パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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 エルとタイキの書き分けクソ難しくて芝枯れるわ
 タイキ、せめて俺の所に来てくれ…


翼は誰が為に

 不退転。

 一意専心。

 達筆でそう書かれた2枚を前に、米国生まれの大和撫子は1人座禅を行う。

 共にその字を描いた人との記憶を、脳裏に浮かべながら。

 

 

 

Side:エル

 

 

 

「くっーーー!」

 

 タイキシャトル先輩の背中が遠いデス。でも、超えない事には何も始まりまセン。

 それに後ろからはエアグルーヴ先輩の気迫。これでは嫌が応にも掛かってしまう…!

 ……でも!!

 

「エルは…勝ちマァス!」

「むっ!」

「What!?」

 

 息を大きく吸い込んでから進出。好位置からのこのコンボ、上手いことハマればかの皇帝さんにだって負けまセェン!

 全力で走って走って、3人縺れ込むようにゴール!でも分かります、勝ったのはエルデース!!

 

 …勿論、併せウマでお2人がエルに合わせてくれた、という大前提がありますケド。

 

「エルコンドルパサー、良いタイムですよ!その感覚を忘れないで!!」

「ハイ!」

 

 最近入ってきた新しいサブトレーナーである桐生院さんは、牧路さんと違って小さくて可愛い人。でも手腕は全く負けてなくて、おハナさんと私達を的確にサポートしてくれてマース。

 次のタイムもお願いしますヨー!

 

「エ…エルコンドルパサー、so fast…!」

「何がお前をそう掻き立てるんだ…?」

 

 付き合ってくれた先輩方からの質問に、私は思わず口に手を当てて考え込みマス。ううん、これは言って良いのでしょうか。なんというか、面と向かって口に出すのもなんだか恥ずかしいというか……

 …うん、これにしましょう。嘘じゃないデスし。

 

「スペちゃんに、そしてスピカに負けたくないからデス!」

「……セイウンスカイ先輩は?」

「……ケッ!?あぁ、彼女もデス!忘れてませんよ?」

「何だ今の間は」

 

 ああああ!後輩のミークちゃんの鋭い質問にエル、たじたじデス!水持ってきてくれたのはありがとうデスけど!エアグルーヴ先輩も変な所に突っ込まないで!!

 いや、セイちゃんもスペちゃんと同じくらいライバルで、同じくらい強くて、同じくらい意識してるのは間違いじゃないんデスよ。彼女もダービーのライバルである事は疑いの余地もありまセン。

 ただ、ちょっと他の要素でスペちゃん、というかスピカを特に意識してるというか……

 

「と、とにかくデス!私のモチベーションは万全なので心配しないで下サイ!!」

「Oh, sorry!確かにプライベートな話だったかしらネ」

「すまなかったな」

「……ごめんなさい」

 

 ふう。皆を謝らせてしまったのは心苦しいですが、ひとまず一件落着デス。よし、練習に戻りまショウ。

 

「…ところでですが、前のサブトレーナーさんってリギルでどう動いてたんですか」

 

 ……その話、今終わりましたよね!?

 そう思って振り返ると、ミークちゃんはキョトンとした顔。なんて事でショウ、全く別の話題のつもりでいるようデス…!

 と言っても、難儀なのは「同じ話題」と思っているのがエルだけな事なんですけど。

 

「牧路か?彼はサブトレーナーとしてしっかり働いていたぞ、おハナさんも彼によく助けられていたそうだ」

「あの人のマッサージはvery goodでしたネー。やってもらう度に不調とか疲労がキレイに無くなったし、またやって貰えませんかネー」

「マ、マッサージって…!?ちょっと今から彼を問い詰めてきます」

「っと、安心して下さい桐生院さん。彼にやましい心は全く無かったし、私達にも不快感は無かったから。何なら、私達の不安に対して相談にも乗ってくれていた」

「And that、あの頃のリギルはルドルフの無敗三冠以来、入部希望者が増えましたからねぇ。おハナさんもテンテコマイでしたし、彼の助けが無かったら不味かったかもデース」

「…だからこそ、スズカとは何故ああなってしまったのか……」

「…エアグルーヴ?」

「あっ、いえ。なんでもないです」

 

 語られる前任サブトレーナー評。ええ、エルにも分かりますとも。私だって世話になったんデスから。

 だからこそーーー許せないんデス。

 

 そんなに人を支えられるのに、どうしてグラスを置き去りにしたんデスか。

 

「……ふぅーっ」

「…エルコンドルパサー?」

 

 どうにも収まらないモヤモヤを、息として吐き出しマシタ。

 だって、おかしいじゃないデスか。グラスをリギルに誘ったのは、他ならない彼なのに。

 

 …正確には、選抜レースで思うように結果が出せずにチーム所属を先延ばしにしようとした彼女を、おハナさんに推薦する形で入部へと促したのが彼なんデス。

 選抜レースで差し切れなかった彼女に対して、他のトレーナー達が口々に「彼女には闘争心が無い」と宣う中、一足先に入部していた私は、おハナさんと牧路さんの話をたまたま聞いてしまいました。

 

『おハナさん、グラスワンダーを推薦しても良いですか?』

『!…理由は?』

『あの娘、ちょっと克己心が強過ぎる。間違いなく磨けば光ると断言しますけど、放っとくと自分虐めで自壊しかねません』

 

 驚きました。彼はグラスと会った事が無く、初めて見たのも選抜レースだけの筈なのに。

 いや、もしかするとその後でグラスが夜まで自主練してたのを見かけたのかも知れませんけど、でもそれだけで彼女の内心を見抜いたなんて……と、慄く他ありませんでシタ。

 

『リギルで体調を管理しながらレースに臨めば、彼女は大成しますよ。例え一度故障したって、そこから復活するだけの根性も持ち合わせています。貴女に合ってるかと』

『随分と買ってるのね』

『エルと並んで、()()()()の一角を担うだろうウマ娘ですから。おハナさん以外には容易に預けられませんよ』

 

 黄金世代。その意味は分からなかったけど、多分私達の世代がこれからのトゥインクルシリーズを率いていくのだと、そういう意味に聞こえまシタ。

 私達をそれだけ高く買ってくれている事が嬉しくて、そして親友の本当の姿を見抜いてくれた事が嬉しくて、私はその場で小躍りした程デス。

 

 でも、おハナさんから許可を貰った牧路さんがスカウトに向かった先で待っていたのは、まさかの拒否。私も説得しましたが失敗し、そのまま次の選抜までグラスのリギル入部はお流れになってしまいまシタ。

 でもその間も、牧路さんは時折グラスの様子を見に行ってたみたいで……グラスも、次の選抜の時、そして入部の時にはすっかり彼と打ち解けてまシタ。

 その後も、グラスは彼が予想した通りの連戦連勝で。そして悲しい事に、自主トレの疲労蓄積が祟っての故障まで彼の予想通りで。

 

 でも、言ってたじゃないですか。「お前なら大丈夫」「絶対また羽ばたける」って。

 そう言ってグラスを励まして、一緒に頑張ろうって感じだったじゃないデスか。

 なのになんで、スピカに行ったんデスか。グラスを置いて去ったんデスか。

 

 無意識に拳を握り締めてしまう。

 彼がリギルを去る時、律儀にもメンバー1人1人に挨拶しに来ました。その時、グラスの事についても聞いたらデスよ。なんと言ったと思います?

 

 『もう本人と話はつけた。大丈夫』。

 『おハナさんが彼女の足を蘇らせてくれるさ』。

 

 これデスよ。納得出来ると思いマス?

 

 …グラスは。グラスは()()()信じてたんですよ!

 おハナさんと同じくらい!そして、おハナさんよりも前から!!

 分からなかったんデスか?グラスから貴方に向けられる視線の意味を!他のウマ娘との面談では、あんなに気軽に悩みを聞き出すクセに!

 

「〜〜〜〜っ!」

 

 やり切れない思いが爆発して頭が痒くなりマス。この気持ちは、レースでしか発散出来まセン。

 スペちゃん、ごめんなさい。私、アナタに八つ当たりしマス。

 牧路さん、首を洗って待ってて下サイ。キレた乙女の鉄槌を。

 

「……エル先輩」

 

 ん?どうしまシタ、ミークさん。

 正直、これ以上話をブリ返されると調子崩しそうなので控えたいんデスが。

 

「1年生の私も、併走、参加して良いですか?」

「…ケッ?」

「ミーク…?」

 

 予想外の申し出に、私も桐生院さんも狼狽デス。そんな私達を前に、マークさんはなおも語りまシタ。

 

「私、どんな走りでも出来ます。逃げでも、先行でも、差しでも、追い込みでもーー

 

ーースペシャルウィーク先輩の走りも、形だけなら出来ます。多分」

「「!!」」

 

 スペちゃんの走りは差しか先行。いずれにしても末脚に光る物がありマス。

 それに対してこのミークちゃん、幅広い距離・戦法への適性を買われてリギルに入部してきたウマ娘デス。彼女なら、スペちゃんをトレースする事も不可能ではないカモ。

 念の為に桐生院さんへ目を向けると、向こうも戸惑いながら首を縦に振ってくれました。

 

「た、確かにこの前スペシャルウィークさんの走りをビデオで見て、その後ミークと一緒に彼女の走りを再現しました。一応出来てました」

「うん。だから、私が併走すればより実戦に近いトレーニングになるかも知れない」

「いやでも…うーん」

 

 渋る桐生院さんの考えてる事は大体分かりマス。大方、大一番を控えた繊細な時期に、私の練習にデビュー前のミークちゃんを関わらせるデメリットを考えているのでしょう。

 でも。

 

「ミークちゃん、お願いできマスか?」

「…!はい」

「良いんですかエルさん!?」

「勿論デスとも!」

 

 後輩が気概を見せたのなら、応えるのが先輩の役目デスから!

 それに風の噂じゃ、スペちゃんの練習に新入生であるトウカイテイオーが普通に参加して良い影響を与え合ってるとも聞きマス。ならば、此方だって負けていられまセン!!

 

「ミークちゃん、やるからには全力デス!アナタがスペちゃんの走りを私に見せてくれるように、私は私の走りをアナタに見せマスから、お互い絶対にモノにしましょう!」

「うん…えい、えい、おー……!」

「…ウマ娘がその気なら応えるのが桐生院家の家訓。私も全力で事に当たりましょう!」

「Oh、皆バーニングですか?なら私も混ぜて欲しいデース!!」

 

 私とタイキ先輩とミーク、この3人で再びターフへ繰り出す。この心強さがある限り、ダービーはこのエルの物デェス!

 見てて下さいね、グラス!エルがアナタの分まで、東京競馬場で羽ばたいてみせまーす!!




 このバカ×2、またウマ娘を拗らせやがったよ。それしか能が無いんか

 ちなみに凱夏はマルゼンスキーに別れの挨拶をしに行った結果、餞別と称して助手席に縛り付けられてドライブに付き合わされました。死にました
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