運んだらトレーナーさんにオーバーワークの事を伝えて、ウララちゃんにも言って、その後はどうしますかねぇ。キングを咎める手前、私も同じ事するのはやめといた方が良いか」

「セイさん!ヘイローさんは…見つけたんですね!」

「やぁフラワーちゃん、トレーナーさんに伝言頼める?私はキングを運んどくから…」

「そんな、私も手伝います!そこの袋とかもありますし」

「良い子だなぁホント…」

 

 

 

〜Side:西崎〜

 

 

 

『世界を狙う為にも、次は日本ダービーです』

「やっぱこうなるか」

 

 NHKマイルカップで見事圧勝を決めたエルコンドルパサー。スペの同期にしてライバルである彼女の活躍を、スピカの皆と一緒にテレビ越しに見ていた俺は嘆息する。

 彼女はとんでもない脅威だ。あの安定感に満ちた足を前に、どんな作戦を立てれば良いやら。

 …だが、それでも俺はスペの底力を信じている。コイツなら、あの怪鳥に勝ってくれると。

 

 

 ……が。

 メンバーを帰らせた後、凱夏君と一緒に部室の後片付けに取り掛かっていた時の事だった。

 

「西崎さん、ちょっとテレビ借りますね」

 

 そう言って彼が使ったのは録画機能。再生されるのは、エルコンドルパサーの圧巻のレース……

 ではなく。

 

『世界を狙う為にも、次は日本ダービーです』

『スペちゃん、ガチンコ勝負デェス!』

 

 

『世界を狙う為にも、次は日本ダービーです』

『スペちゃん、ガチンコ勝負デェス!』

 

 

『世界を狙う為にも、次は日本ダービーです』

『スペちゃん、ガチンコ勝負デェス!』

「オイオイオイ待て待て待て」

 

 何回インタビューを巻き戻すんだ、と止めてみれば。彼の顔には中々深刻な狼狽が浮き出ていて。

 

「やっぱ幻聴じゃないですよねぇ…」

「俺にもよく聞こえてるよ」

「おぅふ」

 

 なんでそんな憔悴した顔になってるのか、俺には見当もつかなかった。エルコンドルパサーがダービーを狙うだろうという予測なんて部外者の俺でも容易くついたのに、なんで元リギル所属で未来予想に長けた凱夏君が気付かなかったんだ?というかそもそも本当に分からなかったのか??

 

「エルコンドルパサーがスペシャルウィークとダービー…マジかぁ……マジでどうなるんだ………」

「???」

 

 頭を抱える凱夏君に掛ける言葉も見当たらないまま、その日の夜は更けていったのだった。




 某絵師さんの絵を見てから、俺の頭ん中はウンスハーレムだよ
 どーしよ
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